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フライトコロナイズ  作者: きーち
第7章
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3話 黒き球

「それで、結局助力ってのは何なんだ? 聞く限り、あんたの力はあくまでこのデカい穴の中だけなんだろう?」

「それはその通り。彼らがここへわざわざやってきてくれるのなら、私が直々に手を下せるのだが、絶対にそれは無いだろう。彼らもそれを学んでいるだろうから」

 ならば、ここでの会話は意味が無くなってしまう。目の前のブラックと名乗る人形は、俺達に力を貸すと言うが、その力が届かないのだから。

「じゃあ、この話はここで終わりだな。さっさとここを去らせてもらう。あんたの話にまったく興味が無いわけじゃあないが、判断はうちの艦長に……くそっ。そういうこともできるのか」

 椅子から立ち上がり、まずは部屋から立ち去ろうとするも、何故が次の瞬間には椅子に座ったままとなっていた。

 なるほど、神と名乗るからには、こちらの行動も自由自在というわけらしい。

「せっかちは良く無い。私は、君に話すのが適していると考えたから君を誘ったのであり、今は他を呼ばれても困る。それに……私自身の力は及ばないが、私が誰かに託すものであれば届く」

 そういうと、ブラックは黒い指先を鳴らす。その結果かは知らないが、目の前の机に、拳大の黒い球体が現れた。

「これは?」

「気を付けたまえよ。それなりに耐久性はあるが、それを破壊すれば、崩壊した球体を中心に、爆発的な破壊を周囲へまき散らす。君が知る巨大飛空船と呼ばれる彼らの移動手段だったか? それも容易く飲み込むくらいの破壊だな」

「……っ!」

 球体へ伸ばしかけた手を咄嗟に引っ込める。なんてものを差し出してくるんだこの人形は。

「それを何か……そうだな。君が動かす飛空船に取り付けたまえ。そうして彼らに撃ち放て! そうすることで、彼らは漸く消滅することができる。彼ら自身の、つまらぬ夢から解放されてな!」

 話の途中でブラックは興奮してきたらしい。これまでの飄々とした態度とは一転して、語気を荒らげている。

「なんなんだ? なんでそこまで離れて行った相手に執着する? 破壊の神として生み出されたから彼らを破壊するってのは、そんなにもあんたの根幹に関わることなのか?」

 神と名乗る存在の割には、どうにもくだらないことに凝っている様に見える。

「私は神だ。さっきも言ったが、神は人の願いを叶えるものなのだよ。私は破壊を願われた。他ならぬ彼ら自身に……だからこそ、その願いはなんとしても叶えなければならない」

「だから……なんでそんなに強く……おい、これは……」

 視界が歪んでくる。体も重い。徐々に何か、世界が変化していく様な……この感覚を知っている。これは……夢から目覚める時の感覚だ。

「彼らを追うなら、彼らについてもっと知ることになるだろう。彼らを知った上で、その球の使い時を決めたまえ。君には選択肢があるぞ? これは神の慈悲だ」

視界が……視界がどんどん黒く染まっていく。この屋敷の黒よりももっと深い闇の中へ。「私が話す相手に君を選んだのはな、彼らへの復讐を誓う者の中で、君がもっとも荒々しいからだ。混沌としているとも言える。その球体を託した君が、何を選択するか。それが私にも分からない。だからこそ、楽しみなのだよ。選択肢は君にだけ託そうともさ」

 黒一色の視界の中で、ブラックの声がただ響いていた。




「……!」

 起き上がった。夢の終わりは何時も寝床の中である。ペリカヌに用意された俺用の小さなベッドから上半身を起こし、自分の頭を触る。

「夢……なわけないよな……」

 ベッドの脇に、黒い球が一つ。先ほどブラックから渡された、破壊をもたらすという球だ。

「ここはペリカヌだ……なんでここに移動させられた? とりあえず……現状確認が先だな」

 服の内ポケットへ無理矢理に黒い球を詰め込むと、ベッドがある部屋を出る。とりあえず、現状のペリカヌがどうなっているかの確認だ。

 廊下を歩くうちに、都合よくエイディスを見つける。俺は何か思う様子も無く廊下を歩く弟の肩を掴んだ。

「おい、エイディス! 調査はどうなった!? 俺は何時の時点でここに戻った!?」

「え? 兄さん……な、何んだよ急に!?」

「だから、穴の調査に俺は行っただろ? 急にそこからペリカヌに戻ってるってのはおかしいと思わないのか?」

 こちらは問い掛けるが、エイディスの表情による返答は困惑のそれだった。

「穴って何のこと? 僕らは……ほら、例のアレに向かってる最中じゃないか……」

 例のアレとは、つまり、俺達にとっての復讐相手かもしれない存在だろう。しかし……。

「道中に、巨大な穴が空いてるって話は……」

「何それ? 魔法士の先生から、また変な話でも仕入れたの?」

 穴の存在がぽっかりと弟から抜け落ちていた。いや、エイディスだけで無く、もしかしたら世界そのものからか……。

(あとでロンブライナを見に行ってみるか? あれもペリカヌに戻ってきているのなら……この世界からあの黒い人形がいた穴が無くなっているってことだ)

 つまりはロンブライナで大穴を調査した事実も無くなる。ペリカヌは順調に航空を続けており、目的地まで止まることなく進む。

(俺だけに選択肢を託すだって? こいつの使い時は、本当に、俺だけの意思で決めろってことかよ……)

 服の上から黒い球に触れる。どこか生温いそれであったが、ゾッとする様な寒気が俺の体を包んでいた。




 焦りが募る日々が続く。あの大穴に近づく前までの焦りは、もし辿り着いた先に目的のものが無ければどうしようと言うものだったが、今は目的のもの、復讐相手となる巨大飛空船と遭遇した時、どうすれば良いのか。という焦りになっていた。

(とりあえず、何時でもロンブライナからこいつを撃てる様にしておくべきなのか?)

 ペリカヌの小型飛空船格納庫にて、俺は自分の愛機であるロンブライナを見つめていた。ただし意識と手は自分の服の内ポケットに。もっと正確に言うなら、ポケットの内側にある黒い球にだ。

 破壊の神と名乗る人形に託されたこの球であるが、ロンブライナから射出して使えとのことであった。

「頼まれた通りにしてみたが、本当に良いのかい? アーランくん」

 整備班の班長であるマギーナ・フォルランスがロンブライナの操縦席から出来た。俺が頼み込む形で、ロンブライナの操縦席の内側から、鉄片の射出装置に物を放り込める改造をして貰っていたのだ。

「ああ。それで大丈夫です。ありがとうございます、マギーナ班長」

「操縦席の空いたスペースに鉄片を置けば、弾数は確かに増えるだろう。だが、耐久性は多少なりとも落ちることになるぞ。整備側としてはあまりお勧めしないが……」

 マギーナは人の良さそうな顔をしているが、整備士としての目線は厳しい。はっきり言ってしまえば、この改良は操縦士としての視点でも良いものとは思えなかった。

 ただ、やはりこういう機能が無ければ黒い球を使う気にはなれない。

(他の鉄片と同じように積み込んでいたら、何時射出されるか分かったもんじゃあないしな。これでとりあえずは、俺の意思でこいつを撃てる様になったわけだが……)

 まだ、どのタイミングで使うかは分からない。そもそも、使う必要があるのかどうかも。

「いや、それはそれとして、頼んですぐ改造をしてくれてありがとうございました。自分でもいきなりやってくれと頼んでしてくれるとは思ってませんでしたから」

「操縦者側がそう望むのなら、出来る限りその通りにするのが我々の仕事さ。小型飛空船は理屈により作り、理屈により整備するが、その飛行は理屈じゃあない。風や高度による影響。ドッグファイトになればもっと混沌としたものになるだろう? そうなれば、最後の頼りは君らの腕や直感だ」

 それはその通りだった。一旦空を飛べば、訓練通りの動きとは行かなくなる事が多々あり、結果、自分の経験と知識を最大限に働かせて船を動かすしかない。全力で事に当たると言えば聞こえは良いが、結局は、混沌とした状況に対して必死にジタバタとしているに過ぎないのである。

(この黒い球の使い時も、そういう状況でってことになるのかもな)

 今はまだ深く考えるのは止そうと思い、一旦は黒い球の存在は忘れることにする。まあ壊してしまえば事なので、壊さない程度に意識しないということになるのだが……。

「何はともあれ、改造が間に合って良かったです。日程的には、そろそろ目的の場所周辺に辿り着きますからね」

 大穴が無かったことになったせいか、ペリカヌの行程はかなり進んでいた。これもまた、あの黒い人形からの援助なのだろうか?

「対象は動いている……類推されるところによれば飛空船の様な存在……だったかね。出会うと、新たな交流と技術を得られる可能性があるとの話だったが……」

 疑念を抱く様な話し方をマギーナ班長はする。彼もまた、アニーサ艦長の動きか開拓計画の先行きに不安を覚え始めた一人なのだろう。

(ああ、俺達は復讐を望んでるってのに、彼らはむしろ友好的な出会いがあれば良いと思ってる。こんなペテンがあるんだろうか……)

 黒い球の使い時……もし復讐するべき相手と出会った時、俺は本当にこれを使うことが出来るのか。そんな疑念を、俺は抱き始めていた。

 しかしその疑念を深めるより前に、ペリカヌが大きく揺れた。

「な、何事だ!?」

 マギーナ班長が周囲を見渡す。整備班の面々が集まっているが、外を見ていない者には、何が起こったかは分からないだろう。

 俺にしたってそうだから、兎に角情報集めに奔走する。と言っても、できるのは格納庫の窓から外を見るだけだが……。

「おい! みんな、ヤバいぞ! 船がかなり旋回してる! 何かに掴まれ!」

 窓に映る光景は、傾いた大地だった。勿論、大地が傾くわけがないので、傾いているのは俺達側。つまりペリカヌが大きく軸をズラし、旋回しようとしている光景だったのだ。

 しかも船の傾きは、さらに角度を増している。このままでは、直に立ってすらいられなくなるだろう。

(俺も何かに掴まって………いや、待てよ?)

 小さな窓からでは全容が分からない。そうしてこのまま傾きが酷くなれば、窓から外を覗くことすら困難になるだろう。だが、ロンブライナを飛ばせば、もっと的確に状況を把握できるのではないか?

 そんな考えが頭を過った時、それが可能になった。格納庫からペリカヌ外へ出るための出入口が開いたのだ。

 俺の考えを誰かが察してくれたから。と言うわけでは無いらしい。出入口を開けろという声が格納庫に響いたのである。その声の主は、小型飛空船操縦班の班長、ビーリー・バンズ。つまり俺の直属の上司であり、彼は走り込む様に格納庫内へやってくると、自分の愛機である小型飛空船に搭乗しようとしていた。

 ビーリー班長の後ろには、後輩のレイリーも追ってきていた。彼もまた自分の小型飛空船に乗り込もうとしていた。その途中で俺の存在に気が付いたらしく、声を掛けて来る。

「アーランさん! 何やってるんです! 早くロンブライナに乗ってくださいよ!」

「おいおい。一体何なんだ!?」

 戸惑いを口にするものの、行動そのものは、レイリーの言葉通りにロンブライナへと乗り込んでいた。

「敵襲です! ああもう! 近づくだけで攻撃を仕掛けてくるって、とんだ凶暴さだ!」

 そう言って、先にレイリーがペリカヌから発艦していった。続いて俺であるが、ペリカヌの傾きがさらに酷くなっており、出入口から出るだけでも一苦労した。

 それでもなんとかペリカヌから発艦したロンブライナから見たもの。それは……。

「これは……あいつかぁ!!」

 見えた。ついに見えたのだ。忘れてはいなかった。記憶の中にあるそれとまったくの相違無く、空に浮かぶ城の様なそれは、もう一度、俺の住む場所を奪おうとしていた。

「はっ……ははっ……復讐心が鈍ったかと思ったが、そうでも無いみたいだなぁ!」

 ロンブライナの操縦席の中、ただ激しく叫びながら、ペリカヌの左斜め上方に位置取るそれ、巨大飛空船に向かってロンブライナを飛ばす。

 あの巨大飛空船こそ、俺から故郷と家族を奪った船だった。そうして今は、ペリカヌを攻撃している。ペリカヌの急な旋回は、巨大飛空船からの攻撃を避けるためだったのである。

 巨大飛空船からの攻撃は、何らかの質量攻撃らしく、射出された何かがペリカヌへ向けて飛び、ペリカヌから逸れて大地へと着弾する。

 その破壊的な結果は一目見れば分かる。地上が幾つも抉れていたからだ。勿論、ペリカヌを逸れた巨大飛空船の攻撃がもたらしたものである。

(あれでラクリムを滅ぼしたのか! あんなものを何発も!!)

 怒りが心の奥底から幾らでも溢れて来た。その怒りの感情そのままに、ロンブライナを加速させていく。

 直線的な加速はロンブライナがもっとも速い。同じく巨大飛空船へ近づこうとしているビーリー班長とレイリーの小型飛空船を抜き去り、誰より早く、ロンブライナはその攻撃範囲へ巨大飛空船を近づけさせたのである。

 が、それだけだった。

「近づいたらなおデカいな……! クソッ!」

 ロンブライナから鉄片を幾らか射出するが、その巨大な外壁に阻まれる。空に浮かぶ城は、それそのままに城であり、空の歩兵に過ぎない小型飛空船の攻撃にびくともしない。

 以前にデカい空飛ぶクジラみたいなものと空戦をしたこともあるが、それと似た様な状況だった。

 前回は戦う相手がそれほど知恵を持たない存在だったからやり様があったものの、今回はどうだ?

 恐らくは知恵も戦術もある敵だと思われる。挑発して攻撃をペリカヌから逸らすという方法は難しいだろう。ならば、直接、相手を倒すしかない?

(これを使えば……やれるか?)

 しっかり服の内側にしまっている黒い球を握りしめた。これを射出すれば、あの人形が言っていた通り、破壊的な現象を引き起こし、この巨大飛空船を沈められるかもしれない。

 問題があるとしたら、どれほどの現象が起こるかまったく分からないことか。

(もし想定より破壊がデカかったらヤバい……俺だけなら兎も角、他を巻き込む可能性も……ってか、そもそも、本当にそれだけの威力があるのかも疑問だ)

 試すのは一回限り。結構な賭けにもなるだろう。そんなモノに頼らなければならない事が歯がゆかった。

「くっ……!」

 やるしかないのか。そんな危機感が胸中に広がるも、ふと、頭の中を過ぎるある言葉に動きを止めた。

(復讐するにしても、まずは良く考えろ……か)

 前にアニーサ艦長に言われた気がするその言葉が俺から興奮の熱を奪っていく。

 俺は勢いのままに巨大飛空船を攻撃した。間違いなく、あの日、俺達の街を襲った飛空船だと思ったからだ。

 だが、あの巨大飛空船は巨大な乗り物なのだ。そこに乗る人間を確かめずにただひたすらに破壊をもたらすのは、それこそ、俺達を滅ぼした相手と同類になってしまうのでは無いか?

(まずは観察……なんだ? 動きが……)

 ただひたすらに攻撃をするのではなく、全体的な動きを見てみることにした。するとどうだ、巨大飛空船の行動に違和感があった。

 その違和感とは、飛空船の攻撃に関するものだ。その破壊的な攻撃はペリカヌを狙ったものであるが、その他の攻撃は見受けられない。だからこそロンブライナが用意に接近することが出来たのであるが、何故、小型飛空船への警戒は無いのであろうか?

(小型飛空船の攻撃なんて屁でも無いと思ってる? けど、ペリカヌだけを攻撃するってのはおかしいだろ?)

 実際に、ロンブライナは効かないとは言え、鉄片射出による攻撃を行っているのである。それらを無視するのはどういうことだ。ペリカヌに対しては、いきなり攻撃を仕掛けて来たと言うのに……。

「いや、ペリカヌにも……直接は攻撃してない!?」

 威嚇。そんな言葉が思い浮かぶ。驚異的な威力の攻撃に目が眩んでいたが、ペリカヌには一発たりともそれが当たっていなかった(当たっていれば、そもそもペリカヌは沈んでいるはずだ)。

 ペリカヌの動きが機敏だから当たらないのか? そうも思えなかった。巨大飛空船は見る限り鈍重そうだが、それでも俺達が持つ技術よりも高いものが使われて作られた飛空船だろう。

 ならば、ここまで来て、掠りもできていないというのはむしろおかしいのではないか? その考えは、巨大飛空船の攻撃間隔によって補強されていく。

「なんていうか、規則的過ぎる……。同じ場所から同じ間隔で、あえて外すように攻撃してる? 何のために?」

 やはりは威嚇だろうか。攻撃はするが、逃げるのなら追撃はしないし関わりもしない。そんな意思がある様に思えた。

(どうする? その慈悲に縋って逃げ出すか? それとも復讐心を留めずにこの黒い球を撃ち放つか?)

 どちらにするべきか。こんな状況で、選択肢があるだけ幸運なのだろうか? いや、まだだ。時間ならある。敵の攻撃が威嚇としてのそれならば、まだ観察するだけの時間ならあるはず。

 そう信じて、ロンブライナを旋回させていく。今度は攻撃のためで無く、巨大飛空船の様子を伺うため、その周囲を飛び回る様に。

「……あれは」

 巨大飛空船の外壁。分厚い鉄壁を思わせる金属質の外壁と、幾つかの閉じられた穴の様な跡が見受けられる外観が続いているが、その中で、開いている穴を見つけた。

「あそこが砲撃用の穴である可能性と、出入口である可能性……どっちに賭けるべきだ?」

 穴の大きさはかなりのもので、巨大飛空船全体から見れば小さいかもしれないが、ロンブライナ程度ならば余裕を持って入れるくらいの穴だった。

(まるで誘ってるみたいに見えるが……)

 巨大飛空船の上部に開いたその穴は、誘う様にそこだけが開いている。もしこれが何らかの罠で、そこから何かの攻撃が飛んで来れば、ロンブライナ程度一溜りもあるまい。が、もし巨大飛空船へ入ることができるのならば、さらなる選択肢が自分の手の中へ入って来るかも。

「……やってみようじゃねえか」

 ニヤリと笑う。そうだ。こうでなくてはならない。これくらいでなくては復讐譚にはならないはずだ。

 一方的にやられたり、逆に球一発ですべてが終わるなんてことは望まない。相応にこちらが出来ることをすべて費やし、やっと届くからこそ、願いとは価値あるものになるはずだ。

 ロンブライナの操縦桿を握りなおす。体温と同じほどにぬるくなった操縦桿であるからして、冷たさも熱さも感じない。

 心の激情はもうそこには無かった。あるのはただ、見据えるという感情だけ。これよりどう事態が動いていくか、それを観察する目だけが今は必要だったから。

「さあ、正体を見せてくれよ。あんたらは……なんだ?」

 ロンブライナを旋回させつつ、巨大飛空船に開かれた穴へと飛び込んでいく。

(最近はどうにも穴の奥に向かうことが多い気がするな……悪いものしか無さそうなのが何か嫌だ)

 不安な気分にはなるものの、ロンブライナの速度を落とす程度で、進むことは止めなかった。止まり続けていたら、何時かは、今、この時の感情すら無くなってしまいそうだから。

 それでも速度そのものを落としたのは、何がしかの感慨があったから。というわけでも無く、穴の中に障害物の一つでもあれば、みっともなくロンブライナごとお陀仏になるからであった。

「けど、障害物はない……むしろ進みやすい? 気流か何かが、安定した飛行をさせてくれてる。こりゃあ当たりか?」

 速度を落とした飛空船は、搭載されたフライト鉱石のみの浮力によって浮かぶ。フライト鉱石の浮力は結構なところで繊細であるため、いちいちこちらで操縦しなければすぐにバランスが崩れてしまうのが常だった。

 ロンブライナなどは特にバランスの悪い機体であるため、巨大飛空船の上部から穴へゆっくりと落ちている形になる現状であれば、かなりの集中力がいる操縦が必要になるはずなのだ。

 だが、現状、それこそ操縦桿を離しても、このままゆっくりと降りていける様な形でロンブライナは安定していた。

「多分、この巨大飛空船の機能の一つなんだろうが、そういう機能があるってことは、ここは入口や出口の類ってこと……だよな?」

 断言などできるはずも無いが、それでも、巨大飛空船の中へ入ることを許可された様な、そんな感覚があった。

 幾らか時間が過ぎただろうか? 数時間という程でもない。それこそ十数分と言った程度。それくらいの時間で、巨大飛空船への入り口から、どうやら内部と言える場所までロンブライナは行き着く事ができた。


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