4話 物語性も十分
「でしたら、アーランさんは塔について調べる役をしていただきますわね」
そんな言葉を、アニーサ艦長から投げ掛けられたのは昨日のことだったか。他にすべきことも思いつかなかったため、俺は立ち入りが許可されている場所まで塔に近づき、その巨大な塔を見上げていた。
「調べるったって、どうしろってんだよ……」
いきなり任された役目に対して、何をどうして良いか困っていた。巨大な塔のその周囲は、石造りの塀と金網で区切られている。全力を出せば登れなくはない高さだろうが、かなり目立つはずだ。
(さすがに、外来の人間がそんなことするわけにはいかないか……)
区切りがあるということは、その向こう側が、この街の人間にとって大切な場所だということだ。
それを外から来た存在が無理矢理突破すれば、それだけで心象が悪くなる。いや、それだけで済めばまだ良い方だろう。争いになり、致命的な結果を齎さないとも限らない。
「出入口は一応あるんだよ。入れてくれって頼んだら入れてくれるか?」
案外、それで解決するかもしれない。だから最後の手としては置いとくとしようか。そのためには、あくまで街の人間との関係性は良好な方が良い。やはり無茶なやり方は控えるべきだろう。
「最後の手段は出来たとして、後は……中に入れないなら入れないで、誰かから話を聞くってのも手か」
近所で案内のパンフレットなんてあれば良いのだが、外来の人間が少ない街であるため、そんなものは期待できそうにない。
アニーサ艦長の予想が正しければ、そもそもパンフレットがあっても読めない可能性がある。
(言葉を翻訳してくれるってんなら、文字もなんとかなんないもんかね?)
そう考えながら、塔の周囲を歩き、誰か丁度良い相手がいないものかと探す。そしてさっそく見つかった。塔を見上げている老婆である。
何か塔に思うところでもあるのか、塔がある区画から隣接する形で整備された公園のベンチに座り、じっと塔を眺めているのだ。
何かある。俺でなくともそう思うだろう。塔に対する感情が強いとなれば、きっとこちらが塔について尋ねれば、それなりのことを教えてくれるはず。
俺はさっそく老婆へと近づき、話し掛けることにした。こういう時、言葉が通じるというのは本当に便利だ。
「すみません。少し良いですか?」
「あら、見ない顔だけど、どなたなのかしら?」
「あ、いえ、突然で本当にすみません。俺は………」
とりあえずこちらの立場、ヴェルの街の外からやってきた人間で、今は許可を貰い、街を見て回っていること。その過程で、街の中央にある塔に当然ながら興味を持ち、これは何なのかと尋ねたい旨を伝えて行く。
「ああ、お若いのに大変ねぇ。塔について聞きたいというのも、お仕事なのかしら?」
おっとりとした口調で、老婆が聞いてくる。やはりと言うか、これで確定なのだろうが、外から来た人間に対して、この街の住人はそれほど警戒していない事が分かる。
「仕事半分、興味半分ってところです。やっぱり、街の中であんな高いものが堂々とあるなんて、気になるじゃないですか」
「そういうものなのかしら? 生まれてからずっとあるものだから、そんな風に考えたことが無かったわぁ」
街の外に出ない彼女らは、あの塔が日常の一つなのだろう。世界を構成する一要素と言っても良いんじゃないだろうか。
むしろあの塔が無い景色こそが、この街の人間にとっては違和感のある景色なのやも。
(あれだけの高さだから、かなり街から離れても見えるだろうしな)
塔を周囲の景色から無くそうとしたら、それこそペリカヌの様な飛空船で旅に出るしかあるまい。ちょっと街を出て用事、程度であれば、常に塔はどこかから見える。それだけの高さがあった。
「それで、あの塔についてなんですけど、そもそも何なのでしょうか? いったい何のためにあれがあるのか……」
「それはほら、このためよ」
老婆は口元に人差し指を当てる。しかしその仕草が何を指しているのかが俺には分からなかった。
「この……とは?」
「言葉よぉ。わたしやあなた……あなた、外から来たのなら、きっと別の言葉を話していらっしゃるんでしょう?」
言葉と、老婆は確かにそう言った。謎に思っていたこの街の言葉について、こんなところに答えが転がっているとは。
(やっぱり、聞けば話は早いってことか)
ここで粗方、情報を集めてしまっても良いかもしれない。アニーサ艦長に対して、自信満々で報告できることになりそうだし、それが良い。そうしよう。
「つまり、つまりですよ? あの塔の何か……力の様なもので、言葉が通じてるんだと、そういうことですか?」
「ええ、あの塔はね、私たちの言葉を一つにしてくれているの。昔、この街の周囲にも、たくさんの街があったそうよ? けど、争いばかりが起こっていたって聞くわ。とても悲しいわね」
「争い……戦争?」
「そうね。そう表現できるかもしれないわ」
思想の違いから発生する集団同士の争い。それは確かに嫌なことだろう。だが、その戦争自体が、老婆が生きてきた時代よりもさらに前のことらしい。
「戦争の理由はいろいろあったそうよ? 物とか土地とか考え方とか。けれど、とても偉大な方が思ったそうなの。そういうものは、話し合えば解決できることなんじゃないかって」
老婆は語る。どんな問題も、意思を疎通し、語り明かせば何時かは解決する。解決できなくても妥協はできるんじゃないかと。
だが、その語ることが難しかった。幾つもあった街は、それぞれ違う言語を話していたからだ。
「根本的な問題に思えますが……」
「そう……けれど偉大な方はそれを解決した。だから偉大な方と私たちは呼んでいるわ」
その偉大な方。まるで神でも崇拝するが如く、憧憬の念を感じさせる目線で、老婆は塔を見つめている。
「塔は……その……偉大な方が作ったものだと? そうして言葉を通じさせる力を発揮した」
「そう言われているわ。今でもあの塔は力を発揮して、言葉を、まったく違う言語を共通のものとしてくれている」
その構造や絡繰りについては、老婆も分からぬらしい。だが、それで良い。俺だって、今、ここで機能について説明されても、理解できる自信は無いから。
「街の周囲には他の街なんて発見できませんでしたけど、それについては? 話の展開上、幾つもあった違う言語の街は、言葉を通じ合わせたことで和解したんですよね?」
「ええ、暴力で争い合う事は止めて、話し合いを始めたそう。勿論、それでいきなりすべてが解決したわけじゃあないんでしょうけれど、相手を滅ぼすとか、そういう物騒なことは考えなくなったって、そう伝えられているわ」
ならば、今の現状はどうなのか。
「この街以外の街が無くなったのは……単純に、そういう流れだったからなのよ」
「流れ……」
「ヴェルの街は、塔の周辺に出来た街なの。街があって塔があるんじゃあなくて、塔がある場所の周囲に人が集まって街が出来たの。象徴みたいなものだったんだけど、大切に思う人がたくさんいて、自然と沢山の人が集まって来た」
そうして、その後は本当に流れの話だった。人の大半は、発展した場所へ住みたがる。人間は社会的生き物。なんて事を聞いたことがあるが、その社会とは、人が多くいて、大きく発展している場所を指しているのだと思う。
人の数は、急に増えたり減ったりしない以上、発展した場所へ人が集まった結果、発展しない場所から人が減るのだ。
結果、ヴェルの街は発展を続け、その代わりに周囲の街はその力を減退させて行った。
(本当なら、文化や言葉の違いがそれに歯止めを掛けるんだろうが、とりあえず言葉については排除されちまってるんだよな)
話し合いとやらを続けていたのだろうから、文化面についても、抵抗をどんどん無くしている段階だったのやもしれない。何にせよ、行き着いた先が、塔とその周囲にあるヴェルの街だけがあるというこの状況。
(それって、侵略や戦争で他の街を滅ぼすのと、どう違うんだ?)
そんな疑問が頭を過るが、それは俺が深く考えるべきことではあるまい。これ以降も老婆の話を聞き続けるつもりだったが、一通りの情報を集めることが出来た。行動の結果は上々だと言えた。
ヴェルの街滞在中の宿は、用意された場所を使うことになる。外来の人間が少ないというのもあって、宿というより、借家の一室を借り受けて、臨時の宿としてくれたらしい。
一室一室が広く、それが4部屋も用意されていることからして、結構、良い待遇で扱われているのだと思う。
そんな部屋の一つで、俺達は4人集まり、今後、どうしていくかの話し合いを進めていた。
「一番の懸案事項はペリカヌへの補給ですけれど、どうなっていますかしら?」
勿論、この会議の議長はアニーサ艦長だ。彼女が問い掛け、こちらが答える。という形で話は進んでいた。
「無償で、というわけにはさすがにいかんかったですな! なので、今回はあくまで新しき出会いを祝して補給物資を提供するという形になります! 次回以降は、幾らかこちら側の特産品などを所望したいそうでありますよ!」
ブラッホの物言いに、思うところが生まれる。
次回以降……そうか、ここに人が住んでいると判明した以上、これから先の交流も期待されているのだ。
良好な関係とは、両者共に得がある関係だと聞く。今は交流する中で、そういう関係を作り出そうとしている段階なのだろう。
「上々な結果ですわね。交渉をしていただいたブラッホ班長とミナ導師には感謝ですわ。とりあえず、直近の懸念は消えました」
となると、次の議題となるのは、今後のヴェルの街との付き合い方となってくるだろうか。
「わたくしとしては、この街の周囲は生活に適した環境だと思いますし、もし、周辺地域への植民を、街の人間から許可を得られるのであれば、是非とも計画を進め、計画そのものの成果としたいなどを考えていますわ」
いけしゃあしゃあとそんな事を言ってのける。いや、実際、本音の一つであるのだろう。計画の成功そのものには賛成するべきだ。一方で、さらなる貪欲性を発揮し、別の願いも叶えようとするのが彼女なのだ。
「ということは、ここで私たちの旅は終了ということに……?」
ミナ導師がアニーサ艦長の言葉に対して、喜びとも残念とも取れるような反応を示す。ミナ導師がどんな思いでいるかについては、本人にすら分かるまい。つまり彼女は、いきなりの変化へ混乱しているのだ。
「ゴールの一つになるのかも。という段階ですわね。もし本当にゴールとするつもりであれば、まだまだやる事はございますから、実際、それほど近い場所にあるわけでは無いでしょうけれど……」
裏の思いが無くても、そういうことになるとは思う。いくら植民地として周囲の土地を開拓して良い。などという許可がヴェルの街から出ているとしても、本国へ報告しなければならないし、どの土地をどの様に開拓するか。開拓者としてはどういう人選をするか、またはどうやって移動させるかなど、まだやるべき問題が山積みだ。
それに、もっとも重要な点について、まだ確定もできていない。
「ちょっと良いですか?」
もしや話題にすら上がらないかもとやや心配し、議題に上げてみることにした。
「ではアーランさん。なんでしょう?」
「穿ち過ぎやもしれませんが、この土地が開拓に適した土地かどうかも、まだわかんないですよね?」
「……街そのものが危険かも。という可能性も含めての話ですわよね?」
その通り。一見、ヴェルの街は友好関係が築けそうな街であるが、何か、もしかしたら落とし穴があるかもしれない。
彼らがこちらを騙そうとしている可能性。純粋な善意を抱いていたとしても、文化や考え方の違いから、害を及ぼしてくる。等々、心配すべきことは幾らでもあると思う。
これらの心配がしたってキリの無い類ならば無視もできるのだが、ある程度は対処できるものであるからして、俺達はその対処を仕事とせねばならないと思う。
「とりあえず、俺が街で集めた情報について、洗いざらい話してみますので、艦長や他のお二方の意見も聞いてみたいんですが……」
俺は昼間、街の住人である老婆から聞いた話を、彼らにも伝えて行く。こういうのは共有することが大事だ。同じ知識であっても、考え方の違いから、新しい発想が生まれるからだ。
「一番の謎、言語に関する部分については、どうやら解決した形になるのであるかな?」
俺の話について、ブラッホを含め、三人が一番興味を示したのはその部分だった。誰だって、この街の人間が自分たちと同じ言葉で話していることには、疑問を抱くものだろうから。
「いえ、解決ではないのでは? 問題の先が、あの塔に移っただけに思えますが」
ミナ導師が、ブラッホの言葉を否定する。確かに、謎の一つは解けたが、代わりにまた別の謎が生まれている。そもそも、言葉を通じさせるあの塔とはなんなのか?
これでは到底、解決などとは言えない。
「問題の対象が一つに絞れたということは進展と呼んでも良いのではないでしょうか? いえ、塔だけが疑問点ではありませけれど……」
アニーサ艦長は、俺が手に入れた情報について、ある程度の価値を見出してくれたらしい。だが、塔以外の疑問点とは何であろうか?
「あのあからさまに怪しい塔以外にも、気になることがあるんで?」
「というより、その塔に関わる話を聞き及び、そこに関連する形で、新たに生まれた疑問が一つ」
人差し指を一本だけ立てながら、アニーサ艦長は、他の、俺を含む3人を見回した。いったいどんな疑問か、想像付く人間は他にいないのかと、暗に聞いているのかもしれない。
「ふむ。つまりこうでありますかな? この街の長について、塔が人の言葉を翻訳する力を持っているとするのなら、その力の影響を受けていない彼の存在は、何がしかの特異点である……と」
ブラッホの発言は正解だったらしい。アニーサ艦長は頷き、さらに話を続け始める。
「塔が、力を及ぼす対象を判別しているのか、それとも生来、その力が及ばない存在であるのか。もしどちらかであるとして、そんな彼を街の長にしている意味とは何であるのか。疑問は尽きません。ですが、ただ一つ……この疑問の存在に対して、利点がございますの」
さて、またアニーサ艦長から課題が出た。良く考えてみろとの事であろうが、やはり俺は、そこらを考えるよりかは、命令されて行動する方が気楽に思える。
俺がそんな考えであるので、代わりに答えてくれたのはミナ導師であった。
「塔を深く調べるのは論外……今後のこの街との関係性に関わりますでしょう。ですが、この街の長について探るのは、これからの交渉において、幾らでもできるし、自然なこと……ということですね?」
「まさにですわ。その通り。これより先は、この街の長、ダダラージァ・ラルフェンルどのに対する調査を進めたいところですわね。恐らく、この街での滞在時間はそう長くは無いでしょう。いくら補給の目途が立ったとはいえ、だいたい3日ほどと思っておりますから、その間に集められるものは集められるだけ……」
3日。思ったより短い。ただ、飛空船待機組に関しては、補給があるとはいえ、その間も旅を続けている様なものであるし、現状、対価を持たない以上、ヴェルの街から無償の補給を受け続けなければならないという問題もある。
アニーサ艦長が言う3日というタイムリミットは妥当なものなのだろう。
「行動する班については我々4人ということでよろしいのですかな?」
「それなのですけれど、ブラッホ班長には、ペリカヌへ一旦戻っていただき、少なくとも他の班長の方々に説明の方を行っていただきたいのです。ミナ導師の方は、わたくしに付いていただき、わたくしと一緒にダダラージァどのとの交渉を行う中で、相手の観察を行っていただけませんかしら?」
それぞれに新たな指示をアニーサ艦長は行っていく。そうして最後、俺の方を向いた。
「そうしてアーランさんは、ブラッホ班長を送り届けた後、再度、街へ戻り、今回の様な情報を集めて欲しいのです……」
つまりは諜報の仕事をしろということらしい。一体何のどんな情報を? そう聞きたいが、アニーサ艦長があえてそれを伝えないのは、きっと、俺にこう伝えるためだろう。
集める情報は俺に任せる。言葉に出来ない程度に危うい事をしても構わないからと。
「って言われてもなぁ……諜報の訓練なんてした憶えがねえぞ?」
次の日になり、一旦、ブラッホをペリカヌへと送り届けた俺であるが、アニーサ艦長の指示通りに、ヴェルの街へと舞い戻ってきた。
が、明確に成果がありそうなこの街の長との交渉には他の2人が行っているため、俺は貧乏くじを引いた形になるのかもしれない。
(手段を選ぶなって感じで指示されたけどな、そもそもの手段が思いつかないっての)
またアニーサ艦長に指示を仰ごうかと思うものの、今はきっと交渉中であろう。となれば、おいそれと会える時ではないはず。ならばやはり、自己判断で動くしかないのだろうか。
「言葉が通じるのがせめてもの救いか? 前みたいに、兎に角、人に話を聞いてみるとか……って、おいおい! あれは……」
色々と悩んでいるところで、聞き捨てならぬ……いや、見過ごせない光景を目にする。そこには、一人の老人が歩いていた。
まあ、街の通りである。老人が歩いていることもあるだろう。だが、その老人の姿について、俺は良く知っていた。そうして老人は、こんなところに居てはいけない人物だったのだ。
「おい! ちょっ……ま、待てって! なあ、あんた! 確か、ダダラージァとかいう!」
その老人は、今頃、アニーサ艦長と交渉を行っているはずの、ヴェルの街の長だったのだ。老人は自分が話しかけられているのも気が付かず歩いていたが、こちらが名前を呼んだことで、さすがに振り返ってこちらを見た。
「よ、良かった。そう、あんただよ。ちょっとあんたに用があって……ああ、くそっ。言葉が通じないのか」
「………」
怪訝な表情でこちらを見ているヴェルの街の長、ダダラージァ。いったい何の用だ。そんな感情をこちらへ向けていることは、それだけで分かる。
ただ、問題はこちらの方だ。名前を呼ぶことで、それは通じた様子であるが、それ以外の言葉はきっと通じないだろう。
なんでうちの艦長達の交渉予定のあんたがここでうろついているんだ。そんな言葉を伝えたいのに、それが出来ない。単純な感情だけでやり取りできるのならば、会話なんて存在しないのだ。
「あ、そうだ。この街の人間に翻訳してもらえば良いんだよ」
名案だ。この街の人間なら、この街の言葉を話せるだろう。近くにいる人間に通訳を頼もうと周囲を見渡した、その瞬間。
「あん? な、なんだよ。爺さん」
ダダラージァが服の裾を掴んできた。一体、この行動には何の意味があるのか? 今度は表情を見ても分からないままだ。
ただ、ダダラージァはこっちに付いてこいという様な仕草をした後、俺が付いていけるくらいの速度で(老人だから、そもそもノロノロとした動きであるが)歩き始めた。
状況が状況なので、俺も大人しく付いていくことにする。どうやら邪険には扱われていないらしい。
いったいどこへ向かっているのか。様子を伺っていると、何やら街の路地裏らしき場所へと到着する。
人気が無く、やや薄暗いその路地裏であるから、もし相手が筋骨隆々の男だったりすれば、警戒するところだ。
ただ、今現在、前にいるのは老人一人。それほど、危機感を覚える状況では無かった。
「で、何なんだ爺さん。こんなところに移動して何を……って、やっぱり言葉、通じないか」
「イヤ……ソウデモナイ」
「は!?」
老人、ダダラージァから、俺でも分かる言葉が飛び出した。何だ!? この老人は喋れないはずじゃあ無かったのか?
(いや……喋れないってのは、相手からの情報だけだったから、それが嘘の情報って可能性もあるわけか)
実際に、喋れるダダラージァが目の前にいる。少なくとも、真実は違うという結論は出ているのだ。
「爺さん……あんた、喋れたんだな」
「マダダ……モウスコシ……ハナセ。ソウスレバ、モット……ハナス……ハナセ? デキルヨウニ……ナル……」
ダダラージァの口から、どこか聞き取り辛い言葉が続く。いったいそれはどういうことなのか。疑問だけが浮かぶこの状況であるが、俺はとりあえず、彼の言うことを聞くことにする。
とりあえず、何がしかを話してみようと考えたのだ。




