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フライトコロナイズ  作者: きーち
第1章
6/49

3話 集合

 その日というのは意外と早くやってくるものである。飛空開拓計画のメンバーが集まる時が来たのだ。

 さらに本日は開拓メンバーが乗る大型飛空船、冒険艦と呼ばれているのであるが、その初飛行も行われる予定であった。

(全員が集まる以上、その時に訓練を行うってのは正しいんだろうけどなぁ)

 その前に、色々と個別毎に顔合わせなどをするのが普通と思っていたのだが、俺が乗る船では、その搭乗員達と顔を合わせるのは今回が初めてであるし、肝心の冒険艦を見るのも初のことであった。

「冒険艦『ペルカヌ』ねぇ。全鋼甲板の大型船って話だが、見てみりゃあ大したもんじゃないか」

 自分が乗り込む冒険艦を横からすべて視界に収められる位置に立ちながら、そんな感想を口にした。

 多くの飛空船が置かれた空港がこの場所であり、広く舗装された土地がかなりの広範囲に存在する場所であった。

 飛空船以外には見るものも無いため、只々、俺は自分が乗る飛空船を見ていたのである。これから搭乗員全員が集まるのも冒険艦の内部であり、本来はそこで待つのが一番なのだろうが、集合時間まではまだあった。

 まだあるのであれば、まずは自分の命を預ける船を観察するのが第一だと俺は思う。

「冒険艦ってのは実用性と耐久性を兼ねて、金属甲板ってのは聞いてたが、やっぱりこっちもそうなのか。大きさ的に、搭乗員数はそれほど多く無いか?」

 金属で外装を包むタイプの飛空船は、勿論、耐久性が高い。小型飛空船が射出する鉄片程度ならば弾き飛ばすし、また何がしかの外的被害にも対応できる。

 冒険艦は過酷な環境を飛空する事が多いため、結果的にこの様な金属外装になってくるのだ。

 一方で金属外装の欠点として、単純に重いというものがある。気球で浮かすなんて事はできないというか意味が無いため、結果的にフライト鉱石頼みとなってしまう。

 そうしてそれにしたって技術的限界から、ある程度の重さで頭打ちが来るのだ。今回、俺が見ている『ペルカヌ』に関しても、その頭打ちの大きさに近いものだと思われる。ギリギリ大型船と言った感じで、中型船と呼んでも納得してしまいそうな大きさだ。中に乗れる人間に関しても、そう多くはあるまい。

「形は武骨な感じだが、それはそれで好印象だな」

 『ペルカヌ』の形は、そのままブーメランと呼んで良い形をしている。曲がりの外側。その頂点に操縦場所兼艦首が存在し、後方はフライト鉱石の推進室が存在していると思われる。横に広がる推進室は、機動性の高い動きを可能としている………はずだ。どの部分の推進力を高めるかの選択肢が広がるだろうし。

「あれで小型飛空船の搭載数が3か。けっこうギリギリなんじゃあ―――

「失礼!!」

 と、突然に後方から話し掛けられる。野太い男の声が耳に響かんばかりに。

「失礼って………あんた…………誰?」

 呼びかけてきた男を見ようとして、振り返り、結果、見上げる事になった。デカい。とにかくデカいのだ。

 俺の身長は高い方ではないが低くも無い。そんな俺に対して、頭二つくらいは高いかもしれない。そうして縦に高いだけでなく、横幅もそれなりだ。というかマッチョだ。

 そんなマッチョが大きな荷物袋を背負い、俺の左後方に立っていた。純粋に怖い。

「私の名はブラッホ・ライラホ! この度、あの船の搭乗員となる事が決定した者だが、もしや君もかね!」

 普通の会話ですら声が大きい男、ブラッホが指差すのは『ペリカヌ』だ。ということは、彼は俺の同僚になるのだろうか。

「あ、ああ。俺は小型飛空船の操縦士、アーラン・ロッドだ。あんたは…………体格からして運搬員か戦闘員………か?」

「だいたいその全部だよ!」

「は?」

 ブラッホの返答がいまいち理解できぬが、一方でブラッホは荷物袋を持たない方の手をこちらに差し出して来た。

「名乗りを上げた以上、シェイクハンズだアーラン殿! 握手は双方の感情がどうであれ見かけ上は仲良くなれる良い方法だと思わんか?」

 とりあえずはまあ………その通りだろう。何か釈然としないのだが、相手の手を握り返すことにした。

「よ、よろしくな。これから船に向かうのか?」

「もちのろんであるな。どうだアーラン殿。共に向かわぬか? 遠くで船を見るのも良いが、実際に足を運ぶのも良い経験になるぞ! それにこういう言葉がある!」

「言葉?」

「未知の場所には多くで向かった方が良い。自分の危険がそれだけ減る。とな」

「それはつまり、他を犠牲にして自分だけ逃げるって事じゃあ………いや、これから向かう場所はそこまで危険じゃあないけどな」

 なんというかテンポが兎に角崩れてしまいそうになる。この目の前の男とも、これから付き合って行くことになるのかと思うと、ちょっとなんだか非常に厄介だなと思わなくも無い。

「危険で無い場所は踏み込むべき場所であるな。何せ踏み込み放題だ。さあ、行くぞ、アーラン殿! 我らが聖地は今や大地では無く船の上にこそある!」

「え? あ、いや、ちょっ、ちょっと待ってくれって! おい! おいこら! 聞けよ!」

 ずるずると引っ張られる様に船へと向かっていく俺。どうにもこれからの旅路に置いて、不安しか感じないのは気のせいだろうか?




 集合時間までは幾らかあるが、既に船には何人か人が集まっていた。場所は船内のミーティングルームとして用意されている部屋らしいが、恐らく全員で30名程の船員が集まるとなれば、かなり手狭になりそうなくらいの大きさだった。というか入るのだろうか?

 そんな集まった搭乗員の中で、一人、こちらの話し掛けて来る男がいた。

「ははっ。そうかいそうかい。あんたもラクリム出身だったか。こいつぁ良い出会いもあったもんだ」

「あ、ああ」

 激しくこちらの肩を叩く男。バーリン・カラックと言う名らしいが、彼は俺と同じくラクリム出身者であるそうだ。

 見た目は俺より5か6くらい上だろうが、どこか軽い印象を受ける。一応、彼もまたラクリム国再興の噂を聞きつけて、今回の飛空開拓計画に参加したそうなのだが………。

「俺ぁな、今回の計画を成功させて、どーんと出世する予定なのよ。同郷のよしみだ。お前にも一口噛ませてやっても良いんだぜ?」

「ははっ。そうかぁ。考えとくよ」

 出世。開拓計画というものには、初期開拓者が開拓した土地での立場向上が行なわれるという不文律が存在している。

 そうでなければ誰も危険な開拓者にならないという理由もあるが、かなり確固としたルールなのである。

 だからまあ、バーリンの期待は大凡事実に沿ったものであると言える。一方でアーランとて今回の開拓の参加者だ。一口噛ませる噛ませない以前に、双方に何がしかの優位があると思えない。

(なんつーか。多分、俺の年齢が下だからだろうな。これは)

 バーリンは兄貴分として振る舞いたいわけだ。だからどれだけ自分が利益を持つ人間かを示したいのだろう。

 そういう気持ちは分かる。俺だって弟を持つ立場なのだし。しかし理解したとして、あまり得るものが無さそうな会話をずっと続けてうんざりしないほど、俺の人間性は完成していない。

「良いか? こいつはチャンスだ。お前だってあの国が滅んだ時はどん底だったろう?もうお終いだって思っただろう? だが、今、その損を取り返す―――

「はっはっは! 故郷の話が盛り上がるところ失礼であるぞ! バーリン君はあれかな! 未来に希望を! 心にもやっぱり希望を持つタイプと見た! 大変結構結構。今後の付き合いも期待できそうであるな!」

「あ、は、はい。そうなんっすよ……ねー」

 饒舌だったバーリンの言葉が止まる。それをさせたのは、俺と一緒に乗船したブラッホである。

 バーリンと言う男。実はブラッホと同じく白兵隊員兼作業員という立場であるらしいのだ。しかも、どうやらブラッホの方が、立場が上というか、ブラッホは白兵隊員の隊長としての役割を任されているらしい。

 つまりバーリンの上司がブラッホになるということ。

(随分と個性的な白兵隊になりそうなこって)

 飛空船において白兵隊というのは、主要業務に関わらない人員である。飛空状態で白兵戦闘になる場合が少ないからだ。だから作業員を兼任したごちゃごちゃとした立場になるのだが、変わった人間を集めるというのはあまり聞かない。

「あー、そういやぁ艦長になる人ってのはまだなのか?」

 話をもう少し建設的なものにしたくて、ちょっと気になっていたことを口にしてみる。バーリンとブラッホ。どっちに話し掛けたというわけでも無いのだが、バーリンの方が委縮していたため、ブラッホが口を開いた。

「人間は階級が上になればなるほど、勿体ぶるのが人の世の常であるからな! だいたい全員そろった後に現れるものだな。蝶々と一緒だ」

「蝶々といったい何の関連性があるのかわっかんねえですけど、まあそんなもんなんでしょうね」

 とりあえずブラッホの言葉で納得しておく。

(全員が揃うまで………か)

 確かに全員揃っていない。部屋の中を見渡して見るも、誰がどういう役目でどういう人間かは分からないが、確実に来ていないと言える一人は分かった。

(エイディス…………どうしたんだ? いったい………)

 この集まった人間の中に、弟のエイディスがいないのである。彼からは特に何事の相談が無かったため、てっきり、今回の飛空開拓計画に参加できたのだと思っていた。

 しかし、今日も朝早くからどこかへと出掛けており、今の今まで一切姿を現していない。

(おいおい。大丈夫なのかよ………俺だけ一人、この町を離れて行っちまうぞ)

 俺がこの計画を辞退するという選択肢は無い。そんな簡単に折れる様な思いで参加したわけではないのだ。

 ただ、出来れば弟と一緒にという思いも中々に強い。

「ここに来て緊張かな?」

「えっ!? あっ、いや。まあ、そうかもですね………」

 ブラッホがこちらの覗き込む様に顔を向けて来た。身長の高い彼であるから、大分屈んでである。かなり不気味だ。

「ふむ。緊張とは将来に対する期待。不安。あとはまあ、もしや今朝食べたトーストに塗ったバター。消費期限が切れてやしないかという様なのから来るものであるが………」

「バターに関する不安があるってなら、さっさと医者に相談するべきじゃあ?」

「バターは置いておこう。本当は不安であるが、未だ腹を崩さぬというのは安心だったという事でだな。将来に関する方の緊張であるならば、先の事を考えない様にすれば、それだけで晴れるものだ」

「それって何の意味があるんで?」

 考えるなと言うブラッホの助言に対して訝しむ。ちなみに彼はまだ腰を曲げたままだ。

「君があれこれ心配したところで、何か結果が変わるのかね?」

「それは………」

「深く考えるべきものは、その予感がするものに限れ、だよ。考えて不安になるだけの考えは考えん方がすっきりする。そういうものだ」

 単純なのか奥が深いのか。兎にも角にも、彼のその助言に関しては、今、この瞬間だけは役に立った。

 全員揃った段階で分かることなのだ。エイディスがどうなったかは。




 暫く話を聞いたり聞き流したりしていると、続々と部屋に人が入って来た。全員で20人を越えるだろう。かなり部屋がキツくなってきている。ごちゃごちゃとした部屋の中が嫌で、外の廊下に立っている人間もいた。

 さて、ではそろそろかなと言ったところで、一人ご老人が入って来た。かなり年配の男性だ。少なくとも60代。そんな年代に見える。

 彼は部屋に集まった人間を避け(というか彼が進む方向にいる人間が、その体を自分で退かしている)部屋の中心へと辿り着いた。

「ああー。こほん。皆、注目して欲しい」

 老人は部屋にいる人間には聞こえるくらいの大きさで声を上げた。いきなり何だこの人はとは誰も思うまい。彼はガーヴィッド公国の軍服を着ていたからだ。

(多分、彼が艦長か)

 少し歳が行き過ぎている気もするが、それでも年長かつそれなりに見える。頼りなさそうな外見で不安になってくるものの、トップが最年長というのは、細かい部分を抜きにして敬いの対象になるのだから、問題より利の方が多いと思われる。

 部屋の中にいる人間からの視線。それらが老人に集まるのを確認してから、老人は再度、口を開いた。

「現状、集まるべき人間が集まっている事を確認した上で、話をさせて貰う。みな、良く今回の飛空開拓計画のために集まってくれた。儂は今回、この船の副長を務めることになったミード・ラーグと言うものじゃ。ガーヴィッド公国から正式に任務を受けた軍人でもある」

 と、老人ことミード・ラーグが口にした事で、部屋の中が少しざわつく。俺も黙ってはいるが、そのざわついた人間達と恐らく同じ心持ちであった。

「艦長では無いんで?」

 誰かがミードに声を上げた。それは俺や他の人間の疑問を代弁したものであったはずだ。というか彼が艦長で無いとすれば、いったい誰が艦長をするのか。

「ふむ。それをこれから紹介しようかと思っていての。入って来て下され艦長」

 ミード副長が部屋の入口付近に向いて声を掛けると、外から一人の女性が姿を現した。若い女だ。しかも身だしなみの整った姿で、輝かしい金髪に見合った美しいドレスを着て―――

「って、おい………」

 小声ではあったが、言葉を漏らしてしまった。現れた相手にかなり驚いてしまったのである。

 声を漏らしているのは俺だけでは無かったため、目立ちはしない。ただ、他に驚いている人間達と俺の驚きは少しばかり質が違っていた。

 前者は艦長として呼び出された相手が若い女である事に驚いているのに対して、俺はその女性が以前に見たことのある人物であったことに驚いたのだ。

(ありゃあ、前にセフィラ池で見た女じゃねぇか!)

 艦長として現れた女は、セフィラ池で体を動かしていた時に出会った女性その人であった。どういう類の偶然なのだろうか。艦長が若い女であるという事も相まって、混乱が頭の中で広がって行く。

 そんな中で、艦長として紹介された女はミード副長の隣まで歩くと、部屋の中の人間達に向けて話を始めた。

「この様に驚かれることは覚悟しております。ですがその前に、わたくしの身を明かさせいただきますわ。わたくしの名前はアニーサ・メレウ・ラクリムと申します。姓の通り、無きラクリム王家の生き残りということになりますわね」

 自らの胸に手を当てつつ語るアニーサ艦長。その言葉に対して、数名から感銘を受けた様におおっ。という声が漏れるのを耳にする。

(声を上げた連中は、多分、俺と同じラクリム出身者だな)

 彼らはアニーサ艦長を自分達の旗印の様に現れた存在だと思ったのだろう。国を失った自分達。その復活の象徴こそアニーサ艦長なのだと。

「ガーヴィッド公国はこの飛空開拓計画をずっと以前から準備をしておりました。皆様の中には既に噂をお聞きになっている方もいらっしゃると思いますが、今回の計画とは、ラクリム国の復興とそのための開拓地を探すことが今回の目的とする形になりますわ」

 ここで代表者自らが計画の骨子が説明される。これに対して盛り上がるのは、今回の計画で多く登用されているラクリム出身者だ。

 遂にここまで来たという演出なのだ。ならば王族の若い女性が艦長という話も頷ける。ラクリムの復興はラクリムの王族に。意外どころか、むしろここまで適材な人材はいない。

(つっても、ラクリム出身者全員が喜ぶってわけでも無いだろうな………)

 例えば俺は、少しばかり冷めた目で見ていた。きっと他とは思うところが違うからだ。そうして喜んでいないのは俺だけではない。

「ちっ。なんだよ。女王様は遅れて登場か」

 本人には聞こえぬ小声で呟くのはバーリンだった。彼もまたラクリム出身であり、こういう権威的な物事に弱そうに思えるのだが、そうでも無いらしい。反感を覚えるという事は、何がしか理由はあるのであろうが………。

「落ちぶれても身分は高いってのかよ」

 続く愚痴の様な言葉で、彼の反感の正体が分かる。彼が今回の計画に参加した目的は自らの出世であり、だと言うのにさっそく明確な目上が現れた事で、その目的に対する障害が現れたと思っているのだ。

(飛空開拓計画は確かに成功して活躍したってなりゃあ栄達が約束されるってもんだが、いくらなんでも元王国のお姫様を越えるのは無理ってことだろうな)

 ただ、いちいちそんな風に苛立っていて、仕事が上手くやれるのかは疑問である。例えばあの艦長兼お姫様にいちいち突っ掛ったりして、その後の行動に支障を来したりするかもしれない。

(ま、別にそこまで面倒見たり気にしたりする理由も無いか)

 問題はこっちの分だけで手一杯だ。例えばあの艦長。元王族であるらしいが、あの巨大飛空船の襲撃の際、どうしていたのだろうか?

 見れば年齢は俺と同じかそれより幾つか上と言ったところ。であれば当時は子どもだったはずだ。そんな彼女が生き残れた理由はなんだ? 大人に匿われていた? それにしたって、王家が住む王城は爆撃の中心地だったはずなのだ。

(何がしか事前にあの事件が起こるって、分かっていた可能性も………あん? ちょっと待てよ? 当時は子どもで尚且つ金髪のお姫様………なんだ? 何か………引っ掛かる様な………)

 何か大切な事を忘れている様な気がする。とても大切だったというか、郷愁の念が強く心の中に溢れて来た。しかし、それが何であるかを思い出せない。

「見ての通り、わたくしは艦長という職に対する経験というものが浅い。そも、人生経験そのものがまだ未熟と言わざるを得ませんわ。だからこそのミード副長。そのことに付いての説明を、今ここでさせていただきます」

 こちらが考えている間も、アニーサ艦長は話を続ける。経験や専門知識が必要な実務方面はミード副長が担うという事らしい。

(それはそれでありかもな。トップが二人って事になるが、最初にこうやってやることを分ければ、混乱も少なくて済む)

 もしアニーサ艦長が自らを今回の計画の旗として位置付けているのだとしたら、それは賢明だろう。メリットを残し、一方でデメリットを補う形になるのだから。

「紹介された通り、基本的な艦を動かす際の指示については、わしが指揮することになる。ただし艦長本人に何もさせんと言うわけではないのでの。基本方針に関しては艦長に決めてもらうことになる」

「質問があります」

 と、ミード副長の話の途中で、手を上げる一人の男。見た感じ30代くらいの男だ。黒い髪をオールバックにビシッと整え、着込んでいる服も同じくらいに肩っ苦しさを感じる黒のスーツだ。

(見た感じ、肉体労働系の仕事じゃあねえな)

 観測士あたりだろう。そんな風な男がいったいどの様な質問をするのか。

「君は………確か魔法士のデリダウ・ドルーガ君だったか」

「なるほど。既に顔と名前は一致しているということですか。これは中々。それだけでも副長の力量は分かるというものですが、一方で失礼ながらアニーサ艦長のそれはどうなのでしょうか? 方針は艦長がお決めになる以上、こちらとしては不安を感じてしまう。ああ、いや、これは思っていた以上に大変失礼になるのですがね?」

 魔法士と聞いて、なるほど変人かと考える。大型飛空船を動かす場合は、質の良いフライト鉱石の他にも、魔法というものが必要になってくるらしい。

 魔法について詳しく分からぬ俺であるが、フライト鉱石の浮遊力を増幅させたり、艦首部分の透過壁などは魔法と呼ばれる術の力が関わっているのだそうだ。

 そんな魔法関連の力を操作、調整したりする役目が魔法士である。魔法士は勿論、魔法使いが務めるのであるが、魔法使いの大半。少なくとも俺が知る限りにおいては変人以外存在しない。

 つまりデリダウと言う男も変人ということになる。このタイミングでいきなり質問するというのは、確かにらしいと言えばらしいやも。

「わたくしの力量をお疑いになっていると考えて宜しいのですわね?」

「失礼! いや、まったく失礼ですが、ここで聞かなければ、後々、もっと聞き辛い状況になるやもと思いましてな」

 やはりと言うか、空気を読まない性質であることは確からしい。計画の旗役としてのお姫様に、本当に役に立つのかと直接聞く。人間関係なんかギスギスしたって構わないが、それよりも実利的な事を聞かせろという。魔法使いというのはそんな人種だった。


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