1話 街
世界は広い。それを実感するのはどういう時だろうか。大自然を見た時か、それとも知らぬ土地へ赴いた時か。
俺、アーラン・ロッドの場合は、むしろ人が作ったであろう建築物を見た時である。勿論、それは普通の場所ではない。
例えば、人が誰もいないだろうと思える場所に存在する人の痕跡。それを見た瞬間に、俺は世界の広さを実感するのだ。
例えば、外世界。飛空を続けるペリカヌの前に、突如として街並が姿を現した時などは。
「あれが………クリスト達から伝えられた情報の中にあった、巨大な帝国の跡地………?」
事前偵察のために小型飛空船ロンブライナを飛ばす俺は、眼下に広がる街並みを見ていた。
高すぎる程の外壁に囲まれた城塞都市。そんな印象を覚える光景が目に飛び込み続けている。
「確かにここは俺達にとっては未踏の地だけど、人間にとっては、遥かな過去の………みたいな感じか」
良い言葉が思い浮かばない。ただ言えるのは、この街は遥かな歴史を持っており、俺達が近づく前から、確かにそこに存在していたのだ。そうして重要なことがもう一つ。
「人は………情報通り、いないか」
ここは滅んだ街だ。如何なる理由かは知らないが、人が去り、廃墟だけが残された帝国の残骸。聞く限りにおいては、たった一人、この帝国を治める王だけが街に残ったという話だったが、そこはどうにも伝説染みている。
「この光景を見たら、そんな物語も思い浮かぶか」
かつては強大な力を誇る、繁栄した街だったのだろう。石造りの街並みは、そのどれもが大きく、長らく人の手が入っていないだろうに、しっかりとまだそこに根差している。
しかしそれでも植物の浸食には対抗できぬのか、ところどころ苔や蔦で覆われ、建物よりも大きな木の根が、建築物の新たな住人となっていた。
「王様が一人ね。なんとも寂しい街なこって………うん?」
街の中心にある、元は行政の中心だったのだろう大きな建造物の一部分。目を凝らせばそこに窓が見えるが、その部分が何やら光った気がした。
「ガラスに日の光が反射でもしたのか? いや、だいたいはガラスなんて残ってない窓だよな………」
小さな違和感を覚えながら、俺はペリカヌへ帰還を選択した。空からの偵察には限りがある。こういう街を調べるのであれば、地に足をつけた調査が必要だと判断したのだ。
「街にはどうやら飛空船を着陸させるためらしき離着陸場があるようであるな!」
空からの調査報告を終えた後、食堂で休憩をしていると、作業員班の班長、ブラッホ・ライラホが話しかけてきた。どうやらペリカヌの艦長、アニーサ・メレウ・ラクリムから、今後の方針を会議にて聞き、それを俺に伝えて来たらしい。
「そういうのって、自分の班の班長から聞かされるもんじゃあないですか? 最近、俺がどの班の所属か分からなくなってきたって、うちの班長が嘆いてましたけども」
「それはそれは! 申し訳ないことをしたものであるな! だが、面白きことは真っ先に共有する方がより面白い。という言葉にもある通り、こういうのは早い者勝ちであるからな!」
「そんなに面白いもんですかね? そりゃあ安全に着陸できる場所が見つかったのは良いことですけど」
ペリカヌは大型船の中では小さな部類だが、それでも大きな船だ。ある程度の平地が無ければ安全に大地へと降りられない。
そうして、そんな場所は自然環境だと中々稀であろう。結局、多少の危険を覚悟して、不安定な足場で着陸することが多いのだ。
一方で今回はやや劣化しているとは言え、人工的な離着陸場。その点に関しては確かに幸運である。だからどう面白いのかは分からないものの。
「わからんかな! これより我々は、我々ごと、未踏の土地に足を踏み入れることになるのだよ! わくわくするでは無いか! この感覚は冒険と言うより引っ越しをする際のわくわくに近いであるな!」
「そんなにですか? 実際に調査する人間は限られてるんでしょうに。大半は船で待機のはずだ」
「だとしても、皆が皆、肌で感じることになるだろうよ! ここがまさに外世界の、それも我々が求めているかもしれない土地であるということに!」
ブラッホの言う事は、つまり、廃墟となった街が、俺達にとっての新たな植民地となるのではないかということだ。
植民地というものは、勿論ながら、人が住める土地でなければ意味が無い。この世界は広大で、土地そのものは幾らでもあるのだが、人が住むに適した土地となると、そうすぐ手に入るものでは無くなってしまう。
気温、周囲の環境、土地の起伏。他、様々な要素で、人間にとっての土地の価値は変わるのだ。そうして、かつて人が住んでいた土地となれば、それは人が住むに相応しい場所である証明ができる様なものであり、確かに飛空開拓計画の目指すべき土地であるとも言えた。
「けど、そう旨い話なんて、本当にあるものか怪しいって話でしょう?」
「ふむ? どうやら懸念がある様だが………」
懸念と言えば懸念だ。それが単なる杞憂であれば良いとは思う。
「前に調査した土地じゃあ、とんでもないオチが待ってたじゃないですか。ここがそうじゃないとも限らない」
前回はとある砂漠を調査したが、その結果は散々たるものだった。ペリカヌごと、俺達の命が無かった可能性すらある。
「心配し過ぎ………とは言わんがね! だが、珍しく後ろ向きな発言ではないか!」
「分かってますって。どんな土地にでも心配してたらキリが無いってことでしょう? ただ、ここの土地がやや不安なのにはれっきとした理由があるって話で」
なんとなくでは無く、ちゃんと言葉にできる不安がある。そんなもの、艦長たちだって承知しているだろうから、文句を言ったって仕方ないことは分かってはいるものの。
「ほうほう。その不安、あててみせようか!」
「別にそんなことされなくても、自分で言います。そもそも、なんでここに人が住まなくなったのかって事ですよ」
かつては人が住んでいたのだろうこの土地で、今は人がまったくいない。それはこの土地が、人が住むに相応しくない場所だからではないか。そんな不安が頭を過るのだった。
ペリカヌは廃墟となった街の離着陸場へと着陸すると、さっそく作業員班の人員を調査人員として街へと出発させた。
今回の俺は作業員班の一員とは思われていなかったらしく、小型飛空船班の一員として、艦内待機を命じられている。
何時でも小型飛空船を出発させられるように、小型飛空船の格納庫での待機任務中ということになっているが、何も起こらなければ何もしないでいるということ。やることが無くなれば雑談がはずむのがこういう時間に起こり得る現象だった。
「離着陸場があるってことは、この廃墟に住んでいた人たちも、飛空船を飛ばす技術や文化があったってことですよね?」
同じ小型飛空船操縦士であるレイリー・ウォーラが話しかけてくる。なんでわざわざこんな話をしているかと言えば、だいたいの話題が出尽くして、こんな色気も無い内容くらいしか思い浮かばなかったからだろう。
「ここが本当に飛空船用の場所なのかってのはわからねぇけど、まあそうなんだろうな。だったら、飛空船を飛ばしてた可能性もあるだろうさ」
「なんだか不思議です………離れて、それも繋がりだってなかった人たちが、かつてここに住んでいて、しかも、僕たちみたいに飛空船を飛ばしていたなんて」
確かに言われれば不思議な気分になる。人間とは、必ず飛空船を発明するようになっているのか。それとも………。
「ま、世界は広いってことなんだろうな。そういうこともある。俺達の常識外から何かやってくるなんて日常茶飯事さ」
それを一番感じるのが、同じ人間が築き上げた街の中というのがなんとも奇妙な話だった。やはりこういう場所でこそ、世界の広さを感じてしまう。
「ほう。何やら興味深い話をしているね?」
一人寂しかったのか、小型飛空船班の班長、ビーリー・バンズが近づいてくる。ビーリー班長は蓄えた髭を擦る仕草をしながら、良い暇つぶしを見つけたとばかりに、話題を発展させたい様子。別にそれを邪魔するような気分でも無いし、何よりこちらも暇であるため、それに乗ってみることにした。
「こんな街にも、飛空船を飛ばしている人間がいたって話ですよ。なんでしょうね、結局人間千差万別って言っても、頭の中身は似た様なもんなのか………」
「そういう部分もあるだろうが、私は別の案を唱えたいところだね。単なる妄想かもしれないが、そういう事であった方が素晴らしい」
語りたかった話題になったとばかりに、ビーリー班長は饒舌だ。まだまだ止まりそうにない。
「どういう妄想かと言えば、つまり、かつて人間は一つだったということだ。カーラン教が唱える創世神話は知っているかね?」
「あ、はい。僕は知ってますよ」
レイリーが手を上げて反応する。僕はとは何だ僕はとは。国教の神話くらい、俺だって知っているぞ。
「神様は人を生んで、その人に命じたんですよね、世界を満たせと」
レイリーが語るカーラン教の神話に寄るならば、これは最初、人間が一つの場所にいたということだ。そこからさらに生活圏を広げる中で、それぞれバラバラになった者達もいる。それが俺達だったり、この街に住んでいた人間だとするならば、共通の技術や発想があってもおかしくは無いということになる………のだろうか。
「妄想かもしれんが、発想としては悪くないだろう? 人間、子を産んで育てて増えていくのだ。つまり、今がどれだけ多くても、遡れば一点に辿り着く」
「だとしたら、俺達は随分と忘れっぽい頭をしてるんですね。かつて一緒の家族だった相手を、すっかり知らない、別々の相手だと思ってる」
そうして今、再会を望むかの様に外世界への旅を始めた。どこぞの男に言わせれば、浪漫だ面白味だと表現するのだろうが、俺からしたら間抜けな姿に思えてしまう。自分自身がその間抜けな行動の一部を担っていると思えば、猶更だ。
「手を伸ばせば手の先に霧が掛かることもあるさ。だが何も見えなくなったとしても、晴れるのを待つなり、手を戻すなりして、また手を視界に収めることができる。そういうものなのだろう。手を視界に収めたままにしておきたいと言うのは、手を前に伸ばすことをしないということだ。そっちの方が臆病で間抜けに見えるよ。私は」
もしかしたら、忘れていた相手に出会えたのかもしれない。ここには人がいないが、少なくとも思いを馳せることはできる。そのことがなんとも楽しい。ビーリー班長はそんな顔をしていた。
「けど、出会いは良いものばかりでは無い気がしますが」
またもやレイリーが手を上げて発言した。
「それは勿論そうだよ。だから慎重に調査をしているわけであってね」
慎重………確かにもっと大胆にできるところを、様子見の形で行動を抑えている点は慎重と言えるかもしれない。
ただ、それでも慎重と呼んで良いかどうかは疑問だ。既に街にペリカヌを降ろしてしまっているのである。本当に厄介が待っているとするならば、その厄介なものの懐に、既に船ごと入ってしまっているのだから。
こんな縁起でもないことを考えていたからかは分からない。ただ、実際に厄介は起こってしまった。調査に出たはずの作業員班の面々が、何時まで経っても帰って来ないという厄介事が。
「由々しき事態です。前の様に未帰還の理由がしっかり判明していればまだマシなのですけれど」
「前のってのは、要するに俺のことですか」
小型飛空船班は、さっそくアニーサ艦長から会議室へ集まる様に言い渡され、命令通りに集まっていた。
アニーサ艦長は真面目な表情を浮かべているし、こっちもへらへらと笑う人間はいない。なんと言っても行方不明は重大だ。しかも前回、俺がそうなった側であり、その時、俺を助けてくれた相手が今回は行方不明となったのであれば、どうあったって必死になる。
「その事ですわ。前回の件があったればこそ、今回も作業員班を救出するために動くべきだ。という意向が船内で強い。そのことが唯一に幸いですわね」
そうだろうか? 不幸中の幸いなんてものですらないと思う。意向が固まり、すぐに救出に向かえると言っても、どこをどう探せば良いのか。そもそも、どうして行方不明になったのかすら分からないのだ。
「これから、わたくしたちがすべきこと。あなた方にはわかりますかしら?」
尋ねるアニーサ艦長に俺達は頷く。小型飛空船班がこの状況でさせられることなんて決まっているのだ。だけれども一応は確認。ビーリー班長がアニーサ艦長の問いに答えた。
「情報が無い。それが今はもっとも深刻ですからな。ならば小型飛空船班が街の空を飛び、無い情報を集めるしかありますまい」
そういうことだ。俺達の機動力を使って、まずは何も分からない状況から脱する。それこそが重要なのだろう。その過程で作業員班を発見できれば万々歳。やるべきことに何ら問題が無い事に思われる。一つの事柄を覗いて。
「あの………僕たちが、作業員班の人たちと、同じ何かに巻き込まれる可能性は?」
レイリーがおずおずと発言した。そうだ。あえて誰も言わなかったが、そこが一番重要だ。俺達まで何がしかの事件に出会う可能性は十分にある。
だというのに、誰もそのことについて発言しなかったのは、勿論、理由があるからだ。
「危険がそこに待ち受けているとして………だからどうしろと言う話になりますけれど……それは宜しいのでしょうか?」
「うっ………」
言ったところで、レイリーと同じく言葉に詰まることとなる。給料をもらっているのだ。この開拓計画にも参加の契約を結んでいるのである。危険だろうが、その危険に対処する役目の班がうちだったり作業員班であったりする。
「仕事ですからな。命じられれば命じられた分の事はしましょう………が、万事上手く運べそうにはありますまい」
髭を一擦りしてから、ビーリー班長は正直なところを告げた。
「上手く行く行かないの話であれば、こうも返せますわね。既に躓いている最中であると」
転んだ後に再度起き上がるにしても危険がある。そんな危険極まりない場所に俺達はいるらしかった。
街というのであれば、当たり前だが障害物が多い。森の木々ほどに群生はしていないが、それにしたって高度を下げて飛行など中々できないだろう。しかし、高度を下げなければ見つかるものも見つからない。作業員班は両足で地面を歩いていたのであるから、高度を下げるほどに彼らを見つけやすくなるはず。
そんなもどかしい事態であるから、まずはある程度の高さから街をぐるりと見渡し、そこから徐々に高度を下げて捜索を続けるという方法になる。
(しっかし………どこにもいないな。本当に)
街と言ってもここは廃墟だ。生きた人間はペリカヌの船員を除いていないはずである。つまり人間の姿は目立つ可能性が高い。だというのにまったく見つからない。
「こりゃあ、屋内の方で何かあったのか? だったら空から見つけるのはできそうに無いよな」
一度、帰還して話し合う必要があるのかも。いや、それでも空からの捜索は始めたばかりなのだから、今しばらくはこうやって空を飛ぶ必要があるか。
「ここでどれだけの期間、人が住んでいないのかなんて知らねえけど、野生の獣だっているだろうし、危険は危険………って、あれ? 野生の獣?」
ふと気になる事柄が脳裏に浮かぶ。そう長くいたわけでは無いが、この街で俺達以外の生き物は、植物以外見ていない気がするのだ。
「なんだ………? 何か不安が」
人がいなくなってかなりの時間が経過しているはずの建物だ。そうして、人工物とは、そこに人がいなければ、他の動物にとっては住み心地の良い場所となることが殆どである。
「だってのに、なんで動物の巣になってそうな場所が見つからないんだ?」
単にこちらが偶然見かけていないだけなのか。それとも、何がしかの絡繰りがあるのか………。
「空から見ているだけだし、見つけてないだけかもな」
この時はできるだけ、安易な選択肢を選んだ。余計な不安を抱えたって、どうしようも無いと思ったからだ。
「………とりあえず、偵察を続けよう。他の二人だって…………二人? ちょ、ちょっと待て!?」
言葉の最中に気づいてしまった事に俺は驚き、小型飛空船ロンブライナを回頭させる。周囲をぐるりと旋回し、辺りを見渡すためだ。そうして見るのは地上の廃墟では無く、共に空を飛んでいるはずの二つの小型飛空船。
二つなのだ。ビーリー班長とレイリーが乗る二つがロンブライナの他に存在するはずなのである。だというのに、一つしか見えない。死角にいるのかと船を旋回させても、やはりどこにも見えなかった。
「あっちにいるのはレイリーの船だ………ってことは、いなくなったのはビーリー班長のか!?」
それは完全に予想外のことだった。いなくなるとしても、何らかのミスをしたレイリーではないかと、本人が聞いたら怒り出すであろうことを考えていたが、まさか班長がとは。
(あの人は、船が不調になったとしても、十分に動かせる腕を持った人だ。万が一ってのも考え難い………ってことは、やっぱり何か起こってるってのかよ!?)
とりあえずは非常事態だ。作業員班に続いて、ビーリー班長まで消えてしまった。悠長に偵察などしている暇ですらなかった。
一旦ペリカヌへ戻ろう。そう考えて、やはり混乱しているらしいレイリーの船の前を横切る様にしてから、ペリカヌへとロンブライナを向かわせた。レイリーと共にペリカヌへと帰還するための動きであるが、これでレイリーまでいなくなったら、まともでいられる自信が無かった。
「いったいどういうことなんですか!? これは………何が起こって……!?」
「………俺の方が知りたいよ」
小型飛空船格納室にて、苛立つレイリーを見つめる。ビーリー班長がいなくなった。その報告のために戻って来た俺達に告げられたのは、ペリカヌの方も、船員の数名がいなくなっているという返答だった。
気が狂いそうにもなる。報告を受けたアニーサ艦長にしたって、さすがに動揺を隠せていない様であったし、俺達を一旦、格納庫へ待機させたのは正解だろう。お互い、とりあえず考えを整理するには、落ち着く時間が必要だったからだ。
いや、時間が解決してくれる様な事態でもあるまい。俺が一見、落ち着いていられるのは、レイリーが俺以上に混乱しているからであり、そうでなければ、俺がレイリーみたいに苛立ちを何かにぶつけていたはず。
「こういう事態は幾らか覚悟はしている……はずなんだけどな」
どうやら俺達は、天然か意図を持ったそれかは分からないが、何がしかの罠に嵌ってしまったらしい。しかも寄りにもよって、いなくなった船員のうちには、ペリカヌを動かす操縦士二人が含まれているそうだ。
要するに、ペリカヌが動かせなくなった。いや、基本的な操縦方法は小型船と変わらないだろうから、俺やレイリーがいれば動かすことはできるだろう。その後にどうなるかは知らないが。
「これから僕たちどうなるんだろう………ビーリー班長だっていないし………」
隣で気落ちし、床に座り込んでいるレイリー。苛立ちや混乱なら兎も角、そういう姿は止めて欲しい。こっちまで気分が落ち込んでくる。
「いっそ、二人して小型飛空船で逃げ出すか?」
「馬鹿言わないでくださいよ!」
確かに馬鹿なことを言った。実際、してしまいそうになるくらいには馬鹿な発言である。後輩に向けて言うことでは無かったか。
ならば、もう少し先輩らしいことをしてみるかと言う気にはなる。
「悪かった。逃げるより先にやることがあったな。そう言えば」
そう告げてから、格納庫の壁に背を預けるのを止めて、歩き始めた。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよアーランさん! やることって!?」
どうやら追ってくるらしいレイリーに言葉を返す。
「泥沼に嵌っても、抵抗しないなら沈むだけってな」
「だからどういう……?」
「足掻ける手足があるなら動かすのが生きるってことだよ。きっとな」
どこかの誰かの様な例え話を口にしながら、俺はとりあえず、この状況に抵抗してみせることにした。




