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フライトコロナイズ  作者: きーち
第6章
38/49

6話 塔とはすなわち

 階段を一段一段登っていく。どこまでも高く、遠くからでもその高さが分かる塔で、いったいどれほどの段を登れば良いか分からない。

 いや、そもそも、人間の足で登り続けることができるのだろうか。この塔は。

「なあ、一応、俺達は塔の天辺を目指しているんだよな?」

「勿論だ」

 ダダラージァは老人の身であるはずが、壮健な様子で階段を上がっている。だが、それにしたって、何時かは体力が尽きるだろう。そのタイミングは、塔の頂点よりは遥かに下側だと思われるが……。

「こうやって歩き続けて、何時かぶっ倒れちまうのが目的ってことじゃあないよな?」

「勿論だとも。これも塔の力でな。今、自分はどれほどの高さにいると思う?」

「どれだけ登ったかってことか? 妙に薄暗いんではっきりとは分からねえけど、だいたい、まだ人間を縦に10人分ってくらいの高さじゃないか? いや、もうちょい下か」

 階段の一段一段の高さからして、その程度だと予想する。一番手っ取り早いのは、今登っている螺旋階段の手すりから、顔を出して下を見ることだろう。けれど塔内部は暗く、足元付近ならばまだ光源のおかげで見えるものの、少し離れた場所は見え辛くなっていた。

 少なくとも、階段の起点となった床はここからでは見えない。

「残念ながらはずれだ。私たちは、既に塔の半分を登っている」

「え……マジで?」

 どう考えても、あの高い塔をそんなに登ってはいない気がする。だが、だからこそ塔の力ということか。

「この螺旋階段は、塔内部にある各施設に繋がっていてな。少し登るだけで、その施設のある階へと、何時の間にか人を運んでいる。施設の数だけ段があると言えるが、それだけだ。最上階までは、驚くほど早く辿り着く」

「それにしたって、そんな移動の技術があるなら、最初から扉を抜ければ目的地へ。みたいにすりゃあ良いのにな。って、爺さんに言っても仕方ないか」

 この塔はダダラージァが作ったものではない。ならば、塔の機能について文句を言っても筋違いとなる。

「その通り。聞かれても答えられんし、どういう仕掛けになっているかも説明できん。ただ……この様な階段は、必要不可欠と言うよりは、感傷のため……という気もするな」

「感傷?」

「天頂に辿り着くのは、階段を登らなければならない。そんな感傷が、この階段を作らせた。そんな気がする」

 長年、この塔と共に生きた者の勘というやつか。正解かどうかはこの場にいる人間は分からないものの、この塔を作った者が人間だとしたら、そういうこともあるかもしれない。

 本当に人間であれば、であるが。

「着いたぞ」

 ダダラージァはそう宣言して立ち止まる。だが、老人からその言葉を聞く前に、俺も既にそこへ到着したことは分かっていたのだ。階段がそこで終わっていたから。

 これ以上に登れる場所が無いということは、ここが最上階ということになるのだろう。

「……それにしたって、未だにここへ案内された理由ってのが分からないんだが」

「言ったろう? 対価だと。既に君らの話は聞かせてもらったが……君らの故郷を滅ぼした巨大飛空船、その脅威的な技術力はこの塔に通ずるものがある。つまりは、私にとっては新たな有用な情報かもしれないと言うことだ。その情報の変わりに、私は塔の情報を君らに渡す。良くある話だと思うが?」

 当たり前の事の様にダダラージァは話すが、塔の内部、そこには俺達以外の人がいない以上、街の人間であろうとも、おいそれと入れる場所では無いのだろう。

 そこを見学出来ている時点で、俺にとっては既に価値のある状況だと言える。復讐云々に関わらず、そもそもが、塔を調べよとのアニーサ艦長からの指示があるのだし。

 だが、この老人にとってはどうなのか? 確かに塔と俺の知る巨大飛空船には通じるものがあるかもしれない。が、それだって可能性の話でしかないだろう。実は別々の物事と言う可能性も十分にあり得る。

「対価云々って話なら、こっちが貰い過ぎってことを言ってるんだよ。例え俺達の情報が、あんたが望むものだったとして、それが何なんだ? 空を飛んでいたデカブツが国を滅ぼして、俺は復讐を誓った。それだけだ。あんたの方の復讐に、何か直接的に貢献できる情報じゃあない」

 その情報を得て、ダダラージァが新たな何かを始められるかと言えば、そうには見えない。ならばこの取引は成り立たず、不当なくらいにこちらが得る益が多くなってしまうということ。

(取引は対等なのが一番望ましい。こっちに損だけしかない状況を避けるのは勿論だとして、こちら側へ明らかにバランスが傾いている状況も、疑いの目で見た方が良い……だったか。アニーサ艦長がそんなことを言ってた気もするな)

 聞きかじった程度の知識をなんとか活用しつつ、ダダラージァとの話を進めて行く。

 かなりの大盤振る舞いをしている彼であり、また、こちらと同じ思いを持った老人に対して、出来れば仲間意識を覚えたいと考えはするが、それでも、今、この瞬間は慎重に行きたいと思えた。

(どんな罠が待ってるかもわかんねぇしな。前の街みたいになることだけは避けねえと)

 今、この場における危険性。それは何時足を掬われてもおかしくないという感情を忘れてしまうことだ。

 ここは安全安心な場所。そう思い込むことだけは止めておいた方が良いだろう。幾ら言葉が通じると言っても、ここはやはり、俺達が住む国では無いのだから。

「見かけに寄らず、随分と慎重な男に見えるな。が……その考えは正しい。君らから得た情報それだけでは、私にとっては有益なものとはなるまいて。が、しかしだ。やはり、君らに何がしか、少なくとも私が知る限りの知識を伝えたいという思いは正直なものなのだよ。それを伝えるためにも、ここへ案内する必要があった」

 ダダラージァは、階段の踊り場から、恐らくは塔の最上階にある施設へと繋がる扉を示す。やはりと言うべきか、この扉の向こうには何やら重要なものがあるらしい。

(塔の中っつっても、今の段階で見たのは、不思議な階段くらいしか無いもんな)

 この塔が発揮する力について考えるなら、もっとこう……驚く様な何かが無ければ釣り合いが取れないと思う。

「何があるんだ? その奥に」

「見ればわかる」

 ダダラージァは俺にそう告げた後、扉を開いた。その先にあるもの……それを何と表現すれば良いのか。

 少なくとも、俺が知る上で似ているものなど有りはしなかった。いや、あえて探すのであれば、ペリカヌの艦首部分が近いだろうか?

 何か、大きな施設のすべてを管理するため、一つの部屋にその管理機能を集約させた……と言った印象。

 だが、やはりそれでも似てないと言わざるを得ない。恐らくは金属とガラス。そして多彩な光を発する宝石の様なナニカが、部屋のそこかしこに、病的なまでに規則正しく並んでいた。

「これは……」

「これが、塔の機能。そのすべてを管理する部屋だ。少し待っていろ」

 ダダラージァはそう告げると、部屋の中へと入り、宝石の様なナニカへ触れて行く。そのナニカはダダラージァが触れるのに反応して色を変えていく。

 幾つかの色が変わった時点で、部屋へ大きな変化が現れる。扉から入って前方にある金属壁が、急に透過したのだ。いや、それが本当に透過なのかは分からないが、塔の外の景色をそこに映し出した。

「これは……魔法か? うちの船には、壁を透過させる魔法ってのが使われてるが、それと一緒の?」

「かもしれんし、もっと別の技術かもしれん。私にも良くわからんのだよ。ただ、どこをどうすれば、どの様な変化が起こるか。それについては幾つか分かっている」

「自分で調べたってことで?」

 この部屋に、何がしかの機能があることは俺にだって分かるが、ではそれはどうすれば操れるのかまでは、幾ら何でも分からないと思う。

「調べたというより、教えられた……と表現するべきだな。これを見てみろ」

 部屋の金属壁の中から、ガラス板がはめ込まれたような場所をダダラージァは手で示した。

 ガラス板には、絶えず何か文字や数字の様なものが流れていた。俺の知らない言葉なので、その意味はさっぱり分からないものの、ダダラージァは分かるらしい。

「私に与えられた力は、言語すべてに及ぶ。文字についてもな。ここには、この塔に集められた情報が流れている」

「情報を……集める?」

「ああ。塔は言語を翻訳するにあたり、まず、人の言葉、思念と言い換えても良い。何か、言葉を発しようとするその瞬間の強い意志を受信し、ここでそれを解析する。その解析したデータをその聞き手側の精神へ送信することで、言葉無き意思疎通を可能にしているのだ。が……」

「待って、待ってくれ。言ってることが分からなくなって来た」

 話が理解の範疇から外れ始めている。兎に角、塔の影響範囲で発せられた言葉は、この塔へと集められるということらしい。

「細かいことは理解しなくても良い。私も……受け売りだからな」

 文字が映るガラス板をダダラージァが叩く。

「この話について問題なのは、集めた情報を翻訳して送信する機能は付け足し。やっていることに対しての誤魔化しみたいなものだということだ」

「つまり、本来の機能があるってことか。それがもしかして、さっき話した、人々から言葉を失わせるっていう……」

「そう。それも一つ。この塔の機能は、人から言葉を奪い尽くす。その結果だ。では、奪った言葉はどうなると思う?」

 そうか。集め、翻訳する。それが塔の機能であれば、塔の存在理由になる。だが、翻訳が本来の機能でないとすれば、別の存在価値がこの塔にあるということ。

(これだけの技術だ。言葉を奪って集団を破滅させる。なんてのが望みなら、もっと直接的にできる技術だってあるだろ……)

 例えば……そう、俺の故郷を滅ぼした様に。

「言葉を集めることはそもそもの機能ってことなら、集めたものを誰かが手に入れると、そういうこか?」

「正解だ。これを見てみろ」

 再度、ダダラージァは輝く金属壁を触る。すると文字列が映っていたガラス板の模様が変わった。

 光の線で描かれた何かの輪郭のような……そんな模様だ。

「これはいったい?」

「この街周辺の地図だ。もっと詳しく見ようとすれば、周辺の起伏、地質に至るまでを見ることができる」

「そりゃあ……凄い」

 俺達の様に外世界の探検を続ける立場としては、喉から手が出るほどに欲しい装置だと言える。もっとも、この塔を動かすことができない以上、この場所でしか使えないわけであるが。

「そうして、問題はこれだ」

 またダダラージァがガラス板の模様を変えて行く。やはりそれは光の線によって構成された模様であるが、先ほどと明確に違う部分があった。それは光の点だ。光の線のみで模様が構成されているのではなく、一つだけ、光の点が映っていた

「これはいったい?」

「映す範囲を広げさせてもらった。そのせいでどこの、どの地帯まで映しているのかは、私には分からんが……この光の点だな」

「さっきには無かったのよな。確か……って、微かだけど動いてないか? これ?」

 非常に遅々とした動きで、じっくりと見なければ分からない程度だが、光の点がやや動いている様な気がする。数分眺めていれば、本当に動いたかどうか分かるかもと言った印象だが。

「ああ、実際に点は動いているのだよ。広げた地図の範囲から察するに、これでもかなりの速度だと分かる。そうして塔に集められた言語情報は、どうやらこの光の点に送られているらしい……」

「送られている……この動く何かの点に? いったい何のために? っていうか、そもそもこの光の点は何なんだ?」

「いったい何が目的かは分からん。だが、君らの話を聞いて思ったことがある」

 ガラス板に映る光点を指さしつつ、ダダラージァは続ける。

「この光点は恐らく、山や谷を無視して進んでいることから、宙を浮いて動いている……そう、飛空船なのではないかとな?」

「じゃあ、もしかしたら、その飛空船は……」

「君の故郷を滅ぼした船かもしれない。と、そう思うわけだよ。ほら、なんだか繋がる気がして来ないかね?」

「そりゃあ……なんとなく」

 駄目だ。もしかしたらそうかもしれないと思ってしまう。実はこの老人に乗せられているだけかもしれないのに。

 やはり、こういう裏を読むタイプの話について、俺は苦手らしい。アニーサ艦長がここにいれば、また違う見かたが出来たかもしれないが……。

「あ、けど待てよ? 確かに、俺達が狙う相手と、あんたが復讐したい相手は同じかもしれない。だけど……だからこそ、なんで俺達にそこまで情報を与えるんだよ。この地図を使えば、それこそ俺達ならこの光点へたどり着けるかもしれない。そうなったら、復讐相手を横取りされるかもしれないんだぜ?」

 復讐者が、誰しも自分の手で復讐を成し遂げたいと思うわけではないだろうが、だからと言って、積極的にその機会を無くす様にはしないのではないか? この老人とて自らの祖国を………滅ぼされてはいないとはいえ、緩慢な滅亡の道を進まされているのであるから。

「それだよ。君らには空を飛び、彼方まで向かえる羽がある。一方で私にはそれが無い」

「……そういうことか」

 ダダラージァには、この光点を追うための物理的な足が無いということなのだろう。つまり、復讐を成し遂げ様にもその手段がない。だから、手段がまだある俺達と手を組みたがったのだ。

「歩いてでもってわけには行かないしな。あんたはこの街の長だ。おいそれと街を離れられない」

 ダダラージァの考えについては、あくまで表面的な部分は良く分かったと思う。少なくとも、俺は納得してしまったのだ。これ以上、いったい何をどう思えと言うのか。

「……それだけではない」

 だが、当のダダラージァは、まだその納得で留めておいてくれないらしかった。

「まだ……何かあるのか?」

「私が、この街を離れられないというのは正しい。だが、それは私が街の長だからでも、飛空船という足を持たないからでもないのだ。これで伝えることは最後になるが……良く見ていて欲しい」

 そう告げると、またダダラージァが部屋の金属壁に触れ始めた。カシャリという、何かが擦れる音がする。

 音はどうやら、金属壁内部を何かが擦れる音であり、それが何度も鳴りつつ、部屋へと近づいて来ていた。

―――カシャリ、カシャリ、カシャリ

 音か部屋の中を不気味に鳴り響く。そうして、金属壁の一部が、まるで箱が出てくる様に、部屋の中でせり出して来た。

 箱の大きさはかなりのもので、両手で漸く抱えられるくらいと言ったところか。

「これを、良く見ろって?」

「その……中身だな。そら、見てみろ。これが私だ。私の空っぽの体。その本体がそこにあるのだ。ここに私の本体がある限り、私はこの塔の影響化から抜け出すことすらできん! こうなってしまったからこそ、私はこの塔を作った者たち恨む様になった!」

「何を……!」

 さらにダダラージァが金属壁へ触れると、出て来た箱が透ける。透けた箱はまるでガラスの箱の様だった。いや、むしろ水槽だろうか。

 箱の中は何か液体の様なもので満たされており、その液体の中に一つの物体が浮いていた。

 非常に気味の悪いその物体については、不幸にも俺はそれが何であるかの知識を持っていたのである。

 それは人の頭蓋。その中にある脳だったのだ。




「ちょっとしたホラーですわねぇ。わたくし、そういう血みどろに近い感じなのは苦手ですのに」

「それが真実だってんだから、ホラーなんて生易しいもんじゃあないんですよ。俺は」

 塔での俺は、ほぼ限界だった。いろいろと頭が痛くなることが多すぎたのである。

 一通りの話を聞いた後、時間が欲しいとばかりに、とりあえずの別れを告げた俺。その後、唯一、この手の話題に対して相談することができる、アニーサ艦長へ会うことにした。

 丁度、彼女ら側はこの街の長へ会えず、空回り気味の時間を過ごしていたそうで、宿で出会うことができた。

 もう一人の滞在者、ミナ導師については、まだ街の長の代理人と話しているそうである。

「そっちは良いんですか? ってか、なんでミナさんに自分の仕事を任せて……」

「何にも進展が無さそうな話なんですもの。でしたら、ミナさんに仕事をさせて、最近減退がちだった彼女のやる気を取り戻させる方が建設的など思いましたの」

 随分と酷い艦長がいたものである。ただ、そういう彼女の機転のおかげで、二人で話すことができているのだから、文句をこれ以上言うつもりは無い。

「それで、起こったことをそのまま聞かせていただきましたが……」

「どんなもんですかね? 何だか今さらになって、悪い夢でも見ていた気がする」

 なんだか見て聞いたことがあんまりにも常識から離れすぎて、そんな錯覚を覚えてしまうのだ。

「となると、かなりの部分で信用できるという話になりますわ」

「どういう意味で?」

「悪い夢ほど良く当たる。という言葉がございますから」

 どういう理由だとツッコミたくなるが、ある意味、的を射ているかもしれない。人に良い夢を見せるのは詐欺師のやり口であるが、悪い夢を見させるのは予言者のやり方だ。あの老人は、他人に現実を見せようとして嫌われるタイプと見た。

「で、あの爺さんが真実を語っていたとして、どうするつもりなんです? とりあえず、俺達が復讐する相手がどこにいるか、塔にある地図で分かる。そうなると、次はそこを狙って?」

「そういう考え方もできますし、それ以外にもしておくことがございますわね」

「しておくこと?」

「この地もまた、植民地として適していない場所かもしれないと、本国へ報告することですわ。あの塔がある限りは」

 そういうことか。あの塔は人々から言葉を奪っていく。それは何世代も経ってから聞き始める毒だ。

 すぐにはその影響が分からぬからこそ、むしろ恐ろしい土地であるとも言える。

「けど、そんな報告をして大丈夫なんですか?」

「むしろ願ったり叶ったりではありませんか。まだ計画そのもののゴールを見つけていないということ。一方で、別のゴールについては見つけられたかもしれない」

 計画の根本である植民地探しはまだ行う必要がある。しかし、計画の裏側である、未知の巨大飛空船の痕跡は見つけられたかもしれない。

 アニーサ艦長はそう言っているのだ。

「じゃあ、今回の旅に関しては、俺達にとっては成功ってわけだ」

「有益な情報を漸く掴んたと言った段階ですわね。そうして……」

 真剣な表情になるアニーサ艦長。その表情の意味については、俺でも理解できた。

「恨みが再燃するって感じですかね? あの爺さんの話を信じるってことにしたら」

「あなたもそう思いますか? いえ、この感情は再燃では無く、新たな火種と言った方が良いかもしれません。なにせこの度の話で、漸く分かったことがありますもの」

 分かったこと。それは幾らでもある。葬られた俺達の故郷。そこで見た巨大飛空船だけが復讐相手への手がかりとなっていた。だが、ここに来て、漸く新たな手掛かりを見つけたのだ。思うところは幾らでもあった。

 ただ、その中で一つ、もっとも強く出る思いと言えば……。

「奴らは明らかに悪意がある。それが分かれば、もうこっちに手を止める気持ちは無くなるってもんですからね」

 そうだ。あの街が滅びた日、復讐心を抱くと同時に、思うところがあった。あれは天然自然の災害と同じであり、恨みを抱くなど無為な事ではないかと。

「俺達は空を飛ぶ、それこそ人智を超える様な物から攻撃された。なら、それはまさしく人智を超えた何かだって事も考えはしましたが……」

「そうではないという確信が、この街に来て抱けましたわね。だって、このヴェルの街は、彼らの悪意に満ちている!」

 手を広げ、周囲を見渡すアニーサ艦長。そこには宿の部屋の景色しかないものの、きっと、心の中では街全体を見ているのだ。

 この街は、俺達の故郷と同じだ。あの巨大飛空船で国を滅ぼした様に、ここでは街の中心にある塔によって、滅亡への道を辿っているのである。

 あえて彼らとアニーサ艦長は表現した。そうだ。その方が正しい。彼らは明確な意思を持って、街を滅ぼしたり破滅させたりしている。

 それを止め、やられたらやり返そうとする人間が産まれることを、彼らに教えてやらなければ。

「次の目的地については、決まったみたいなもんですかね?」

「ええ、勿論、あなたが塔で見た光の点。その場所でなんとしてもペリカヌを向かわせるつもりですわ」

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