前編
私、シィラ・メリベイは冒険艦ペリカヌの観測士である。観測士はフライト中のペリカヌの目となることである!
シィラ・メリベイは艦の目となり、艦内にいるすべての船員の命を預かる存在なのだ!
「なーんちゃってー」
長いフライトの間は暇を持て余す。意外かもしれないが、妄想力はとても大事なのである。最近の妄想は私がこの船の大物という設定で、皆から慕われ、頼りがいのある観測士シィラ・メリベイが活躍するというものが主題だった。これだけで一時間くらいは時間を有意義に過ごせる。い、いや、無意味かもしれないけれど、退屈なままでいるよりはきっと良いはず。
だけれども、そんな楽しい空想の時間は、簡単に終わりを告げた。
「シィラ。そろそろ定時報告の時間だ」
「あ、はい! すみません!」
ペリカヌの操縦士、アカノトさんから注意される。実を言えば、何時も不機嫌そうな顔をしているこの人が、私は若干苦手。だって怖いんですもの。
ちなみに定時報告とは、こうやってペリカヌ上部艦首から外を延々と眺める私が、定期的に船の状況がどんなものかを声に出して説明するという仕事だ。
「えーっと、時間は11:00。雲やや多めですが青空です。風も安定しています。船の飛行は順調そのもの」
時間と周囲の風景。そして船のフライトの銚子はどうか。その点を定期的に言葉にするのだ。こうすることで、艦首にいる皆に、状況の整理をさせ、各仕事をスムーズに行なわせるのだそうである。実感したことはあんまりないけど。
「そろそろ昼休憩ですな。どうしましょうか艦長? お先に休憩でも?」
副長のミード・ラーグさんが、艦長のアニーサさんに提案している。ミードさんはこの艦首の癒し担当だ。何時も穏やかな顔で穏やかな事を言ってくれる。やさしいお爺さんって感じ。アカノトさんも少しくらいは見習ってくれたら良いのにと思う。
「そうですわね………今回はミード副長がお先にどうぞ。もう少しここでこうしていたい気分ですの」
「そうですか。では、遠慮なく」
そう言うと、ミードさんは艦首を出て行った。恐らくは食堂だろう。この時間なら比較的空いているだろうし、ゆっくりできるはず。
「アカノトさん。私たちは、どうしましょうか?」
艦長たちの動向を見た後に、アカノトさんに話しかける。
艦首の仕事は、基本的な部分で常に続けなければならない。けど、ずっと仕事を続けられる人間はいないから、必ず誰かと交代で仕事をしているのだ。
アニーサ艦長は副長のミードさんだし、アカノトさんには副操縦士のレック・ドックさんがいる。そうして私はどうなのかと言えば、私が休憩している間は、操縦士の人が観測士を兼任してくれているのだった。
「先に行ってこい。どうせ昼になればレックと俺で交代だ」
操縦士のお仕事は半日ずつ。アカノトさんがここにいるということは、レックさんは自分の部屋で寝ているというバランスである。
「あ、じゃあありがたくですね。今日の日替わりランチはなんだったかなー」
アカノトさんは厳しい分、私よりきっちり船の目になってくれることが多いので、安心して後を任せられる。私の存在価値が無くなるんじゃないかしらと思う部分があるから、深くは考えない。
そんなこんなで、何にも考えない様にしながら食堂までやってくると、その入り口で話し掛けられた。
「よう! シィラちゃんじゃねえの! どうしたんだ? 今日は何時にも増して間の抜けた表情してんじゃねえか」
話し掛けて来た相手はバーリン・カラックさん。作業員班の人だ。ちなみに苦手なタイプの人の一人。だってがさつそうなんだもん。それに私のこと子ども扱いしてくるし、その割に距離が近いし。
「べーつーにー。ちょっと考え事してただけですー。って、あ、アーランさんも居たんですね!」
バーリンさんの横には、私一押しのアーラン・ロッドさんが並んで立っていた。どうやら二人で昼食へやってきていたらしい。
「ああ、丁度、タイミング良くお互い休憩に入ってな。こいつの場合は本当に休憩か怪しいけどさ」
「だからサボりじゃねえって言ってるだろ?」
お互いに軽口を叩きあうアーランさんとバーリンさん。このアーランさんであるが、小型飛空船の操縦士ってところが既に何やら格好良いのに、最近では船をすごく大変な怪獣から助けてくれたという功績もあるのだ。あの怪獣が現れた時、私は気分が悪くなって倒れていたから、むしろ小型飛空船で近づいて牽制するなんてすごいと思う。
さらに言えば顔が良い。
「そういえばアーランさん! 艦長も言ってましたよ! 砂漠での一件、小型飛空船班の働きは素晴らしかったって!」
なんというか、話の種にでもなればと、艦首であったことを伝える。
「あ、ああ。そうか。艦長が言ってたか………」
なんだか複雑そうな顔をされてしまった。何故だ。ここで笑う相手をさらに持ち上げることで、さらなる好感度アップを狙うつもりだったのに。
「何かあったんですか?」
「うん。いや、それほど格好良くできたわけじゃあないってことさ」
「船の中で吐きでもしたのか?」
空気がまったく読めないバーリンさんが、そんな事を言う。
「危うくな。そっちはどうなんだ?」
「俺は倒れなかったっての! おかげでサウラの分の仕事までさせられちまったから損した気分だぜ」
なんだか男同士での話が弾んでしまい、阻害感を覚える。こういう時は、こっそり離れるのが良い女のなんとやらである。別に寂しかったわけではないぞ。うん。
二人の会話から離れた私は、食堂内で昼食をトレイに乗せてもらったあと、適当なテーブルを探す。一人、仲良くしている相手が先に食事を取っていたので、向き合う形で椅子に座り、トレイを机の上に置いた。
「おつかれー、リィナー」
「あ、シィラ。おつかれだねぇ」
目の前に座り食事を取っている私と同年代の女の子。名前はリィナ・ランス。眼鏡を掛け、茶髪のおさげが似合う大人しめの顔付きをしている。私にとっては友達と言って差し支えない相手。
おっとりとした性格をしていて、好まれる相手なら好まれるタイプの子だと思う。私も彼女には好印象抱いてるし。
ただし、困った点が一つ。
「って、顔、汚れてるよ? 洗ってきたらどう?」
そう。この子は外見を気にしない。まったくと言って良いほどだ。着ている服装にしてもそうで、なんと作業着である。まあ、こっちに関しては仕方ない部分があるけれども。
「手や口回りは洗ってるから大丈夫だよぉ。お仕事に戻ったら、また汚れちゃうしねぇ」
彼女、リィナは整備士班の一人だ。普段は小型飛空船の調整など行っているらしいが、船内そのものの管理などもしているため、結構忙しい班である。
体力仕事な部分もあり、女の子な彼女じゃあ大変なのではと思っているが、丁寧な仕事で意外と好評なのだとのこと。
技術的には見習いの域は出ないとの噂も聞くが、私だって見習い程度の仕事しかできていないため、目に見える形で船へ貢献している彼女がややうらやましい
「外見に気を付かわないのは良いけど、そんなんじゃあ、大事なものまで取り逃しちゃうよ?」
「この計画中は、仕事人間になるって決めてるからぁ………」
リィナは整備士としての腕を上げるためにこの計画に参加したらしい。いろんな最新鋭の飛空船を整備できるこの計画は整備士としての経験を上げる大チャンスなんだとか。
一方の私と言えば、飛空開拓計画に参加した理由はいったい何だったろうと、今さら思い出そうとしているのが現状だった。何か……自分なりに立派な理由があったはずなのだけれど、忙しく波乱万丈な日々に追われて、どこかに置き忘れてしまった。
「………そういえば、そっちは何か面白いことあった? こっちは何時も通りでさ。確かこれから向かうのは人がいるかもしれない土地だっけ? それを聞いた時はすごいなって思ったけど、着くまでは暇なのよね」
「あたしやシィラが暇なのは良いことだよぉ。忙しい時って、碌なことが無いでしょう?」
確かにその通りであるが、リィナのこの物言いからするに、どうやらあまり面白い話は無さそうだ。昼休憩が終わって、また艦首へと戻る前に、何がしか面白いネタを仕入れておきたいなと思っていたんだけども。
「あ、そういえばぁ、エイディス先輩が話してたことなんだけどぉ」
「ちょっと待って、エイディス先輩って、エイディス・ロッドくんのこと?」
「うん。そうだけどぉ?」
「…………仲、良いわよね?」
「良くは話すって知ってるでしょう?」
エイディス・ロッドくん。私より年下で、リィナよりは年上という年齢であり、艦内の同年代の一人だ。リィナ曰く、すごい才能のある整備士らしい。しかし私から見れば、アーランさんの弟という立場が強い。
仲良くできれば、通じてお兄さんの方とも繋がりが深くなるのではと妄想した事もあるが、残念ながらリィナの方が先んじているらしい。リィナの場合は、整備士同士の繋がりからさらにどこかへ伸びるなんてことは無さそうなため、安心と言えば安心なのであるが。
「………良いわ。良い。今回の件は別にそれで。で、エイディスくんの話してたことって?」
「うん。それなんだけどねぇ、最近、艦内で異音が聞こえるって話があるんだってぇ」
「異音?」
「うん。あくまで噂なんだけどぉ、船に悪い幽霊がいるのかもって話」
「幽霊って………この船、新造艦じゃないの」
幽霊なんてものは必ずと言って良いほど曰くつきのものばかりで、実在非実在問わず、古臭い場所で噂される場所だ。
国の威信を掛けて作られた最新鋭の冒険艦とは似合わぬ存在と言える。
「あたしもそう思うだけどねぇ。先輩が、異音自体が噂じゃなかったら大変だからって調べたらしいんだぁ」
ふむ。確かに変な音が艦内から実際に聞こえるのだとしたら、それは幽霊よりも怖いものかもしれない。その異音が、船の故障を示しているかもしれないから。
「それでそれで? 正体はわかったの?」
「ううん。結局わからなかったってぇ。けど、先輩も聞いたんだってぇ、その音」
「本当なの!? え、船の故障が原因?」
だったら大変じゃないかとリィナに詰め寄るも、彼女は首を横に振って否定する。
「それがねぇ、その音が聞こえた場所、ペリカヌ左翼の方にある、例の開かずの部屋だったって話なんだぁ」
冒険艦ペリカヌは大型に分類される船であるが、それは全金属装甲の飛空船としてであり、例えば居住区画を充実させた飛空船と比べる等した場合、かなり小さめになる。良く見なければ中型船にすら見間違われるだろう。
とまあ、そんな感じの船だから、船内には余裕を持った区画というのは中々存在しておらず、空間は余すことなく何がしかの用途があてがわれている。
そんな船の中で、何故か使われぬ一室があった。
「儂が配属された時点で、あそこは閉鎖されておったよ。なんでも、構造上の脆弱な部分があるらしくてのう。補修予定ではあったが、そのまま閉鎖して、装甲の一部分として考えた方が手っ取り早いという結論になったらしい」
「そ、そんなちゃらんぽらんな理由で………」
艦首へと戻った私は、食堂で聞いた話について、副長のミードさんに尋ねていた。アニーサ艦長は休憩中。アカノトさんも副操縦士のレックさんと交代している。レックさんは寡黙な人なので、自然と話はミードさんのみと弾むこととなる。
「実際、不自然とは思ったよ。大型船クラスになると、設計段階で想定されていなかった空間や構造上、合理性の無い場所というのはあるが、この船は比較的小さく、設計そのものが緻密に行われておる。建造もだ。つまり、ああいう空間がそのまま捨て置かれるのはおかしいということだ」
ミードさんから見ても、あの開かずの部屋は不可思議な場所らしい。そんな部屋から異音が聞こえる。これは少々、捨て置けない事柄では無かろうか。
「調べてみたりはしないんですか? その、艦内にそういう場所があるって………なんかいやです」
「ああ、君が聞いた噂の件もあるしな。なので、既に整備班から扉を開いての内部調査を行いたいという旨の申し入れが来ているよ。艦長も承認済みだ」
「っていうか、いちいち申し入れなきゃ開けられないんですか………」
そんな部屋があって本当に良いのか疑問だ。整備班が調べたいからそこをすぐに調べられるくらいじゃなきゃ、空を飛ぶ家みたいなこの船はダメになっちゃうんじゃあと思ってしまう。
「さっきも言った通り、部屋そのものが装甲の一部みたいな扱いになっているからのう。扉なんぞ、そもそも開閉しないものとして扱われとるから、鍵があっても油を差さんことには開かんと思うよ」
無茶苦茶なことをもあったもんだ。そんな扱いの知れぬ部屋を残したままにしているなんて。それこそ、扉なんて残さずにそのまま壁の一部にしてしまえば良かったのに。
「開けるだけでも一作業って感じします」
「だろうな。夜のうちに行うそうだから、作業音で眠れない者がいるかもしれんなぁ」
ミードさんはそういうけれど、そんな細い神経をしている人は、この船では稀だと思う。特に休息に関しては、空いた時間があればすぐにでも出来るような人間が集まっていると思う。
一種の技能なのだ。私だって、目を瞑ってじっとしていれば、どんな場所でもすぐに眠れる自信があった。自慢はできないけど………。
「それにしても、益々あの部屋について疑問が浮かんでくるというか………」
「気になるなら調べてみればどうかね?」
そんなことをミードさんは言うが、あんまり意味の無いことだと思う。
「どうせ、整備班の人たちが調べるんですし、私が行っても、扉すら開けませんよ?」
さっき、油を差さなきゃ開かないだろうみたいなことを言ってたじゃないか。これもまったく自慢じゃないけど、私は油の差し方なんて知らない。塗れば良いのだろうか?
「何を言う。体を使うばかりが調べものじゃああるまいて。頭を使うことで辿り着ける結論もあるだろう?」
「頭………ですか?」
そう言われても、私の頭はそれほど賢かっただろうか。いや、観測士をする上での勉強なんかはちゃんとしてきたけれど。
「図書室の存在を知らないのかね?」
「図書室……図書室? そんなのあるんですか?」
本ばかりの部屋を思い浮かべる。そんな場所、船にとっては、余計な重荷にならないのだろうか。
「長時間船内で拘束されることも多々あるからの、そういう必要外の、なんというか、生きるに最低限以外の部分で使える部屋も幾つかあるのだよ。この船には」
「遊興室なら何度か行きました」
仕事をしてご飯を食べて寝るだけの生活なんて、そう何日も過ごしていられない。的当てやカードゲームくらいしか無い場所だけれど、利用している人は結構いる。
けど、図書室の方は初耳だった。
「知識欲求を満たすのも、文化には不可欠と思って導入したのだが、この様子ではあまり利用されていないみたいだのう………」
頭を掻いて困った表情を浮かべるミードさん。ぶっちゃけ、仕事で疲れてるのに、そこから読書をするなんて人、あんまりいないと私は思う。
「けど、その図書室に何の意味があるんです?」
「いろいろと趣味的なものも置いてあるのだがね、それと同じくらいに、このペリカヌの造成日誌と言うか、関連資料なんぞも置かれておるのだよ。主に何がしかの欠陥が見つかった場合、そこから原因を見つけ出すためじゃな」
「あ、つまり、開かずの部屋の原因もそこにあるかもなんですね!」
「そういうことだの。実際に原因が分かるかどうかはわからんが………」
暇があればやる。程度の事なのだろう。そうして、私には丁度良いくらいの物だと思った。
「………今日は、ちょっと夜更かしちゃおうかなあって」
「文字を読むことは良いことだよ。ただし、目は大事にすることだな。暗い場所で本を読むことは控え、明かりは十分に用意するがよかろう」
それだけの注意だと言うことは、ミードさんから許可を貰えたということかもしれない。あの開かずの部屋を調べる許可を。
仕事中は図書室なんて行けないのだから、仕事が終わった後に向かうこととなる。観測士の仕事は昼間にすることが殆どであるから、結果、夜、暗くなってからが行動開始の時間だ。
窓から入ってくる光は星や月のそれくらいしかなく、廊下を照らすランプは些か心許ない。
「なんだか………怖くなってきた………かな?」
図書室はペリカヌの端にある。居住用の部屋がある場所からも遠く、人通りは少ない。利用者が少ないのはこの位置関係のせいじゃあないだろうか。
暗い人通りの無い場所を歩く。それは人間に恐怖を抱かせるには十分だ。それに私ってか弱い女の子なのだし。
「………あ、嫌なことも思い出しちゃったし」
現在、調べようと考えている開かずの部屋。元は艦内に異音がして、その原因が開かずの部屋にあるという話から興味を持ったわけであるが、その異音………あくまで噂であるが、お化けの仕業。なんてものを聞かされたような………。
「ひっ!」
と、いきなり音がしたので驚く。ただし、その音はお化けの仕業というより、人が作業をしている音であった。
「あ、そうか。開かずの部屋を開ける準備をしてる時間よね。確か………」
夜に作業を行うと聞いていた。今がその時間なのだろう。そうして気が付く。図書室は開かずの部屋のすぐ近くにあるのだと。
「うぅぅ……嫌だ嫌だ。曰く付きの場所が近くにあるなんて、ますます図書室が悪い場所に思えちゃうよ」
調べものをするために向かっているのだが、すぐに調べてすぐに帰ろうなんて、本末転倒なことを考え始めてしまった。
とは言え、歩き続ければ目的地へとたどり着く。図書室と書かれた札と扉。開かずの部屋なんかと違って、鍵も掛けられておらず、扉もすぐに開いた。
「………図書室ねぇ」
本棚が4つ。びっしりといろんな本や書類が挟まってはいるものの、それで全部だ。もうちょっと大きな部屋で、もっと多くの本があると思っていたが、これではむしろ本が多めの書斎と表現した方が良いのではないか?
本を読むスペースとしても、小さな台と丸椅子が置かれるのみ。それ以外を置くスペースが無いのだ。
「でもでも、調べる量が少ないってことで、それはそれで良いかもっ」
自分から来ておいてなんだが、息が詰まりそうな部屋である。用事があるならあるで、さっさと済ましたいと思わせてくる、そんな部屋だ。
(誰も利用しないわけだよね………)
目当ての資料を探しながら、娯楽用に作られたはずが、まったく利用されない陰鬱な図書室という存在の理由を知る。こんな場所、用があってもあまり訪れたくない。
「ええっと………作業日誌……って、雑………日付の書き方もバラバラで………とりあえずこれと……これかな?」
本棚はそう多くないので、目当ての資料もすぐ見つかる。何段かある本棚の一番下。その部分をすべて占領する様に、作業日誌は詰め込まれていた。決して並んではいない。これは小さなスペースに無理矢理押し込んだと表現するのが正しい。
「よいっしょっと」
取り出すのも一苦労だ。何冊か作業日誌を取り出し、読書机の上に置く。さすがにと言うべきか、机の上にはランプがあり、今日、一夜だけ本を読んだとしても、目を悪くするということはあるまい。
(目は大事だしね。そこはちゃんとしないと)
自分の目はとても良い。これは人より優れた部分だと胸を張って言える。この目のおかげで、観測士になれた様なものだ。
観測士は人よりより多くの情報を周囲の景色から目に入れるのが仕事なのだから、この目の良さは役に立つ。この長所は大事にしたいところであろう。
「程々にしとこう。程々に」
あまり目を疲れさせたくない。この図書室からだってさっさと立ち去りたい。そんな後ろ向きな考えの元、私は椅子に座り、資料を読み進め始めた。
さて、こんな状態だから、何冊も読み進まないうちから、早々に図書室を出ることになるだろうと、この時の私は考えていた。
その予想が外れるのは、私が幸運だからだろうか? いや、きっと不運の方だと私は思う。




