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フライトコロナイズ  作者: きーち
第8章
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4話 戦いへの分岐点

 ラクリム王国の地下空間にあった壁画。まずそれがどの様なものであるかを調べる事になった俺達であったが、その調査の途中で、さらに厄介なものを見つけてしまう。

「まさか、こんな場所にも巨大飛空船があるとはのう……」

 調査を率先して行っていた人物、魔法士のデリダウ・ドーガが、地下空間の中心にあった巨大飛空船を見て、そう呟いた。

「そうか、これがあったから、この街は他の巨大飛空船に襲われたってことなんですね?」

 出来るだけ、今の状況を把握したいと思う俺は、こういう状況にもっとも対応できそうなデリダウに同行していた。

 他の船員は、アニーサ艦長の指示に従い、巨大飛空船の中を探索していたり、壁画の調査を続けている。

「うむ。そうなることになるのかのう。調べて見れば分かる可能性もあるじゃろう……ここにあるものすべては、ワシ等の技術を超えた代物であるが、一方で、ワシ等に分かるものでもある。それが一番の特徴じゃて」

 この地下空間にあったものすべては、俺達の知識で分かる物であった。いや、技術がしっかりと判明しているわけではないのだ。

 ただ、あちこちに注釈らしきものが書かれていたり、壁画そのものが、俺達にとって分かりやすいものに変更されていたりする。

「つまり、ラクリム王国の王家……うちの艦長を除きますが、彼らはこの場所について調べていて、さらに幾らか、使う方法についても学んでいたってことですか……」

「じゃろうのう……もしかすれば、ラクリム王国とは、この地下空間があったからこそ出来た国……なのやもしれん」

 そう思うと、この空間も何やら壮大なものを感じてしまう。そうして、ここにある巨大飛空船が、今後の鍵になるのではないかという思いも同じく。

「こんな巨大飛空船、無ければ良かったとか、そういう事は今さらの話で、俺達はこれからの話をしなきゃですね、こりゃあ。調査しなきゃ分からんでしょうが、この船、俺達で動かせたりするかも?」

「かもしれん。ラクリム王国の調査がどこまでに及んでいたかは知らぬが、建国から相当の年月を経ていた国なのじゃろう? ならば調査も相当なものじゃ………じゃが、動かせたとして、どうする? 再び、あの巨大飛空船の群れへ挑むか?」

「さあ。そこはそれこそ、調査に寄るでしょう? むしろ、巨大飛空船そのものより、そっちが重要でしょうよ。あの船を作った連中の正体とか、そういうのが分かるかもしれないんですから」

 敵の正体を調べる。それこそが、これまでの旅の目的でもあった。今、それが明かされるかもしれないのだ。




「既に皆さん、ある程度知識は共有され始めていると思われますが、今ここで、再び話を纏めさせていただきますわ。よろしいでしょうか?」

 アニーサ艦長が、船員に向けて話を始めた。場所はラクリム王国の地下空間であるが、この場所を発見してから3日程経過している。

 その間、地下空間と、巨大飛空船について調べ続けて来た結果、この場所の正体にについて、ある程度の知識が集まった状態だった。

 これ以上の調査はさらに長い期間が必要であろうし、何より、ガーヴィッド公国へ近づく巨大飛空船の群れについて考えなければならない頃合いだったからだ。

 今回は、本当に船員全員が、アニーサ艦長を見つめていた。

「まず、この地下空間。これは遥か昔からここにあったと推測できます。そうして、わたくしの祖。ラクリム王家はこの場所を見つけ、ここを建国の地とした。勿論、この地下空間があったからこそですわ」

 やはりデリダウの推測通り、ここを調べる一族として、ラクリム王家は誕生したと言うのが推測として濃厚らしい。

 残された資料から、何かしら、ここを神聖な地として崇めたのが始まりであることが分かり、崇める形から、さらなる検分へと時代が移る形で変化していったのだそうだ。

「地下空間を調べるうちに分かったこと……というより、壁画に描かれた物語についても、ラクリム王家は推測していました。それはつまり、かつて、遥かな昔に存在していた、強大な力を持った国の話を」

 その国。かつて、旅をするクリスト達が神話に語っていた国は、俺達が知り得るより遥かに高い文明と領土を持っていたという。その領土は、外世界どころか、俺達が知る内世界へも及ぶ。この地下空間がその証明だ。

「ですが、その技術力の高さから、彼らは滅びた。というよりは、中枢が無くなったと言う方が近いですわね。滅びの過程は抽象的ですが、神を生み、その神に逆襲された。という形で描かれています。わたくしはそれを、持ちえた技術に寄る崩壊だと考えておりますの」

 過剰な技術や力。それを操りきれれば別に良いが、もし、それが暴走した時、使い手側すら制御できない事態に陥る。

 そういう話は稀にある話だが、文明そのものにも起こり得るのだろうとアニーサ艦長は推測を続ける。

 どこかでは人を神にし、またどこかでは獣を神にした。そんな物語が壁画の中で語られていた。神……兎に角強い力を持った存在。もしくは技術。それらが無秩序に作られ、結果、社会の崩壊を生んでいったと、壁画は語っている様にも見えたのである。

「そこまでは良い。かつてあり、繁栄した国の末路。それだけの話です。けれど、わたくし達には差し迫った危機がある。この国を滅ぼす様な巨大飛空船。それが何か……」

 そう。そこが一番重要だった。調査を続ける中で、分かった事がある。それは、ラクリム王家は、この国が襲われる事態に対して、どこか予感していたという事実だ。

 それが何時、どのタイミングで、どの規模かは分からないが、それでも何時かは起こる。その様な予感が、この地下空間の調査が進むうちにラクリム王国で発生していたという。

「かつて繁栄し、滅び去った国は、その後継者を定めていました。国は滅びようとも、技術や知識を継承し、さらに発展を目指す存在を。その痕跡について、わたくし達は既に目にしている」

 とある国でそこに住む住民の言葉を翻訳し続ける塔。それは、その地に住まう住民を実験体とし、そこで発生する言葉を無秩序に集め、解析していくという代物だったと思われる。

 この地下空間に、その塔についての知識は無かったが、塔そのものの、技術の片鱗の様な物は見つかったのだ。

 高き塔は情報を集め、拠点へと転送し、そこで解析される。そうして、中から有用なもの、そうでないものを取捨選択していくという、そういう装置なのだそうだ。

 言葉の翻訳はあくまで副作用。むしろ、長期間に及べば、奪われつくされた情報の反動か、その地に住まう人間から言葉を奪い去ってしまうというものであるらしい。

「目にしたもの。そこから分かる通り、既に後継者と目される者は、倫理というものが無くなっていると見るべきですわ」

 危険なものは承知で、塔を運用し続けた存在。それが真っ当な相手だとは思えない。では、俺達の敵はそれか。

(そうだったら、幾らか、鼻っ柱をへし折ってやろうなんて気にもなったんだけどな)

 しかし、そうでは無かった。ラクリム王国が予想した崩壊とは、そういう類のものでは無かったのだ。

「そうして今、わたくし達が相手にしなければならないのは、そんな倫理を無くした後継者すら滅んだ、今の状況ですわ」

 そう。かつて存在した圧倒的技術の継承者。だが、それも何時かは滅びるのではないかと、ラクリム王国は危惧していたのだ。

 後継者が滅びた後はどうなるか? この地下空間に残されていた情報から、一つの危険な状況が類推された。

 彼らの技術は彼らの物である。それ以外の物が動かすのは、世界そのものに無用な混乱を招くだろう。だから、それらを積極的に排除しなければならない。

 そういう思想が、彼らにはあったのだ。

「他者が無断で技術を使う。それは罪悪であるという考えがかつてあったのでしょう。ですが、倫理を無くした後継者にはそれが無かった。捨て置くと言う状況が続いたのです。ですから、その時まで、ラクリム王国は無事のままでした」

 が、状況が変わった。最後の後継者が滅び去ったのだ。その姿を俺達は既に目にしている。俺達が内世界へと運び込んでしまった巨大飛空船。そこに存在した一体のミイラこそが、後継者張本人なのだ。

 あの巨大飛空船に乗っていたミイラは、ミイラ化してから、何十年も経っていないだろう。それはつまり、死からそう時間を経過していないということ。

 そう、例えば、ラクリム王国が崩壊する少し前あたりなら時間も合う。最後の後継者が滅びたその日。それはラクリム王国の滅びの日でもあった。

「消え去った後継者の代わりに、巨大飛空船を動かすもの。それは反射行動ですわ。与えられた命令だけを行うカラクリ。初めて巨大飛空船へ我々が近づいた時、とりあえずの威嚇を行ったような、そんな行動ですの。後継者以外が技術を使うという状況を、積極的に滅ぼす仕組みと言っても良いですわね。それがラクリム王国を滅ぼし、そうして、今はガーヴィッド公国を狙っている」

 そうだ。相手は既に滅んだ存在。その残りカスこそが、俺達が復讐を果たさなければならない相手なのだ。

「これから……俺達はその仕組みを破壊するために行動する。ってことで良いんですよね?」

 俺はアニーサ艦長を見て、他の船員が確認したいであろうことを尋ねる。返答は勿論、肯定だった。

「ええ。ここからは賭けになるのですが、ガーヴィッド公国へ接近する巨大飛空船の群れには、恐らく中枢というものが存在します。そうしてそれは恐らく、わたくし達が運び込んだあの巨大飛空船」

 後継者が乗っていた飛空船だ。勿論、命令系統はそこにある……はずだ。そこからは、地下空間に残った資料から考え出せる予想でしかない。

「では、これから私たちは再びガーヴィッド公国へ舞い戻ることになるのですな」

 副長のミード・ラーグが、この後の行動について、纏めとなる様にアニーサ艦長へ尋ねた。

「はい。ですが、普通では駄目ですわね。恐らく自体は切迫している。今からガーヴィッド公国へ戻り、巨大飛空船の内部へと侵入し、中枢となる命令を取り消す方法を探るなど、悠長なことはできませんから」

 ならばどうするか? 他の船員達も、薄々勘付いているが、誰も言葉に出来なかったことがある。というよりも、アニーサ艦長の決定を待っていたのだ。

「わたくし達は選択肢も手数も少ない。そんな状況であるならば、もっとも端的かつ単純に動くことこそ、事態を解決する手立てとなる。わたくし、そう思いますの。そうして、その方法がここにある」

 アニーサ艦長は片手を上げて、その後方にあるものを示した。アニーサ艦長がいったい何に背を向けているか。それは見れば分かった。

 地下空間にある巨大飛空船だ。

「わたくし達は、この巨大飛空船を動かし、その火力でもって、わたくし達が運び込んだ巨大飛空船を破壊する。いえ、責任という意味であれば、しなければなりません」

 そんな突拍子も無い話であったが、現状、彼女に反対するものなどいなかった。




「操作方法は、既存の……っていうか、僕たちが知る飛空船と同じ形で改修されてるっぽいね。それでしっかり動かせるかどうかは怪しいけど」

「整備班のお前がそう不安になることを言うなよ……」

 ペリカヌから、巨大飛空船へと荷物を運びこむ作業をしている俺とエイディス。ここ最近、碌に睡眠を取っていないため、結構、体力的にキツイものがあった。これで精神的な方でダメージがありそうな情報は止めて欲しい。

「実際、ブラックボックスな部分が多いんだよ。整備班の僕がこうやって荷物運びしてるのも、手を入れられる場所が殆どないからだし」

「なんか、今さら怖くなってきたな。立ち止まれないってのは分かってるけどよ……」

 荷物を持ちながら、巨大飛空船へと入っていく。ひたすらに巨大なこの船は恐ろしい存在である。そんな単純な事を忘れかけていた。

「せめて、名前とかがあれば良いんだけどね。何時までの巨大飛空船じゃあ、なんだか嫌な印象しか浮かばない」

 弟の言う通り、巨大飛空船という言葉だけでは、これまでの、振り回されたという印象しかない。

 そもそも、長らく巨大飛空船という存在を復讐相手に見立てて来たのだ。あくまであれは道具であると理解はしても、感情面での納得は中々に難しい。

「そう、それであるよ、二人とも!」

「うわっ! って、ブラッホ班長……それって何がです?」

 背後から大声を出されては、知った中であろうとも驚くものだ。人一倍、荷物運びを行っているブラッホ班長が、唐突に会話に入って来たのである。

「だから名前であるよ! この船。これよりは我々の母艦となるのであるから、名が必要であろう? うむ。船だ巨大だなどと味気ない事この上無いと思っていたのだ。さっそく艦長に進言せねばな!」

「進言って、こんな事態の最中にですか?」

 いろいろと他にやることは多いのではないかと、エイディスはブラッホ班長にツッコミを入れる。ただ、彼の性格を考えれば、こんな事態だからこそ。と言いそうではある。

「大きな試みには大きな旗印が必要であろう? 大きな船でもあることであるしな! 大きな名前を付けてやらねば!」

「名前……ですの? それは確かに必要ですわね」

 と、ブラッホに釣られる様に、アニーサ艦長までやってきた。ブラッホの声が大きいせいで、聞こえてしまったのかもしれない。巨大飛空船の大きさを考えれば、単に近くにいただけの偶然でしかないが、そう思えてしまった。

「最後の最後で、悪乗りみたいな雰囲気なってきたな、こりゃ」

 つい、この雰囲気に呆れた顔をしてしまう。これからやる事に対して、今の話題はひたすらに軽い。軽すぎて愉快になってきそうだ。弟のエイディスも、この雰囲気に当てられたのか、クスリと笑う。

「そうだね。けど、それに乗ってみるのも悪くないかも」

 久しぶりに、空気がすこしばかり軽くなった。それはそれで良いことだと俺は思う。結構疲労も溜まっている現状で、少しばかりだが、心が休まった気がするからだ。

「で、結局、どんな名前にするんで? さぞかし壮大な名前になるんでしょうね?」

 今から全員を集めて名前を公募。なんて余裕はさすがに無いだろう。ここはアニーサ艦長の独断と偏見による決定を待ちたいところだ。

「そうですわね……とある国では、かつて巨大な……大地を歩く巨獣ですら掴み、空へ舞い上がることができるほどの鳥がいたそうですわ。名前をシームルグと言ったそうですの。仰々しいかもしれませんが、らしいとは思いません?」

「なるほど、シームルグですか。ま、それくらい格好つけた方が、楽しくはありますね」

 俺はそう感想を述べたあと、巨大飛空船、シームルグを見上げた。一目では視界に収めることなど不可能なそれに頼もしさを感じる名前でもあった。

 これから、船員すべての命を預かるには、相応しい名前。ならば、実際に、その相応しさを見せて欲しいと、そう強く思った。




 シームルグがその翼を羽ばたかせる。その大出力の浮遊力が地下空間から上部の地盤や瓦礫を押しのけて空へと向かう。

 周囲に地震すら発生させるその力は、確かに圧倒的な力を思わせた。

 無事、動く事の安堵が船内を包み、次の瞬間には、ガーヴィッド公国へ向かわなければという使命感へ思いが変わっていく。

 この船はただ、ガーヴィッド公国に存在する敵巨大飛空船を破壊するためにこそ存在していた。

 まず第一の懸念は、ガーヴィッド公国が無事なままかどうかだ。足止め用の作戦は行ったとは言え、巨大飛空船に内世界が攻め込まれてから数日が経過している。足止めを踏み越えて、ガーヴィッド公国を滅ぼしていないとも限らない。

 が、その懸念に関してはすぐに晴れた。ひたすらに加速を続けるシームルグが、わずか半日でガーヴィッド公国へ俺達を連れて行き、無事なままの街並みを俺達に見せてくれたからだ。

「巨大飛空船群はどうなったんだろうな。まだ来てないのか。それともどこかへ去ったのか」

 シームルグの小型飛空船格納庫にて、俺は外の景色を見ていた。ペリカヌの窓とは違い、格納庫にも大きな透過壁らしきものが配置されているため、かなりの視界が確保されていた。

 というか、外に小型飛空船を発進させやすい場所だからと格納庫にしていたが、本当にそういう用途で使うかは、未だに謎のままだったりする。

「ここで何も無ければ、巨大飛空船群も見に行けば良いんじゃないですかね? それで、向こうも何もないって事になれば……僕らはガーヴィッド公国に出頭ってことになると思います」

 やや不安な顔をして話すのはレイリーだった。非常事態に船を一隻盗んだことに対する弁明や、今乗っているシームルグについても説明しなければならない事も、色々と不安材料になっているのだろう。

「まあ、心配するなって。このまま、何もありませんでしたで終わるってことは多分ねえよ」

「どうしてですか?」

「もう、何も起こらない事態は過ぎてるからだ。絶対に、何等かの決着はある。言ってみれば、勘なんだけどな」

 そんな俺の勘であるが、やはり当たったらしい。ガーヴィッド公国の街並みの端。俺達が持ち帰った巨大飛空船が浮上し始めたのだ。

 ひたすらに大きな構造物なので、良く分かる。

「これが……決着?」

「いや、これからが。だな」

 浮かぶ巨大飛空船が、こちらへと振り向く様に回頭していくのを見る。さあ、これが最後の戦いだ。




「相手の意思……と言っても、自動的なものなのでしょうが、それがどうであれ、こちらは攻撃を仕掛けさせてもらいますわ。よろしいでしょうか? みなさん?」

 今やジームルグの艦長となったアニーサは、ジームルグすべての機能を司る艦首部分で、他の船員に指示を出していく。

 同じく艦首にいるメンバーにはジームルグの挙動と外部の観測を。火器管制に関しては、艦首部分にいながら、他の場所へ言葉の意思疎通ができる装置があったので、それで指示を飛ばす。

 火器管制室に配置された船員が、そこからジームルグの火器を使って、敵巨大飛空船と破壊していくという形だ。

「これより、敵巨大飛空船を黒鷲と表現します。らしい名前でしょう?」

 ひたすらに巨大なそれであるが、色は黒く、輪郭もどことなく鷲に似ているため、そう識別することにした。

 いちいち、巨大飛空船と呼ぶのは長いしややこしくなるからだ。

「シィラさん。黒鷲の挙動については、あなたの観測にお任せしますわ。しっかりと見て、逐一、艦首すべてに聞こえる様に報告してくださいな」

「は、はい! 分かりました!」

 元気に返事をするシィラ・メリベイ観測士を見て頷く。そうして次はジームルグを動かしている、操縦士のアカノト・テンペライトに視線を向ける。

「アカノト操縦士。慣れぬ船でしょうが、どうか、十全に動かせる様に心がけてください。今、この瞬間は」

「デカいが、ペリカヌよりはじゃじゃ馬じゃねえからな。できるだけやれますよ。任せておいてくださいって」

 これまでの疲労もあってか、目の下に隅が出来ているアカノトを見るが、それでも、今は彼を信じるしかない。

 次に見るのは、副長のミード・ラーグだ。

「ミード副長。わたくしに何かあれば、次はミード副長が」

「そうならない事を祈りたいですな。まあ、任せてください。としか言えません」

 襟元を正しながらミード副長が答えた。と、ミード副長に視線を向けた時、その向こうにも人影を見つける。サーイル報告官だ。

「サーイル報告官? この戦い、きっちりと見て置いてくださいませんかしら? 例え勝利したとしても、わたくし達の身の上が保障されないとなれば、士気に関わりますから」

「ふんっ。こうなった以上、一蓮托生ですからな。せいぜい、英雄的行動をしたと報告させてもらいましょうか」

 悪態を吐きながらも、この様子なら大丈夫かと思う。彼は悪知恵を絞らせるタイプではあるが、嘘を吐くタイプでもない。

 次に艦長席の前にある幾つかのボタンを押し、火器管制室へ言葉を繋げる。

「火器管制室。わたくしの声が聞こえますか? そちらには、ペリカヌを持ち去らせていただいた時に同行した船員もいらっしゃられるでしょうが、今、この時は心を一つにし、目の前の敵を倒すことに集中していただけますかしら? あれを倒すことが、ガーヴィッド公国の存続に繋がると、そう考えてくださいまし」

 それだけを火器管制室に向けて伝え、次に艦内すべてに繋がる様にボタンを操作した。

「さて、みなさん。準備はよろしいかしら? これより、空の大立ち回りを行わせていただきます!」

 かくして、内世界で初めてであろう、巨大飛空船同士のぶつかり合いが始まった。



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