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フライトコロナイズ  作者: きーち
第7章
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2話 黒き人形

 世界に果てがあるのだとしたら、それは終わりの場所だと言うこと。ゴールの先には道が無い。道が無ければそこで歩くのを止めるしかないのだ。

 道を切り開くとか、一歩足を踏み出すというのは、単に道が視界に無い時に使える言葉なのだろう。

 本当の終わりには何もない。ただ黒い穴がある。できることは足を止めて佇むか、最後の一歩にその穴へ身を投げるか……。

「何を考えてるんだ。俺は」

 ロンブライナを飛ばしながら、ぞっとするような自分の考えに身震いした。俺は今、ペリカヌを出て、大穴の探索を続けているわけだが、普通の俺では思い浮かばない様な考えを思い浮かべている。これはこの大穴のなせる力なのか……。

「そもそも、どうしてこんな場所を探索してみようなんて気になったのかねぇ……」

 自分のことながら、それが一番の謎だ。端的に言えばデリダウ老の言葉に乗せられたと言った形になるだろうか?

 デリダウ老が語る、ここは世界の終わりが始まる場所だという説明に、どこか惹かれる部分があったのだ。

(この穴がどんどん広がって、ついには世界を飲み込んで……って、その想像が一番怖いわな)

 アニーサ艦長へ、是非にここを調査させて欲しいと頼み込むことになったのも、そんな怖さがあったからかもしれない。

 この恐怖を振り払うために、ここを調べてみようと思う様になったのかも。

 それはまんまとデリダウ老の話に乗せられた形になるのだが、いざ調査を始めてみれば、抱いた恐怖は良く分からない思考へと発展する形となっている。これはヤバい。本当に。

「ああ、ヤバいな。ここはヤバい。なんだここ。こんな風におもっ苦しく感じなんて初めてだぞ?」

 ロンブライナの高度をどんどん下げ、穴を降りて行っているわけであるが、底はまったく見えない。

 世界の自重と説明された重さを感じる様になってきているものの、それとはまた違った暗い重さが自分の心を鈍くしている様だった。

「そろそろ戻るべきか? 何にもありゃあしねえし、そもそも、これ以上深くなると、重さ以上に光源が無くなる」

 上方を見上げると青い空が見える。見えるのであるが、その光がどうにも穴の底には届かないらしい。それどころか、穴の奥から暗闇が出ていると表現してしまえば良いのか、明かりを食らい尽くそうとしていた。

 そんな世界の狭間にいたからだろうか、暗闇に飲まれなかった微かな光が何かを照らすのを見た。

「うん? なんだ?」

 キリも良いし、これで最後の探索にしようと、光が照らした何かへとロンブライナを進ませる。果たしてそこに映ったのは、何かの屋敷だった。

「って……おい。なんだ、屋敷って」

 それは穴の奥から伸びる円柱状の崖の、その天辺にあった。黒い塗料でも塗られたが如く黒ずみ、遠目からでもかなりガタが来ている様に見える屋敷。

 だが、そんな屋敷でも、こんな場所にこんな形で存在しているのは場違いだ。

「一旦、ペリカヌへ戻って報告するか? 当たり前だろ……その方が良い」

 そんな言葉を口にしていると言うのに、俺は我知らずロンブライナを屋敷へと近づけて行く。

 屋敷が存在している崖……それもまたおかしい。恐らくは穴の底から伸びているのだろうが、そもそもその底が存在するのだろうか。

 あったとしても、崖そのものは尋常な高さでは無い。下から見る事ができるのならば、空を突かんばかりの塔に見えるだろう。

(塔……塔か……嫌な偶然だな)

 最近は、高い塔が不吉の象徴に思えてならなかった。実際、不吉を齎す塔というのを見たせいかもしれない。

 そう言えば崖の上にポツンとあるあの屋敷についても、妙な印象を覚える。そうだ、人がいないどこかの帝国。その中心にあった城に、見た目も色も違うのに、同様の印象を覚えた。この印象は一体何なのか。

「……調べて見れば分かるってのか?」

 ロンブライナは、屋敷のある場所の周辺へ着陸する。屋敷のある土地は思った以上に広かった。

 それにしたって、穴の広大さに比べてはか細いものの、屋敷はかなりの広さがあるものだと分かる。

 黒く染まる屋敷。かなり経年劣化している印象があるものの、黒は汚れでは無く、何か……黒い色の何かが深くしみ込んでいる様だった。

「引き返せば良いってのは分かるんだよ……わかってるのに」

 ロンブライナを降り、足は屋敷へと向かっていた。屋敷の黒い門を潜り、やはり黒い扉を開く。中もやはり真っ黒だ。屋敷中が黒く染まり、また光源が無いため、暗闇の中。

「ほんと、俺、こんな気が利いている人間だったか?」

 都合良く、本当に都合よく、ロンブライナにはサバイバルキットが積んであった。以前、ある場所でロンブライナごと遭難した時の事を教訓として、余計な重りになろうとも、乗せていたものだ。

 その中から、明かりが無ければ大変だと携帯松明を持ってきていた。火力が弱い分、一旦火を点ければ1時間近く光源となってくれる上等なものだ。

 それが手元にある。自分の意思で持ってきたものの様に思えるが、お膳立てされているのでは、という疑念が何故か晴れない。

「こういう状況……なんとなくだが似ているぞ。そうだ、どこぞの街で幻を見せられた時の……あれに似てる?」

 ならばそれは危険信号だ。自分は何かの罠に嵌められている。そんな直感はきっと正しいはずなのだ。だが、前を進む足は止まらない。

「罠に嵌められてるかは知らないが、誘われてるってことか。乗ってやろうじゃねえか。危険に陥ってるのも、どうせ俺一人だ」

 妙に湧いてくる度胸に後押しされて、屋敷の中を探索していく。黒い色は本当の屋敷の隅々まで覆っているのであるが、その実、屋敷本来の色では無いことが分かる。

 例えば、屋敷の絨毯。既にボロボロのそれであるが、辛うじてそこに描かれた文様が残っていた。明らかにカラフルな色で刺繍されていたであろうその文様も、黒ずんでしまっていた。つまり、この屋敷中の黒は、やはり後付けなのだ。

「念入りなこって。どうやった? いちいち塗料を振り撒くにしても重労働だろ」

 どちらかと言えば、黒い雲を思い浮かべる。煙の様に黒が広がり、屋敷中を多い、すべてを黒に染めた。部屋の隅も、家具も、絨毯も、屋敷を探索する人間でさえも。

「……!」

 咄嗟に身構える。自分の発想への驚きもあっただろう。だが、それ以外にも神経を尖らせる事態が起こったのだ。

 言葉が聞こえた。俺以外の人間の言葉が。

「その想像は……少し違う。屋敷は黒く煙の様なもので確かに染まったが、それは過去のことだ。探索者をさらに染めることは……ない。今はな」

 言葉は、確かに聞こえた。俺の妄想でもなんでも無く、屋敷の奥から聞こえてきて、俺の思考をまるっきり読み取った様に言葉を続けていく。

「ま、待て……そりゃあ不法侵入はこっちだが、いきなり頭の中の考えにツッコミを入れるってのは、随分と無粋じゃないか?」

「かもしれない。ならば、姿を見せることで、その謝罪とするのはどうだ?」

 声の主は、屋敷の奥から現れた。黒いスーツを着込んだその姿だが、屋敷の黒とは合わない。何せスーツの下には真っ白いシャツを着こんでいたから。

 その白が、どうにも屋敷の黒を拒絶する様な、そんな印象を覚える。だが、もっとも驚くべき外見は、現れた人間の姿そのものだった。

「……なんだ?」

「そのなんだはどういう意味かな? 軽い思考なら言葉にされずとも分かるが、複数の意味となるとあやふやになる。状況から察するに、私の外見に対しての言葉だと類推されるが、それだけではない……」

 そりゃあそうだ。こっちだって、どんな感情を向ければ良いか分からなかった。それは……人間では無く、人形だったのだ。

 酷く無表情というか、黒いペンで線を引いて作った様な顔を持った、マネキンの如き人形。だがその人形は、まるで人間の様に動き、人間の様に喋る。

「一番聞きたいのは、何者だってことなんだけどな」

 警戒し、距離を一定に保ちつつも、俺はとりあえず話をしてみることにした。意思疎通ができるのなら、まだ何とかできる可能性を信じたかったのだ。

「ふむ。君のこの感情はそういう類のものか。了解した。良いデータが蓄積されたよ。感謝するべきかな?」

 手を広げ、線の様な口元を笑う形に釣り上げる。なんとも不気味な外見だが、その不気味さは、この屋敷と妙につり合いが取れていた。

(普通なら、ビビッて逃げ出すか、腰を抜かすところなんだろうが……)

 明らかに現れた存在は尋常の者ではあるまい。だが、これまで、あらゆる場所を旅してきた経験から、相手を受け入れてしまった。

(もっとも有り得る可能性としては……また幻の中にいるかもってことだ)

 もしこれが幻想の類であれば、なんでもありだ。俺の夢の中での想像力程度なら、あらゆること事が起こり得る。

「それは間違いだ。間違いだよ、屋敷への侵入者。私は明らかな現実であり、君が思う私への奇異なる考えもまた、現実に即したものだ」

「幻がそう言ってるってんなら、どう足掻いたって信用できる言葉じゃねえな」

「だが証明する術もあるまい? その手に持った松明で自分を燃やしてみるかね? 燃え尽きて死ねば現実だと分かるかも。もっとも、幻想だった場合は、天国か地獄にいる幻想を見続けるだろうが……」

 ふざける様に話を続ける黒い人形。まあ、この奇怪さは俺の脳内ではありえざるものであるため、俺の妄想による産物ではあるまいが……。

「分かった。あんたは現実の存在だ。どうしてか知らないが、俺の言葉も考えも分かって、しかもそんな人形みたいな姿をしていたとしても、どうしようも無い現実だってことは分かったってことにしておく」

「そうか。そう物分かりの良い姿勢は嫌いではないよ。なにせ久しぶりの客人だ。不必要に恐れられたり、幻だと思われたりすれば堪らない」

「客人だって? 俺が……?」

「そう。客。その言葉で分かるだろうが、私はこの屋敷の主……そうだな。ブラックとでも呼んでくれ」

 安直な名前だ。黒い屋敷に住む黒い人形だからブラックか。

「主としては、不法侵入者に対して何かしら対処をってところかな?」

 とりあえずは身構えることにした。この怪奇な相手に対して、どれほどのことが出来るとも知れないが、やらないよりマシと言ったところ。

「違うな、主としてはもてなしをしなければなるまい? 何せここへ呼んだのは私の方なのだから」




「なんとなく誘われてるって気はしたんだ。で、誘ったのはあんたか。随分と丁寧な歓待ってところなのか?」

 屋敷の、ボロボロになった応接室で、同じくボロボロな椅子に座る。机を挟んでの対面には、この屋敷の主であるらしいブラックがもう一つの椅子に座っていた。

「飲み物の一つでも用意しておきたいところだが、そんな気が利いたものはここに無くてね」

 万が一あったところで、この屋敷のものを飲みたいとは思わないが。

「それは失礼。だが、この屋敷は毒で充満しているわけではないから、そうつれない考えは止してくれないか?」

「頭の中が読めるってんなら、こうやって話す意味は何だ?」

 頭を覗かれることが酷くイラつくため、話題が始まる前からつい喧嘩腰になってしまう。

「話すこと事態に意味がある。重要なのはマウストゥマウスだよ。何もかもが頭だけで解決するからと言って、その思考を外へ放出しなければ、それこそ幻想と何が違う?」

 そう思うなら、いちいち頭の中を覗くのは止めて欲しいところだ。言葉を交わすことなのだろう?

「持ちえた力は使う主義だ。その方が話は早く進む。さて……まず君が気になっている一つ目のことでも話そうか? 私がどうして君を呼んだのか? そういう事を聞きたいのだろう?」

「思考を読めるどころか、未来予知でもできるのか?」

 これは思考を読まれたというより、言うべきことを先に言われた形になるだろう。俺の頭の中にまだ浮かんでいなかった事柄であるはずだ。

「しようと思えばできるだろうが、そういうのはつまらん。未来のすべてを知ろうとするのはね、料理で好きなものをすべて食べてしまう様なものだ。後に残るのは苦手な料理だけ。それがその日の夕飯であればなお最悪だな。嫌いなものの記憶しか残らない料理で、その日を終わらせないといけない」

「別に、あんたの好き嫌いを聞きたいわけじゃあない」

 早く本題に入れ。そう強く思うことにする。そうすれば、目の前の人形に通じるのだろう?

「意外とせっかちだな。好奇心に突き動かされてここに来たくせに。まあ良い。君を呼んだ理由だが、君がピースを揃えたから……だな。私はな、君のスポンサーになりたいのだよ。支援者だ。君が君の目的を達成するためのな」

「……」

 さて、ブラックの言葉をどう受け入れるべきか。スポンサーになりたいだって? 俺の? 何の目的で? そんなのは決まっている。復讐だ。最近は俺の望みを話もしないで察する相手が増えて来た気がする。

「願いが近づいているからだな、それは。君はこれからあのペリカヌとかいう船で向かう何かに対して、不安を覚えている様だが、安心すると良い。君らが目指す先に、確かに復讐相手の巨大飛空船がある。が、支援なくては勝てないがね。だからその支援をするために君らを、特に君を呼んだ」

 紳士ぶってはいるが、こちらを指さし、口元を笑わせる姿は、どちらかと言えばヤクザなそれに近い。人を自然と挑発させ、場を荒れさせるタイプの言動だ。

「ピースってのはあれか、俺達が俺達の復讐相手へ接近できる様になったってことか。つまり、あんたはそいつらの関係者?」

「かもしれないし、もう無関係かもしれない。だが、君らよりは彼らを知っている。そうして私も彼らを滅ぼしたいと思っている。君らが以前出会った、どこぞの街の長みたいな感じだな」

 ああ、言っていることはそれに近い。が、不気味さは圧倒的にこちらの方が上だ。信用できなさもだろう。

 そもそもこいつは何者だ? 何故、俺の何もかもを知っている?

「私かね? 私は君らの言葉を借りるなら、神だ」

「なるほど、人形は気狂いらしい」

「君らの言葉を借りるなら、と言っただろう? それ以外に言葉が無いから、こういう表現をするしかなくなる。劣っているのは君らの言語の方だな。だがまあ仕方ない。人の知識などそのレベルだ。私の領域ではない」

 明確に、俺を含む人という存在に対して、下に見る様な態度を取る人形。人形の癖に。

「姿については後天的なものだ。こうなる前は、実に紳士的な姿だったのだよ? そうして君が知りたいことの二つ目だって話してやる。大盤振る舞いだな」

「今度は先読みする必要なんてない。彼らについて、あんたは何を知ってる? あんたと彼らの関係はなんだ? 答えてみろよ」

「随分と強気な客人が居たものだ。が、まあそれも良い。神は人の願いを叶えるものなのだろう? 持つものは持たざるものへ与えなければならない」

 大層なもの言いをするが、勿体ぶった言い方は、知的に見える効果は無く、単にイラつきを与えるだけだと忠告したい。

「今さら言動は変えられんさ。さて、彼らや彼らと私についてを話す場合、歴史を過去に遡らせなければならない。長話になるが……覚悟は良いかね?」

「毒を食らわば皿までって話さ。この屋敷に、無謀に自分一人で足を踏み入れた時点で、いろんな覚悟はしてる。長話を聞かされるって程度なら、むしろ上等な部類の結果だ」

 どちらかと言えば、屋敷の中から黒い人形が現れることの方が、驚き、覚悟が必要な事柄だったろう。

「ならば良い。ではじっくりと聞くが良いさ。彼らの来歴を。そうして、君がいるこの大穴についての話を」




 彼らはかつて、この大穴があった場所に住んでいた。限りない過去の話であり、俺達が生きている社会が出来るより、もっと前の話だと言う。

 彼らは発展を続けた。それが彼らの使命だった。神から与えられたと神話にはあるが、それは彼らという文明の発展を正当化する後付だったのか、それとも真実だったのかは分からない。

「だが、彼らは見つけてしまった」

「見つけたって……何を?」

 彼ら……俺が復讐する相手の過去を知る話が続く。少し息苦しさを感じのは、きっとこの屋敷の黒さと、漸く心が落ち着いて来たからか、より目の前の人形の不気味さが際立ってきたからだろう。

「神の作り方だ。私の様な……な」

「神って……」

「神は神だ。彼らは自分たちの神話にある神と同質か等価であると思っていたらしいが、私にとってみれば、それとこれとは話が違うと言いたいね」

「つまり……あんたもまた、彼らに作られた?」

 これまでの旅の中で、彼らの残したものを見た。それは、明らかに俺達の技術を凌駕した代物であり、もしかしたら、目の前の超常的な存在を生み出してもおかしくは無いとは思う。

「記憶する限り、私もまた彼らの制作物だとは言える。そうしてその代償として、この穴が生まれた」

「は?」

「驚くかね? だが、神なんてものを作ろうとする時、それには大きな傷跡が出来るものだ。パンパンに膨れた風船を思い浮かべてみろ。それが世界であり、完成した世界だ。神とはその世界にとっての異物。もしくは欠けた何かともいえる。超常的存在とはそういうことだ」

 俺達は俺達の世界を生きている。そんな俺達の世界において、頭の中にいる想像の産物以外の神とは、世界そのものにとって異端と言えるのかもしれない。

「風船に異物を入れれば風船そのものが破裂する。破裂しなくても亀裂が入る。また、空気の一部を抜けば風船は縮み、世界に皺が出来る。そうして作り出した変化体こそが神であり、実際に起こり得る現象が、この様な穴というわけだ」

 話の訳が分からなくなってきたが、神を作るという行為は、神という存在がとんでもないものだから、同じくとんでもない代償が発生するということらしい。

「彼らは、そんな事を仕出かす技術を手に入れた。手に入れた後は実験を繰り返す。人間とはそういう存在だろう? 結果、世界中に傷痕と、生み出された神が残る。君を呼んだのはね、君が既に幾つかそれを見て来たからだ。それがそうであると知らぬうちにな」

「あんた以外にあんたみたいなのを見た覚えはない」

「そりゃあ姿形は違う。それは空を飛ぶ巨大なクジラみたいな存在かもしれないし、亡国の王だったのかもしれない」

「あれらが!?」

 この旅の中で出会った、異常な存在を上げられて、驚くと同時に納得してしまう。あの強大な力を持った存在達が、言わば神なのだとしたら……。

「そうだとも。君らの旅が、これほど波乱に満ちていたのは単なる偶然ではない。君らは出会うべくして出会ったと言える。あ、勘違いしないでくれよ? 私が画策したわけではない。私の力は、この穴の中限定だから」

 穴の中の神と言ったところか。しかし、これまでの旅で、俺達は意識することすらなく、彼らの足跡を追って来たということになるのだろうか。

「そうだ。私はね、単なる推測でしかないが、これは君らの存在に彼らが関わっているのではないかと、そう思っている」

 目の前の男が何かを狙っていないのだとすれば、そういうことにもなるだろうか。

 ふと考えてみる。かつて俺達の国を滅ぼしたあの巨大飛空船。すべてがそこから始まっているのだとしたら、その始まりから、既に彼らの意思が介在しているのではないかと。

「彼らは何がしかの狙いがあり、君らを誘っている。で、その合間にここへ君らが来たわけだが、これを好機と感じたのが私だ。彼らの策に私と言う存在は恐らくない。ならば、ここで介入することで、彼らの狙いに亀裂を入れられるのではないかとな」

「どうにも、あんたも彼らを恨んでる様な発言をするな」

「恨みなどない。生み出された以上は恩もある。この屋敷での暮らしもそう悪くは無いのでな。偶に君みたいなのが来てくれると退屈せずに済むが……」

 なら、なおさら俺達に介入しようとする理由が分からない。逆に、俺達の行動を止めようとするなら分かるが……。

「何か、小難しい小理屈を考えてるってことかよ」

「いいや、単純明快な理由があってな。私は、彼らに破壊神として作られた。結果、この屋敷以外の、私が出来うる限りのすべてを破壊した。この屋敷の黒さはその副作用だ。ここも破壊するつもりだったが、他も破壊したせいで、どうにも住む場所が無くなるのは不便だと考える様になった」

 事も無げにそんなことを言ってのけるブラック。だが、彼は手に持った屋敷の構造材の一部を手にとり、放り投げると、彼の言葉もまんざら虚構でないことが分かる。

 屋敷の破片が黒くそまり、そのすぐ後には、その黒さえ無くなった。これが彼がもたらした破壊か。

「彼らは去ってしまった。さっきも言った通り、私はこの穴の範囲でのみ神として存在でき、君らについてもそれで知ることが出来た。が、その外となれば私の管理外なのだよ。つまり、彼らを破壊することはできんかったわけだ。ならばだ、あとを追って破壊できる存在に望みを託すのが、常道というものだろう?」

 さらっと恐ろしいことを、目の前の人形は口にした。ああ、なるほど。目の前の存在は、やはり超常的な存在らしい。少なくとも、その精神構造は。


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