2話 失
「藁をも掴むつもりかは知らんが、まさかこの状況でわしのところに来るとは思わなんだよ」
「先生は頭が良いですからね。頭の悪い俺よりかは物が分かるんじゃあないかと思いまして」
俺がレイリーを連れてやってきたのは、老魔法士、デリダウ・ドーガの研究室である。ペリカヌ内では一、二を争う知識人であり、彼までは行方不明になっていなくて良かったと胸を撫で下ろした。
「知識………確かに、他人よりかは無駄に持っているとは思っとるよ? じゃが、この事態に何ら行動できんのは一緒じゃて」
そういう返事は覚悟していた。デリダウ老も彼なりに船へ貢献しようとしているのだ。何か良い案があるのならば真っ先に行動するか誰かに伝えている。それが出来ていないということは、頭の良いこの老人でも、どうしようも無いと考える状況だと言うこと。
「って、アーランさん!? やることって、デリダウさんに話を聞くってだけだったんですか!?」
「だけとは何だ。だけとは」
レイリーの驚きは失礼だと思う。老人の知識に頼るのは若者の常ではないか。それに驚くのは老人が不甲斐ないと言っている様なものであろう。
「すまんが、実際問題、わしに何がしかできるとは思えんがの」
「そう不安になることを言わないでくださいよ。それにこっちは聞きたいことがあって来たわけですから、その事について答えてくれれば良いってやつでして」
別に、本当に何のアテも無くここに来たわけじゃあない。心許ない行動だとしても、行動の理由はちゃんとある。
「ううん? 聞きたいこととな?」
「この場所の雰囲気というか……不可思議さ? 何か、前の砂漠に似ていませんか?」
「ふん? 具体的には何がじゃね?」
興味が湧いてきたのか、デリダウ老は身を乗り出す様な姿勢となる。良い感じだ。気落ちしたり、何もできないと絶望するより余程良い。
「一番は生物の気配ですね。前は砂漠だからそれほど違和感が湧きませんでしたが、こっちは明らかにおかしい。動く生き物がどこにもいない」
「さらにわしらまで消え始めてると来たか。確かに以前の砂漠の様に、この街は不思議な場所じゃと言える。いや、待て待て? もし前回と同じか近似した事象が起こっているとしたらどうじゃ? アレの存在がここでも確認される可能性が……」
デリダウ老の目から恐怖のそれが消えていく。この地は興味深い土地だ。周囲が受ける被害の事など忘れて、ただ魔法士としての好奇心を働かせているのだろう。
「ちょ、ちょっと先輩。いったい、何なんですか、この人。その………なんでこういう状況で、こんな風になるのはおかしいって言うか」
「良いんだよこれで。そうだ、これで良いんだ」
こういう状態のデリダウ老はたしかにおかしい。だが、それくらいでなければ、船員が次々と消えていくというもっとおかしい現象に対抗できるはずも無い。
「先生、俺はどうにも、ここには前に遭遇した空クジラか、それに似た様なのがいて、この怪異を起こしてるんじゃあって思ってる」
「何故だね? 何故そう思う?」
否定の言葉ではない。ただ教師が生徒に質問を促す様な、そんな問い掛けだ。
「ここには他に動物がいない。けど建物が無事なままだ。何がしかの意図を感じるが、動物だけをなんとかするなんて考え方、動物にしかできない。違いますか?」
「………あり得ん話でもあるまいて」
しっかりと見た。デリダウ老は笑ったのだ。この笑いの意味までは分からない。何か良い考えが浮かんだのか、それとも単に興奮しているか。もしかしたら気でも狂ったのかもしれない。
「君らが見た空クジラ。そもそもあれはなんじゃと思っておる?」
と、笑みを浮かべたまま、デリダウ老は俺達に尋ねて来た。これからする話。そのためにはまず空クジラを知っておかなければならないと、そういうことなのかもしれない。
「おっきな怪物……ですかね?」
レイリーがそのままの答えを返す。だが、それだけでは不十分なのではと俺は思ってしまった。アレはもっとこう……いや、表現が難しいので、やはりレイリーの様な言い方になってしまうのか。
「大きく……異質と呼んだ方が良いかもしれんの」
確かに他とは違っている生物だった気がする。というか、生物と呼んで良いのかすら疑問だ。
「異質だったら、何なのでしょうか?」
まだまだ分からないと、レイリーは首を傾げていた。俺にしたって、黙って聞くのみだ。
「その異質さはいったいどこから来るのかということじゃよ。わしらは環境に支配されるが、あれらは環境を支配する」
「神様でしたっけ? そういう言い方がふさわしいって言ってましたか」
以前、空クジラに対する講釈をデリダウ老から聞いた時は、そんな感じだったと思う。
「その通り。では次に、神様とはどうやって生まれる?」
「は? 神様が………生まれる?」
良く分からない話だ。神様なんて、最初からそこにあるのではないか?
「言葉で分からないと言うのなら、こう言い換えても良いの。力を持つものはどうやって生まれる?」
「そんなの、生まれつきの才能か、その後の努力や訓練からでしょう?」
当たり前のことだとレイリーは口にする。俺にしても同感だ。というか、それ以外に答え様が無い。
「うむ。それもその通り。つまり、圧倒的な才能と誰よりも優れた過程があれば神となるということなのじゃよ」
「いや、すっげぇ単純に言いますけど、それって相当困難な事じゃ?」
100年の一人の天才なんて輩だって、神様になれるはずも無い。
「こういう話を知っておるかね? あるところに手紙が届いた。それは明日の天気を予想したもので、次の日も、その次の日も届いた。そうして、その予想はすべてあたった」
「あ、知ってますよ、詐欺の話だ。その後、詐欺師が現れて、自分は超能力者だって名乗るんですよね?」
自慢げにレイリーがそのタネを説明する。超能力者を名乗る詐欺師は、手紙を複数、何人もの人間に届けていたのだそうだ。そうして、次の天気が晴れだったり雨だったりと、それぞれの手紙の内容は変えて配送していた。
外れた人間は何かのいたずらだと判断するし、当たった人間は、本当にあたったと驚く。それを回数繰り返し、すべての天気が当たりだった手紙の送り相手と接触。自分を超能力者と信じ込ませるという寸法らしい。
「なんだそれ、裏の話を知れば、ばかばかしい話だ」
タネのある詐欺など、そんな話かもしれないが、馬鹿らしいと考える感覚は消えない。
「そう思うかね?」
「いやあ、だって、本当に単なる詐欺の話じゃないですか」
「では、すべての天気を的中させた手紙についてはどう思かの?」
「だからそれは、単なる偶然で………」
「偶然じゃろうと、すべてを当てた手紙は存在する。そういうことにはならんかの? 例えばわしらは明日の、明後日の、明々後日の天気を予想なんぞできん。じゃが、出す手紙の数を増やせば、さらにその先じゃろうと、予想できる手紙を生むことは可能じゃろう?」
重要なのは結果であるとデリダウ老は続ける。まるで神の御業の様な手紙を、単なる偶然が生み出せる。ただ回数を試せば良いのだ。それだけで、どこかにそれは生まれる。
これを動物達の世界にしてみればどうだ。多くの動物は、単なる動物に過ぎない。だが、可能性さえ多用であれば、どこかには必ず生まれるということになる。すべての選択肢を正答し、神へ届きかねない結果を残す何かが。
「それが神の誕生じゃ。正真正銘、タネも仕掛けもない。偶然と無限の可能性が生み出した化け物。それを許容するのが、このどこまでも広がる世界なのじゃよ」
だから空クジラの存在は予想されていたのだそうだ。魔法士たちの研究によれば、この世界がどこまでも続く大地だと過程すれば、そんな神様はどこかにいるだろうと。
「神様云々の話は良く分かりました………いえ、実際は良くわかんねぇんですけど、とりあえず、なんとなくは。で、この状況下において、その神様へどういう予想を立てられると?」
問題はそこだ。今回の一件も、神様が関わっているかもしれない。それは分かるが、さらにそこから発展が望めなければ、何も解決できない。
「ここが人の住むべき街でありながら、今は人がおらんということを考慮すべきじゃな。良いかな? さっきの話は、別にわしら以外の何かを差した説明じゃあないぞ? 人間にも、当たり前の様に起こりうる現象なんじゃよ」
例えば人間の集団の中から、神の様な存在が現れる。するとどうなるだろうか? その存在は成功するとか失敗するとか、そういうレベルの存在ではない。神様なのだから、あるべくして、神様としての立場と力を手に入れるのだ。
崇められるだろうか? 恐れられるだろうか? 少なくとも尋常な状態ではいられない。結果、この誰もがいなくなった廃墟があるのだとしたら………。
「相手は元人間か、それに類する存在。そう考えるべきだと、先生は思ってる?」
「存在するのであれば、そうであろうと考えとる。この街は少し見ただけでも立派じゃろう? 廃墟にはなってるが、大規模に破壊された跡は見当たらん。つまりは………人だけが突然いなくなる様な何かが起こり得たと思われるし、それをしたのもまた人ではないかと……いや、そんなことが出来てしまうのであれば、まさしく神になってしまったわけじゃがな」
だが、元人間かもしれないという情報は重要だろう。基本的な部分で、人間の考え方をする可能性があるからだ。こちらも人間を探すつもりで事にあたれば、今回の事件を解決できる………かも。
「一つ、そういうのがいそうな場所に心当たりが」
「ほう?」
俺はペリカヌの外側に思いを向ける。そこは街の上空から見た場所だ。一際高く積み上げられた石の塔。そんな印象を受ける場所だった。街の中心近く、行政の中心でもあっただろうあそこ。もし神となった人間がいるのだとしたら、そこにいるのではと思えてしまう。
「何か………そちらに関しても根拠があるんですか?」
こちらの心当たりに対して、終始不安げなレイリーが尋ねて来た。だが、何時までもそんな顔をされていては困る。なにせこれから、そこへ共に行く予定なのだから。
「根拠って言うか、あれだろ、この街には、王様が一人残ったって話があっただろう?」
「いや、でもあれは単なる………」
「噂や比喩表現? そう思うべきじゃあなかったってことだな。前の空クジラと一生で、ツリスト達からの話はまるっきり正しい情報として見るべきだったんだ。街の王がいるのなら、街の中心。そう相場を決まってんだよ」
俺達はこの街の王に嵌められた。それを念頭に事に挑むべきだ。俺はそんなことを考えながら、次の行動へと移ることにした。
デリダウ老との話から、さっそく艦首へと向かった俺とレイリー。そこにはきっとアニーサ艦長がいるはずだからだ。
そうして予想通り、そこには一人、艦長席に座るアニーサ艦長の姿があった。他には誰もいない。空を飛んでいないペリカヌにおいて、艦首はただ艦長がいるだけの場所となっていた。
そんな一人だけの艦長であるが、俺達の提案に対して返した言葉と言えば………。
「許可できる話だとでも?」
「できませんかね? もう他に方法が無さそうに思いますけど」
こちらの提案、それは小型飛空船で街の中心にある塔に近づき、その後侵入。今回の事件の元凶と思われる何かがあった時点で、それの排除を試みる。というものであったが、アニーサ艦長はあまり乗り気では無いらしい。
「そもそも、それらの行動のどこに明確な根拠が? 事件の黒幕がいる。それは街の中心にいる。さらに排除できれば問題が解決する。どの部分を取っても、希望的観測に過ぎないと思いますけれど」
「もっともですよね」
アニーサ艦長の言葉にレイリーが頷きやがる。お前はどちらかと言えばこっち側じゃないか。なあ。
「じゃあ俺の希望的なそれよりも、もっと建設的で方向性が見える作戦なんてものがあるんですかね? 聞きましたよ? 今、この状況でも、いなくなっている人間がいるそうじゃないですか」
「それは………」
いくら役目が無いと言っても、ペリカヌの艦首で、アニーサ艦長が一人だけ。別に他の人間が非番なわけではない。艦首の人員の殆どがいなくなっているのである。
艦内で暴動が起こっても仕方ない状況であるが、それが起こらないのは船員の士気が高いからとかそんな理由で無く、それを起こる前にどんどん人が消えていき、混乱が行動へ移る前に、新たな混乱が起こっているだけなのだ。
「今回ばっかりは、俺に理がありますよ。考え無しだろうが間違った選択だろうが、今、この状況なら何もやらないよりマシだ。選択肢は二つ。成功するかどうか分からない作戦に全賭けするか、それとも全部ほっぽり出して逃げるか。俺はどっちでも構いませんよ、どっちにしろ、失敗したところで全員やられるだけだ」
何もしないでいても同じくそんな結果が待っている。ならば、行動するだけだ。その覚悟ならある。アニーサ艦長の許可さえ貰えれば。
「………わかりました。そうですわね。逃げるのは性に合いませんし、成功した場合の見返りが大きな方に賭けてみることにしますわ」
「じゃあ……!」
「ええ。これよりすぐ、街の中央の塔へと向かってくださいまし。あなた方まで消えてしまう前に」
それは切実な問題だった。こうやって意気込んでいる俺が、次の瞬間には行方不明になっているかもしれないのだから。
小型飛空船ロンブライナが廃墟の空を飛ぶ。ただ、目的地まではそう時間は掛からない。ペリカヌが着陸している広場から街中心である塔までは直線距離にしてそう遠く無いからだ。
むしろ、塔の周囲を旋回して、着陸するに丁度良い場所を見つける事の方が作業的には苦労する。
そうして塔の下部くらいに、比較的開けた場所があったため、そこに降りることにした。こちらの動きに反応して、後ろに着いて来ているレイリーの小型飛空船も降りてくる。
ちなみに降りる事に決めた広場は、ちょうど、二つの小型飛行船くらいであれば着陸できそうな広さはあった。
「さて、どうなるかな? おい」
ロンブライナを着陸させ、塔の前へと降り立つのは、さすがに緊張した。街へと入り込んだメンバーは全員居なくなっているのだ。今度は俺の方が。という恐れは常にある
「…………よし」
ロンブライナから這い出て、街の石畳へと足を踏み入れた。それ以外、特に変化はない。街に入ってすぐ、何かが起こるというわけでは無いらしい。
「よう、レイリー! そっちは大丈夫そうか?」
同じ様に、レイリーが恐る恐ると言った様子で小型飛空船から降りて来ていた。
「な、なんともありませんよね? 僕たち……!?」
レイリーは小型飛空船から降りるや否や、小走りでこちらまでやってくる。
「二人して、どうにかなってなきゃ、そうだな」
周囲に違和感は無い。ただそこに廃墟と廃墟を侵食する植物や苔があるのみ。
「縁起でもないこと言わないでくださいって………。で、これから、塔へ入るんですよね?」
「勿論だ」
俺は腰に帯びた短剣の柄を握りしめた。一応は荒事があった時用の道具であり、レイリーも同じ様に短剣を帯びている。
ただ、どれだけ使えるかと聞かれれば、正直自信が無かった。喧嘩なんかはした事があるものの、戦闘訓練など碌にした覚えがないからだ。
「警棒とかの方が、なんだか良かったですね」
「今さらだろ」
単なる棒の方がまだ上手く使えるのではと思えてしまうも、これらの武器はどちらかと言えば心を強く保つための道具だろう。
「あの………一つ尋ねても良いですか?」
「なんだ?」
なんだかとても言い難い事を言う様に、レイリーは言葉を詰まらせながらも質問してくる。
「その………アーラン先輩の弟さんって、荒事に向いてる人ですか?」
「あん? いや、そんなこたぁ無いと思うけどな。人生で喧嘩した回数なんて、俺より少ないだろ」
「そうだね。うん。きっとそうだと思うよ」
と、レイリーの小型飛空船より降りて来た俺の弟、エイディス・ロッドが会話に入って来た。
「じゃあなんで今回の探索に参加を? 無理矢理僕の飛空船に乗せてまで?」
小型飛空船は一人乗りだ。ただ、詰めれば二人乗れないでもない。そうしてロンブライナよりレイリーの小型飛空船の方が、操縦用の空間は広かった。だからそこで二人して乗ってもらったのである。
「なんだろうね? 何もしないって事に耐えられなかったからかも」
「人手は多い方が良い………ってこともねぇんだけど、できそうなことをするのが今だからな」
「そういうこと。塔を登っている間に、僕だけが気づけることとかあるかもだよ?」
「そういうもんですかね………」
やるべきことは探索に近く、小型飛空船操縦士以外の考え方ができる者が共にいるというのは、多少なりとも良い影響があるだろうとは思う。荒事になった時、専門的行動ができないのはどちらも同じなのであるし。
「とりあえずそろそろ行くぞ。ぐだぐだしてたら、俺達もどうにかなるかもしれねぇ」
会話を切り上げて、エイディスとレイリー、二人を率いて、塔の内部へと入って行く。
「………やっぱり、行政用の建物みたいだな」
塔の内部に入ると、中央の広い空間と、左右の階段が見えた。階段は各階に繋がっているらしく、その位置関係から、不思議と荘厳に見えてしまう。利便性と見た目、相応を考えられて作られていた様にも見え、そういったところは国が政治の中枢として作ったという意図が見て取れそうであった。
「やっぱり、変だね」
と、塔の内部へと入ってすぐ、エイディスがそんな感想を口にする。
「変って何がだ?」
「うん。立派過ぎるんだよね」
塔内部の構造をなぞる様に、宙で指を動かしていくエイディス。その指を追う様に、俺も視線を動かす。
立派過ぎる……その言葉を頭の中で繰り返すうちに、エイディスの言いたいことが分かりかけてきた。
「ええっと、立派じゃ駄目なんですか? 未開拓の土地でこんな建物は分不相応だと?」
「そうじゃねぇよ。ほら、あっちこっちで植物の根が張ってるだろ?」
俺はレイリーにも分かる様に、塔内部をも侵食している植物を指さす。いや、侵食している様に見える……か。
「植物が……そうですね、根を出すくらいに………いや、待てよ? にしては頑丈過ぎないか?」
漸く、レイリーもこの場、いや、街そのものへの違和感を覚えたらしい。
「そうだね。おかしいよこの街は。あれくらい植物に侵食されるには、それなりの歳月が必要だ。勿論、植物が成長するに従って、建物そのもののバランスも崩れていく。そのはずだけれど、この街で、崩落している様な建物を見た?」
見ていない。植物に侵食されているせいで、それなりの廃墟に見えたものの、その実、この街のどこにも、経年劣化により崩壊を起こした建物が存在していない。
「おいおい。じゃああれかよ、植物は廃墟になっている様に見えるためのカモフラージュみたいなもんか?」
自分で行ってゾッとする話だった。もし、ここが植物すらも無い無人の街であったらどうだったろうか? 俺達は迂闊に近づいただろうか? もしかしたら警戒して、距離を置いた場所から観察したかも。
「他に生き物の気配を感じない。なのにここまで植物は繁殖してることへの理由としたら、中々のものじゃあないかな?」
言葉を肯定されることがここまで嫌なのは始めてだ。できれば否定して欲しいところだったが、そんな材料は無いと断じられてしまうだろうか。
「………どうする? さらに探ってみるか?」
「それ以外に何か選択肢でもあるんですか?」
レイリーが残酷な事実を告げてくる。街全体が作為的なものだとしたら、この街のどこに居たって、相手の領域の中だ。逃げるとかさらに奥へ、という選択などない。
誰かの胃の中に放り込まれ、消化されるまで何をして過ごすか。あるとすればそんなものだった。
四方を死に囲まれて、今さら臆病風に吹かれたって遅い。もし何の抵抗も感じなければ、そんな言葉を口にしていたかもしれなかった。




