2話 知らぬ娯楽は楽しめるか否か
「意図か……意図ねぇ」
デリダウ老と話をするという暇つぶしが終わり、俺は彼の研究室を出た先にあるペリカヌの廊下を歩いていた。
デリダウ老の話の欠点として、何事も断定してくれない。というものがある。基本的には説だったり自分なりの考えだったりを語ってくれるのだが、それだけだ。それが正解であるかどうかはデリダウ老自身も知らない。
(けど、無視できない話だよな。これまでの厄介事が、何かの介入に寄るものだったってのは)
誰の、何の、そこらについては良く分からない。ただ、そうなのかと受け入れて、そのまま無視できる話では無かった。
と言っても、できることはたかが知れているのだが。
(艦長に……は、まあ、あの人だから既に気づいているだろうな。となると、エイディスと情報の共有はしておくか)
弟のエイディス・ロッドの顔を思い浮かべる。アニーサ艦長が、このペリカヌにおける同士なのだとしたら、弟とは運命共同体だ。
お互い、同じ目的のために違う技能を得て道を進んでいる。お互いに隠し事なんてしないし、協力できるのなら積極的行うという関係性だ。
と、噂をすればなのか、廊下の先からエイディスが歩いてくるのが見えた。短く切りそろえているはずのくすんだ金髪が、遠目から見てもわかるくらいに揺らしている。結構急いでいるらしい。目指す先はと言えば、俺と同じでデリダウ老の研究室か。
「おーい。どうした、エイディス? そんなに慌てて」
「あ、兄さん。いや、その、デリダウさんに聞いて欲しい話があってさ」
慌てていた様子だが、俺の言葉でエイディスは足を止めた。そうしてこちらと話をする程度には焦りが無いらしい。これは慌てているというより居ても立っても居られないと言った様子なのだなと思う。
「俺もさっきまで先生の話してたんだよ。もしかして、あの廃墟でのことか?」
「ああ、うん。そうなんだ……って、兄さんも? 奇遇と言えば奇遇なのかな?」
兄弟だから、思考回路のどこかが似通っているというだけかもしれない。奇妙な偶然というほどではないだろう。そういうのはもっとこう……嫌な予感がする時にこそ使うべきだ。
「詳しい内容はなんなんだ? もしそこまで同じだったら、先生も二度手間だ」
デリダウ老なら、それでも嬉々として話そうであるが、それでも手間は手間だろう。老い先短い人生、さらに時間を縮める必要はないと思えた。
「ええっと、兄さんと同じ、前に飛空開拓計画で向かった廃墟についてなんだけど、あの時、僕も兄さんと一緒に、街の中心にある塔へ侵入したよね?」
「ああ。入って暫くして、幻想の世界に閉じ込められたんだったよな?」
どの時点からまぼろしだったかが良く思い出せない。妙な音が聞こえたが、その時からか、それともその後か。もしかしたら街に入った時点で、どこかまぼろしを見せられていた可能性もあるだろう。
「塔に入ってからさ、兄さんやレイリーさんが先に行方不明になったけど、僕は暫くそのままだったわけじゃない?」
「待った。そりゃあ初耳だぞ」
「そうだっけ? まあ、そうだったんだよ。目を離した隙にって言うか、気づいたら二人とも居なくてさ。困ったよ。探索の経験なんて無いじゃない? あっちこっちうろうろして、で、見ちゃったんだ」
あの皇帝の本拠地だったとも言える石塔で、弟は一人彷徨っていたというのか。それは兄として申し訳ない話であった。そうして弟は、何かそこで発見したらしい。
「見たって……何を?」
「何か」
「はぁ?」
何かって何だ。いや、何か見たというのは聞いているのだから分かるのだ。その何かは何であったかを聞きたいのである。
「もうちょっと具体的に言うと、何らかの道具か機材を見つけたんだ」
「その道具っていうのが、変わったものだったってことか?」
「うん。魔法とかそういう技術が使われてたのはパッと見で分かったんだけど、それと、機械だね。小型飛空船の機構が目じゃないくらいに複雑な装置。それがさらに組み合わさって、もっと大きく複雑な機構を作ってる。そんなものが、石塔の頂点付近にあったんだよ」
確かにそれは何かとしか表現できないかもしれない。だが、奇妙な何かだ。誰かに話したいというのも分かる。だが………。
「どうして、今になって慌てるんだ? それの報告なんて、とっくに終わってるだろ? 先生にだって話したんじゃないか?」
「うん。それはまあね。で、結局、奇妙な何かがあったって結論になってたんだけど……さっき、ふと思いついたんだ」
「思いついたってのは、つまりその見つけた何かの用途か?」
「だね。うん。そうなんじゃないかって案が一つ。それをデリダウさんに伝えて、意見を聞きたくなってさ。居ても立っても居られなくなったんだよ」
エイディスは知識欲が存分にあるタイプの人間だ。デリダウ老もそんなタイプなため、気が合う部分があるのかもしれない。相乗効果で、随分と話が盛り上がりそうだなと思えてしまう。
「で、結局思いついた案ってのは何なんだ?」
「うん。なんていうかさ、こう、思いつきでしかないし、なんでこんな発想に至ったかもさっぱりなもんで、話すのにどうにも抵抗があるんだけど……」
「なんだよ。増々気になるだろ、そういう言い方されると。良いから話してみろって」
もったいぶった言い方をするのはこいつの悪い癖だ。肝心なところで自分に自信が無い。兄としては、そんな弟の背中を押す義務があるのではと考えていた。決して、こっちも好奇心を満たせるなら満たしたい。などと考えているわけではない。本当だ。
「じゃあ話すけどさ、こう、あそこで特異なものと言ったら、その装置と、もう一つ……いや、もう一人いたでしょ?」
「俺達を酷い目に遭わせた皇帝だな」
「そう、その人。この二つ、関わりがあるんじゃないかなって。っていうかさ、皇帝の力の源が、その装置なんじゃないかって……いや、けど、自分で言ってて馬鹿らしい話に思えてきた……」
「いや、良いんじゃないか?」
弟は馬鹿らしい話を言うが、そもそもあの街で起きた出来事自体が、他人が見れば馬鹿らしい出来事として映るだろう。
だが、その馬鹿らしい出来事は実際に起こったことなのだ。ここに来て、エイディスの想像が、絶対に無いものなどとは言えない。むしろ、そんな妄想に近い考えにこそ正解があるかも。
「先生に話してみろよ。きっと興味深そうに聞いてくれるぜ」
「ああ、うん。そうだよね。なんか話して大丈夫かなって思えたけど、話してみるよ。兄さん。ありがと」
「おー。じゃあなー」
別に礼を言われるような事をしただろうか? エイディスなら、俺に何かしら言われなくても、結局はデリダウ老に相談していただろうし。
「ま、けど、兄貴として弟に感謝されるのは嫌なもんじゃないさ」
久しぶりに兄らしいことが出来たかもしれないと勝手に思い、気分を良くしておくことにした。やはり休日はこんな気分で過ごさなくては。
そんな良い気分を見事に崩されたのは、ペリカヌを降りて、またヒドランデの街へ繰り出そうとしたその時だ。
日も落ちて暗くなる道を歩いていると、横からぬっと巨体が現れたのだ。
「うわっ!!」
夜道で驚き叫ぶなんて何年ぶりか。けれど、いきなり視界に、それもこちらをあからさまに意識して現れたとなれば、驚くのは仕方ない。
現れたそれが知り合いで無ければ、即戦うか逃げ出すかしていたところであった。
「突然の悲鳴とは一体どうしたのかね! あれかな? やはり休日は心が緩むという奴なのかな! しかし、真の休息とは心を休めることだと何がしかも言っていたが故、仕方なしと言う部分がある!」
突然現れた筋肉……いや、ブラッホ・ライラホが話しかけてくる。普段から威圧的な体をしているのだから、言動はこじんまりして欲しいところだ。
「気が緩んでたのは事実ですけど、そっちも脅かさないでくださいって。で、何なんです? これから飲みにでも?」
頭を掻きながらも、ブラッホとの話には付き合う。なんだかんだで、この人のことは嫌いではない。
「皆で騒ぎに! というのも良いかもしれんがね! 実を言うと、君を探していた!」
にっかり笑い、夜に眩しい白歯を輝かせながら、ブラッホが答える。俺を探していたということは、何かしら、彼なりに面白いことをするつもりなのかもしれない。
(なんだかんだで、俺、この人に気に入られてるっぽいんだよな……)
気が合う相手では無い。というよりブラッホは性格自体が特殊だ。体格に関してはもっと特殊だ。何かが合う。という人間は中々いない。
ただ、何故か付き合って悪い気分になる相手では無かった。
「で、探していた俺に会えたわけですけれど、次は何をするんで?」
「うむ! 良ければ私が案内する店まで来てくれんかな!」
ブラッホが良く行く店ということだろうか。どんな店か。酒場かそれとも遊ぶ系の店か。何にせよ、興味はある。
「良いですよ。どうせこの後、予定があるわけじゃあないですし」
「なるほどなるほど! 暇しているもの同士というわけだ!」
同士なんて言葉が出てくる以上は、ブラッホも暇だったらしい。となると、ここから向かう店は酒場かそれに近い店だろうと予想できる。そういう場所でぐだぐだと意味なんて碌にない話をしながら時間を潰すのが、暇を扱う一番の手だからだ。
ただ問題だったのは、そんな予想がすぐに外れだと分かったことだろうか。
「これはいったい何です?」
ブラッホに連れられ、街中を歩き続けたその先にあったのは、かなり大きいテントが張られた土地であった。
中には十数人単位で人が入れるだろうそのテントであるが、俺にはそのテントに見覚えがあった。
「憶えていないのかね? これは旅を続けるクリスト達のテントであるよ!」
「いやいやいや、それは分かりますよ! 聞きたいのは何でそれがこんな場所にあるのかってことでしょうが!」
クリスト……外世界を旅し続けた人間の集団だ。彼らは俺達が行っている飛空開拓計画の中で、もっとも最初に発見された成果だと言える。
彼らとの接触は、外世界の情報を多く手に入れたと同義であり、現在はその情報が指針となって、ペリカヌの進むべき道を照らしてくれている。障害物だらけのそれではあるが……。
「彼らは旅を続ける人々だったはずじゃあ……それがどうしてヒドランデの街に?」
「言ったであろう? 店に向かうとな。彼らはここで店を開いているのだよ!」
店……なんであろうか? テントという外観からは分からない。とういうか旅を続ける集団が、どうしてこの街で店など開いているというのか。
「店って……なにを?」
「劇という奴であるかな! なにやら面白い物語を見せてくれる! 彼らは旅を続ける中で、様々な物事を見聞きしているであろう? こうやって、偶然、他の人間集団と出会った時は、それらの知識を劇として見せ、その報酬として、旅に必要な物品を頂戴するということらしいであるな!」
もしかしたら彼らクリストは、ちょうどそれらの物品を手に入れるため、俺達に聞いた情報を元に、ヒドランデまでやって来たのかもしれない。
ちょうど、俺達がやっている旅の逆を行っているということなのかも。
「それで、なんで彼らの劇を見に来たんですか?」
「単純に面白そうであろう? いったいどの様な姿を見せるのか! しかしだね、こういう場所に一人というのは、私とて抵抗感があるのでな!」
大きく笑うブラッホを見て、彼にも羞恥心というものがあったのかと驚く。こういう場所へも何ら抵抗なくこの巨体を侵入させるのが彼らしいとすら思えていたが。
「……もしかして、俺にも見せたい何かがあるってことで?」
「何故そう思うね? 他者へ疑いを見せるのは、何か疑われるものを自らが持っているからだ。という言葉もあるが、君もその口かな?」
「ま、ブラッホ班長を見る目は、常に疑いの眼差しってのは否定しませんよ」
「いやはや、これは一本取られたか!」
漫才でもしにきたのだろうか。時間を潰すだけというのなら、別にそれでも構わないが、いざ案内されてみると、このテントでどの様な劇がされるかは気になってくる。
「入れば分かることですが……入りますよね?」
「うむ! 一応、普通の金銭でも入場できたはずであるからな!」
ブラッホと話を続けるより、実際に見た方が早い。そう考えてテントへと入っていく。俺とブラッホがテントの入り口を潜ると、そこには確かに何席かの観客席と、簡易的な舞台が用意されている。
入ってすぐの脇にはクリスト達の一人であろう、男か女かも分からぬ皺くちゃな老人が、籠を持って座っていた。
「ここに金を入れれば良いのか? えっと、言葉、わかる?」
いくら入れれば良いか。相場が分からないため尋ねたいところであるが、残念ながら、何を話しかけても首を縦に振るだけだ。肯定の意味であるはずだが、こちらの言葉が分かっている風には見えない。
「幾らでも良いと伝えたいのであろうよ! こういうのは気持ちであるからな! ま、気持ちとなればこれくらいであろう!」
俺が想像していた金額より、ほんの少しだけ多めの額をブラッホは籠へと入れた。なるほど、長旅を続けて来た相手に対する気持ちというやつか。
手本を見せてもらったとばかりに、俺も同額を籠に入れ、そのまま観客席へ座る。
「席の数からして、そう長い劇じゃあないんですかね?」
俺とブラッホ、それ以外に知らない男が1名席に座っているが、それで空いた席の3分の1が埋まる。その程度の数なのだ。これで長々と劇を続けていれば、商売にならない。
(商売をする気があるのかどうかも怪しいか……)
実際は、旅の合間の休息地としてヒドランデを選んでいるだけかもしれないし、そうであれば劇は片手間である可能性もある。
「長くは無いがね、興味深い物語であるとは思うよ!」
それだけ、ブラッホから情報を伝えられる。後は見て判断しろということらしい。
暫く待っていると、舞台の両脇から同じ年齢くらいの女の子と男の子が出て来た。
(ありゃあ、前にクリスト達と会った時、飛空船に興味持ってた子どもか)
どうやらその二人が何やらを演じるらしい。女の子の方は白く、複雑な刺繍がされたドレスを着込み、男の子の方は、動きやすい、旅人が着る様な、簡素な服装をしていた。
二人はまず舞台の奥に丸め込まれたタペストリーを引っ張った。するとそのタペストリーに描かれた、街のような模様が現れる。背景というものかもしれない。
そうして劇が始まる。言葉が通じないというのもあるのだろうが、声は発せず、女の子と男の子の動きのみで物語は進む様であった。
(劇っていうより、踊りか?)
動きはそれぞれの感情や伝えたいことを大げさに表現する。言葉で無いから伝わり切らない部分があるものの、それでも大まかなストーリーは分かって来る。良く練られた動きということだ。それはまさに踊りの原点なのかも。
(ええっと? 女の子の方は偉い、女王様とか女神さまとか、そういう存在なんだな?)
偉い側の存在であることは、仰々しく動く女の子と、それを敬う様に動く男の子の姿で判断できた。
仮に女神とすれば、女神は男の子が演じる存在に、街を発展させる様に命じたらしい。男の子は時に大工に、時に医者に、時には指導者になりながら、その命令に従っている様だ。
(女神からの使命で街を発展……というか作っていく。創世神話か何かか?)
そうこうしているうちに、踊りの様な動きの中で、ごく自然にタペストリーが捲られた。
そこに描かれているのはさらに発展した街と、その端に広がる亀裂の様な模様。まるで発展を極めた街に崩壊が忍び寄る様だ。
この場面になると、女神である女の子が男の子へ積極的に声を掛ける仕草を続けるも、男の子側は気付かず、先ほどの場面と同じ動きで踊り続けていた。
(街を発展させ続けているんだが、それがもう神の手を離れて行ったってことか。けど、その後の展開には不安が残る……っと、次の場面だな)
女神役の女の子が、タペストリーを次の背景となるものへ捲りながら、舞台を一時離れた。タペストリーの背景は、発展はしているが、歪み、ひび割れた街並み。それはあえて不快感を覚える様に描かれている事が分かる。
男の子は一人、その背景の前で踊る。それはやはりこれまでの動きと同じであったが、少しずつその動きを変化させていった。
何かを探す素振り。それが徐々に混じっていくのだ。探しているのは、恐らくいなくなった女の子。つまり女神だ。今まで女神の声を無視した結果、その女神がいなくなったことに漸く気づいた。という表現か。
そうして男の子の動きは明確に変わる。この動きについてはその意味があまり分からない。ただ、何かの儀式みたいだなという印象は受けた。
その儀式みたいな踊りが終わる辺りで、女の子が再び舞台へとやってくる。しかしその女の子の衣装が少しだけ違う。
(多分、ドレスに細工してんだな。袖の辺りの模様がさっきまでと違う……)
これはちょっとした芸というか、コントみたいな感じだ。男の子の踊りに合わせて、女神役の女の子が舞台を行ったり来たりを繰り返す。その度にドレスのデザインがやや違っており、男の子は元の姿じゃないと首を振り落胆する。
そんな過程であるが、一応のストーリーは感じられた。
(なんだろうね……神様にもう一度出会おうとしているのに、その神様に会えない……みたいな?)
そうしてこの場面は終わりを迎えることになる。破局的な終わりだ。基本的に白を基調としたドレスを着ていた女の子が、今度は黒いドレスの姿で現れたのである。
黒いドレスの女の子は、踊る男の子を無視し、さらに本人も踊らず、ただ機械的にタペストリーを次の場面へと捲った。
完全に崩壊した街。それだけが描かれている。黒い服の女の子はくるりと男の子の周囲を移動した後、早々に舞台から去っていった。
残されたのは男の子一人。踊りを一時止め、茫然とした様子を見せた後に、さらにタペストリーを捲る。そこにはただ道が描かれていた。長く、どこまでもありそうな道。
その絵を背景に、男の子は歩く様な踊りを幾らかした後、劇の終わりを示す辞儀を観客席へ行う。
出演者は2人の子ども。舞台装置は数枚のタペストリー。時間は1時間に満たないかもしれない。そんな劇が今終わったわけである。
(うん……値段相応のものではあったか? 好きな奴にとってはそれ以上のもんではあっただろ)
損をした。という気分では無い。しっかりと芸の域ではあったし、言葉の無い劇だというのに、物語もなんとなく分かり、十分なものだったとも言える。
ブラッホと、もう一人いた客の男も拍手をしていた。俺も合わせ、3人分の拍手がテントに響く。数は少ないが、しっかりしたものだ。見て損は無かった。そんな感情が込められていると思われる。
さらに言えば、劇の内容について、幾らか話したいことも生まれた。ただ、テントの中は商売の空間。劇を見終えた客が何時までもいるべき場所ではない。
なので、とりあえずブラッホと共にテントを出た。テントを出ると、出入口の脇へと移動し、すぐに劇の内容について話し合うことにしたのである。本当に、すぐにでも話し合いたいことがあった。
「さっきの劇、もしかしなくても、クリスト達の来歴ってことですか?」
「この度の演目はそうであったらしいな! 創世神話云々から繋がる形で、彼らは旅を始めたという話を以前聞いたがね! その創世神話こそが、あの劇であると見るべきであろう! 大分抽象化されている様だが!」
「ありきたりな神話ではありますよ。神様の怒りを買い、不遇な現状にいる。そういう話はどこにでもある」
「だが、そうも思えない部分がある。君はそう考えているわけだ!」
そうだ。やはりブラッホの狙いは、その部分を俺に見せるためであったわけか。彼は恐らく先ほどの劇の内容を、今回以前に見たのだ。そうして今、俺と同じ疑問を抱いた。
「あの劇の最中。ツリスト達は、神を呼んでいるような物語を挟んでいました」
女神役の女の子が、衣装を部分的に入れ替えながら、舞台と舞台裏を行ったり来たりする場面を俺は思い出す。
「ほう、君はあれを、神を呼んだと見たわけか!」
「そういうあなたはどうなんです? あれをどう見ました?」
「私かね? 私はこう見たよ! 彼らは神を作っていたと!」




