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フライトコロナイズ  作者: きーち
第3章
20/49

5話 笑う

 ペリカヌから飛び立ち、さらに巨大生物へと近づいていく。あまりにも巨大なそれへ近づくのは、山へ向かって突き進むような気分になる。

 おいおい、このままじゃあロンブライナはあのデカブツにぶつかっちまうぞ。だから今すぐに逃げろ。そんな恐怖を打ち払って、俺はさらにデカブツへ近づく。

(デカいだけ………変わった姿をしてるが、ただデカいだけだ……だってのに!!)

 近づけば近づくほどに吐き気が増す。デカブツの固そうでしわくちゃな皮膚自体に不可思議は無い。ならぶ赤目も見る者が見れば気持ち悪いと思うものかもしれないが、それでも我慢できぬ吐き気に悩まされたりはしないだろう。この吐き気、精神的な圧迫感は、あの生物の力に寄るものなのかもしれない。

「平和的な力じゃねえよなぁ!!」

 デカブツへと十分に近づくと、俺はロンブライナから鉄片を射出する。威嚇など一切するつもりも無く、直撃狙いのそれである。的は大きく外れるはずも無い。だが、もっとも致命的な事に気が付く。

「効果なんてないか………そりゃあよっ」

 焼石に水なんて生易しいものではない。大山に小石だ。ぶつかった鉄片は弾かれる物、砕ける物、デカブツの皮膚に埋まる物。様々な結果となるが、そのどれもが相手になんらダメージを与えていなかった。

 これでは牽制の意味が無い。デカブツはこちらの攻撃に一切反応せず、只々ペリカヌを追っていた。

 ペリカヌの速度とデカブツの速度は、デカブツの方がやや速く見える。デカブツが空を鈍間に動いている様に見えたが、それはあの巨体さによる錯覚であり、その実、かなりの速度であることが近づいてわかる。

「ああちくしょう! じゃあもうこうするしかないじゃねえか!!」

 攻撃が効かないとなれば、本当に牽制を行うしか方法は無くなる。ロンブライナそのものを囮にする形でだ。

「…………コンビネーションでもしようってか?」

 ロンブライナを回頭させ、デカブツの正面に向かわせようとした時、その前にビーリー班長の小型飛空船が踊り出る。

 軽快な動きでロンブライナの前で一回転すると、そのまま俺を先導する様に先へと向かい始めた。

 別にこの戦いを楽しんでいるわけでもあるまい。お互い、小型飛空船の機動力を駆使して、デカブツの意識をペリカヌから逸らすのだというメッセージに違いなかった。互いに言葉を交わせぬ小型飛空船同士は、こうやって船の動きで意思を疎通する。

 こちらは肯定の合図として、ロンブライナを上下に大きく動かし、ビーリーの小型船を追う様にロンブライナの推進力を上げていく。

 最高速に達した時の速さはロンブライナが上であるから、デカブツの鼻先に到着する頃には、お互いが上下並行して飛んでいた。上はビーリー班長で下は俺。その編成のまま、デカブツから良く見える位置にまで来た瞬間に、船をそれぞれ上下へ傾かせた。今度は俺が上方へ、ビーリー班長が下方へと向かう軌道だ。

 そこからそれぞれどんどん離れ、デカブツの視界の端くらいまで来たと判断すれば、またデカブツの鼻先へと向かい、そうしてまた離れるを繰り返していく。途中で、回転や旋回を繰り返し、出来うる限りのアクロバティックな動きを続けるのである。

 これでデカブツに変化が無ければ、それでおしまいだ。幾らかの時間を掛けてペリカヌは追いつかれ、多大なダメージを受けるだろう。それは俺が帰還する場所が失われるということ。

(それだけは、何としても避けなきゃだよな)

 ひたすらにデカブツの目(と思われる器官)の周辺で、うざったく飛び続ける。嫌がらせみたいな動きかもしれないが、これでもこっちは必死なのだ。なんとしても、デカブツの意識をペリカヌから逸らさなければならない。

 そうしてそれは成功する。だがしかし、幸運とは言わない。何故ならデカブツの目はロンブライナを………俺を睨み付けているのだから。

(はっ………恐怖なんてのは、最初から感じてるっての)

 恐怖を感じていたとしても、動けなくなるほど人間はやわでない。しかしだ、目の前でまるで山が鳴動するかの様に動くデカブツを見て、気圧されない者などいない。いるとすれば余程の馬鹿か、豪胆者だ。そう、ブラッホの様な。

「あの人はどうしてんだろうな。こんな状況でも、笑ってるのか?」

 だとしたら、あの人は豪胆者だ。馬鹿ではない。この状況を目にしながら、尚良しとする人間だ。

(そんな人間になれるわけもねぇけど、少しくらい化けるなら許されるか?)

 怪獣と戦うには、自分も化け物にならなければならぬ。俺は襲いくる吐き気と恐怖に対して、ほんの少しだけ、ブラッホらしい対応をすることにした。

 笑ったのだ。俺はすべての感情を笑いと虚勢に変えて、ただロンブライナを動かした。

 山が動いていく。山は固く、厚いはずのその体をよじらせて、まるで払うような仕草で、ロンブライナへぶつかろうとする。

 山が、壁が、視界に映る世界そのものが俺をロンブライナごと押しつぶそうとする錯覚。俺はそれを笑い飛ばして、ロンブライナを加速させる。

 その動きはひたすら単純で、最短距離でデカブツの動きを避けることに専念する。妙なフェイントも技術も必要ない。ただひたすらに無駄なく動く。単純であるが、それくらい単純で無ければデカブツからは逃れられない。

 いや、それだけ単純に動いたとしても、今一歩、デカブツの動きに対応できなかった。あと少しと言ったところで、デカブツの体が迫る。あの巨体のパワーは破壊的だ。ほんの少し擦っただけでロンブライナは沈められてしまうだろう。

 だが、そこでデカブツの動きは止まる。数瞬に満たないその停止であるが、空において、その数瞬は確かな距離となって答えを出す。

 ロンブライナが安全圏へ脱すると共に、俺はまたロンブライナを回頭させて、デカブツが止まった原因を見た。

 その原因とは、ビーズ班長の小型飛空船だった。俺がペリカヌへと向かうデカブツを挑発したのと同様に、俺にぶつかろうとするデカブツの視界をうろつき、デカブツの意識を向こうに向けさせたのだ。

 さすがにこちらにぶつかろうとしているところで、意識を完全にあちらへ向かわせるなどという知恵無しでは無いらしいが、それでも隙を作ることはできた。人間で言えば、丁度蠅が視界に二匹いるというところだろうか。片方を払おうとしたところ、もう一匹が寄って来たので、どちらを払うべきかほんの少しだけ迷うみたいなもの。

(つまり、そう何度も使える手じゃねえってことだ)

 羽虫が二匹いることをデカブツは認識した。認識した以上、今度は驚いたり戸惑ったりはしない。ただ一匹ずつ潰すだけ。

「で、潰されている間にペリカヌは逃げることができるんだろうが………」

 ちらりとペリカヌが飛行しているであろう方向を見れば、デカブツからさらに距離を置くことに成功している様だった。デカブツから逃げるために全力で加速しているだろうから、今のままであれば追いつかれるということはあるまい。

 となると、完全にデカブツの意識は俺たち小型飛空船へと向かうことになる。事はペリカヌを逃がすための牽制から、俺たちがどうやって生き残るかの問題へと変わっていた。

(どうする? 班長?)

 曲芸飛行を繰り返したため、俺たちの飛空船は速度が足りない状況だった。このまましっぽを巻いて逃げ出すにしても、デカブツに追いつかれてしまう速度しか出せていない。

 この状況をなんとかする方法。それを一つ思いついたが、実行するかどうかで迷う。だが、そんな迷いはビーリー班長が動かす船を見れば消え去ってしまう。先に彼は俺が考えたのと同じ方法を、頭の中では無く、目の前に映る世界で実行したのだ。

「ああそうかい。じゃあ俺もしないってわけにもいかねえか!」

 逃げるための方法。それは落下だ。重力を味方に付けての加速。その速度を用いてデカブツから距離を離そうと言うのだ。

 この方法の利点はもう一つある。地上が近くなるということ。いくらあの怪獣がデカいと言っても、地上の方が遥かに巨大なのだ。その大きさはきっとデカブツの動きを幾らか妨害してくれる。隙さえ増えれば、逃げる方法は幾らでもある。

 ただしデメリットも勿論あった。それもまた地上が近くなるというものだ。重力を味方に付けると言えば聞こえは良いが、要するに自由落下である。それを制御して船を加速させ、さらには落下から姿勢を立て直して飛行に転じる。さらにさらに地上が近くなることで増える障害物を避けて飛行を続ける。こんなことを一つの失敗も無く行わなければならないのだから、常識的に言って選ぶべきでは無い選択だろう。俺自身、以前に船を墜落させるという失敗をしたばかり。その恐怖をもう一度味わえと言っている様なものだろう。だが………。

(班長はやってのけようってんだ! 格好付けは一人だけってのはズルいでしょうが!)

 笑う。恐怖も吐き気も、トラウマでさえも綯交ぜにして、ひたすらに笑い、馬鹿みたいに船を下方へと向けた。

 重力が後押しし、ロンブライナを地面へ急接近させていく。俺の見立てでは、かなりギリギリまで落下しなければ、あのデカブツから逃れることはできない。

 実際、先に落下したビーリー班長の小型飛空船は地上スレスレでその体勢を漸く変えた。芸術的とも言えるその挙動に、小型飛空船乗りで感動しない者はいまい。無茶で無謀な動きながらも、最小限の動きかつ最大限に船を制御しきった動きに、手が空いていれば拍手を送りたい気分になる。

 問題としては、俺もまたそれをしなければならないと言うこと。しかも操縦が難しく、整備完了からの調整が終わっていないこのロンブライナでだ。

「後戻りなんてできないけどなっ―――

 地上が近づくにつれ、俺の思考と感覚も、鋭く加速していく。落下はまっすぐ直線に行ってはならない。重力を味方に付けつつも、やや曲線を描く様に。ロンブライナを落下状態から立ち上げ、水平方向へ飛ばすためにはそれが必要だ。

 ただし曲線はあまり曲がり過ぎると、重力による加速が損なわれる。そうなればデカブツの餌食となろう。墜落か餌か。そのどちらも嫌に決まっている。だから針の穴の様に小さく狭い3つ目の選択肢を選び取ろうとする。

 落下と水平飛行の狭間。微かな傾きにすべてを賭け、ロンブライナを加速。落下。傾け、さらに加速。地上がもうすぐそばだ。いや、まだいける。まだだ。もう無理だ。違う、無理だと感じるさらに一瞬先。その先で、船を立ち上げろ!

 圧迫感を覚える。だがそれは墜落によるものでは無い。前方から感じるそれは、加速によるものだ。

(やれた!)

 地上である砂漠のスレスレをロンブライナが飛行している。もう手を伸ばせば届きそうな場所にある地上を、まるで滑る様に飛行し続けるロンブライナは、傍から見ればさぞかし爽快な動きに見えるだろう。

 だが、操縦する側はそんなのんきな気分では無かった。重力による加速には成功したが、まだ無事助かったわけじゃあない。

 砂漠の起伏が、障害物となって船の行く手を阻んでいた。

(落ち着け………咄嗟に避けるなんてことは考えるな。そんな事態こそを避けろ………)

 冷静に、視界を広く。危ないと思う前に、危ないと思うルートを通らない事に専念する。障害物が遠くにある状態で、そこは危険だと判断する頭を働かせろ。遠くにあると感じるそれは、ロンブライナの今のスピードであれば、すぐ近くにある物体だと判断して相違ない。

 狭く入り組んだ道を猛スピードで走り続ける感覚。危険極まりないが、既にどうこうできる状況でも無いため、ひたすらに障害物を避け続ける。

 この時点でデカブツへの意識は一旦、思考から抜いていた。今はこの障害物競走をひたすらに進み、速度を落とさぬまま、徐々に高度を上げていくこと。

「って、班長の方はまだ余裕があるみたいだな。見せつけてくれるじゃないか」

 何時の間にか、ロンブライナが進む先にビーリー班長の小型船の後部が見えた。お互い、似た様な場所で落下し、障害物を避けながら、デカブツから離れる様に飛行し続けていたから、こうやって二つ揃うことができたのだろう。

 そのことに向こうも気が付いたらしく、まるでこちらを先導する様に速度を調整してくれた。障害物については、ビーリー班長の後ろ追っていれば、とりあえずは避けることができるということだ。こんな状況でそんな気が回るビーリー班長に対して、尊敬の念を禁じ得ない。

「高度は………良し、十分だ」

 暫くの飛行の後、俺は安全圏となる高度に達したと判断した。次に背後をちらりと見て、いまだ巨大に映るデカブツを見るが、それでも逃げ切れる距離まで離れたことを確認する。

「とりあえずは………これで安心………なんだ!?」

 安堵を一つ吐こうとした時、デカブツが体の半分ほどまである口を大きく開いた。

(分からねえけど、ヤバい!!!)

 同じことをビーリー班長も思ったらしい。船の高度をさらに上げている。俺もその後追う様にロンブライナの高度を上げた。本来なら逃げる速度を落とす行為だったが、兎に角そうしなければならない気がした。

 そもそもデカブツはこちらを追うことを既に止めている様だったのだ。代わりに、こちらに向けて大きく口を開いている。口の開きはまるでこちらの飲み込もうとしているかの様で気持ち悪い。

 そんな気持ち悪い口から、白い光が―――

「…………!!」

 光がデカブツの口から飛び出し、白光球となって、こちらが先ほどまでいた高度へと打ち込まれた。上から下へ向けられたものだったので、そのまま白光球は地面へと着弾する。その瞬間だ。着弾した地面から光が広がっていく。

(高く………もっと高く飛べ! もっともっと! 飛ばねえと―――

 視界に占める白色がどんどん大きくなっていく。白光球の着弾後に広がる白の光。留まることを知らぬそれに、このままではロンブライナが飲み込まれる。だから必死に高度を上げていた。もっと高く、でなければあの光に…………




「つまりあの怪獣。ツリスト達が語り継ぐところの空飛ぶクジラじゃったか? 砂漠の生態系を崩したと思っておったが、恐らくは砂漠そのものを作り、それ以前の生態系を無茶苦茶にした存在だったわけじゃな。いったいどの様な力か知れぬが、口元より射出した光は、何もかもを砂に変える様な破壊力を秘めていたと見るべきかもしれん」

「そんな光に包まれかけた身としては、ゾッとする話ですよね。それ」

 辛うじてあのデカブツ、今は空クジラと呼ばれているそれから逃れる事が出来た俺、アーラン・ロッドは、いったいその空クジラは何なのか興味があったため、ペリカヌへ無事帰還した後、しばらく休息の後、デリダウ老の研究室へとやってきていた。

 話を聞く相手は、もちろんデリダウだ。

「正確にはやや光を掠めた様じゃのう。調べさせて貰ったが、飛空船の腹が少しばかり砂化していた」

 聞くところに寄れば、あの空クジラから射出させた白光球と、それが着弾の後に広がった光は、物質を砂化させる作用があったかもしれないとのこと。

 砂。そう、あの砂漠に腐るほどあった砂だ。その砂こそ、空クジラが生み出したものだとデリダウは考えるらしい。

 本来、この砂漠にどの様な世界が広がっていたかは知らない。ただ、その世界の悉くを砂漠化させたのがあの空クジラであると。

「いったい………あれは何だったんですか? はっきり言って、尋常な存在じゃあありませんよ」

 あの空クジラは、白光球を口から射出した後、消え去った。そう、どこかへと向かったわけでも、怒り狂い、俺たちを追って来たわけでも無い。あの巨大で山のようなそれが、最初からいなかった様に掻き消えたのである。

 聞いた話では、空クジラが現れた時も、地響きの後に突然現れたらしい。

「知り得る情報なんぞ、わしもきみも変わらんじゃて。ただ………ああいう存在がいるということは、仮説と言う形で予言されとった部分はある」

「なんだか意味深なこと言うじゃないですか。え? 予言されていたって………その………学者的な?」

「何をどういう状況が学者的と表現するのかしらんが、観測される世界から判断される、さらなる広い世界の事象において―――

「あー、すみません。あんま難しい話は、耳を通り過ぎるだけなんで」

 これでも高等教育など受けた事の無い身だ。専門性の高い話は、小型飛空船についてか、今夜の夕食の話だけにして欲しい。

「おおっと、これは参ったのう。どう表現すれば良いか…………ふむ? ならばこういう説明ではどうじゃ? わしらはこの世界に生きている。そして、この世界にはルールがあって、そのルールに従う存在でもある」

「いや、そんなのは普通でしょう?」

 難しいことを言っているが、朝起きて夜は寝る。みたいなものだ。朝は明るく夜は暗いから、それに合わせて活動しているのである。わざわざ朝は暗く、夜は明るくしようとは思わない点を見て、世界のルールに従っていると表現するのならば、実際そうなのだろうが………。

「では、そのルールを決定しているのは何じゃ?」

「へ? いや、ルールはルールで………ううん。神様とかですかね?」

 腕を組んで一旦は考えたが、答えが出せる問い掛けではあるまい。早々に思考を切り上げ、逃げみたいな言葉を口にしてみる。

「神様………うむ。言い得て妙じゃな」

 何か納得されてしまった。ある意味では肩すかしを食らったような感触。

「いや、そんなルールは誰が決めたものでも無いってのはわかりますけど、神様ってことで良いんですか?」

「それ以外に表現の仕方があるまい? じゃが、今回の話においては、神様という明確な存在を想定することこそが重要じゃ」

 デリダウは話す。神様とは世界のルールそのものであると。そうしてこの世界に生き、ルールに従う者たちはすべてその神の支配下にいるのだそうだ。

「しかし、ここで一つ、神の支配から脱却しようとする存在がおる。何かわかるかの?」

「そんな変な集団がいるなんてかなりショックですね。宗教団体か何かですか?」

「わしらじゃよわしら。もっと言えば、わしらを含む生物という存在が、世界のルールに逆らい続けておる。本来世界とはもっとこう………単純か単純になろうとするものでの」

 物事の本質は単純化らしい。その言葉の意味はわからぬが、物は上から下へ落ちるものだし、全部が落ちたら、もう浮かび上がることは本来無い。それが本質的な世界なのだと言う。

「じゃがそうはならん。それはわしら、物を上に運ぼうとするわしらがいるからじゃ。フライト鉱石なんてものを世界から発見し、空を飛んで、届かぬはずの地に足を踏み入れる者達までおる」

「そこまですごいって実感、ありませんけどね」

 こう、デリダウの話を聞いていると、自分たちが超越的な存在に思えてくるが、話を聞いただけで俺が超人になることは断じて無い。

「そりゃあそうじゃて。現段階においては、ルールに逆らうというよりルールの隙を突くと表現した方が近いからの。こうすればルール上は有利に生存できる。程度の事しかできんのが人間や既知の生物じゃろ?」

「一見不思議だろうと生き物は合理性があるとかなんとか、前に先生が言ってましたっけ? つまりそういうことですよね?」

 目の前にあるルールには逆らわない。だが、出来る限りは有利に生きたい。そういうものなのだろう。

「あれ? でも待てよ? じゃああの空クジラは、いったいどんな合理的解釈が………」

「気が付いた様じゃの。良いぞ。良い発想じゃ。さっきも言うた通り、生物とは世界のルールに逆らおうとする性質を持つ。そうしてそれは際限が無いものだと予想される。人間の欲望にキリが無いのと同様にの? ではその行きつく先は? 想像も付かん話じゃが、ある一定のラインを越えた時………その生物は世界のルールを超越する。むしろ、ルール側になると表現するべきか」

 例えば、突然掻き消えたり、物を砂に変えることができたりする。それは出来るかどうかというより、出来るルールを自らの身に顕現させるという行為になるらしい。

「あの………なんだかその………酷く荒唐無稽な話になって来た様な」

「まあ、そんなもんじゃよ。神についての話なんてものはな」

 空クジラは神様だ。長々と説明をするデリダウの結論は、そんなものであるらしい。


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