3話 過去への分岐点
黒い爆発。そう表現するべきか、それとも、空間を黒い絵の具で塗りつぶす様な光景と言うべきか。
空間に広がる黒い物は、黒い球が破壊されたと思われる地点から発生し、巨大化していく。どうやらその異変に巨大飛空船の群れも気が付いたらしく、ロンブライナや他の小型飛空船の動きを抑制していた対空防衛を解く。
自由に動ける様になったところで、俺はロンブライナを回頭させ、巨大飛空船の群れに背を向ける。
「今がチャンスっ……て、攻撃なんて仕掛けたりしねえよっ」
引き金を引きたい気分を抑えつつ、できるだけ遠くに向かわなければならない。巨大飛空船に対してと言うより、自分が引き起こした破壊的な爆発に対してだ。
黒い球を渡して来た相手の言う通り、随分ととてつもない破壊力があるらしい。ただし不安もある。発生した黒い爆発はどんどんその範囲を広げているが、それがどれほど広がるか分からないのである。
巨大飛空船の群れの前に現れた丸い障害物と言った姿を見せているが、それがこの一帯を包み込む程に広がらないとも限らないのだ。
自分が発生させた現象に自分ごと巻き込まれるなんて御免こうむる。
まったくもって、試してみなければ分からないのが道具というもの。どこまであの黒い破壊が広がるか。もしやどこまでも広がり続け、世界すらも破壊するやもと正直不安になって来た頃、漸くその破壊のピークに達したのか、破壊の球体が縮まり始めた。
「巨大飛空船まるごと一つ飲み込んで、まだ広いくらいか……あんなもん、おいそれと使ってたら、こっちまで巻き込まれてるところだっての……!」
黒い球体がもたらした結果に体が震えた。そうして同時に、結果の派手さに比べて、その影響については大したものでは無いことも理解する。
「結構離して撃ったからな。あんなもんか」
破壊の大きさこそ巨大飛空船を飲み込むほどであったが、それは巨大飛空船のすぐ近くで起こったものではなく、かなり距離があった。結果、何もない空間に黒い破壊をもたらしただけであり、ガーヴィッド公国へ近づく巨大飛空船の群れは、何の被害も受けてはいない。
「けど……多分、成功だろうよ。ああ、今は一泡吹かせたって事で納得しといてやる」
黒い破壊は、周囲に対して物理的な破壊の影響こそもたらさなかったものの、巨大飛空船群そのものには変化を発生させていた。
巨大飛空船の進行が止まったのだ。前に進むのを止めて、ただそこに浮いているだけの巨大飛空船の群れ。それにしたって威圧感があるものの、そこにただあるだけ時間、ガーヴィッド公国の寿命は延びることになるはずだ。
最初から、俺はこの状態を狙っていたのだ。どの様な結果をもたらすか分からない黒い球体に対して、その分からなさそのものを巨大飛空船の群れへと押し付けたのである。
狙うのは巨大飛空船群の混乱だ。黒い球がどんな結果をもたらそうとも、それが異質なものなら混乱は生んでくれるはずだ。
混乱すれば混乱するだけ、巨大飛空船がガーヴィッド公国を襲う時間は遅くなる。それだけ時間が稼げると、そう考えた。
「何日、何時間か……そんなもん分からないが、とりあえずやっておかなきゃならない。義理とか義務だよな。これは」
この巨大飛空船の群れを呼び込んだのが俺達なのだとしたら、この時間稼ぎもまた責任を果たすための行動だった。
できれば、このまま退却してくれれば良いのであるが、それは高望みのし過ぎだろう。
「後に残ってる事と言えば、ただラクリム王国へ向かうだけか」
出来る事について、今はすべてしてしまった気がする。どうか良き方向に進みます様にと祈ることしかできない不甲斐ない自分に対して、俺は歯を強く噛みしめることしかできなかった。
黒い爆発そのものが、どれほどの効果をもたらしたかは確認できないまま、俺達は当初の予定通り、ラクリム王国へ向かう事になる。
「正確には、その跡地……だけどな」
ペリカヌの格納庫にて、整備中のロンブライナに背を預けながら、ぽつりと言葉を漏らす。
「確か慰霊碑みたいなのが置かれてるんだっけ? 兄さんは一度行ったことがあるだよね?」
独り言だったのだが、ロンブライナの整備を続けていたエイディスが言葉を返して来た。お互い、心が落ち着かないのである。今さらロンブライナを整備したところで何があるというわけでも無いのだが、それにしたって、何かをしないではいられない。
俺が独り言を漏らしたのも、エイディスがそれを返したのも、やはり、何かをしないでいられなかったからだ。
「寂しいもんだったよ。破壊の跡が雨ざらしで、整理もされてない。デカい石に祈りの言葉が一文彫られて、門だった場所に置かれてるだけって感じさ。街はそのまま放置だ」
再び、誰かが住むというのならもっと違う風景になっていたのだろうが、見ただけで悲しい思いに沈んでしまう場所に、誰が住みたがると言うのか。
どうなっているだろうと一度だけ足を運んだこともあったが、その光景を見ただけですぐにこの場を去りたいと思ってしまったし、事実そうした。
エイディスに至っては、あの日以来、一度たりとも故郷に足を踏み入れていない。彼も彼なりに思う事があったのだろう。
「そんな場所だから、跡地も奥まで探索されてないって、そういう可能性もある?」
「どうだろうな。なんつったって街丸ごと廃墟だろ? 火事場泥棒なんかは、それこそあちこち探して、金目のもんを根こそぎ奪ってるって気もするけどな」
ラクリム王国であった場所の跡地は、殆ど放置の状態である。周囲には他に大きな街も無いため、そのまま放置したところで、ラクリム王国の関係者以外が害を受けることは無いからだ。
そうして生き残ったラクリム王国関係者に関しても、その日を生きるのに必死で、故郷に戻り何かをするという気分には至れなかったのだろう。
「けど、考えればおかしい部分もあるよ? あそこの土地はある程度枯れてはいるけど、鉱物に関してはそこそこ獲れる。っていうか、それで栄えてた街だったよね? 壊れた街並みの整頓とかは大変だろうけど、近くに集落の一つ出来てもおかしくは無いじゃないか」
「ああ、そりゃあ逆だ。まだまだ、がんがん鉱物が獲れる場所だったってのに、いきなりそれを管理する人間がいなくなったんだ。おかげで鉱山から良く無いもんが染み出して、土が汚染されちまってるらしんだよ」
「つまり、人が住み難い場所になっちゃったんだ……」
広い世界だ。少しでも土地が住みづらくなれば、他への移住を考える。土地を良くしようという考えは、あまり根付かない。
ただ、おかげで本格的な再開発などは行われていない。もし、火事場泥棒以上の探索を行えば、本当に何かが見つかる可能性はあるだろう。
「故郷か……もし、復讐心なんてものが無くなったら、あそこで死んだ人たちの冥福を祈るって生き方もあるかもな」
「何? 兄さん。復讐は諦めたって……そういうこと?」
「違うさ。どんな展開になろうと、俺達の復讐はもう少しで終わる。その後の事について、ちょっとくらいは考えとくってだけだ」
展開の幾つかには、俺自身の命が無くなるなんてものもあるだろうが、そんな事は考えたって仕方ない。人間、何時だって生きた上での先を考えるものである。
「そうか……僕らの旅も、もう少しで終わるんだ」
「その終わりが、俺達の生まれ故郷ってんだから、どうにも皮肉が効いてるよな」
「そう……だね」
こんな話を続けている間にも、ペリカヌは進み続ける。旅の終わりに向けて。
ペリカヌがラクリム王国へ辿り着いた頃、その周囲の天候は雨だった。土砂降りとまでは行かないが、それなりに激しい雨の中、ペリカヌはラクリム王国外縁部へと着陸する。
「時間もねえし、この雨の中で探索って事になるんだろうな。俺達は空からってことになりそうか?」
ペリカヌ格納庫へ待機しながら、後輩のレイリーに尋ねてみた。もっとも、彼にしたって答えなんて知らないだろうが。
「空から何か見つかるなら、とっくに見つかってると思いますから、僕らも地上での探索作業に参加じゃないですか? それか、その探索者を探索場所まで運ぶ仕事か」
「そのどちらも。ですわね」
と、レイリーと話している内に、この場所では珍しい声が聞こえた。アニーサ艦長である。さらには彼女の後ろから、ぞろぞろと他の船員達が顔を見せ始めている。
「ちょ、ちょっと待ってください。もしかしてその数を」
青い顔をしているレイリーを見て、こいつもまだまだ覚悟が足りないんだなと思う。時間が無いと言うのと、国から飛空船を奪い去ったという立場なのだから、そりゃあ色々と無茶ぶりをされるに決まっているのだ。
「運んだから、俺達も探索に参加って事ですよね。良いですよ。体力が尽きるまで働いてやりましょうとも」
レイリーの様に動揺を顔に見せず、アニーサ艦長に返答する。
「ええ、まず、真っ先に探らせていただく場所は、街の中心である王城跡でお願いしますわ」
言った以上は仕事をせねばならぬ。ペリカヌの船員を限界まで投入しての探索作業だ。運ぶだけでも何往復もしなければならなかった。
そうして、その往復作業の最後に、俺はアニーサ艦長をロンブライナで運ぶことになった。
「で、運搬用の箱には入らず、狭苦しい操縦席に入るってのは、何かの嫌がらせですかね?」
「あちらはどうにも苦手で……王城に付いてからも指揮を取る余力を残して置きたいんですの」
そう言われても、大の大人が、それも男女で小型操縦船の操縦席にいるというのはどうにもいけない。
いや、幾らか下世話な気分になれるのならそれも良いが、現状で言えば、泥臭さが優先されてしまうのが問題だ。
「まあ、さっさと運んじまえば問題は無さそうだから良いですけどね。どっかに掴まっててくださいよ。飛びますから」
そうして、ロンブライナをペリカヌから発進させる。加速し、浮かび上がるロンブライナは、ラクリム王国の空へ。
「空からこうやって直接見ると、本当に、悉くまでに滅ぼされたということを認識してしまいますわね……」
「さっきから何度も往復させられてるせいで、俺の方は、何度もこの光景を目に叩きつけられてますけどね」
男女がペアで小型飛空船に。もうちょっと良い雰囲気になるべきだと強く思うのだが、出てくる言葉と言えば、むしろ埃っぽい話ばかりだ。
「それは申し訳ないことをしましたわね。それもこれであともう少しですわ。王城で何か見つかる見つからないに関わらず」
視界に、ラクリム王国の王城が映り始める。もっとも、その王城だって大きく破壊されており、範囲と高さのある瓦礫という表現しかできない。その瓦礫も、幾らか植物に覆われており、恐らく、野生の獣の住居となっている部分もあるだろう。
「もう一度、ここに来る機会があるのなら、ロマンチックな雰囲気が良かったんですけどねぇ」
「あら、お城の空からやってきた王子様にしては、夢も希望も無いことをおっしゃられますのね」
「何年前の話ですか……って、なんです? その王子様ってのは?」
そりゃあ、子どもながらに、王族の住む場所へ不法侵入したという事実はロマンがあるやもしれないが、その頃の身分は確か一般庶民。それも下から見た方が良い立場だったと思う。うん。間違いない。俺の記憶違いではないはずだ。
「あの頃のわたくしも、あなたと同じ子どもだったということですわね。お城の外に憧れて、王子様が連れ去ってくれるなどと思っていた時期もありますの」
「ははっ。じゃあこの国が平和なままだったら、運命の出会いかもしれなかったわけだ」
「運命という意味では、まだ続いているかもしれませんけれど」
やはりと言うか、浪漫とは遠い話になってしまった。復讐を誓う者同士の運命なんて碌でも無い。子ども同士、相手の身分も考えず、運命の人や王子様やと言っている方が何倍マシな事か。
「そろそろ着きますけど、運命とやらは、俺達に次の一手を授けてくれますかね?」
「碌でもない運命を持っている者同士、授けて貰えるなんて言い方はいけませんわ。もぎ取ると、そう表現しましょう」
頼もしい事この上無い言葉だ。さて、ではこのお姫様を降ろすとしよう。この廃墟となった国から、復讐を果たせる何かをもぎ取るために。
王城の探索に関して、当初は困難を極めた。と言うか、探索と言っても、何を探すべきかが分からないのだ。
ただひたすらに、目立ちそうにない場所へ行き、そこに何もないことを確認する。そんな作業が、効率的に進むはずも無いだろう。
が、アニーサ艦長が直接探索に参加する様になってから、その状況も変わって来る。
「確か……そう。王城内には、わたくしでも立ち入ることが禁止された場所が幾つかあって。ええ、微かに面影が残っていますから、そこを探してみましょう」
王城内の記憶。彼女にしたって遠い過去になるのだろうが、それでも俺達よりは頼りになった。
彼女とて、このラクリム王国が何故、巨大飛空船に襲われたかは分からない。しかし、分からないということは、自分の知らぬ場所にこそそれは存在するという発想に至ったのだろう。
「子どもに見せる様な場所じゃないってだけかも」
他の人員を置いて、ひたすらに探索を続けるアニーサ艦長の隣で歩いているのは、何故か俺だった。どうにも、彼女と一緒にロンブライナに乗って来たことで、俺は彼女と二人一組で行動するものという認識を持たれているらしい。
「そういう場所であれば、子どもであろうとも、無断で立ち入ってましたから」
行動力豊かなのは、子どもの時かららしい。三つ子の魂はなんとやらか。
「それで、そんなやんちゃなお姫様でも入れなかった立ち入り禁止の場所ってのはどこなんで?」
「少々力仕事が必要な場所にありますの。アーランさんと……レイリー操縦士も手伝っていただけますか?」
「僕もですね。はい。別に構いませんけど」
これも何故かであるが、俺の後ろには後輩のレイリーが付いて来ていた。どうにも、俺がアニーサ艦長と同行している事に言いたいことがあるらしいが、その言いたいことを言ってくれない。
実はアニーサ艦長あたりに気でもあるのではないかと睨んでいるのだが。
「この艦長の手伝ってって言葉に、簡単に頷かねえ方が良いぞー。本当に、とことんまで手伝わされるんだからな」
「別に……艦長命令に逆らうつもりなんてないですからね。僕」
見るからに機嫌が悪いらしい。が、手は動かすと言っている以上、こちらとしては言えることが無くなる。感情の問題には口出し難いものだ。
「では、さっそく力仕事を命じさせていただきますわね。あちら周辺の瓦礫を退けてくださいません? 下の床が見えるあたりまで」
「あの……瓦礫って、その下の床が見えないくらいまで積もってるんですが」
「おーい。レイリー、だから言ったろう? 応援呼んできてくれよ。退けないって選択肢はねえから」
言われた事に茫然としているレイリーに対して、この艦長と同行していれば、幾らでもこんなことはあるぞと忠告しておく。
彼女は頼りになる味方であると同時に、無茶振りをしてくる上司であるということを理解しておかなくてはならない。
こうして瓦礫撤去作業を暫く続けていると、漸く、元の王城だった場所の床が見えて来た。ただし、そこに何かありそうには見えず、もしや無駄骨だったのかと作業をしていた人間が疑い始めた。
「この床に……何かあるのですか?」
最初からかなり労働させられていたレイリーが、アニーサ艦長へ尋ねる。その言葉の語気は、何も無ければ怒るぞと言う感情が込められている様だ。
「床は床ですわ。ただし……」
露わになった床の近くまでアニーサ艦長が移動すると、その床を拳で叩く。すると床の下にあるのはさらに固い地盤となっているはずが、床そのものは響く様に鳴った。
「この下にも、空洞がありますの」
「隠し通路ってわけですか。で、なんでそれを知ってるんです? アニーサ艦長?」
別に確認するわけでは無いが、気になったので、つい尋ねてしまう。隠し通路なわけであるから、元お姫様にも秘密だった可能性は高いのだが。
「大人がこそこそしていると、子どももつい、こそこそと様子を伺いたくなりません?」
「分からない話じゃないですね。おかげで、この状況でも道を見つけることができたんですから、文句も無い」
ただし、こっちがひたすらに疲れる羽目になった件に関しては、礼の一言も欲しいところだ。
「文句が無ければ、これより、この下の空間へ入る事にも同意していただきたいところですけれど……よろしいかしら?」
「今さら、ここで引くってことも無いでしょう? 中にあるのが、王家の趣味や恥部なんてものじゃないことを祈りたいですが」
床は何かしらの仕掛けにより開く構造になっているらしいが、そんな構造を今さら調べるという状況でも無いため、床そのものを壊して、中への入り口を作った。
とりあえずの安心として、そこには階段がある。地下へと続く階段だ。
「では、いきますわよ。できれば、この事態に対する説明文らしきものがあれば一番なのですけれど」
そう都合の良い話はあるまい。何もかもを解き明かしてくれる奇跡の鍵など、この世界のどこにも存在しないのだ。
だが、その鍵に似た欠片ならあるかもしれない。欠片は欠片らしく、元が鍵であった事など想像すらできない形になっているのだろうが、もし、何かの偶然で欠片を集めた人間がいるとしたら、それは鍵の形を取り戻すだろう。後に必要なのは、欠片をくっ付ける接着剤だけ。
その接着剤が、この地下には存在していた。
「これは……壁画?」
地下への階段を下りた先、そこにあったのは想像通りの地下室だった。ただひたすらに広く、そうして、その壁一面に壁画が刻まれている事以外は。
「向こう側が見えない……こんな場所を作る技術が、この国にあったんですか!? 上は破壊されたのに、ここは無事みたいだし、相当頑丈だってことですよ!?」
同じく地下へ降りて来たレイリーの言う通り、この辿り着いた地下室は、上層の破壊が嘘かの様に、破壊の痕跡が残っていない。ここをもし避難所にできてさえいれば、かなりの人数の命が助かったのではないだろうか。
「俺の知る限り、こんな場所を作れるような国じゃなかったな。ラクリム王国って言うのは」
「ええ……見てください、この壁画。どうにも、通常の塗料が使われていない様ですの」
と、壁に触れるアニーサ艦長。すると触れた部分の絵が歪む。そうしてまた手を離すと、歪んでいた絵が元に戻った。言う通り、普通のものではないらしい。
「こういう場所のこういう壁画の場合、壁画がこの場所の説明になってるもんですけど……どうしたもんか」
普通の場所で無い以上、普通の探索が行えるかと言う疑問があった。そうしてもう一つ、結構な問題がある。
「アーランさん? 恐らく、船員の中ではこういう物に一番触れて来たあなただから尋ねたいのですけれど……ここの雰囲気。どうにも……」
「ええ。これまで出会って来た、超常の人間や空間、場所や技術。そのどれにも似ています。まるで一続きの物みたいだ」
運命というものが本当にあるのだと信じたくなる。この地下空間は、ある帝王が支配していた帝国の意匠に似ており、それを構成する材質は、ある街の塔に使われた資材に良く似ていた。そうして何より、この場所の雰囲気だ。
大穴の中で、神を名乗る人形が住んでいた屋敷。あの、闇が沈殿したような場所とここは良く似ていた。
有り体に言えば、遥か昔の遺物という印象だ。遥か昔の、俺達より勝る力を持った何かの遺物。
「外世界を旅し続けて、流れる様に色々な光景を見てきました。そうして流れ着いたこの場所……かつての故郷こそがゴール地点だとしたら。やはり始まりは、この国が襲われた事件から。と言えるかもしれませんわね」
アニーサ艦長は、一度、この地下空間を見渡してから、そう発言する。それには、すべてのスタート地点を告げるのと同時に、こういう意味も含まれている。
この地下空間があったればこそ、この国は滅ぼされたのだと。




