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フライトコロナイズ  作者: きーち
第8章
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2話 空への分岐点

「やあ! 中々の陽気であるな! いや、夕暮れが来ていることは勿論知っているがね! ただ窓一つ無いこの部屋の中ではそれも分かり難いという皮肉であるよ!」

 騒ぎがまだ燻る大部屋の中で、より大きな声で叫ぶ様に話す人影があった。ブラッホだ。

 ブラッホが誰に話し掛けているかと言えば、部屋唯一の出入口で警備をしている兵隊にである。

「な、なんだ……おい」

 本来注意すべき状況のはずなのに、警備の兵はブラッホの体格に気圧されていた。こういう状況であれば、やはり便利な体だ。

「いや何、幾ら何でも交代での警備であろう? 確か私がここに来てからずっと立ち尽くしているが、疲れやせんのかなと思ってな!」

「だったら静かにしていろ。余計な手間をかけっ―――

 ブラッホがまったくの予備動作無く、相手の首筋を掴む。そのまま首の骨を折り……とまでは行かず、気を失わせる程度で見張りの兵士を床に置いた。

「お、おい! 何をがあっ!!」

 見張りは一人だけというはずも無く、もう一人が突然の出来事に驚くものの、意識をブラッホに向け過ぎである。

 視界の外から近づいた他の男、バーリンがどこで調達したのか、木の棒でもう一人の見張りの頭を叩いた。余程上手い具合にやったのだろう。瞬時に気を失ったらしい。

「はっ、この大人数に見張りが二人だけってのが悪いんだぜ」

 倒れた見張り二人に向かって、聞こえていないというのに文句を吐き捨てるバーリン。ただ、兵士たちを弁護させてもらうのであれば、彼らとて、連れて来られてすぐに、集められた人間が反抗するとは思いも寄らなかったに違い無い。

 現状把握すらできないから反抗もしない。そう思っていたはずだ。が、そうは行かなかったのには理由がある。

「さあみなさん。突然の出来事に驚いている方もいらっしゃいますでしょうが、とりあえずここから逃げましょう。目指すはペリカヌですわ。少なくとも、ここで何事をも待つ姿勢は、私たちの将に合いませんから」

 この女、アニーサ艦長がいたからだ。彼女は自分たちの処遇について語った後、さすがに意気消沈していた。

 が、ブラッホや俺の、まだ何かやれる事をしたいという言葉を聞くや否や、最低限の人間を集め、すぐさま部屋を脱出するための計画を練り始めたのである。

「ペリカヌは空港にまだ停泊していますから、すぐにそちらに向かいますわよ。空港周辺は押し寄せる巨大飛空船への混乱が広がっているでしょうから、内側から船一隻を奪うのは容易いと思われますの」

 にっこりと笑いながら、恐ろしいことを言う。飛空開拓計画の長と言うより、空賊のリーダーと言った風格がそこにはあった。

「行くなら早くの方が良いと思いますよ。空港周辺が混乱してるってのなら、ここらはまだ警備がされてるってことになりますからね」

 俺は真っ先にアニーサ艦長の言葉に反応する。部屋から移動し、ペリカヌへ向かうことに対する意見を言うことで、真っ先にここに留まるという考えを潰すためである。

 多くの船員が日和見的な状態にあっただろうが、艦長以外にペリカヌへ向かうという意思を見せる者が現れる事で、集団としての意思をペリカヌ奪還へ向かわせる。これもまたアニーサ艦長の作戦だった。

「そうですわね。ここに残るという選択肢は、さっそく無くなりましたし」

 ちらりと倒された見張りを見やるアニーサ艦長。全部が全部計画通りというのに、ふてぶてしい物言いもあったものだ。

「さあ、みなさん。走りましょう。足が疲れる前に、空を飛べるところまで行ければ良いのですけれど」

 悪魔の様な笑みとはこういうものか。俺は共犯者だと言うのに、アニーサ艦長の笑みにゾッとしてしまった。




 ペリカヌの船員達が空港に向かって走る。中央庁舎を抜けて街中へ入り、大通りから目立たぬ小道へ、それでも最短距離で空港へと向かっていた。

 その道中でもっとも活躍した人間は誰かと言えば、作業員班のバーリンとサウラ・カーラである。

「驚いたな。あんたがあんなに腕が立つなんて思いも寄らなかった」

「はっ。なんで俺が白兵隊員してたと思ってんだ」

 ほぼ作業員班であるが、兼任して白兵隊員をしていた彼ら。バーリンは手に持った木の棒だけで、庁舎内で進行を妨げる兵隊を、気づかれる隙も与えず無力化して行ったのである。

 その動きは見事としか言い様が無く、戦闘行為を最小限に留めてくれていた。

「はいはーい。話してる暇があったらもっと足動かしてねー。空港まであとちょっとだからさ」

 街を出てからは、サウラが活躍していた。長く暮らしている俺ですら詳しく知らない道を、サウラはするすると抜けて行く。他の船員達は彼女の後ろを付いていくだけで、追っ手を撒く事ができるのだった。

 彼女曰く、この街の地図は頭の中で出来上がっているとのこと。船旅で暫く離れていたはずなのだが、その間に行われた道の工事なども、自由だった数日の間に更新したなどと聞かされると、もう超能力の域だと思わざるを得ない。

「で、ペリカヌを奪い返した後はどうするってんだ?」

 話すより足を動かせと言われたところで、バーリンは話を止めるつもりは無い様子だった。というか、サウラへの当てつけもあるのだろう。こういう状況ですら、仲の悪い二人である。

「とりあえず、アテはあるらしいからそこに向かうんだとさ」

「アテ? こんな状況でそんなもんあるのかよ?」

「どっちかと言えば、そういうものが一つでもあれば、飛びつかなきゃどうしようも無いって状況だと思うけどな」

 走り出してしまえば、ゴールが見えるまでは止まれない。例えゴールがどうしようもない行き止まりだったとしてもだ。

「見えて来たわよ。みんな! 大丈夫? 誰かいなくなってたりしない?」

 先導するサウラが振り返り、一旦止まった。どうやら船員に欠けが無いかどうかを確認しているらしい。

 俺も振り向き、見える限りにおいて数えてみる。とりあえず、抜けた人間はいない様子だった。

(行動が早かったのが良かったな。妨害なんかも殆ど無かったし……本当にペリカヌだって強奪できそうだ)

 一旦立ち止まり、そういう評価をした後に、再び走り出した。ペリカヌまであと少し。空港の門にも見張りの兵は居たものの、俺達についての報告は来ていないらしく、集団でやってきた俺達に驚きこそすれ、明確に妨害する様な行動はして来なかった。

(相当に混乱しているってのは事実なんだろうな)

 街に迫りくる巨大飛空船の対処に、限界まで労力を注いでいると言った様子だった。見張りや警備に関しても人足らずなのだ。そうで無ければ、さっきまで捕らわれていた集団が、飛空船の一つでも奪えたりはしないだろう。

 そう、俺達は空港へ入り、首尾よくペリカヌを見つけて、乗り込む事に成功したのである。さて、ではこのまま上手く空へと飛べるかと言えば、そうも行かなかった。

 ペリカヌの中には見張りの兵がまだいたし、その兵たちの指揮していた人物もいたからだ。

「い、いったいどういうことなのかね!? 君らは今、庁舎での待機を命じられていたはずだろう!?」

 その中心人物は艦首にある艦長席に座っていた。そうして俺達の顔を見て驚いていた。向こうは俺達の顔知っているらしい。勿論、こっちも彼の顔を良く知っていた。

 何故ならそこにいたのは、同じペリカヌ船員として飛空開拓計画に参加していた、サーイル・エンゲン報告官だったからだ。

「あー、確かにあんたは公国寄りの人間だから、こっちに居てもおかしくは無いよな? つっても、誰も使わない船の監視なんて端役やらされてるわけだけどさ」

 俺は艦長席に座ったままのサーイルを見て、そう話しかけた。本来は真っ先にアニーサ艦長が話しかけるべきなのだろうが、彼女はサーイルを見て黙ったままなのである。ちょっと空気が持たなかった。

「端役だと……? そもそも、私は反対だったのだ! あんなものを持ち帰るなどと……。そう言えば、発案者は君だったな!?」

 かなり興奮している様子のサーイルであるが、そういう姿を見せられると、こっちは逆に落ち着いてくるのだから不思議だ。

「あーはいはい。俺の不手際でしたよ。けど、あの時、反対だったのならそう行動してくれなきゃ困りますって。結局巨大飛空船を持って帰ることになったんですし、ちゃんと止めてくれなかった報告官殿の責任でしょう?」

「きぃさぁまぁ! 言うに事欠いて、その様なことまで!!」

 喧嘩をするつもりなんてさらさら無いのであるが、何を話したって、サーイルの機嫌を逆撫でる事にしかならない気がする。

 さてどうしたものかなと困っていたところで、ため息を吐く音が聞こえた。アニーサ艦長のそれである。

「まったく……サーイル報告官には何等かの意趣返しをと思っていたのですけれど、この姿を見せられると、そういう気も無くなってしまいますわね……」

「か、艦長! だからこれは、いったいどういう状況で……」

 普段から対立していたアニーサ艦長とサーイル報告官であったが、今では呆れている側と泣きつく側と言った様子であった。

 何にせよ、激しいぶつかり合いは起こらないと言える状況になっている。

「一発逆転を狙うため、危険度の高い行動をさせて貰っていますの。サーイル報告官も乗ってみる気はありますかしら?」

「そ、それは……」

 迷う様な仕草を見せるサーイル報告官だったが、その実、答えは決まっている様に見えた。一見、艦内での敵役みたいな人だったが、彼も彼で、こちら側に染まっているのだから。




 ペリカヌ内に居た見張りの兵たちも、中心人物であったサーイル報告官がこちら側についたため、なし崩し的にペリカヌ船員と働いてもらうことになった。

 国家への反逆とかそういう理由で船を動かすならばこうも行かなかっただろうが、ペリカヌそのものはそういう方針で動かず、事態から逃げるか解決するかのどちらかを選ぶという意思をアニーサ艦長が示したため、これと言った反抗は起こらなかったのである。

「で、空に逃げのびたのは良いですが、どうするんです? これから。アテはあるとか言ってましたが」

 俺の発した言葉は、ペリカヌ内の会議室に良く響いた。ここでアニーサ艦長を囲み、最後になるかもしれない会議を始めているのだ。

 集まった人員は、船を動かす作業を行う最低限の人間を除いた全員である。自分たちの明日を決めるかもしれない会議だ。誰だって顔を見せたい。

「まず、サーイル報告官から聞かせていただいた直近の情報から、やはり巨大飛空船の群れは、ガーヴィッド公国に向かっていると考えて相違ありませんわ」

「正確に言えば、ガーヴィッド公国にある巨大飛空船へ……ですな。まあ、我々が持ち帰ったものでもありますか」

 と、アニーサ艦長の隣に立つ、副長のミード・ラーグが口にする。あまり触れたくない話題であるが、言わないわけにはいかなかったのだろう。

 やはりというか、この事態の責任は俺達にある。

「ミード副長の発言に対して、みなさんの間では多様な意見もあるでしょう。ですが、ここで考えるべきことは一つ。巨大飛空船そのものは、同じ何かしら繋がりがあるものを求めているらしいということですわ。これまでも、そういう動きを主体にしていたと予想されます」

 さて、その予想から今後の行動がどう決まって行くか。それが問題だ。

「参考として、デリダウ魔法士に意見を伺ったのですが……」

「うむ。先ほどの艦長の意見は確定情報とは言えぬが、ここに至っては信じる他無いと思われるの。少なくとも、わしらはそれを足掛かりに次の行動を始めねばならん」

「だから、その行動は何だって話じゃねーんですかい?」

 元も子も無い様な発言をバーリンがするが、話を早く進めろというのは大多数の意見でもあった。

「ううむ。では手っ取り早く言うが、この巨大飛空船が突如、内世界へ侵攻してくるという状況であるが、これは初めてのことではない。この場にいる何人かは、それを知っているじゃろう?」

 勿論知っている。ラクリム王国。かつて侵攻してきた巨大飛空船に滅ぼされた国の元国民が、この場には複数いるのだから。

「もし、その時の事件がこの度の件と同じであれば、ラクリム王国にも何かがあったのかもしれん。ガーヴィッド公国にある巨大飛空船と比類する何かがの」

「つまり、その何かを求めてラクリム王国へ向かうってのが、俺達の次にするべきことってことですか」

 言ってから、酷く曖昧で頼りの無い話だなと思う。しかし、数少ない情報から、何とか導き出した結論がそれなのだろう。単なる想像レベルでしかない物にしか縋れないのは、それ以外の道が無いからだ。

「ええ、これよりペリカヌはかつてラクリム王国があった場所へと向かいます。そこに、何か希望があると信じて……ですわね」

 悲壮な選択だ。いや、選択ですらない。動くと決めたから、こうしか動けない。そんなやるせない状況。

「ま、待ってください。ラクリム王国と同じって言うのは、もしかして、ガーヴィッド公国も同じ事に……」

 観測士のシィラ・メリベイが青い顔をしながら発言する。彼女はガーヴィッド公国出身者だ。生まれ故郷が滅ぼされるかもしれない。その事実にショックを受けているのだろう。

「今の空域からラクリム王国までは、どれだけ急いでも片道一日は掛かりますわ。その間に、少なくとも巨大飛空船の群れはガーヴィッド公国領内へと侵攻するでしょう」

 どれほどの行動をしたとしても、この国の滅びは回避できないかもしれない。残酷な発言をアニーサ艦長はするが、そうとしか言い様がない事でもあった。

 だが、賭けに近い行動だらけの今のペリカヌにおいて、本当にガーヴィッド公国の滅びを回避できない選択肢だけなのだろうか?

 俺は手を上げて、発言の許可を求める。

「なんですか? アーラン飛空士?」

「一つ……上手く行くかどうかは分かりませんけど、奴らの足止めになるかもしれない行動なら取れますよ。行き掛けの駄賃って感じで、一つ、接近する巨大飛空船の群れに、近寄って見るって気はありませんか?」

 本当に、この発言内容にしたって分の悪い賭けでしかないのだが、それでも、ペリカヌの今後を占うには丁度良い機会になるかもしれないと発言してみた。

 もしこれが上手く行けば、今後も上手く転べるかもしれないという願掛けみたいなものでしか無かったが。

「話を……聞かせていただきませんかしら?」

 そう答えてくれると思った。俺はアニーサ艦長と、この場にいる全員に向かって、巨大飛空船の群れへ近づいた後の行動について説明する事にした。




 気流が荒れている。巨大飛空船の群れというモンスター群に対して、空気が震えているのか。いや、そうではない。

 俺達は巨大飛空船の群れには近づいてはいるが、気流の荒れは単純に、そういう空域を通っているからに過ぎない。

(安定した空域には、ガーヴィッド公国の飛空船がズラりと並んでるだろうからな。総力戦も想定って感じだから、盗んだ飛空船で通り過ぎるのはちょっと不味いか)

 敵は巨大飛空船なのだから、ガーヴィッド公国側と無用な諍いは避けたいというアニーサ艦長の意思だった。

(こっちが巨大飛空船へ近寄る前に、気流でロンブライナを落とすってことはしない様にしないとな。洒落にもならねえし)

 俺は既にペリカヌからロンブライナを発進させ、巨大飛空船の群れが通るはずの空域へと進んでいた。

 両脇にはビーリー・バンズ班長と後輩のレイリー・ウォーラの小型飛空船が配置されている。この二つは俺が乗るロンブライナを守るために存在していた。

 出来うる限り、巨大飛空船が飛ぶ空域まで、ロンブライナを無事なまま連れて行くための護衛なのだ。

「近づくだけで良いんだ。別に巨大飛空船共を真正面から相手にする必要はねえんだしな」

 もしかしたら効果があるかもしれないと言った程度の作戦に、命まで賭けるのは馬鹿らしい話であろう。

 味方を何人も巻き込むというのは正直避けたいため、両脇の彼らが護衛と言っても、何から何まで守ってもらうつもりは無い。

 最低限の注意を払いながら、荒い気流の中を飛び続ける。雲が重なり、さらなる前方が見えない状況であったが、前進には支障も無かった。

「雲が晴れて……見えた! マジかよ……」

 気流が落ち着き、ロンブライナは目当ての空域へと出た。そこに映るものを何と表現すれば良いか、俺は一瞬分からくなる。

 群れというより、波だ。整然と並ぶ巨大な構造物が、ただひたすらに前方へ進み続ける。船速そのものは事前情報通り低速だったが、それがより威圧感を増す結果になっている気がする。

「さすがに、直で見るとこう……躊躇するもんだな」

 ほんの少しだけ、ロンブライナの船速を落としかけた。怖気づく自分の心を奮い立たせながら、なんとかそんな失敗はせずに済んだが、間一髪でしかない。

「さっさと仕事を終わらせてるか。ちょっと近づくだけで仕事は終わり……そう上手く行かないよな!」

 接近する三つの小型飛空船。その存在に気が付いたのだろう巨大飛空船が、対空用の防衛機構を動かし始めたらしい。

 空間に線を引く様に、こちら側の鉄片射出に似た攻撃を仕掛けてきた。もっとも、その勢いはロンブライナのそれの何倍、いや、何十倍と言ったほどであり、それが巨大飛空船一つだけでも大量に放っているのだ。

 迂闊に近づけないなんてものじゃあない。線で壁を描かれるようなものだ。突っ込めば、それはただ壁へ全力にぶつかるだけの行動となるだろう。

「やるならもう少し近づきたいんだが、どうする?」

 尻尾を巻いて逃げ出すという手も無いわけではない。どうせ通じるかどうかも分からない作戦なのだから。

 が、少し前、誰から聞いたかもしれない言葉を思い出す。

「何でも、試すことで価値が生まれる……だったか? 試さなきゃ何の意味も持たないか」

 少しニュアンスが違う言葉だった気がするが、今、この場においては無謀な行動の後押しをする言葉になっていた。

 俺はロンブライナの操縦桿を強く握り、巨大飛空船群へと接近していく。壁の如き防空網だったが、それでも実際は壁ではない。微かな隙間と攻撃頻度の途切れ。それらを狙い、アクロバティックな動きをロンブライナへ要求していく。

 扱い難い船であったが、ここに至っては最高のパフォーマンスを見せてくれた。もともと、バランスが崩れてからの動きが良いのだ、このロンブライナは。

 他の小型飛空船より凝った造りになった結果、当初からバランスの悪い船になると思われていた分、その対策もされていたのだろう。

 何にせよ、ロンブライナの動きは十分だった。

「あとは俺の腕だけの問題か!」

 火線を潜り、飛び交う鉄片を避け通し、ほんの少しずつであるが巨大飛空船の群れへと近づいて行く。

 レイリーとビーリー班長はどうなっているだろう。頭の中にそんな考えが過ぎるも、あまり深くは考えられない。頭の機能の大半をロンブライナの操縦へ傾けることによってのみ、今の機動を維持できるからだ。

「あと少し……もう少しいける……はずだ」

 チリチリと焦げる様な感覚がある。実際に匂いまで感じそうになるが、すぐにそれは錯覚だと分かった。

 どうやら俺の頭の方が限界ギリギリに至っているらしかった。

 ここらが潮時だ。そう考えた俺は、すぐに今回の作戦を実行することにする。懐から黒い球を取り出し、鉄片の射出機構にそれを放り込んだのである。

 事前に要求していた改造が、この瞬間になって役に立つ。黒い球は破壊的な事象を齎すと言う物であるが、それが何時でも発射できる状態になったのだ。

 俺は鉄片射出装置の引き金を引くために、トリガーに指を掛けた。

「できれば、価値あるものであってくれよ!」

 祈る様に、それだけを言葉にして、俺は黒い球を発射させた。飛び出した黒い球は他の鉄片と同じ速度で射出されたが、質量が他の鉄片よりあるため、射出された球は他の鉄片より早く減速し、後から射出した鉄片に追いつかれるだろう。

 その瞬間こそ、黒い球の真価が問われる。鉄片により破壊された黒い球が、どの様な効果を齎すか、俺には予想もできなかったが、その瞬間、現れた景色は目に焼き付いて離れないだろう。

 黒い球を放った巨大飛空船の群れが進むその方角の向こうで、ひたすらに巨大な黒い爆発が発生したのである。



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