5話 勝ち負けへの分岐点
先制攻撃を仕掛けて来たのは黒鷲の方だった。前に見た様な質量兵器では無く、前方直線方向に進む光学兵器と呼ばれる武装なのだそうだ。
質量兵器より、どころか、目にもとまらぬ早さで接近するそれを防ぐ術は無い。ぶつかり、ダメージを受け流す以外は。
「ダメージコントロールはどうなっていますか?」
艦長席に座るアニーサは、まずシィラに状況確認を促す。彼女は観測士である。目の前の物事だけでなく、シームルグの状況をも観測する役目を担ってもらっていた。
「そもそも、向こうも牽制程度みたいですね。運航に支障はありません」
普通の船ならばそれでもお撃沈されていたかもしれない。だが、このシームルグ。多少のどころではない防衛能力を持っているらしく、恐らくはペリカヌの火力すべてをつぎ込んでも、傷付けることは難しいだろう。
(そもそも、長い年月を風化から守って来たという実績があるわけですし、そこは信頼するべきですわね)
アニーサはシームルグの防御力を高く見積もりつつ、次の行動に出る。
「アカノトさん。このまま攻撃を受けつつ、徐々に街から距離を開けることはできますかしら?」
「どこまで耐えられるかは賭けですが、やるだけやってみますか!」
アカノトは発言と同時に、シームルグを回頭させる。黒鷲を破壊するにしても、街の真上で行うわけには行かないのだ。街が被害を受ける前に、安全な場所へ移動しなければならない。
(その前まで、シームルグが持ってくれれば良いのですが……)
攻撃を仕掛けるわけには行かない以上、一方的に攻撃を受ける側に回る事になる。今は耐えているが、後はどうなるか分かったものではないだろう。
焦れる時間が続く。あまり速力を上げれば、黒鷲を釣るという事ができなくなるかもしれない。
飛び交う黒鷲からの光線を受け流し、避けつつ、さらに街から外へ。もう十分か。そう判断した瞬間、シームルグが大きく揺れた。
「防御壁、一部突破されたみたいです! はい!」
シィラの叫びが艦首に響く。艦首から見える景色から、シームルグの船体の一部から黒煙が出ているのが分かる。その部分を、黒鷲の光線が貫いたのだ。
だが、良く持ってくれた。既に街からは離れ、こちらも全力で戦える状態になった。
「シィラさん、被害状況の出来うる限りの把握を! アカノトさんはもう遠慮することなく、シームルグを動かしてくださいな! 今は優先して回避行動を! 火器管制室、聞こえますか? あの黒鷲に対して、どの様な形の、どの様な質でも構いませんから攻撃を! 反撃の時間ですわよっ」
シームルグが、漸く本領を発揮する。これまでの速度とは打って変わって、早く、そして複雑に。
基本の移動は黒鷲を中心に円を描く様ながら、そこへ上下左右の移動を織り交ぜる。移り変わる景色に吐き気を覚える部分もあるが、伴う揺れはシームルグの機構そのものが緩和してくれているらしく、我慢できぬほどでは無かった。
(となると、やはり問題は船そのものの性能差ですわね……)
相手は自動的な動きをしている以上、こちらの経験に富んだ動きに翻弄される。そんな風に考えるほど、アニーサは楽天家では無い。
(こちらはシームルグの性能をすべて把握していない。さらにはダメージを受けている。単純性能でいうのなら、向こうが巨大飛空船群の中枢になっている点を考え、こちらが劣っている可能性も……ありますわね)
経験だけでこの差は埋められるものではない。今でこそシームルグは戦えているが、その状態が何時まで持つとも限らないのだ。
(こっちの攻撃も、あまり効いた様子も無し……それでも幾らか続けていれば突破もできるでしょうが、長期戦ならばこちらが不利ですわね)
やはり街から引き離すためだとしても、攻撃を一方的に受け続けたのが弱みになってしまっている。
仕方ないとは言え、これをなんとかしなければシームルグの敗北であるし、自らの無能を意味してしまう。
であるならば、打開の一手を打つべきだ。
「小型飛空船を出します。すぐに発進をお願いしますわ。あちらには、そういう戦い方が無い様子ですので」
小型飛空船格納庫へ言葉を発信させるボタンを押し、直接指示をする。
「状況を変えるということですな」
「ええ、不利な状況は、どう転ぼうとも変えて行くのが信条ですから」
副長のミード・ラーグの問い掛けに、端的に答える。
向こうにはそもそも、小型飛空船を使うという戦術が存在しないのかもしれない。そう言えば、巨大飛空船の存在は何度も見たが、向こうの技術で作られた小型飛空船は見た事が無かった。
(唯一、明確に、こちらが勝る部分と言えますわね。相手に無い戦術を使えるというのは)
が、効果があるかどうかは別になる。試してみなければ分からないというのが実際だ。だからこそ、やってみるしか無い。じり貧で賭けにも出られないとなっては、完全に敗北者になってしまう。
「さて、賭けのチップは高いかもしれませんけれど、頼らせていただきますわよ、アーランさん」
シームルグから発進していく小型飛空船達を見て、アニーサは誰にも聞こえない様な小声で、そう呟いた。
ロンブライナが敵巨大飛空船、黒鷲に向かって飛んで行く。その速度は早く、好調だ。
(突貫工事での改修だったらしいが、結構良い感じじゃないか)
俺はロンブライナの操縦桿を微妙に動かして、その挙動を確認する。ラクリム王国の地下にあった技術を使い、無理矢理に性能を上げたとは弟のエイディスの言だったが、試運転すらする余裕が無かったため、今はその試運転の時と言える。
まったくもって本番の最中な訳であるが。
(質の良くなったフライト鉱石に、多少なりとも空気抵抗が無視できる様になるコーティング……だったか。後は……)
鉄片射出装置が取り除かれる代わりに、物を落とす機構が追加されていた。これに関しても試したことは無いのであるが、鉄片は巨大飛空船に対して、まったく歯が立たぬと言う判断から、別の装備を取り付けたらしかった。
「攻撃するにしても、落とすしか無いから、目指すは黒鷲の上空ってとこか」
他の小型飛空船二つも同じ意思である。というか、出発する前に、班長のビーリー・バンズと、後輩のレイリー・ウォーラと共に、そういう打ち合わせをしていた。
多少なりとも性能が良くなった三つの小型飛空船が、黒鷲へと近づいて行く。すると黒鷲は、シームルグへの攻撃は継続しつつ、近づく小型飛空船への攻撃を開始した。
シームルグへの光線攻撃とは違う、鉄片を射出する形での防空攻撃。前に、別の巨大飛空船が使っていた手だ。
やはり自動的に動くだけあって、やる事も似通っているのかもしれない。ということは、近づくのにかなりの集中力がいる状況になったということ。
(こっちの動きが良くなってるつったって、やっぱりキツいよな!)
防空攻撃の中へ、あえてロンブライナを突っ込ませる。そうしなければ、こちらの攻撃が通用しないのだから仕方ない。
鉄片射出の代わりとなる新しい攻撃機構は酷く単純な構造で、黒鷲の上部に位置しなければ使えないのである。さらに言えば、上部と言っても、それなりに近い距離で無ければ、命中させることも難しい。そういう類のものだった。
「ま、こうやってシームルグ以外を攻撃させるってのも、良い牽制になってると思いたいところだよな!」
自分の行動は無駄にはならない。そう思い込んでから事に挑むことにした。無駄死にするかもしれないなんて後ろ向きな感情、抱いているだけ邪魔なのだ。
これから先は、ただ前に進むだけの気概が必要になってくる。それ以外の感情を持てば、その時点で本当に撃墜されてしまうだろう。
雨というより幾重もの槍の中をロンブライナで飛んで行く感覚。低速域と高速域を行き渡り、上下左右の動きを把握し続ける。それが出来なければ撃墜されるだけなのだから、こっちも必死だ。
(必死な分、とりあえず頭の中がテンション高くなって助かるんだけどよ!)
今、この瞬間のみは、死の恐怖も復讐心すらも無くなる。ただひたすらに、黒鷲の上部を取り、そうして攻撃を仕掛けるという行動のみに専念していく。
他二つの小型飛空船も、きっと同様の動きをしているはずだ。ただ防空網の隙間を掻い潜り、そうして目的の場所へ。
一方、黒鷲に近づけば近づくほどに弾幕は濃く、激しくなっていく。これを避ける技量が必要なのは勿論だが、さらに必要なのは、誘惑を堪える胆力である。
攻撃できる回数はそう多く無い。というか、突貫で取り付けた機構上、一度切りの攻撃である。その一度を確実に当てるためには、さっさと攻撃して、撤退したいという誘惑を断ち切らなければならないわけだ。
(しっかし、こう激しい弾幕を張られると……嫌でも背を向けたくなるよなっ!)
黒鷲に近づくほど、撤退しよう。逃げ出そうという欲が湧いてくる。生き残りたいという人間の純然たる本能。空で戦う者は、何時だってその本能に反して生きなければならない。本当の意味で生き残るには、そうするしか無いと知っているから。
(まだ……まだだ……まだ……もう少し………ここだ!)
操縦桿の横にあるレバーを押す。それだけの動作をした後に、ロンブライナは反転、黒鷲から離れる。後方を見る余裕はないため、結果がどうなったかを直接確認することは出来ない
だが、後方からの光と、響く様な爆音で、黒鷲のどこかに、攻撃が当たった事は確認できた。
ロンブライナ含む小型飛空船には、ラクリム王国地下にあった、巨大飛空船に積んでいたらしき、質量兵器を取り付けていたのである。
丁度、一発だけならば小型飛空船にも取り付けられる大きさであったため、その一回こっきりの攻撃のために使用するのが今回の作戦だった。
小型飛空船でも、巨大飛空船にダメージを与えられるかもしれない。そんな望みの元に放った、というより落とした攻撃だが、その確認より前に、黒鷲の弾幕が届く空域から離脱しなければ。
「他の二人は……とりあえず無事……っぽいな!」
ロンブライナの前方に、二つの小型飛空船が存在していた。お互い、尻尾を巻いて逃げる段階に至ったということだろう。
(あっちか先に動いてるってことは、俺が深く黒鷲に接近してたってことか?)
先に攻撃し、先に撤退しているということはそうなるかもしれない。これで先を行っている二人の攻撃が有効だったとしたら、俺はちょっと危険を冒し過ぎたということになるが……。
(ま、もう少しで結果も確認できるなっと!)
弾幕を抜け出し、ある程度の安全圏まで脱したところで、後方を見る。が、そこには無事のままの黒鷲の姿が。
「げ、マジかよ……」
合計で3発、質量兵器を落とされたはずで、少なくとも俺が落とした一発は直撃したはず。だが、それでも傷が付いている様には見えなかった。
(シームルグへの攻撃も止まった様子も無し。こりゃあ失敗か? ………いや)
俺は黒鷲を観察した後、全速力でロンブライナをシームルグへ飛ばした。確かまだ、質量兵器の予備があったはずなのだ。急いであれをロンブライナに取り付けなければならない。まだ、手の出し用はあるはずだった。
小型飛空船班については、良くやってくれていると言った印象をアニーサは持っている。ただし、それにしたって限界があるのだろうと言うのが、今の判断だった。
(誰も撃墜されず、黒鷲に攻撃が出来たというのは、つまり十分な戦績ということ。けれど、それでもまったく通用しないのは、予想外以外の何物でもありませんわ)
では、どうすれば良いか。黙ったままでいれば、艦内に混乱が生まれる。混乱はきっと、外からの攻撃よりも多くの害をシームルグにもたらすはずだ。
(潮時……なのかもしれませんわね)
勿論、撤退するという意味ではない。こちらの人的被害をまったく出さずに戦うやり方はもうできないと言うことだ。
「艦内のみなさんに伝えます。よろしいかしら?」
アニーサは艦内すべてに自分の言葉を伝えるためのボタンを押す。そうして告げる。
「これよりシームルグは、黒鷲へ全力のこう―――
『艦長! ちょっと良いか!?』
と、全面にあるボタン群から声が聞こえてくる。こちらの声を別の場所に伝えられる様に、別の場所からこちらへ言葉を伝える機構がシームルグには存在しており、それからの声だった。
声の主は分かる。アーラン・ロッドだ。
「何でしょうか? 出来る事ならば、端的に申していただければありがたいのですが」
時間は敵だ。こうして手をこまねいている間にも、シームルグは追い詰められていくのだから。
『あれにダメージを与える方法が分かりました。一度、試させてくれませんか? 多分あんた、そろそろ無茶やろうとしてる頃だったでしょう?』
「……」
何故分かったのだろうか。そう分かりやすい思考をしているタイプだとは思わないのであるが……。
「……それで、やってみたいこととは何ですの?」
『ヤバいことしようとしてたのは否定しなかったな……まあ良いか。敵の飛空船。良く見てくれよ。あっちから撃ってくる光線って言えば良いのか? あれ、幾つか減ってないか?』
そう言えば減っている様な気もする。向こうから放たれる無数の光に目が眩んでいたが、それでも、確かに敵の攻撃が、わずかであるがその勢いを減じていた。
「シィラさん。敵の攻撃はどうなっています? 確かに勢いが無くなっている?」
自分の視点だけでは不確かなので、観測士に意見を聞く。彼女の仕事は、まさにこういう状況でこそ役に立つ。
「た、確かに、少しだけですが、敵の攻撃が薄くなってます! さきほど、小型飛空船の攻撃が当たった場所ですよ、これ!」
「なるほど。そういうことですのね……」
敵の防御は固い。が、攻撃用の装備はそうではないということなのだろう。もしかしたら装備の破壊から内部への破壊へも繋がるかもしれない。
『敵が積極的にこっちを攻撃してくる時が、むしろチャンスじゃないですかね?』
つまりアーランは、小型飛空船でもう一度、黒鷲へ挑むつもりなのだ。今度はしっかり、弱点を狙う形で。
「自ら敵の攻撃に近づくと、そういう事になりますけれど……」
純粋に、命の危険があるのではと心配だった。そりゃあこっちだって無茶はするつもりだったが、船員が自殺紛いの行為をしようとすれば、止めようと思う。
『やってみせる自信はありますよ。あと、幸運が少しあれば、生きて帰ることも』
それはつまり、運が悪ければ死ぬと言っているのと同じだ。艦長としては、どう命じるべきだろうか?
彼一人の命で他が助かるのならそうするべきだと考えるか、それとも船員一人一人の命を大事にするべきだと止めるか。
(そのどちらも……何か違う気がしますわね)
少なくとも、今、会話をしている相手には、どちらの理由で言葉を発したところで、意味は無い気がした。
もっと、彼には相応しい言葉があると思うのだ。
「アーランさん。この計画に、フライトコロナイズに参加した時の気持ちを、今も忘れていませんか?」
そうだ。きっと、この言葉が相応しい。彼がこれからすることに成功しようと失敗しようと、飛空開拓計画に参加する中での、最後の仕事になるだろうから。
『ああ、忘れていない。これで最後だろうから、派手に決めてきますよ』
復讐。彼と自分は、そんな同じ感情を抱いている者同士だった。そうしてこの瞬間、その復讐を果たす時が訪れたのだ。
最後の最後の仕事。もしそれが願いを果たせる可能性が高いものだとしたら? 簡単だ。後押ししてあげる以外に答えはない。
「作戦の許可を与えます。どうか、ご武運を」
『了解!』
その返事の後に、アーラン・ロッドの声は聞こえなくなった。恐らく、小型飛空船へ飛び立とうとしているのだ。
「みなさん。これより、再び小型飛空船が黒鷲へと向かいます。最後の牽制……と言ったところでしょうか。それがどの様な結果になろうとも、シームルグは黒鷲へ最後の攻撃を仕掛ける手筈となります。準備は滞りなくお願いしますわ」
艦内へ命令を伝える。もしアーランが上手くやってくれればそれで良い。それで黒鷲の戦力は落ちる。失敗したとしても、やはりシームルグが一か八かの突撃を行うしかないのだから、やはりやる事は同じだ。
(と、いうことは、わたくしの仕事はこの時点で終わっていると言えなくも無いですわね)
復讐の機会は、アーランに譲り渡したと言ったところか。ならば、その顛末を見守ろう。今はそれをすることが、出来る事の精一杯なのだから。
「絶対に無茶ですよ! 僕は止めますね、ええ」
俺がロンブライナへと乗り込もうとしていると、後輩のレイリーが何故か妨害してきた。いや、何故かではない。こいつはこいつなりに、俺の事を心配しているのである。
「止められたってなぁ……やりたいことを艦長が許可出してくれたんだぜ? 喜んで向かうのが今の状況だろ?」
「アーランさんはそれで良いんですか!? 同じ飛空船操縦士の目線から言わせていただければ、死にに行くようなものじゃないですか」
それはまあ……九割がたそうだろう。敵の攻撃用機関への攻撃は、そのまま敵の攻撃に接近することである。そうして敵に効果がありそうな攻撃は、ただ破壊的な質量兵器を落とすというそれだけ。
狙った箇所に落とすにはかなりの接近が必要であるし、結果、危険のさらに先まで行かなければ成功しない作戦と言える。
攻撃そのものがあたったとして、その後、黒鷲に接敵した状態で、無事逃げられる保障も無い。先ほど行った爆撃よりもさらに難易度が高くなるのは確実だろう。
「別に、俺一人が犠牲になればみんな助かるんだ。なんて英雄願望に押されたわけじゃあないんだよ。頼む。今回は、俺に行かせてくれ」
「……なんでそんな」
尋ねられて、今さら隠す事も無いかと、頭を掻いてから、目の前の後輩に話すことにした。
「俺がこの計画に参加した理由が、今、俺達が戦ってる相手だからだ。あれに、一矢報いる事だけを目的で、今まで生きてきた。そうして機会が来たんだ。今さら止められないのさ」
「それは……復讐ってことですか?」
「どうだろうな。前まではそう思ってたけど、今はもうちょっと違う気がする」
そう。むしろ、次の一歩を踏み出すためにそうするのだ。あれに対して、今この瞬間、何もしなければ、俺の人生の次の段階へ至れない。もし、その過程で、俺自身がやられてしまうのだとしたら、それは運命としか言い様が無かった。
「ごめんね、レイリーくん。兄さんって、ほら、こういうところあるから。頑固なんだよね」
「お前に言われたくないけどな」
レイリーとの話を横で聞いていた弟が、会話へ入って来た。こいつの場合は、俺を止めるつもりも無いらしい。いや、むしろ、後押しする側なのだと思う。エイディスにしたって、この機会をずっと待っていたのだろうから。
「で、兄さん。落下爆弾。ああ、さっき落とした攻撃用の兵器をまた取り付けたけど、また違う装備を持ってきたんだ。操縦席に置いておくだけだから、邪魔にはなるかもだけど、船の挙動には問題ないと思う」
と、手に持ったリュックの様なものを、エイディスは俺に渡してくる。これはいったい何なのか。
「新しい、攻撃道具ってところか?」
「いや、そうじゃない。どっちかって言えば、ロンブライナがやられるかもしれないってなった時、その袋についてる紐を強く引いて。もしかしたら……いや、上手く行かない可能性もあるから、変な希望見せない方が良いか。兎に角、最後の最後、どうしようも無くなったらそうするってだけ憶えておいてよ」
「なんだよ。気になるな。自爆用の装置か何かか?」
と手に渡された袋を怪訝に見つめながらも、ロンブライナの操縦席へ入れておく。そうして俺自身も。
「ま、待ってください。僕も、僕も一緒に行きますよ!」
「おいおい。あんな攻撃の中突っ切るのは、俺だけで良いだろ?」
「多少の露払いは出来るかもしれません。最後は……アーランさんに任せますから」
「分かった……途中までだぞ」
そうレイリーに返して、俺はロンブライナへ乗り込んだ。息を深く吸い、大きく吐く。そうして操縦桿を握る。
「さあ……派手にやらかそうじゃねえか」
恐れるより、怒りに震えるより、最後は笑うことにした。その方が、きっと気持ちよく進めるだろうから。




