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フライトコロナイズ  作者: きーち
第5章
31/49

4話 休日には休日の難題を

 さて、妙な予感を憶えつつも、休日は過ぎて行く。休日が過ぎ去れば、やってくるのは次のフライト。

 日程は既に決まっており、この休日が続くのはせいぜいあと二日程。新たな仕事へ気を引き締める者もいれば、残り少ない休みを思いっきり過ごそうとする者もいた。

 そんな中で、俺がどちらかと聞かれれば、準備をする側であると言える。

「今度はあのフォーメーションを試してみませんか? D案の」

「単純に難易度が高いだけで、あんまり有用な奴じゃないだろあれ。なんでわざわざ一列になるんだ。バラけてた方が絶対に動きやすいって」

「わかってませんね。一列になることで後続の飛空船の空気抵抗を減らし、航続距離が延びるっていう伝統的なフォーメーションですよ!」

 と、こんな感じで、小型飛空船での試験飛行を繰り返している。休日を過ごせば、嫌でも腕というのは鈍るもので、本番でその鈍った腕を使うなんてことは無い様に、義務では無いが、この様に訓練を繰り返しているのだ。

 今はちょうど、数回の飛行を終え、後輩のレイリーとペリカヌの小型飛空船格納室で訓練の反省を行っていた。

「うっそくせぇなあ。並んでるだけでどれだけ伸びるってんだよ。っていうか、そこまで長距離飛ぶって、大型飛空船の搭載機としちゃあどうなんだ?」

「前提として、開拓地の探索って任務が僕らにはあるじゃないですか。長距離を飛ぶことへの利点は十分にありますよ。それに空力を舐めちゃあいけませんからね」

 とまあ、こんな感じで、自分の知識と相手の知識、または経験とを擦り合わせて行く。開拓計画が始まってから結構期間が過ぎているため、それぞれの能力なんてものは既に把握してはいる。

 だが、こうやって頭の中まで飛空船操縦士として働かせていく中で、操縦士としての勘を研ぎ澄ませて行く事ができる。それが目的の訓練でもあった。

「ふうん。じゃあもう少しだけ試してみるか。って、班長はそう言えばどうしたんだ? だいたいこれぐらいの時期なら、班長も訓練に参加してくるはずだろ」

 ペリカヌの小型飛空船操縦士は3人。だから3人で共に訓練するのがもっとも効率が良い。それぞれ、操縦士としての気概は十分にあるため、訓練を欠かすということは無かったのだが……。

「何か、班長の人たちは呼ばれていることがあるみたいですよ。ちょっとした重大事らしいです」

「重大なのかそうでも無いのかわかんねぇ話だな。いったい何があったんだよ?」

 最近まで、色々とペリカヌ関係以外の部分で動いていたため、内部事情に関しては疎い立場になってしまっていた。

「ほら、アーランさんも勧誘来ませんでしたか? サーイルさんの」

「サーイルって……報告官の? この休日じゃあ一緒に飯を食ったくらいで……あれか?」

「そうです。それですよ」

 レイリー曰く、サーイルはああいう事をこの休日の間、繰り返していたらしい。その成果は、俺の想像以上に反響を呼んだらしく、船員の一部で、今の艦長の方針はどうなのかという意見が噴出し始めているとのこと。

「一部って、ただの一部だろ? 大事になることも無いんじゃあ」

「班長の一部も乗っかっているってことをただの一部って表現するなら、そうなんでしょうね」

「班長連中もかよ……」

 何をしているんだと言いたい。

 別にアニーサ艦長へ全面的な反抗をしているわけじゃあないのだろう。ただ、サーイルに言われて、今まで不満が無かったわけでないことを思い出し、それが噴出している。という状況なのだろう。

 だが、それだって、出発を控えた今日の日にそれが起こるのは厄介だ。

「……ちょっと様子を見に行ってみるか」

「見に行くって、行ってどうするんですか?」

 何やら半眼になってこちらを見つめてくるレイリー。無駄なことをしていると呆れられたのだろうか。

「いや、何もできないかもしんないけどな、一応、艦長に造反者なんて出たら事だろ。大変だ」

「艦長……そういえば、先輩は艦長を擁護する側の人間ってことですか?」

「擁護って……船員ならそれが普通だろ。お前はどうなんだ」

 なんだかレイリーは、妙にトゲのある話し方をしている。あれか、もしかしてサーイル報告官にあてられた側なのだろうか。

「僕は別に……どっちでも良いですよ。なるようになった後になるようにします。けど、どうにも先輩が艦長を気にしてるみたいだったので」

「気にしてるって……まあ、艦長が順調な方が、開拓計画も上手く行くと思うぜ?」

「本当にそうなんでしょうか?」

 含みある言葉を返してくる。恐らくは、詳しく聞いて欲しいと思っているに違いない。

「やっぱりお前、何か艦長に不満があるんだろ」

「……艦長にってわけじゃあないですけど、不満があるにはあります」

 なるほど。だから俺がアニーサ艦長を気にするような発言をして、微妙な気分になったのか。

 アニーサ艦長と班長達も気になるところであるが、まずは目の前の後輩から話をしてみるべきだと思いなおす。

「気になる言い方するじゃねえか。なんなら話してみろよ。誰かに言ったりなんかしないぜ?」

 とりあえず、ここを離れるつもりは無くなったという意思表所のため、近くにあった作業用の椅子を持ってきて、それに座りながら、レイリーを見る。

「不満って言えば不満なんですけど、一部の船員を贔屓にしてるって感じします。アーランさんとか特に」

「俺が? 艦長の贔屓に?」

「そう見えますよ。なんだか良く呼び出されてますし、二人で話したりとかしてるじゃないですか」

 なるほど、傍から見ればそうなるのか。いや、確かに、二人で話したりする機会はある。だがそれは贔屓というより、目的を共有しているわけで……いや、やっぱりそれもまた贔屓になるのかもしれない。

「やましい部分があるわけじゃあないが、俺も俺で、あの艦長とは話したいことがあんだよ。結構、大事な部分でだ」

 下手に言い訳するよりも、率直に言ってしまう方が良いと思い、レイリーにそう伝える。もっとも、肝心な部分は話せない。同じ復讐を目的としているなんて、他人に言えるもんか。

「大事って……その、個人的な?」

「個人的な部分でもあるだろうな。あ、ちょっと待て、艶っぽい感じじゃないぞ? どちらかと言えば乾いた感じの話題だ」

「乾いたって……まあ良いです。アーランさんの話を聞く限りは、なんかこう、僕が想像しているのとは違うっぽいですから」

「お前が想像してるのって、どんなのだよ」

「それは……秘密です」

 なんだか秘密が多い会話だ。こっちだって話せない事柄があるため、深く突っ込めないのがもどかしい。

「別に良いけどな。って、やっぱり班長連中の動向、気にならないか?」

 今、ペリカヌ全体はいったいどの方向を向いているのか。そういう事柄は、自分が大きく関係できないとはいえ、知りたいと思ってしまうものだ。

「まあ、気にならないと言えば嘘になりますけど……見に行ってみます?」

「勿論だ。今日の訓練は一旦取り止めで良いな?」

「一人でやるって気分でも無いし、それで良いです」

 レイリーの答えを聞いてからすぐ、俺は艦長と班長達の会議が行われているであろうペリカヌの会議室へと向かった。できれば、艦長が手玉に取る形で事が進んでいれば良いなと思いながら。




 会議室へ近づくにつれ、どうにも事態は紛糾しているらしいということを知る。会議を直接見もせずにそう知れたのは、会議室から大きな声が何度か聞こえてくるからだ。

「なんですかね? 大声で。喧嘩?」

 レイリーが首を傾げつつ聞いてくる。しかし、俺が答えられないのは分かっているはずだ。こんな事態、直接見なければ分かるもんじゃあない。

「喧嘩っぽくはあるけどな……って、人も集まってるじゃないか」

 会議室の入口。その扉の前には、班長以外の船員が何名か集まっていた。恐らくは、俺達と目的は一緒だろう。

「って、おい、バーリン。あんたまでいるのか」

 俺は会議室前に集まっている船員の中で、良く話をする作業員班のバーリン・カラックを見つけた。

 ここにどうしているのかと思ったが、こういう事態には集まりそうな人種ではあるなと思いなおした。

「そりゃあいるぜ! ペリカヌの一大事だからな!」

 そこまで言うほどだろうか。班長の一部が、現状に不満を持ってるだけだと思うのだが。

(ま、今まではそれすら出なかったってんだから、むしろ今の方が健全なのかね?)

 起こるべくして起こった状況。そうであるならば、別に心配をする必要すら無いのかもしれない。アニーサ艦長ならば、きっと対策を講じているはずだから。

「中の様子、どんな感じなんだ?」

「どうって、そりゃあ白熱してやがるぜ。班長連中なんて大声で喧嘩になるんじゃねえかって勢いだもんで」

 結構、激しいことにはなっているらしい。こうなると心配なのは、暴力沙汰にならないかどうか。というところだ。いくらアニーサ艦長とは言え、そういう事態になれば状況を収拾できなくなるかもしれない。

 感情のままに集団が暴走することほど、制御の難しいものは無いだろう。

「結局、どういった部分に不満を持ってんのかね。その、今回怒鳴ってる班長ってのは。まさかそっちの班長が含まれちゃあいないのか?」

 ブラッホの事を思い浮かべて、そういうタイプの人間では無かったが、もしやと少し恐れる。彼は作業員班であり、さらに言えば戦闘員班だ。暴力沙汰になった時は、一番怖い存在だと言える。

「安心しろって言えば良いのかわかんねえけどよ、そうじゃねえみたいだな。そっちの班長も、今の状況じゃあ大人しいもんだぜ? どっちかと言えば、内向けのやつらだな。騒いでるのは」

 内向けとはどういうことか。騒いでいるとすれば、バーリンの様にアニーサ艦長へ日頃から小さい不満を抱えている人間ではと思っていたが、どうにもその中でも特定の相手であるらしい。

「ほら、食堂班のメイゾウ班長や、マズールって医者の」

「は? なんでその二人が」

「焚き付けられたんじゃねえの? ほら、報告官どのによ」

 報告官どの。という言葉に、どこか敵意を感じる。まあ、この艦内に、サーイル報告官を良く思う者はいない。それは彼が憎まれ役なのだから仕方ない。ただ、だからこそ、そんな彼に焚き付けられるというのが分からなかった。

「どういう言い方をしたら、その二人を怒らせることなんかできるんだ?」

 食堂班のメイゾウ・ラフティン班長は寡黙な男だ。フライトの時は、何時もどうやって食べられる料理を計画的に作っていくかを考えているから、話す余力が無いなどと言われるくらいである。

 船医のマズール・フォンクラインなどは辛口な男であるが、その分、思慮深い。いくら焚き付けられたからと言って、この様な事態を引き起こすとは思えない。

「なんでも、このままじゃあ計画遂行前に、集団が崩壊するとかなんとか言われたらしいぜ。っていうか、俺も言われたけど、さっぱりわかんなかった」

「なるほど。そう来たわけですね」

 と、後ろに着いて来ていたレイリーが、何やらを納得する。バーリンは分からないと言ったが、そのバーリンの言葉で、レイリーは気が付いたらしい。

 一方俺の方はと問われれば、まあバーリンと同じくらいだと答えようか。

「どう来たんだ?」

 分からないことは知っている相手にすぐ聞く。大人の知恵の一つだ。

「サーイルさんは計画の状況に対してあれこれ言う立場ですけど、基本的に、計画そのものに駄目出ししても、反感買うだけじゃないですか?」

「そりゃあそうだろうな。実際、嫌われてるだろ。本人にとっちゃあ不憫だけど」

「いやいや、ありゃあ素の性格も幾らかあるんじゃね?」

 バーリンの軽口には同意する部分があるものの、あんまり人の事は悪く言いたくないため、返答はしないでおく。

「素とか素じゃないとかは別にして、悪い事言う人には、人間、反感を持つもんです。けど、計画を良くするために行動して欲しいって言えばどうですか?」

「あー、そう言えば、俺もそんなこと言われた気がするな」

 数日前に、サーイル報告官と話をした時の事を思い出す。彼は飛空開拓計画そのものを否定するのではなく、その進捗について文句を言っていた気がする。

「僕やアーランさん。それに作業員班の人たちは外部。つまり計画外からの不測事態があった時にこそ活躍するじゃないですか。一方で食堂班や医療班っていうのは、計画の中で、それこそ計画通りに仕事をすることが評価に繋がります」

 つまり、不足の事態が起こった時、それに対して行動するのはどちらも変わらないが、結果、前者は功績を称えられるのに対し、後者は仕事が増えるだけ。ともすれば普段の仕事の方に支障が出て、評価を下げられる可能性もある。

「こういう立場の違いがあると、開拓計画の方針次第で、対立する場合もあります。例えば、艦長が冒険心豊かな場合、外部向けの仕事をする人は手柄を立てる機会が増えますが、一方で内向けの人たちはミスをする機会だけが増える」

 そうなってくれば、見えない不満も溜まって来るだろう。そんな状態で、君たちがミスを繰り返せば、計画そのものに支障が出るかも。何か艦長に物申した方が良いのでは? などと囁かれればどうなるか。

 それが今の状態だ。

「不満があってよ、その不満を吐き出せる理由がありゃあ、怒鳴る勢いにもなるよな?」

 その感想は、バーリンが短慮だから出たものではあるまい。人間らしい感情から出るものだ。それは大概の人間に通用する理屈だと言うこと。

「この状況を煽った側ってのは、やっぱり……」

「それは勿論サーイル報告官でしょう」

 それはレイリーに教わらなくても分かる。この事態を意図的に作り出そうとする人間がいるとしたら、この休日の間、不穏な動きを繰り返していたサーイル報告官くらいしかいないはずだ。

「けどよー。なんでそんなことすんだよ、あの人がよ。なんか得があんのか?」

 まだバーリンは察しが悪いらしい。ここまで説明されれば、サーイル報告官の狙いくらいは分かる。

「それこそ、この状況を報告できるだろ。本国に」

「は? 報告して、俺達、仲が悪くなってますよー。って言いふらしてどうなるってんだよ?」

「だから、そうやって船内でもめ事が起こってるんなら、それを報告する側の重要性が上がるだろ? そうなりゃ、サーイル報告官の権限も増えるさ」

 艦長と直接対決するにはまだまだであろうが、それでもこうやって少しずつ自分の権威を上げて行く。ペリカヌという組織の中で、サーイル報告官が導き出した出世への道と言ったところか。

「こりゃあ、俺達に休日の間、色々と話してたのも作戦のうちかもな。本命にいろいろと入れ知恵しているのを隠すため……とか」

「あり得ますね。だからこういう事態になるまで、艦長も気が付かなかった」

 どうやらレイリーは、サーイル報告官の作戦がすべて上手く進み、今回はアニーサ艦長の敗北で終わるだろうと考えているらしい。

 しかして、その考えは俺とは違う。

「どうだろうな。案外、何かしら策は打っていたりして」

「策って……どんな?」

「さてな。俺に分かる様な作戦なら、この事態を跳ね返すなんてできやしないだろ」

 どうなることかと状況を見守る。何にせよ、そうすることしかできないのが、今の俺の立場なのだから。




 どうにも過剰な要求をされている。怒声まで聞こえ出した会議室の中で、ペリカヌ艦長、アニーサ・メレウ・ラクリムは、どう収めたものかと頭を働かせていた。

 会議室の上座、そこに配置された椅子に座りながら、他の席へ座る班長達をぐるりと見渡す。

 怒声を上げた対象はすぐに見つかった、わざわざ自分に対立するかの様に、長い会議室の机の、対面席に座っているからだ。

 メイゾウ・ラフティン食堂班長とマズール・フォンクライン船医。二人は不機嫌そうな表情を隠そうともせず、メイゾウ食堂班長に至っては、つい先ほどに会議室に響く声を上げていた。

 まさかと思う部分と、そういうこともあるという感情が半分半分。それくらいにメイゾウ班長は寡黙なタイプだ。怒鳴るならどちらかと言えばマズール船医だろうと予想していた手前、思ったよりも驚いた。

 だが、やはりそういうものだ。船員が数十名。彼らすべての何もかもを知ることなんて出来ない。普段大人しい人間が、急に暴れだすなんて、世の中では日常茶飯事。これくらいの事で、予想外だ。などと混乱していればキリが無い。

「それで、待遇の改善を求めている。という解釈でよろしいのでしたかしら?」

 まずすべきは、怒鳴りつけている相手の言葉を理解することからだ。理解は難しくとも、理解したフリはしなければならない。相手が求めるのはそういうフリなのだから。

「何度も申したはずです。私の班を優遇しろと言っているのではありません。マズール殿も同じ考えでしょう。しかし、現段階では、班が万全に動けないと、そう申している!」

 メイゾウ班長はこうまで多弁だったろうか。いや、そうではあるまい。ただ、人は興奮しているとこうなる。

(興奮、というか怒りを覚えている理由も良く分かるのですけれど……)

 彼らの要求。それをこちらが理解していないと考えているから、声を荒らげ、必死になって伝えようとしている。

 こちらが曖昧かつあやふやな返事していないから、理解していないと思われている。しかし、往々にしてそれは違う。人間、単純な話なら、相手の感情だって言いたいことだって分かるものだ。

 それでも分かっていない様に見えるのは、理解した結果、それへの返答をどうすれば良いか迷うからである。

「万全に……確かにそれは班長としてそれを理解するのは分かりますわ。増員が計画の方針上難しいですけれど、出来る限りの配慮はさせていただきたいと……」

「ですから、どれだけ配慮したとしても、現在の様な無茶な計画の進行をしていると、何時か破綻するともうしているのですよ!」

 だからそれは良く理解している。組織なんてゴムみたいなものだ。柔軟性がある様に見えて、伸ばしたり縮めたりを繰り返せばボロくなり、何時かは千切れる。

 だが、もしここで本音を言わせてもらえるなら、そうであろうとも擦り切れる寸前まで運用するのが組織だと言いたい。万全な状態で、安全に事を運べる組織なんて稀だ。ましてや飛空開拓計画なんていう危険に飛び込む計画に対して、何もかもを想定し、安全に事を進めろなんてことは不可能なのだ。

(それをここで言って切って捨てる? それもいけませんわね。言った瞬間、組織がそれだけで破綻する可能性がある)

 相手を理屈でねじ伏せる。そんな事をする人間は艦長に向かない。どんなに正しいもの言いでも、部下を屈服させれば、その時点でその部下の動きは鈍くなる。その鈍さは他の船員にも波及し、結果的に組織を崩壊させる可能性があった。

(組織は仲良しこよしで、などとは申しませんけれど、嫌な部分はできるだけ噴出させずが鉄則ですのに……)

 しかし、現在、こちらに対して明確な反抗を示している相手は、それをあえて表ざたにしようと考えているらしい。

「つまり、メイゾウ班長はわたくしの方針そのもの反対の立場を取るということ。でしょうか?」

 こういうのは率直にやってしまうに限る。相手を屈服させるつもりは毛頭無いが、それでも力関係は示さなければならない。

「……計画や艦長の方針に反対しているわけでは。ただ、今後、食堂班は十全に行動できぬ可能性があると、そういうことを伝えたくありましたので」

「はい。それについては承知しておりますのよ? 何時だって、あなた方は船を支えてくれている。食事が無ければ誰も生きてはいられない。ですがこちらの事情も理解していただきたいんですの。冒険が無ければ、新たな土地は発見できない。出来うる仕事に不備があるのはお互いの悩みだと思っていただきたいところもあります」

「それは確かにそうなのですが……」

 反抗する相手に対して穏便に済ませる方法の一つ。悩みを共有してしまうこと。メイゾウ班長にはそれが上手く行きそうだ。

 彼は真面目で、だからこその寡黙。不当な扱いに不満の声を上げることはあれ、同じ立場の人間を責めることができるほどの意地汚さは無い。こちらだって困っている。そう伝えてしまえば、その矛先は鈍る。

(そう、彼に対してはこれだけで結構。問題はもう一人の方ですわねぇ)

 この会議室において、艦長である自分の方針に異議を申し立てているのはもう一人いる。

「やさしい意見は結構ですがね。目の前にある問題が解決するわけじゃあないのではありませんか? 艦長」

 次は船医のマズールが相手。これが中々に手ごわいのだった。



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