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フライトコロナイズ  作者: きーち
第7章
39/49

1話 黒き大穴

「最近、船の雰囲気が妙なんだよね」

「変って……具体的には何がだよ」

 俺、アーラン・ロッドは、ペリカヌの食堂で、弟であるエイディス・ロッドと話をしていた。

「だから前の街の件についてさ」

 朝食となる固いパンにたっぷりとジャムを付けながら、エイディスは話を続けるようだ。

 前回の旅では、外世界に国を作る人々と接点を持った。だが、その人々が住む街は、ある種の問題があり、一旦は植民地に適した場所だと見ながらも、安易に植民を行うのは危険という判断がなされたのである。

 移り変わる状況のせいで、妙な雰囲気になるというのも分からないでもないが。

「兄さん分かる? 計画が成功に終わろうとした段階で、いや、やっぱり今回の成功は無しでってされたんだよ? 船員の中には、そんな状態に不満を持ってる人たちもいる」

 何か焦った表情を浮かべるエイディス。だが、その感情がいまいち俺に伝わって来ない。

「不満を持ってるったって……あの街とその周辺がちょっと危険な場所かもしれないってのは確かだろ。俺自身でも確かめて、そう思う様になったんだ。間違いない」

「理屈の話じゃあそうだよ。だからみんな、表立って文句は言わない。けど、やっぱり不満は消えないから、艦内の雰囲気としてそれが現れてる」

「ヤバいってことか?」

 こういう人の機微という部分においては、艦内での仕事を主にしているエイディスの方が、察しが良い。

 俺に関していえば、生来からかなり単純な性格をしているため、外面を偽るタイプの相手は苦手だった。

「ヤバいも何も……アニーサ艦長が無理を通すのも、そう何度も出来ないと思うよ」

「そう……か」

「次で最後って思って挑んだ方が良い。例のアレの場所は掴んだんでしょ?」

 同じ復讐者として、復讐相手を見つけるための同志であるエイディスと俺。そうして艦内のもう一人、アニーサ艦長。

 そんな俺達は、漸く、未知の復讐相手だった彼ら動向に繋がるかもしれない情報を手に入れたのだ。その居場所もだ。

 だが、最後の確証が無かった。試しに向かってみるだけなら気楽で良かったのだが、ペリカヌの状況が良く無い以上、最後のチャンスになるかもしれない。

「掴んだ場所が、本当に目的のものだったら良いんだけどな」

「心配はそれだけじゃないよ。狙ってる相手の技術力は、こちらを大きく上回ってるかもしれないんだ。強硬手段に出たとして、返り討ちにされる可能性はあるし、何より、そこへたどり着けるかどうかも分からない」

 前者については、それこそ遭遇してみなければ分からない。しかし、後者については、明確に予想できる心配事があった。

「……たしか、航路の途中には、結構危険な場所があるかもなんだったか」

「だね。事前に得た情報によると、大穴が開いてるんだとか」

「大穴ね……それがどれほどデカかったとしても、迂回できないもんなんだろうかねぇ」




 アニーサ艦長が次なる目的地と決めた場所。それは前回の旅において発見したヴェルの街からさらに北へと進んだ場所にある。

 ヴェルの街において、その目的地となる場所の情報を得ることができたのであるが、その航路の途中、少し厄介なものも発見した。巨大な穴があったのだ。

 その穴……信じがたいことなのであるが、その大きさは、俺達が暮らす内世界と同じくらいの大きさがあるのだとのこと。

「信じがたい話とは思わんかね! 見渡す限りなんてものではない! その先、目に見えぬところまで穴とはな!」

 俺が小型飛空船格納庫で整備の手伝いをしているところへ、わざわざそんな話を聞かせてくるのは、作業員班の班長、ブラッホ・ライラホだった。

 これから向かう場所が、相変わらずとんでも無い場所なので、とりあえずその驚きを共有してきたのだろう。

 だが、驚きという意味であれば、俺はそれほどでも無かった。大穴があることについては、そりゃあ常識からかけ離れた事柄なのであるが、そういう事をこの計画内で多く経験してきたからである。

 驚き慣れてしまったと言った方が正しい。

「あるってんならあるんでしょう? 以前、ツリスト達から聞き出した話でも、そういう場所の話題はありましたし」

「であるがね! 目で見たらどうなるだろうとは思わんか? 穴と言うが、底はあるのか。あったとして、どうなっているのか。そもそも、何故そんな穴があるのか。考えるだけでわくわくしてくる」

「ブラッホ班長はあれですね。こう、艦内の雰囲気に染まらないタイプだ。前から知ってますけど」

 弟のエイディスから、艦内が妙な雰囲気になってきていると聞かされて、さらに十数日経っていた。一度、内世界へ帰還し、休息を取り、さらに外世界への出発を始める。それくらいの日数だ。

 結果、俺にも分かるくらいに艦内の雰囲気は悪くなっているのだ。問題点としては、やはり前回、旅をして発見したヴェルの街についての事柄があった。

 現状、一度ヴェルの街に寄り、補給を受けてから、さらに北側へ向かおうとしているペリカヌであるが、その行動が、さらに艦内の雰囲気を悪くしているのである。

 だが、ブラッホはそうでも無いらしい。

「みな、あの街で普通に補給を受ける事が出来たのであれば、やはりあの街周辺で植民地を拓く事は可能だと言っている。こう見えて私も、そう思う部分はあるな」

 不満の原因は、植民地として優れた土地を見つけることができたのに、そこが危険な地帯だからと説明されたこと。

 しかし、こうやって旅の経由地として利用できる以上、その説明はおかしいのではないか。というのが今の不満における主なものであった。

「アニーサ艦長に説明された通り、あの街には毒があるんですって。短期間なら別に問題ないけど、長期間なら問題が発生する毒が」

「その話を聞いたのは君と艦長だけであり、他は聞いていないというのがな……住民にも尋ねてはいけないという命令が、より疑心暗鬼を呼んでいる。真実を語る際、他者の言葉を封じるのは、真実を見る目を曇らせる。という言葉もある!」

「だからそれは……その毒に関しては、ヴェルの街の一般人も知らない、機密的なもので、おいそれと話題にするべきじゃあないものっていうか」

「艦長から、もうちょっと聞き触りの良い説明はされているから、無理はせんでも良いであるよ!」

 本音を話せないというのは事実だ。ヴェルの街が危険だというのは本当のことであるが、だから周辺を植民地にしないという話に関しては、やや意図的なものが潜り込んでいる。それは艦内において、俺と弟、そしてアニーサ艦長だけが知るものであった。

 ブラッホに関しては、恐らく、こちらが何かを隠しているのを察してはいるが、あえて踏み込まないという姿勢である。こういう感じの船員ばかりであれば良いのだが、そうは行かないのが集団というものだろう。

「無茶な状況下ってのは分かってはいるんですが……どうしても、今回はその無茶を通さなきゃならない状況でしてね」

「それに関しても、見ていればなんとなく分かるよ! だから、これから向かう場所に楽しみを抱くことでいろんな感情を発散している! 故に話に乗ってくれても良いのではないか?」

「ああ、こりゃ一本取られましたか」

 ブラッホにそう言われては、彼の話に乗らないわけには行かない。弱みを握られた様なものかなと思いながらも、別に話をすることが嫌な内容では無いため、彼と幾らか話を続けて行く。これから向かう大穴についてを。

 そうして時間が幾らか過ぎた頃、艦内がやや騒がしくなった。

「何かあったんですかね?」

「ふむ? これはまさか……仕事かもしれんぞ。アーランくん!」

 ブラッホのその言葉を聞いて、漸く俺も何があったのか分かった。どうやらペリカヌは、噂する大穴へとたどり着いたのだ。




 一つの社会の生存圏。その範囲がそっくりそのまま収まってしまうほどの大穴がある。言葉に聞くだけで圧倒されそうな穴であるが、実際に目にしてみると、それは穴というより黒という印象を受けた。

 大地という画用紙に、べったりと黒い塗料を塗りつけた。そんな景色が目の前に広がっている。

 俺は自分が乗り込む小型飛空船、ロンブライナから、その大穴を上空より偵察している。隣には後輩のレイリー・ウォーラが乗る機体も旋回していた。

 生真面目なレイリーのことだから、なんとか情報を集めようと、あちこちを見ているのだろう。

「あんまりキョロキョロしたって、何か発見があるってわけでも無いけどな」

 いや、発見というのならこの大穴であるが、あまりにも巨大なその穴は、それ以外の景色を許さぬとばかりであり、偵察は無駄に終わりそうな気がする。

「しっかし、どんな自然現象だこれ? 最初からここに穴があったのか、それとも、穴が出来たのか……」

 後者の方の想像がややゾッとする。この様な穴が出来る現象、大災害以外の何物でもあるまい。

「……一旦、艦内に戻って意見を聞くべきか? レイリーにも伝えとこう」

 ロンブライナをやや旋回させ、ペリカヌへ戻るぞというサインにする。それに気づいたレイリーがこちらの後ろに着く。向こうも向こうで、何か見つけられそうな気がしなかったらしい。

「こんなところ、さっさと通り過ぎるが吉だと思うんだけどな」

 実際はどうなるかはアニーサ艦長や各班の長が決めることだ。俺達にできることは、穴がありました。と報告することだけだろう。

 そんな事を考えつつ、ロンブライナをペリカヌの格納庫へ帰投させる。

 その後、ロンブライナを降り、とりあえずアニーサ艦長へ報告をとペリカヌ上部艦首へと向かった時、騒ぎを耳にした。

「だから、ちと試して欲しいのですよ! この穴はもしかしたら……大変なものかもしれない。多少、ペリカヌに無理をさせるかもしれんが、今後の成果になり得るかも!」

 アニーサ艦長がいるはずの上部艦首から、普段はそこにいない人物の声が聞こえてきたのだ。

 その声の主は何やら興奮しているらしく、声を荒らげ、アニーサ艦長に何かを訴えかけていた。

「あ、やっぱり先生か」

 上部艦首に入り、声の主を探すと、魔法士のデリダウ・ドーガがそこにいた。普段は自分の研究室にいるはずの彼が、どうしてこんな場所にいるのか。

 疑問に思って反応が遅れていると、デリダウ老はこちらに気づいたらしく、次にこちらへ詰め寄って来た。

「おお、アーラン! そうだ、お前なら小型飛空船を動かせるだろう? 少しだけで良い。その飛空船を動かしてくれんか?」

「は? いや……いったい何を……」

「デリダウさん。艦長や班長を飛び越えての船員への命令は許可できませんわ」

 アニーサ艦長が、窘める様にデリダウへ話しかける。それはデリダウの意思を否定するものらしいが、そもそも、彼が何を望んでいるのかが分からなかった。

「外の偵察の報告に来たんだが……何かあったんですか?」

 頭を掻きながら、状況を把握しようと試みる。もっとも、誰かに聞いてみる以外に方法は無い。

「いえ……外はどうでしたか?」

 どうやら聞かせてもらえない様子。アニーサ艦長は先に仕事の報告をしろとのご所望だ。

「どうも何も……何もありませんでしたよ。穴だけだ。空には雲がありましたけどね、下は……見えなかったですよ」

「下は? 下へは行って見たか?」

 アニーサ艦長ではなく、デリダウから反応が返って来た。彼はこちらに縋るかの様に近づき、腕を掴んでくる。

「い、いや、ある程度高度を落としてみたけど、特には何も。高度を落としすぎるのはヤバいんだよ。ぶつかるものが無くても、飛空船の動きが悪くなる。何でか知んないけど、そう教わったぜ?」

 飛空船乗りが誰かからその操縦方法を学ぶ中で、高度には常に注意する様にしろと教えられる。

 注意しないと地上にぶつかるというだけの話ではなく、高度を上げ過ぎたり低くし過ぎると、小型飛空船の挙動が鈍くなるのである。

 通常の空域ならば気にしないでおける程度の差異であるのだが、高高度、もしくは地上よりさらに低く抉れた谷の下などにおいては顕著になる。

 俺に関しては、軍隊の教官に、実際に高高度を飛ばされる中で実感させられた事がある。操縦桿どころか、自分の体や意思ですら重くなっていくあの感覚……独特のもので、一度体験すれば忘れることは無い。

「世界の重さなのじゃよ、それは。世界には自重が存在する。その自重の中において、ある種のバランスが取れた空白地帯こそ、我々が生きているこの空間なのだ。だが、その重さにはブレがあるから、山や谷、水や風が生まれる。だからその空間から離れて行くと、全方位から世界の重さがのしかかって来るわけじゃな」

「聞いても良く分かんねえけど、つまり危険な場所ってことだろ?」

 熱く語るデリダウを押し留めながら、とりあえず話を続けようとする。こうなったデリダウは、中々止まらないのだ。

「ええ、まったくもってですわね。危険な場所だから、そこへ赴くことは出来ないと何度も言っているのですが……」

 頭痛を感じているのだろう。アニーサ艦長は自分の額に手を当てている。

「って、そこへ赴くって、つまり、あの穴の底へ向かってみろってことかよ!?」

「と、どうやらデリダウさんは仰っていますわね」

 そりゃあアニーサ艦長も否定的だ。これで肯定的雰囲気だったらさらにヤバかった。

「いやいや、待ってくれんか。これはわしの頼みというだけでなく、今後、知識や技術の発展に関わるものであってなぁ……」

 俺の方も拒否の姿勢を見せたため、これは自分の意見が流されると思ったのか、デリダウ老がすり寄って来る。やめてくれ。どんな顔されたって、危険な場所に飛び込めなんて命令聞けないぞ。

「あ、そうですわ。アーランさん。デリダウさんの相手をしておいてくださいません? 丁度、報告も終わったところですし、お暇があるでしょう?」

「え? あ、はい……え!?」

 なんだこれ? まさかとは思うが、面倒くさい事を押し付けられた!?

「うむ! まずは偵察を行う者の同意が必要であるからの! 研究室へ来てくれんか! これから、あの穴が如何に重要かを説明させてもらうとしよう!」

「え? あれ? ちょ、ちょっと待ってくれって! なんなんだよ一体!?」

 どうにも貧乏くじを引かされた。そんな思いに包まれながら、今日もまたペリカヌの日々が始まった。




 俺達が認識できる世界とは、俺達が目で見ることが出来る世界のみであり、例えば空の果て、地の底などは、絶対に俺達の目には映らないらしい。

 どれだけ空の上を目指そうとも、どれだけ地面を掘ろうとも、世界そのものの自重が増加していき、何時かはどんな物質でもその重さに潰され、果てというものを見ることが出来ないのである………と、ここまで説明されたところで、一体何のことやらさっぱりだ。

 語ったのはデリダウ老から聞いたそのままの事。いったいそれが何なのかと聞かれても答えられるはずも無い。

「わからんかな? そも、世界の果てというのは、人の観測から覆い隠されている。結果、わしらは世界の果てを見ることができんのだよ。この世界に生きる者は、すべてこの世界の囚人ということになるわけじゃ」

「へえ、そりゃあ凄いですね。懲役何年くらいかな? ああ、寿命がそれかぁ」

 受け答えはするものの、話の内容なんて碌に聞いてはいなかった。だいたい、世界の成り立ちなんて、知りたい人間が知れば良いだけで、飛空船乗りの俺が聞かされる必然性は無い。そのはずだ。

「ううむ……これでも伝わらんか」

「先生が俺に、あの穴を調べたくなる様に促してるってのは分かるけどさ、危険なもんは危険だって。底に行けば飛空船が重くなるのもそうだけど、それ以上にあそこは遠近感が無くなっちまうんだ。実は近くに底があって、ぶつかってお陀仏なんて可能性もある」

「うむぅ。現場判断でそう言われると、ぐうの音も出んが……」

 命を賭けてでも調べて来いとまでは言われなかった。デリダウ老も、そこまで酷い人格ではないのだ。むしろ常識がある方と言える。

(そんな先生が、取り乱したみたいに穴を調べろって言うのは、ちょっと気になるか?)

 別にデリダウ老の話に乗せられたわけではないが、少しばかり興味が湧いて来た。

「なあ先生。その……穴を調べればどうなるんだ? こう、利益がある行動……みたいに言ってたが」

「なんだ? 急にそんな好奇心が湧いたみたいな顔をしおって。単純に、普通では見れん場所が見れるというのは新たな知識を得るチャンスで、新たな知識は新たな利益を生む。という理由が一つある」

「探検家が齎す利益ってやつですか」

「そんなもんじゃな。が、これはあくまで理由の一つ。わしが重要視しとるのは、この様な土地が不可思議だらだ」

「この様な土地って言うか、穴だけどな」

「うむ。まさしく穴。おぬしはこの様な穴、どこか別の場所で見たことがあるか?」

「ないよ。こんなデカい穴」

 普通なら酷く驚くところだ。実際に、初めて見た時は驚いたわけであるが、あまりにも大きい穴であるため、むしろすぐに一景色として受け入れてしまった。

 驚く土地というものをたくさん見て来たから。という理由もある。

「わしも無い。が、語られる仮説の中に、穴の存在をほのめかすものがあってな。それを思い出し、年甲斐も無く興奮したのじゃよ」

 年甲斐も無く興奮と言うが、結構な頻度で、デリダウ老はこんなテンションになることがある。つまりずっと年甲斐が無いのだ。

「で、そのほのめかされた内容ってのは何なんだ?」

「まあそう慌てるでない。まずその仮説なのだが、世界の構造を説いたものでな」

「また難しい話か」

 その手の話は幾らこっちに興味があったところで、理解できない話なのだから、やはり聞き流すしか無い。

「誰にだって理解できる話なんじゃが。世界を何らかの構造物として……例えば卵みたいなものだと仮定しようじゃないか」

 言われた通り、鶏が生んだ卵を頭の中で思い浮かべてみる。つるんと楕円形のあの白い卵だ。

「卵は殻に覆われた状態で完成している。完成したままであれば、その形は変わらず、ただそこにあるだけ。分かるな?」

「割らなきゃ目玉焼きにもスクランブルエッグにも出来やしないよな」

 茶化す様に言って見るが、何故かデリダウ老は肯定する様に頷いてしまう。

「その通りじゃな。どんな卵だろうと、料理をせねば代わり映えのない殻があるだけ。例えばワシらが生きる世界はこの様に変化を続けている。つまり、単なる殻ではないわけだ。となると、割れた殻ということになる」

「まあ……卵に例えるってんなら、形やらなんやら変えようと思ったら、殻を割る必要があるわな」

 例え話の中でならば話せるものの、デリダウ老が何を言いたいかは分からないままである。

「うむ。そうして割れた卵は崩壊する途中であるとも言える。この世界に例えると、ワシ等が変化するこの世界を見ているというのは、壊れて行く世界を見ているということになるな」

「世界が壊れるって、けっこう大それた話になってきたな」

 終末論みたいな話だろうか。この世界は何時か崩壊し、その後、新たな世界がやってくるとか、真の世界が訪れるとか。

「そうでもない。明日や明後日世界が滅ぶ可能性は零では無いが、大半、そういう現象は前兆があるもだし、そういうものは確認されてはおらん……はずじゃ。世界というのは広大だ。どこまでも続く大地を見ていれば分かるじゃろう? 崩壊の途中と言っても、その崩壊が最後に至るまで、どれほどの時間が掛かることか」

 つまりは、あくまで世界の変化が世界の崩壊に絡んでいるというだけであり、その崩壊そのものは、酷く長い時間の中で行われているから、短い時間で生きる俺達には殆ど関係の無い話らしい。

「で、これまでの話と、あの大穴になんの関係があるってんだ? そりゃあ、世界の崩壊くらいには結構な迫力ある穴だけど……」

「まさにそれだ。さっき卵の殻の話をしたじゃろう? そうして殻が割れ、世界に変化が訪れる……するとどうだ? どれだけ崩壊そのものが遠い未来であろうとも、世界にヒビが発生する。亀裂だ。世界に対しては小さな亀裂でも、もっと小さな私たちにとっては大きな穴……」

「そうか、それが……」

「そう、ワシ等の、ペリカヌの下にある大穴かもしれない」


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