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3話 本当の分岐点

 暫くロッド号を動かす練習をした後、幾らかエイディスがロッド号を調整して、ついに俺達は王城に向かう計画を実行に移すこととなった。

「飛ぶならそろそろが良いね。暗くなってくれば、見つかる心配が少なくなるしー」

 エイディスが空を見ながら話す。雲無く赤く染まるその空は、これから夜の闇へどんどん近づいて来る頃合いだった。

 もし本当に見つからない方が良いとなれば、完全に日が落ちるのを待つべきなのだろうが、そうは行かない事情がある。

「さすがに完全に夜になったら、帰る時、母さんに叱られるもんな」

 夕方の内に帰らなければ、厳しい拳骨が頭を襲うのである。それだけは避けたいため、王城の上空へロッド号を飛ばせるのはこの時間帯だけとなる。

「さすがに王城の上空にずっといれば、バレちゃうのもあるし、本当に短い間しかいられないと思うけど………にーさんはそれで良ーい?」

「………短い時間だと、あのお姫様を見つけられる可能性って言うのは少ないよな?」

「うん。何度も行ける場所でもないし、にーさんは本当にそれで良いのかなーって」

 良いのかと問われたら、そりゃあお姫様ともう一度会えることに越したことは無いと思う。ただ、見つかる可能性が低くても行くなら今だとも思うのである。

「ものには勢いってのがあるらしいしな。それに、もしあのお姫様が見つからなくたって、それはそれで良いんだよ」

「え?」

「こいつで空を飛んでると、なんだかすごく気分が良くなるんだよな。だからエイディスへの礼代わりってわけじゃあないんだけど、ちょっと派手に動かしたくなったって言うかさ」

 弟が一生懸命に作った乗り物だ。できれば精一杯に使ってやりたいと思うのであった。

「………ちょっと嬉しいかなー」

 頬を掻きながら笑うエイディスを見て、やはり計画を実行して良かったと考える。さあ、では、これから王城へ向かわなければ。

「それじゃあ行ってくるな! 凱旋を心待ちにしとけよ!」

「気落ちするにーさんを励ます準備くらいはしとくよー」

 憎まれ口を叩くエイディスに背中を向けて、ロッド号を走らせる。初速が付いたところで、ロッド号を空へ。

 風。少々肌寒くなった風が体に吹き付けてくるものの、これはこれで、意識を研ぎ澄ませてくれた。

 空から見ると、赤く染まるのは上だけで無く下もなのだと感慨深くなった。夕の太陽に照らされた町並みは真っ赤に染まり、黒い影がさらにその赤を深くしている様である。

 そんな町の空を飛ぶ。地上からでも、王城は高くすぐ分かるのだから、空からならもっと一目瞭然だ。

 空には障害物など何も無く、ただ一直線に王城へ向かっていく。

「おおっと、こんな簡単に辿り着けるもんなんだな」

 想像などできないが、何がしか、強大な守りがあるものだと思っていた。それこそ、地上から矢でも撃たれるのではと思っていたものの、その様な事は無く、ついには王城と呼ばれる場所の上空まで来てしまった。

「へぇ。中はこんな風になっていたのかぁ」

 城壁に囲まれた王城の中は、その大半の土地が庭園となっていた。季節の花や生垣が多く存在するその庭園に、夕焼けに照らされて光る金の色を見つけた。

「え? おい! ちょっと、まさか!?」

 本当に見つけられるとは思っていなかった。王城の上空に来れただけで、ほぼ満足だったのだ。しかし、見つけてしまった。

 良くみれば、さらに分かる。そこには彼女。先日見て、一目惚れをしてしまったお姫様が、庭園の花を眺めていたのである。

「お、おーい! おーい!」

 そうして、つい、空の上から声を掛けてしまった。高度も声が届く程度に落としながらだ。

 我ながら、馬鹿なことをしたものである。地上に声を掛けるということは、何もそのお姫様だけに声が届くというわけではないのに。

「あっ、こっち向いてくれた!」

 きょとんとした顔を浮かべるお姫様。そのお姫様に手を振る俺。するとお姫様は、その表情ままに、小さく手を振り返してくれた。こんなに嬉しいことは無いだろう。

 ただ、そんな幸福感はすぐに消え去ってしまった。何時までだって、こうやって手を振り続けたかったのだが、王城から声が聞こえ始めたのだ。

「おい! 誰か空にいるぞ!」

「なんだ! 不法侵入者か!?」

 お姫様に見つかると同時に、城の衛兵にも見つかってしまった。良く考えなくても当たり前の話であろう。大声を出せば見つかるのは。

「や、やばい。早く逃げないと……!! そこのお姫様ー! ま、また、どこかで!」

 この出会いをこのままにしたくない。そう考えて、また会える保障も無いと言うのに、捨て台詞の様に言葉を残す。そうして急いで王城から離れて行った。

 ほんの少しだけの間だったが、目的を果たせたのだ。こんなところで捕まるわけにはいかない。

「っていうか、捕まったらどうなるの!? 死刑!? 死刑かよ!?」

 今さら、自分がやったことの重大さにビビッてしまう。と言っても、後は逃げることくらいしかできないのであるが。

「空までは……追って来ない、はずだろ?」

 チラチラと後方を確認しながら、ロッド号と共に空を飛び続ける。と―――

「なんだ? あれ?」

 王城では無く、その方向にある空の彼方に、黒い影が見えた。とても遠くにあるはずのそれだが、しっかりとした存在感を持って、空の点としてそこに存在している。

「べ、別に、追手とか、そういうのじゃあない………よな?」

 恐れながらも、遠くにあるはずのそれから視線を外し、ラクリムの外壁。その外側へと向かう。とりあえずはエイディスに現状を伝えなければならないだろう。

 王城へまではすぐに辿り着けたのと同様、そこまで辿り着くのに、それほどの時間は掛からなかった。

 下からエイディスが手を振っているのを見て、ロッド号の高度を下げて行く。

「おーい! エイディスー!! お姫様居た! 居たよ!」

「え!? 本当!? それは良かったねー!」

 空と大地。徐々にその距離は狭まっているものの、ある程度の距離がある状態で、二人して大声で話し合っている。

「それよりもさ! 実は城の衛兵に見つかっちゃったかもしれないんだって!」

「ええ!? それは不味いよ、にーさん!」

 やはり不味かったらしい。どうしたものかと、とりあえずロッド号をエイディスの近くに着陸させた。

「や、やっぱり捕まったりするのか?」

 ロッド号から降りて、エイディスに近寄って行く。本当はばっちり自信満々の顔で帰還したかったのだが、事が事だけに、不安でいっぱいであった。

「顔を見られてたら、もしかするかも………」

「こ、こっちは空にいたし、夕方だったし、はっきりと正体は分からなかったはずだけどなぁ………」

 二人して不安がりながらも、何らかの対策というのも立てようが無かった。なんだかんだ言っても当時は子どもで、発生した問題に対して、どう対処すれば良いか分からぬ年頃であったのだ。

 しかし、何時までもこうしているわけにもいかない。

 というか、日が暮れる前に帰らなければ、衛兵より先に母に叱られてしまう。

「とりあえず、帰るか? あんまり心配し過ぎて、ここで震えっぱなしってのも……空で見たあれも、追手ってわけじゃあないみたいだし………」

「空で見たあれ? にーさん。何それ?」

「あ、いや、王城から逃げる時さ、空の向こうに何かが見えたんだよ。黒い点みたいな。多分あれ、飛空船か何かじゃあねぇかな」

「飛空船………王城から飛んで来たわけじゃあ?」

「いや、違う違う。だから空の向こうだよ。あっちの方向から―――

 と、空が暗くなった。日が落ちたのだろうか? いや、違う。空の赤さはまだそこにちゃんとある。

 しかし、その空の一部分を巨大な浮遊物が覆い隠していた。昨日、空を覆った巨大な円盤型飛空船の様に。

「あの飛空船! また現れたのか!?」

「いや、大きさは同じくらいだけど、形は違うよ!」

 驚く俺に対して、同じく驚きながらも、空の飛空船を観察しているエイディス。どうやら前に見た船とは違うらしいが、そんな違う巨大な船が二つもあり、その二つが似た様な時期に町の上空にやってくる事自体が異常だ。

「何なんだよ! いったい何が―――

 その瞬間。その瞬間だろう。俺とエイディスにとって、今までの人生の中で最大の分岐点がやってきたのは。

 それは巨大な音だった。それを爆発音であると理解したのは、その音が耳を潰すほどの耳鳴りを発生させた後のことである。

 光と音。そしてその後には、爆風が俺達を襲う。

「……!! ………!!!」

 エイディスの姿が見える。何かこちらに叫ぶ声。しかしその声が爆発音による耳鳴りで聞こえない。俺は咄嗟にエイディスに飛び掛かり、必死に地面へ伏せさせた。

 爆風は幾らかの砂粒を巻き上げ、俺達の体にぶかっている。だが、ここはまだマシのはずなのだ。城壁の向こう、恐らく町の中では、もっと酷いことが起こっている。

 爆発音は町の中から聞こえて来たのである。そして間に城壁があるというのに、俺達はその爆風に歯を食いしばり耐えている。だったら、町の方ではいったいどれほどの事態になっているというのか。

 想像できない。想像したくない。だが、嫌な想像が頭の中を駆け巡ってくる。

(落ち着け! 落ち着け! 俺は兄なんだ! エイディスをまず守らないと!)

 暫く続く爆風に耐えながら、なんとか心を落ち着かす。爆風は俺達の命を奪うほどのものではない。

 だから、この爆風が収まった時、どう行動するかは、俺が考えなければいけないのである。

「………さん!! にー………! にーさん! いったい!? 何が!? どうなって!?!?」

 爆発音により耳鳴りと爆風が収まり、弟の声が耳へ届く様になった。しかしエイディスは、起こった事をまだ理解できず混乱しているらしい。

「わ、わかんねぇ………けど、大変な事になってると………思う」

 伏せた状態から立ち上がり、町を見た。衝撃によりヒビが増えた城壁と、その向こうの町を。町は城壁の向こうが赤く輝いている様に見えた。夕焼けのそれではない。太陽は既に沈んでいた。だと言うのに、町は光っているのだ。

「町………そうだ! 町! 日が暮れたから………家に戻らないと………!」

 エイディスがふと、そんな言葉を口にした。そんな場合ではないのは分かっているだろうに、それでも混乱しているのだ。

 俺はそんなエイディスを押し留める様に正面へ立ち、弟の両肩に手を置きながら、じっと相手の目を見た。

「なぁ、エイディス………!」

「な、なぁに。にーさん。早く、町に戻らないとさ………」

「ああ、戻る。これからあの城壁の穴に入って、町に戻るけどな…………兄ちゃんはお前の兄ちゃんだからな。どんな時でも兄ちゃんだ。それだけは………ちゃんと憶えておいてくれよ?」

 落ち着けとも、覚悟しろとも言わない。そんな事は俺には言えなかった。ただ、俺達は家族なのだ。家族は助け合う。それがどの様な状況であろうとも。

 その事を弟に伝え、尚且つ、俺自身にも言い聞かせる。

「何言ってるのかわかんないよ、にーさん。早く、町に戻らなきゃ」

「分かってる。分かってるさ」

 二人して、城壁を潜る。どこまでも続いて欲しいと思えた穴であるが、残酷な事に、すぐ向こう側が見えてきた。

 向こう側。何時もと変わらぬ町並みがあって欲しかったその町は、燃えていた。赤き炎が燃え立ち、町並みを燃やし、破壊していた。

 それだけではない。瓦礫だらけなのだ。燃え盛る炎はまだ生易しかったのである。町は城壁の様に頑丈なそれで無い限り、尽くが破壊し尽くされていた。

 耳に聞こえた爆発音は、町を破壊する音だったのだ! 遠くに王城が見える。半ば破壊された王城が、余りの部分を燃やしながら、煌々と夜闇を照らしている。

 俺達の家はどこだろう。あるべき方向を見るも、瓦礫と炎が見えるのみだった。

「…………」

 何も言えない。何をすべきかも分からない。いったいどうしてこんなことに。答えは誰も教えてくれない。只々、破壊された町並みを見ることしかできなかった。

「……………!!! …………!!!!」

 隣でエイディスが何かを叫んでいる。その言葉を理解しようとは思えなかった。きっと、言葉にならぬそれなのだ。

 俺だって、弟と同じ様に叫びたかった。泣き叫びたかった。しかし、弟がいる以上それはできない。

 泣き叫び、そのまま倒れてしまいそうな弟の体を支えながら、ただじっと、この地獄の様な町並みを眺めることしかできずにいた。

 人生と言うものに分岐があると言うのなら、今のところ、最大のものがこの瞬間だったのである。俺達は今日、この日、生まれ故郷を失ったのだ。


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