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フライトコロナイズ  作者: きーち
第6章
37/49

5話 ただ落とし穴があった

「だから……俺達の国は、住める場所を増やすって感じで社会を作ってるんだよ。こう、国に対する不満とか、飽きとか、そういうのあるだろ? そんなのが溜まると不健全だから、外側にそれを発散させるって言うのか? 外に旅に出て、そこで新しい土地を見つけ、住んで……発展させて? そういうのを続けていけば、内側の不満も、健全になんとかできるってわけだ。確か……そういうことだったと思う」

 俺は現在、ひたすらに、俺自身が参加している、飛空開拓計画についての話を続けていた。

 と言っても、計画参加前に、事前説明で事務官から行われた説明の3割くらいを再現できていたら上等な程度。

 だが、あの小難しい演説混じりの説明を、その程度でも再現できていることを褒めて欲しいくらいだった。

 さて、じゃあどうして俺が、こんな慣れぬ説明をしていると言えば……。

「どうシタ、モッと……話すとイイ」

 このヴェルの街の長、ダダラージァに、兎に角、なんでも良いから話をしろとの指示があったからだ。

 突然、何かを話してみろと言われたって、話す内容をすぐに思いつけるはずもない。それが普通であるし、良く知らない相手ならばなおさらだ。

 どうしようかと暫し考えたところ、とりあえず、こちらの立場を話してみることにした。何はともあれ、相互理解は大切だと誰かも言っていた気がするし、飛空開拓計画のことなら、この老人に詳しく話したって問題はないだろうとの判断だったのである。

 これ以上の小難しい考えなんて、俺ができるはずも無い。

「俺達に必要なのは、住める土地も勿論だが、切り開くって精神が大切なんだとさ。自分たちの手で、新たな土地、新たな人種と出会い、俺達という存在を広げて行く。争いやぶつかり合いよりもっと前向きだし、崇高だって、そう言われてる。俺にとっては、荒事には違いないと思うが……こんな話で良いのか?」

「そうダ……それで良い」

「……」

 話を続けていると、何か違和感を覚え始めた。その違和感の正体。それも話を続けているうちに気が付いてくる。

「どうした? 話はそれで終わりカ?」

 この老人の言葉だ。それがどんどん流暢になっていくのである。最初は片言の様なしゃべり方だったと言うのに、こちらの話を聞いているうちに、ほぼ、違和感のないものとなっている。

 これは演技か、それとも何かの作戦なのか。万が一……信じられない話だが、もしかして急速に言語を学習している?

(そんな馬鹿な。ちょっと話を聞いているだけで、言葉を理解し、話せる様になるなんて有り得ない……いや……)

 この街は有り得ないことが起こり得ている。そう、街の中心にある塔の力でだ。この老人にしたって、そういう力の一端を行使していると考えられるのでは?

「考え事をしている様だナ」

「あ、いや……別にそんなことは」

「いいや、私には分かるぞ。お前は、何か、猜疑心に富んでいる。正確には、余計なことを話さない様に注意しながら、誤魔化す様に表向きの話をしている。そう見える。違うか?」

「な!? いや、なんで……ってか、なんでそこまで話せる様に……!」

 既に老人の話す言葉は、違和感が無いどころか、ネイティブなレベルにまでなっていた。何がしかの力が働いていると言っても、ここまでであれば脅威だ。この様な技能、才能を通り越して異常としか言い様が無かった。

「やはり、直接の対話の方が、理解も解釈も早いな。この話し方で正しいらしい……ふむ?これは私の力だよ。塔の力でもある。が、私は、他の民衆が影響されている力は効かん」

 老人は、既に俺の話を聞く必要が無いらしい。早く別の話をしろとは言って来なかった。代わりに、その饒舌となった口で、自らの事を語り始める。

「そもそも、この街の長をする以上、塔の力に依存するわけにはいかないのだ。私という存在は、塔に万が一があった時、それでも動ける塔の予備であるということ。この街の長とは、あの塔の代理、予備という意味なのだ」

「予備だって? 自分で言う通り、街の……この街の長なんだろう? あんたは」

 一番のトップが、何かの代理なんて、意味が分からない。

「この街に、真の長がいるとすれば、それはあの塔だよ。あの塔のおかげで街は統一化している。あの塔の力のおかげ……と言うべきかな?」

 自嘲するかの様な老人の笑み。そうして視線は街の塔へと向けられていた。あの塔の予備。そう自分を位置づけている老人の心中はどの様なものなのか。俺には分からない。

「あの塔の力は、人と人との意思を疎通させるものだ。あの塔の力が及ぶ範囲において、人は言葉を必要としない」

「言葉を必要と? けど、今、話しているのは……」

 老人が首を横に振る。否定の意味だろうか。

「他者に意思を伝える方法を、我々は話し言葉として定義しているに過ぎん。獣であれば、言葉以外……表情や仕草でものを伝えることもでき、塔の力もそこに影響を及ぼしていたかもな。極端な話、目を合わせた時点で、意思を通じ合わせる力が、あの塔にはある。が、それを扱いきれないのだ。私たちは」

 老人の話を聞いていると、増々、あの塔への興味と疑問が湧いてくる。

 明らかに既知の技術による代物ではなく、さらに言えば、人間が扱いきれるそれでは無い気がするのだ。

「どうにも、あんた達すら……あの塔の力を使いこなせていないんじゃないって感じに聞こえるんだが」

「まったくもってその通りだよ。だから恐れている。この街の誰しもが、あの塔が突然、力を失うのを恐れているのだ。私と言う予備もそのためだ。私は……私もあの塔の力の影響かは知らぬが、他者の言語を、短期間に理解し、扱える様になる力を持っている。これは明らかに、塔へ依存した人種への対策としての力だ。この街に生まれながら住む人間たち……彼ら自身も気づいていない者もいるが、実は言語がバラバラなのだよ」

 かつて、この街の周辺にも幾つもの国があり、それが統合してこの街が生まれた。もし、彼らが統合する前から塔に依存した意思疎通を行っているのだとすれば、未だ、本人すら気づかぬうちに、別々の言語を話しているという可能性は十分にあるかもしれない。

「昨日まで話していた隣人が、急に会話すらできなくなるかもしれないってことか」

「そうだ。その時の混乱を治めるために、私の力が必要になってくるのだ。幸運なことに、私が必要となる時はまだ訪れていないがね」

 だから、老人には塔の力が及んでいないのかもしれない。彼には、言語を言語のままに理解しなければならないという使命がある。その使命のためには、むしろ、意思を疎通させる力は邪魔なのだ。

 そうして、彼に求められているのはその力である以上、実際の……政治に関わる事柄にはほぼノータッチであるとのことらしい。

 つまり、外部からやって来た者たちへの直接的な対応なども、本人は考える必要はないということ。

「って、なんだかんだ言いつつ、サボりかよ……」

「悪いかね? 君らの言語も憶えなきゃいかんという使命もあったが、こうやって達成することができた。後はまあ、他の者が勝手にやってくれるよ。それこそ、塔の力が存在する限りな」

 ヴェルの街の長と言っても、そんな立場ということらしい。すべては塔の元により統治される街。

(歪に見えるってのは気のせいか? 本当に、あの塔一本のおかげである街ってことで……)

 価値観の相違とも言える。俺達の国はその生存圏を広げることで繁栄を続ける側であり、一方で、彼らは塔の力で安定を手に入れた側。本質的なところで、理解し合えない部分があるのかも。

「ふむ……こうやって、この場所で話を続けるのもなんだ。どうかね? 私の部屋に来ないかね? まだ少しばかり、君らの言葉が知りたい。それに……」

「それに……なんだ? できればうちの艦長のためにも、あっちの交渉に参加して欲しいんだけどな」

 アニーサ艦長達は、今頃、どうしているだろうか? 目当ての相手を調査しようとしたのに、その相手が交渉に来ない。なんて状況に、困惑している頃だろうか?

「ああいう仕事は苦手なのだ。どうしてもという話で無い限り、戻る気はせんね」

 なんとも無責任な街の長がいたものである。一般民衆が聞いたらどう思うだろうか? こうやって路地裏までやってきたり、部屋で話をしないかと提案してきたりするのも、そういう後ろめたさがあるかもしれない。

「けど、部屋で話なんて言われても、これ以上、何か詳しく話せる事なんてないぜ?」

「そうでもあるまいよ。もう少し、君らの言葉を理解できれば……面白い話ができるはずだ」

 何か意味深な笑みを浮かべながら、ダダラージァはこの場を動き出す。今の俺には、その後ろを追うことしかできなかった。




 案内されるは街の長であるダダラージァの自宅。それはもう立派な屋敷なのだろうと思ったのであるが、何故か、狭い集合住宅の一室に案内されることになる。

「一人暮らしであるからな。こういう場所の方が落ち着くのだよ」

 本人の姿だけは、居城に戻った王という風格のあるダダラージァ。だが、部屋は狭く、そうしてベッドや本棚。そうして小物で溢れていた。

 ただし、ごちゃごちゃしている様に見えるものの、これで実際の物質量は少ないのだ。単純に、部屋の狭さで物が詰まっているだけで。

 まあ、俺にしたって、こういう場所の方が落ち着く。だいたいが、ペリカヌの船室はこれよりさらに狭いのだから。

「で、こんな部屋まで客人を案内して、またお話ってわけかい? まだこっちの言葉を学ぶつもりとか?」

「いや、道中で幾らか会話させてもらったから、話を一方的にして貰わなくても、君らの言語については理解が進んだよ」

 驚異的な能力だ。これも塔の力の影響か、それともダダラージァ個人の才覚なのかは分からない。が、違う言語の人間に意思疎通を行わせる塔の力に匹敵するレベルのものではあると思う。

「じゃあ、ここに俺を呼んだ理由は?」

「ふむ。一つ気になったことがあってね」

「気になること?」

 俺達、ペリカヌでやってきた外来人についてだろうか? そうであるならば、答えられる分は答えておくべきかなと思う。

「ちとな……私のこの力。言語を理解する力であるが。そも、言語とはその者の思考や感情を司っていると、そう思うわけだが、どう思うね?」

「いや……そう言われても……確かに、何か考える時は、自分の言語で考えるわな」

 言われてみれば、頭の中で思考するにしても、誰だって言葉で考えている。言葉を使わずに考えたり、違う言語で頭を働かせたりはしないだろう。

 そういう意味で言えば、確かに言葉に依存している部分というのはある気がする。

「そう。言葉を知るというのは、相手の心の内側。少なくともその一部分を知るということにも繋がる。私の様に、複数の言語を理解する立場になると猶更だ」

「それは……どういう?」

 人生経験が豊富だから、人を見る目があるとか、そういう類の言葉だろうか? となると、老人が自らの知識を自慢しているというだけになるが……。

「直感がな……私でも理由は分からんが、お前、何か、さっき説明した飛空開拓計画とやらに、薄暗い思いを持っているだろう?」

「は?」

 突然、そんなことを言われて困惑する。そうして頭を働かせる。こういう時、そんな思いを抱いていない人間は、どんな反応をするだろうという思考。

 実際、薄暗い思いを抱いている側としては、重要な問題だった。

「いや、何のことだ?」

 とりあえずは、困惑をそのまま口にしてみることにした。唐突な言葉を向けられたことは事実なのだ。普通の人間だって、こういう時は首を傾げるものだろう。

「理由は分からんと言ったろう? で、あるからして、はぐらかされたら確固たる証拠は出せなくなる。話もここで終わりということになるが、その隠した感情……どうにも、君らのリーダーであるかな? 艦長と呼ばれる彼女にも感じる」

 じろじろとこちらを見てくるダダラージァ。その口元には笑みが浮かんでいると思いきや、ただの横一文字が開いたり閉じたりしているだけ。

 こちらを嘲るわけでも、遊んでいるわけでも無い。なら、何故、こんなことを聞いてくるのか。

(言葉だけで、相手の感情が分かるってんなら、猶更慎むべきだろ?)

 今、ダダラージァは確実に、俺の危険な部分を逆撫でしている。それでも俺が怒り出さないのは、この老人に対する興味と、計り知れなさがあるからであった。

「俺とアニーサ艦長が同じ感情を……ね。ったく……冗談だったら許さないところだが、詳しく話してみろよ、爺さん。内容如何に寄っちゃあ認めても良いぜ?」

 ただ、こちらが抑えている怒りを暴発させないとも限らない。そんな忠告を言葉にしないのは、単に、別に爆発させても良いかと思っているからだ。

(いくら相手が街の長だって、不用意に人の心に踏み込むってんだから、それくらいのリスクは覚悟して欲しいよな?)

 さて、相手はどう出てくるか。期待に近い感情を覚えながら、俺はダダラージァの次の言葉を待つ。そうして、待った後に来る言葉は、少なくとも、俺の感情を暴発させるものではなかった。

「君らと同じ感情を私も持っていると言えば……話を続けさせてくれるかね?」




 もしかして新手の詐欺なんじゃあないか? そう疑いを持つのも仕方ないと思う。まさか、正体すら分からぬ相手への復讐心を持った人間が、この街にいるなんて。

 ダダラージァは語った。彼もまた、何者かへの復讐を誓う存在なのだと。

「私がこの力を手に入れたのは、8つくらいの時だったよ。生まれもってのそれじゃあない。その時までは、確かに私はただの人であった」

 だが、その時は訪れる。彼はその日、子どもらしく家を出てはしゃいで走り回っていたという。

 そんな時、一人の黒ずくめの男に出会った。黒い帽子に黒いコート。コートの内には黒いスーツを着込んでいたという。

 その姿を見たその瞬間が、ダダラージァにとっては人生の転機となったそうなので、しっかりと憶えているのだろう。そうでなくても、全身黒ずくめの男なんて、記憶にこびり付いてしまう外見ではある。

「人に出会ったそうですが、その人が……爺さんに力を?」

「ああ、そうだ。街の人間ではなかった。だからこそ興味を持ったのだ。近寄り、誰だと尋ねる私に、その男はこう返してきたよ。あの塔をどう思う? とな」

 街の人間ではない。それはヴェルの街では特別な意味を持つはずだ。俺達がそうである様に、この街では外来の人間がそれだけで希少な存在だから。

 一方で、そんな相手へ簡単に話しかけてしまうくらいに、この街の人間に警戒心が無いのは、当時も変わらないらしい。

「ってか、それ、会話になってないな」

「然り。実際、相手は会話などするつもりなど無かったのだと思う。極論、何がしか機会を探していたのだろうさ」

 ダダラージァの目元が下がる。その目線は暗く、そうして鋭い。こういう目付き……どこか懐かしい気がする。俺自身がずっと抱き続けている暗い感情に通じる目だ。

「目を付けられたって感じか」

「私はな、塔は大切な物だと、そう答えたよ。親にそう教えられていたからな。そうして相手はこう言った。なら、それを守ることになるのは光栄だろう? とな」

「それで?」

「それで終わりだ。気が付くと私は、少し離れた空き地で眠っていた。なんだと疑問に思い、家へ帰ってみると親に叱られたよ。なんでも、3日ほど私は家を出ていたらしい」

 ちょっとしたオカルト話だ。話しているのが真剣な表情をした老人でなければ、そう思っていたに違いない。だが、事実だとしたら、奇妙な話となる。

「それで……その後に力が?」

「真っ先に起こったのは、周囲の言葉が分からぬという状況だったな。母の言葉は分かった。だが、父の言葉が分からなかった」

 つまり、塔の力が及ばなくなってしまったということらしい。そうして、彼の母語は母親の言葉だったと、塔の力が通じなくなって初めて分かったという。

 それまで、父と母が別々の言葉で話していることすら理解していなかったというのは、中々に凶悪だ。

「それで、それがショックで復讐を?」

「まさか。塔の力は私に及ばなくなったが、代わりに、今の力が手に入った。バランスで言うなら、多少のショック、程度で済む話だ」

 ならば、その後に、ダダラージァへ深い闇を背負わせる何かがあったということか。

「いったい、その後の爺さんに何が?」

「塔の力が無くなり、直に人々の声が聴ける様になった事で、私にだけ分かることがあったのだ。それは……言語を素早く理解できるはずの私でも、分からぬ言葉があるという事実だな」

「難しい言語ってことで?」

「違う。むしろ簡単だ。いや、簡素過ぎる。街の住民の1割程度が、言葉すらも話せなくなっているという事実を知ったのだよ」

「なんだって?」

 言葉を話せないとはどういうことだ。良く考えてみる。この街の住民はすべて塔の力の影響下にあると仮定して、すべての言語が翻訳される状態なのだとしたら……。

(例えば……正式な言語を学ばず、ただ叫び声を発する程度でも意思は通じるってことになる。言葉ってのは親から子どもに、自然と教わるもんで、その親子の会話すら塔の力の影響を受けてるんだよな……)

 だったら、言葉が伝えきれず、伝えきれなかったことで発生する間違いも、放置され続けるかもしれない。間違っていたとしても、意思は通じるのだ。間違いは間違いのまま、誰も気づかずに大きくなっていく。

 そうして、その間違いに漸く気づく人間が現れる。それがダダラージァだ。

「この街は、塔のせいで、言語の学ぶ機会が極端に少なくなっていて、結果、言葉をそもそも理解していない人間が増えてると、そういうことか」

「そうだ。言葉の翻訳は塔の力と呼ばれるが、私には呪いに思える。あれは人から言葉を奪うものだ。さっき私は、人は言葉によって物を思い、考えると言ったが、言葉を完全に奪われた人間はどうなるのだろう? もしや、言葉を理解できぬ赤子に戻るのだろうか?」

 少しずつ、ダダラージァの復讐心が、どの様なものか分かりかけて来た。それは、ひっそりと毒を振り撒いた者への怒りだ。

 誰もがその毒を良いものだと思いながら、心の何かを蝕まれていく。そんな毒がこの街には溢れていた。

「あんたが復讐を誓うその存在は……あんた自身、分かっているのか?」

 俺達の様に、良くも分からぬ存在に挑もうとしているのか、それとも諦めかけているのか……もしくは、正体を既に掴んでいるのか。

「伊達に長く生きてはいなくてな。奴らの手口は知っている。今、どこにいるかについては分からないが……それを話す前に、だからこそ聞いておきたい。お前と、お前たちのリーダーであるあの艦長が、いったい何に対して私と同じ感情を向けているかを。もしやそれは……」

 ダダラージァと共通の相手かもしれない。いや、むしろ、ダダラージァの方が情報を多く持っているのかも。

「そういうことなら、こっちだって幾らでも話をする準備がある。だから別に、わざわざこんなところへ案内する必要なんてなかったんじゃあ?」

 俺はこの場で両腕を広げ、今いる場所を示す。そう、ここは既に、ダダラージァの部屋ではない。話の途中で部屋を出て、また違う場所へと移動していたのだ。

「まあ、誠意みたいなものだ。こちらの要求を通すためには、まず、こちらが何か対価を渡すのが望ましいだろう?」

「だからって、まさかここへ案内されるとは思ってもみなかったよ」

 ここ。この場所を見渡す。螺旋階段が上へ上へと続くこの場所は、思いのほか狭かった。外観から見えるものよりずっと狭い。外壁が分厚いというわけではないだろう。恐らくは、何か、妙な機能を発揮する装置が、そこかしこに詰まっているのだ。

 自由な空間はそれらの装置以外の場所にしか存在しない。そうして、そんな狭い空間だけに、上へと昇る階段が存在するというのは、かなり不気味な印象を抱かせてくる。

 そんな場所こそ、ヴェルの街の中心にある塔。その内側なのだ。



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