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フライトコロナイズ  作者: きーち
第7章
42/49

4話 黒き大船

 拓けた空間がそこにある。人があるくための床があるため、そこが巨大飛空船の入り口から入っての到着地である事は分かるが、かなり広く、見て茫然とするしか無かった。

 と、茫然とするだけではどうにもならぬと、俺はとりあえず適当な場所でロンブライナを着陸させる。床の上へ降り立ってみると、踏みしめた床の感触は不思議なものだった。

(ガラスっぽいけど、ひび割れそうに脆くはないな? むしろ頑丈そうだ。それに滑りもしない)

 さて、巨大飛空船の中に入れた形になるのであるが、ここからどうすべきかと思案する。空間全体を見渡していると、どうにも空間からどこかへと向かう通り道らしきものがある様だが、そこを進むべきか。

(どうする? そりゃあここまで来たんだから、進まないって手は無いんだが……)

 ロンブライナを見上げる。こいつを置いていくというのは、つまり、俺が身一つで敵の真っただ中を進むということだ。

 その程度の覚悟はしているつもりだが、それでもやや心細さを感じてしまう部分はある。それもそれで仕方ないかと、ロンブライナから離れようとした時、空間に新たな変化が起こった。

 俺が入って来た穴から、また別の小型飛空船がこの空間へとやってきたのだ。

「あれは……レイリーか?」

 レイリーの小型飛空船はどうやら俺を追ってここまで来たらしく、ロンブライナのすぐ隣へ船体を着陸させた。

 出入口が開き、中からレイリーが出てくるや否や、俺に向かって叫び始める。

「アーランさん!……いきなり敵に船の中に突入するなんて、何考えてるんですか!? 馬鹿なんですか?」

「酷っでえ言ようだなぁ。別に勝算が無かったわけじゃねえって。何かあるだろと踏んでここまで来たんだ。結果は見ての通りってわけさ。だいたい、追って来たお前も似た様なもんだろ」

 何もない空間を示しながら反論しておく。そうだ、ここには何もない。罠も敵もまったくない空間だ。とりあえずの危険は無い場所ということ。

 潜り込んだ意味の有無は兎も角、とりあえず侵入してみるという行動は成功した形になると思われる。どうにもこの巨大飛空船、こちらへの敵意以外の何かがあるのだろう。

「……言う割に、直感のままに行動した様に見えましたけどね」

 せっかく反論したというのに、ジト目でこちらを見つめてくるレイリー。いや、確かに直感的行動でここまで来たことは否定しないが……。

「まあ良いじゃねえか。こんなデカブツ相手に、正面切って戦うなんてのは馬鹿らしい。絡め手がありそうってんなら、飛びつかない理由は無いさ。お前も行くだろ? あっち」

 この空間から別の場所へ向かうらしき通路を指さしながら、レイリーに尋ねる。少し進むことに躊躇していた心情はどこへやら、レイリーと一緒ならまあ良いかと言う気分になってきたのだ。

「……ああもう! 実は呼び止めに来たんですけど、確かに、こんな大きな船を相手にするなら、内側からの方がよっぽど良いです。わかりましたよ。行きましょう」

 頭を掻いて、俺に同行する道を選んでくれたらしいレイリー。さあ、次の場所へ向かうことにしよう。




 巨大飛空船内はその外観に相違なく、空間も広かった。というのもひたすらに通路が続いており、歩いて10分は経つが、どこかへはまだ辿り着かない状況なのである。

 だと言うのに廊下の景色は退屈極まりないもので、先ほどの空間を構成していたガラスに近い質感の素材だけで、床や壁、天井に至るまでを形作っている。

 繋ぎ目が見えないところを見るに、なにか特殊な技法で作られているであろうことは分かるが、それ以外はさっぱりだった。

「この船に乗っている人たちって、多分、僕とは気が合いませんよ」

「なんでそう思う?」

 レイリーの言葉には同意だが、彼がどういう感想をこの廊下に持ったのか聞きたかった。

「こういう場所で過ごしてると、気がおかしくなりそうなくらいに淡泊な景色じゃないですか。こういう場所を良しとする人間とは、仲良くできる気がまったくしません」

 その感想についても同感だった。清潔さを感じる景色ではあるが、まったく外観に遊びが無く、廊下という機能だけがそこにあるという印象を受けるこの通路。

 先ほどの空間にしてもそうだった。ただそこに開いた空間がある。そういう印象しか受け付けない。清潔というよりは潔癖、潔癖というよりは血が通わない。巨大飛空船の内部はそんな場所であったのだ。

「一つ、こういう景色を見ていて嫌な想像をした。お前はどうだ? レイリー?」

「嫌な……ですか。まあ、そうですよね。僕も嫌な想像はしました。まだ中に入ったばかりだって言うのに……」

 どうやらこの想像、予感だけのものでは無いらしい。近づくだけで攻撃を仕掛けてくる巨大飛空船。規則的な威嚇攻撃。そうして血の通わない内部空間。これらの事実から、思い浮かぶ事柄というのは、だいたい似通ったものとなるのだろう。

「……どうにも、正解っぽいな。こりゃあ」

 廊下を歩き続けた先、漸く辿り着いたその場所は、入って来た時と同じ開けた空間だった。何も無い、空間だけがある場所。

 そうしてここまで来て、ある結論を出すことも出来た。内部へ侵入者が来たというのに、誰も出てくる様子が無く、反撃も無い。

 つまりこの巨大飛空船は、無人なのではないかという発想。それを俺とレイリーは思い浮かべていたのである。

「これじゃあ埒が明きませんよ。この船、どれだけ広いと思います? 少なくともペリカヌの数倍って大きさです。このまま誰もいない空間や廊下を歩き続けるしかないのはどうにも……」

「ああ、中に誰かいれば話は別だったんだが、そうでも無いとなると、中にいる意味も……」

 黒い球を使う使わない問題ですら無くなった。こんな場所で使ったところで、無用な混乱を生むだけで、何の意味も無い。

「そうだ、無人だとして、この船が勝手に動いてる可能性が高いってことだよな?」

「ええ、そうなります。どっかの魔法士が、自動で動く道具……オートマトン? マター? なんかそういうのを作ってるって話を聞きましたけど、この飛空船も大規模なそういう装置なんじゃないですかね?」

 ならばやはり、相当な技術力を持っているということになるのだろう。誰もいない飛空船。そんなものを自動で動かせる技術は俺達には無いのだし

「というか、誰もいないってことは、誰のものでもないわけだろ? 手に入れられないもんかな? これ」

 床を足で強く叩きながら、レイリーに尋ねる。レイリーの方はと言うと、ちょっと驚いた様な表情を浮かべている。

「結構、びっくりすることを思いつきますね、アーランさん」

「悪いか? 勝手に攻撃仕掛けてくる飛空船なんて、放置してるのが一番危ないだろうよ。威嚇だけで済んでるうちに、俺達の手で掻っ攫うのが一番安全で利益もあると思うんだけどな」

 自分で言っておいてから、そうするべきだと言う思いを強くする。この巨大飛空船。なんとしても手に入れたい。

「既に誰かの所有物かもしれませんよ? っていうか、作った人がいるんでしょうから、絶対そうです。勝手に盗って、泥棒って言われたりとかしませんかね?」

「泥棒とか言いに来るってことは、そこでこの船を作るような奴らと出会えることになるな。それはそれで良いんじゃないか?」

 それに、出会えればその時点で復讐相手の事を知ることもできるだろう。何にせよ、こっちにとっては良いことの方が多いと思う。

 レイリーもその発想は無かったと言った様子だ。そうして暫し考える様に俯いた後、その顔を上げた。

「そうですね……手に入れましょう。こんな大規模な構造物。手に入れられた、それだけでも大した成果です」

 これまで、大きな成果を残せなかった開拓計画に、文字通り大きな成果物を残せる。そのことにレイリーも心惹かれたのだろう。

「でも、手に入れるにして、具体的にはどうするんです?」

「自動ったって、こうやって人が入れる空間があるんだ。中からも動かせるかどうにかできる部屋とかあるんじゃないか? とりあえず俺はそれを探すから、そっちは一旦、ペリカヌに戻って、こっちの事について報告してくれないか?」

 自信の無い発言ではあるのだが、それでも、これ以外の案は思い浮かばなかった。

「分かりました。とりあえず、余裕がありそうなら、他の人員も連れてくるってことで?」

「ああ。今頃、ひたすら威嚇攻撃を避けてるペリカヌに、余裕があればだけどな」

 と、お互いの指針を決めると、別々の方向へ歩き出した。時間が無いわけでは無いだろうが、やや後ろめたいことをしているという意識があったため、仕事に集中することにしたのである。




 暫く巨大飛空船内を探っているうちに、何がしかの機能が集まっているらしき場所へとやってくる。

 ここがこの巨大飛空船の操縦場所。であれば良いのであるが、如何せん、どういう機能のものかはさっぱり分からない。

「見た目的には、例の塔の内装と似てるな……やっぱり、製作者が同じなのか?」

 光るガラス板と幾つかのスイッチ。迂闊に触るとどうなるか分からないから触れないが、なんとなくの印象は、以前訪れた街に立つ塔の雰囲気に似ていた。

「他の応援が来るのを待つか、別の場所を探してみるか………どっちかだよな。どっちかなんだよ……」

 そうだ。それが正しい。正しいのであるが、どうにも幾つかあるスイッチの中で、惹かれるものがあった。

「これだけ、何でか知らないけど光ってるんだよなぁ。まるで押してくれとばかりに……押しても……良いかな?」

 勿論、誰かがいれば止めろと忠告していたことだろう。だがしかし、残念ながらここには俺しかいない。誘惑を遮る何かは存在しないのだ。となればどうなるか。簡単である。スイッチをそのまま押す。

「あ、やっちまった……って? おいおいおい」

 こういう場合、やはりと言うべきか、危機感を覚える何がしかが起こってしまう。そうして今起きていることとは、周囲から音が聞こえ始めるという現象だった。

 低い耳鳴りの様な音。地響きにも聞こえるその音は、周囲を実際に微振動させながら大きくなっていった。

 音の原因……どうやら俺が今いる空間が動いているらしいのだが、それはつまり、俺がこの巨大飛空船のどこかへと連れて行かれているということになるのだろうか。

「これは誰かの意思……ってわけでも無さそうだな。俺がスイッチを押した結果なわけで、誰かの意思はここに無い」

 純然たる俺自身の行動により結果が起こっている。当たり前の話であるが、ここ最近は、何者かの意思に左右され過ぎていたため、どうにも自分で言葉にしなければ納得できなかった。

 暫し、リハビリの様に自分の思考を落ち着かせていると、音と振動が止まる。どうやら空間、小部屋と言った方が良いだろうか、そんな小部屋の移動が止まったらしい。どうなっているかと確認するため、入って来た時の扉を開けてみると、果たしてそこは、さきほどまであった空間とは違っていた。

「ここは……間違いない。ここがこの船の操縦場所だ……」

 どのような偶然か幸運か、兎に角、俺はどうやら目当ての場所へ辿り着けたらしい。何故それが分かるのかと聞かれれば、ここはペリカヌの上部艦首とそっくりな作りをしているのだ。

 中心に艦長席らしきものがあり、その周囲を扇方に他の席が並ぶ。そうして何より、窓がそこに存在していた。

 どういう理屈か、窓には幾つかの光点や線が、留まることなくあちこちで光ったり移動したりしているのであるが、それでもそれは窓だった。なにせ窓には外の景色が映っていたから。

「お、威嚇攻撃は終わってるみたいだな。良かった。いくら直撃しないって言っても、何時までも攻撃されてちゃあ気の毒だ。地上をクレーターだらけにするのも考え物だし―――っ!!」

 ペリカヌの艦首に似たこの場所へさらに踏み込もうとしたその時、俺は咄嗟に身構えた。空間の中心にある艦長席らしき椅子。そこに誰かが座っていたのである。

 俺は艦首全体の後方から入った形になるため、前方を向く艦長席は俺から背を向ける形になるだろう。

 そうして見える艦長席の背もたれの向こうから、誰かの髪らしきものが見えたのだ。

「おい。あんた、もしかして、この船の艦長……なのか?」

 言葉が通じるかどうかも分からないが、尋ねてみた。

「……」

 が、答えは帰って来ない。無視されているのか、まだこちらに気が付いていないくらいに抜けているのか。

 このまま待っていても仕方ないと思い、俺は思い切って接近してみることにした。

「なあ、こっちの言葉が聞こえて―――

 何度目になるだろうか、この巨大飛空船内にて、またもや驚かされる。艦長席に座っていた人物。それは、干乾びたミイラだったのだ。




「つまり、この船の中にはこのミイラ以外は誰も発見できなかったのであるな?」

 俺が巨大飛空船の艦首にてミイラを発見してから暫く、レイリーが応援を無事連れて来てくれたらしく、その筆頭であるブラッホ・ライラホ班長が俺に質問を繰り返していた。

 場所は変わらず巨大飛空船の艦首部分。幾らかの探索の後、漸く俺達は巨大飛空船の内部構造を把握し始めたと言った段階だった。

「ああ、多分、唯一の管理者か何かだったんじゃないですかね? それがこんな姿になっちまったんで、この船は自動で辺りを彷徨うことになったって、そんなところだと思うんですが……」

 あくまで想像でしかない事を伝える。どうやらこの船を丸ごといただくという俺の案は採用されるらしく、ひたすらに質問が繰り返される。

 ただ、答えられる質問は少ない。俺だって知らないことばかりであり、今、巨大飛空船を探索している連中と、知識量はそう変わらなくなっているだろう。

「ふむぅ……おっちょこちょいと言うか、何がしかの危険があるのか……何にせよ、さらに調べてみる必要があるよなぁ。安全が確認でき次第、さらにペリカヌから応援を呼ぶか」

 結局、ブラッホでも手に余る案件ということだけが分かる。一応、ペリカヌにはさらなる旅を想定して、余剰物資がそれなりにあるため、その分をこの船の調査のために費やせるだろう。

 もし物資が尽きて本国へ帰還しなければならないにしても、今回の旅の成果となるものくらいは手に入れることが出来るはずだ。

(目的の相手には出会えなかったが、成果は成果。アニーサ艦長の首も皮一枚で繋がるって感じかもな。けど、こいつの使い時はさらに先になるのか)

 まだ内ポケットに仕舞ったままになっている黒い球に触れる。危なっかしいものであるから、さっさと使ってしまいたい欲求に駆られるものの、まだまだその時では無かった。

(あの怪しい神様にしても、ここで俺の目的の相手がいるとか何とか言ってた癖に、いるのはミイラ一体だけじゃねえか。やっぱり信用できない相手だったか)

 艦長席に座らせたままのミイラを横目で見る。どこからどう見てもミイラで、つまりは人の死体だ。

 どれだけの復讐心を持とうとも、死んでしまっている相手までどうこうしようとは思わない。というか、このミイラ自体が復讐相手かどうかも分からないし。

「あー、応援をさらに呼ぶっていうのなら、先に仕事をしときませんか?」

「ふむ? 仕事であるかね?」

 首を傾げるブラッホ。この何もかもが分からない状態の船の中で、応援を呼ぶ以外にやるべきことなどあるのかと疑問を覚えているのだろう。

 だが、酷く単純な仕事が目の前に残っているじゃあないか。

「このミイラ、どっか目に付き難い場所に移動しておきましょうよ。これから、主にこの場所を調査することになるんです。その中心にミイラがずっと居るってのは、どうにも居心地が悪い」

「まあ……そうであるか!」

 死体は死体。喜んで視界に収めたいとは思えない存在であるのは確かだった。




 時間はあったとしても数日程度。その期間で出来ることはたかが知れている。巨大飛空船の全容を知ることなんてはっきり言えば出来っこ無いことであり、その一部をなんとか把握するのがせいぜいだろう。

 故に重要なのが、巨大飛空船の何をまず把握すべきかと言うことであった。

「んで、さすがはうちの艦長ってところなわけだ」

「そりゃあね、船を短期間で調べ切れないって言うなら、長期間調べられる場所へ船を持って行くことを最優先っていうのは道理だよ」

 ペリカヌの下部艦首。上部艦首を除けばもっとも内部から外を見ることが出来る場所で、俺と弟のエイディスは、この場所に相応しく、外を見ていた。

「とりあえず、あの船の機能を落とす方法は先に見つかったんだよ。いや、どの装置がどういう仕掛けて接続されてるとかはまだまだ分かんないんだけど、とりあえず、いきない他に攻撃を仕掛けるとかそういうことは無くなった」

 巨大飛空船の調査において、もっとも役に立ったのは、エイディスを含む整備班所属の人間たちだった。

 言語などはそれぞれの地域によって様々だが、技術というものに関しては、地域が離れていようと、ある種、共通の部分があるらしい。

 巨大飛空船は俺達が知る技術の何段階も高いものが使われているが、それでも飛空船は飛空船、分かり得る部分は多少なりともあったそうだ。

「で、機能を落とした上で、空に浮かび続ける機能だけは維持する様にしたんだけど、こっちの方が調べるのに時間は掛かったね。そういう機能があることだけは確かだから、探すだけだったんだけども」

 この巨大飛空船。恐らくは無人になってからかなりの歳月が経っており、その期間もずっと空を飛び続けていたことから、滞空能力が高いことが分かる。

 今現在、すべての機能を停止させる部分と一定の高度を保つ機能の二つのみが判明している段階なのだが、この二つの機能によって、できることがあるのだ。

「そっちの苦労にゃあ頭が上がらねえよ。けど、まさかペリカヌであのデカブツを牽引するなんて、思いつきもしなかった」

 そう。今、ペリカヌはその何倍も大きさのある巨大飛空船を頑丈なワイヤーロープで牽引しているのである。

 ペリカヌの下部艦首からはその姿が良く見え、ペリカヌよりやや低い高度で、巨大飛空船がペリカヌに引っ張られているのが見えた。

「僕もまさか出来るとは思わなかったけど、良く考えてみれば出来ることは出来るんだ。ペリカヌは全金属甲板性の船だから、そのフライト鉱石による浮遊力が推進力は、かなり強力だ。そうして、対象が空に浮かんでいるなら、多少の抵抗は無視できる。それでも空気抵抗はかなりのものなんだけどさ」

 ペリカヌはその速力をかなり落としているが、それでも巨大飛空船を引っ張り、本国、ガーヴィッド公国へ帰還の道を進んでいた。

 そもそも巨大飛空船の様な巨大なものを引っ張っているのだから、それなりに速力が落ちたとしても、その分を注意に割くことが出来るのだから、デメリットとも言えない。

 心配なのは補給物資関係だが、途中、補給のための街もあることであるし、帰りの道となれば、艦内の士気はある程度保てるだろう。

「何にせよ、巨大飛空船を持って帰れるってのは僥倖だ。こいつを調べれば、それはそのままラクリム国の事件にも繋がる……はずだ」

「断言はできないけどねぇ。あんな大きな船を作れる人たちなんてそうは居ないだろうから、無関係ってことは無いと思うけど……」

「なら、なんでそんな不安そうな顔を浮かべてるんだ? お前は」

 下部艦首から見える巨大飛空船を見て、弟のエイディスはずっと不安げな表情をしていた。そもそも、何故か彼が持ち場を離れて、こんなところでぼうっとしているから、俺が呼びに来たのである。

「兄さんはさ、あれを手に入れる事が良いことだって思うんだよね?」

「ああ。そりゃあそうだろう。何も手に入らないよりはよっぽど良い」

「そう。うん。それが理屈なんだ。けどさ、やっぱりあの船は僕らの国を滅ぼしたそれに似ているんだ。だから……」

 それ以上は、言われなくても分かった。あの巨大な影の如きに黒い船を、幸運なものとは思えない。エイディスはそう俺に伝えたかったのだろう。


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