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2話 空飛ぶ分岐点

 朝食を終えた後、俺と弟は町の端へと向かう。城壁間近、空き地が多い区画へとやってきた俺達は、そこにある一階建ての廃屋に入って行く。

 ボロボロで何時崩れてもおかしくは無い建屋である。誰も近寄らないし、何時かは潰して排除される様な場所である。

 しかし、当時の俺達にとっては大切な場所だった。

「ついにこいつを完成させる時が来たんだな」

 廃屋の中、何にも無く、床や壁面の破片が転がる部屋の一室。そこで俺は腕を組んで、部屋に置いてあったとあるものを眺めていた。

「作るのは僕だけどねー」

 エイディスがその置いてあるもの。石や木材を繋ぎ合わせて作った細長の荷車みたいなそれに手で触れている。

「けどさ………これって、本当に空を飛べるのか?」

 この荷車。実は俺達が作っていた飛空船なのだ。冗談みたいな話であるが、子どもなりの本気である。

 ただし、空を飛ぶ羽は木の骨組みに紙を貼り合わせた気休め程度のものであり、大きさもそれほどではない。前に進ませるための道具も、荷車用の車輪を一つだけ付けて、それをペダルで回転させるという仕組みしか無かった。そんなのでは空は飛べない。当たり前だ。

「重要なのはあの石をなんとかする事だから、他の部分がどうでも大丈夫だと思うよー」

 あの石。確かにそれが一番重要なものである。石の名前はフライト鉱石と呼ばれるものらしく、これには浮遊力というものが存在するそうだ。

 石は特定の形にすれば、宙に浮くのである。その浮く力を浮遊力と呼ぶらしい。しかもその浮く力は石の形によって一方向に定まるのだ。

 つまり、石を内蔵した何がしかに、石の向きを変える仕掛けがあれば、その何がしかは石の浮く力を越える重さが無い限り、自由に飛び回ることができるのである。

「なんか難しいけど、つまり、こいつは上手くやれば飛べるんだな!」

「うーん。石の形はこれで良いと思うんだけど、あとはちゃんと離陸と着陸ができるかどうかなんだよねー」

 弟のエイディスは、どうにもこういった細工物への才能や興味があるらしいのだ。というのも、ここにあるフライト鉱石というのは、採掘父である父が、鉱山で偶然見つけたものらしい。

 宝石ほどではないが、価値あるこの不思議な鉱石を息子たちのプレゼントにしようという思い付きから、俺達の手に渡った。

 ここからがエイディスの凄いところで、価値あると言っても、屑石と言える程度に混ざりものが多いこのフライト鉱石を、実際に浮かせられるところまで加工してしまったのである。

「良くわかんないけど、エイディスはそういうの分かるんだよな? いったいどこでそんなの知ったんだよ………」

 フライト鉱石についても、それを用いて作った細工物についても、分からない事には違い無いが、もっとも謎なのはエイディスの知識についてだった。

 そもそも雑とは言え、荷車みたいな形の物を組み立てたのもエイディスなのだ。知識だけじゃなく技術にしたって、年齢不相応に高いものであった。

「近所のお爺ちゃんいるじゃん。去年死んじゃった。あの人、昔は飛空船技師だったらしくて、良く話を聞いてたんだー。それで、死んだ後はぎじゅつしょって言うの? そういうの貰ってさー」

「待て。むずかしい字、読めるのか? エイディス」

「にーさんは読めないの?」

「読めねえよ。そんなの」

 一応、町には学校と言うものがあり、週一で俺とエイディスは通っていた。そのおかげか、簡単な字の読み書き程度ならできるのであるが、難しい本の難しい言葉はまだ分からないのである。

 別に俺の頭が悪いわけで無く、やはりエイディスが秀でているのであった。

「うーん。読んだら面白いのになー………。うん。全体の形ならこれで良いんだ。後は安全性を高めるだけで………」

 エイディスは既に自分の世界へ没頭している。時々難しい言葉を呟くものの、その意味が俺にはさっぱりわからないため、暇で暇で仕方なかった。

 この空飛ぶ乗り物を作るのはエイディスで、それに対する準備をするのもエイディス。じゃあ俺はどうすれば良いのだろうかと、ちょっと寂しくなってきた頃、急に外が暗くなった。

「なんだ?」

「雲かな? にーさん見て来てよー」

 異変に対して、エイディスの方はまったく動じていない。むしろ兄の俺に対して、暇なら見に行けば? という態度で呟いてくる。

「………まあ、行くけどよ」

 なんとなく釈然としないが、ここで弟の邪魔をするほど、兄は愚かでは無いのである。気になるのは気になるので、廃屋を出て確認してみた。

 原因はすぐにわかる。空が暗くなっていたのだ。勿論、まだ昼間である。太陽に雲が掛かったわけでも無かった。しかし、もっととんでもないものが太陽を隠している。

「えっ……あれ、飛空……船?」

 空に船が浮いていた。だから飛空船の類であろうことはわかるのだが、それがあまりにも大きい。

 俺がいる場所からでは船底しか見えないのであるが、その船底はこの町の半分は覆ってしまっているのではないだろうか?

「え、え、え、ええええエイディス! おい! エイディス!」

 その光景を見て、真っ先に取った行動は、弟を呼ぶことであった。なんだこれはなんだこれは。人は混乱した時、その混乱を誰かと共有したくなるものである。この時の俺の場合、その共有対象はエイディスであった。

「にーさんうるさいよー。集中できないじゃないかー」

「そういう場合じゃないんだって! 空! 空見てみろよ!」

 廃屋にも窓くらいはある。その窓から空を見上げれば、嫌でもこの光景を目にするはずだ。

「空って……雨でも降りそうなのー?」

 と、廃屋の中でエイディスが動く気配がする。きっと窓からこちらの忠告通りに空を見上げるつもりなのだ。

 俺は走って再度廃屋へ入ると、窓際に立っているエイディスと並ぶ。さすがにエイディスも、外の光景には目を奪われているらしかった。

「なんだろう……あれ?」

「わっかんねえよ。飛空船で良いんだよな?」

 空に浮かぶ飛空船は何度だって見たことはあるものの、あの様に巨大なものは初めてだった。混乱を共有したところで、それが何か分かるわけも無いため、戸惑いは続くばかりだった。

「形からして軍用艦……? 武装っぽいものもあるし………少なくとも装甲は全金属だしね。けど、あれだけだと凄い重量だし、それを浮かせるフライト鉱石なんてのは………」

「エイディス? お前、何かわかるのか?」

 どうにも空の船に対して、エイディスは一人で呟き続ける。こっちとしては寂しい限りであるため、せめて何のことか知りたかった。

「ええっとねー。ほら、あの船、円盤みたいな形してるけど、気球っぽいものは付いてないでしょ?」

「というか、金属っぽいよな」

「うん。金属装甲って言って、鉄や銅や合金なんかで強度を高める形の飛空船なんだろうけど、もしそれを気球で飛ばすなら、気球の方はもっと大きくないといけないんだ」

「ごめん。ちょっと、良く分からなくなってきた。あ、まだ、まだなんとなくわかるぞ?」

 エイディスの話が専門的なものに変わっていけば、独り言を続けられるのとそう変わらない。それはそれで寂しいので、出来れば話のレベルを落として貰いたいところ。

「なんて言えば良いのか………つまり、あの形の船って、平和じゃないん感じなんだよねー」

「軍艦ってことか?」

「うん、多分。けど、あそこまで大きいとなると、浮かせるフライト鉱石は相当純度が良くて大きいものじゃないと無理だと思うんだけど、そんなのあるかなぁ」

 フライト鉱石はそれが大きければ大きいほど、そして純度が高ければ高い程に浮遊力が高いそうだ。空の巨大な船が気球で浮かせているもので無ければ、フライト鉱石の力で浮いていることになるのだが、そんな事ができる鉱石というのも中々に少ないらしい。

「って、軍艦なんだったら、今、この国攻められてるのか!?」

 俺にとっては、その事実の方が一大事だ。あの大きな船から、いったい何がどの様にして攻めてくるというのか。

「いきなり、領空に入ってくるってことはそういうことになるよねー………って、あれ?」

 話の途中で、空の船が動き出した。その巨大さに似つかわしく無い、とても早い速度で、町の上空から去って行ったのだ。

「い、一体、なんだったんだ?」

 町の上空から完全に立ち去るまで、数分も掛からなかった。茫然とする俺達の事など知らぬとばかりに遠くへと向かっていったのである。

「うーん…………なんだか分からないけど、大事なのは大事なんじゃないかなー。まあ、僕らには関係ないけど」

 未だに頭が混乱している俺を尻目に、エイディスは先ほどのことなど忘れて、さっさと俺達にとっての空飛ぶ乗り物の作成に戻ってしまった。

「な、なんだよ。本当に」

 空の巨大船とエイディス。どちらにも置いて行かれた様な気分になってしまい、俺は釈然としない気分のまま、今日一日を過ごすことになったのである。




 さて、空に巨大飛空船がやって来てからさらに一日。町中では、あの船はいったい何だったのかという噂でも持ちきりになっているが、俺達は俺達で、別件で忙しなくしていた。

「よーし! これで完成ってことで良いんだな!」

 場所は変わらず例の廃屋だ。そこで俺とエイディスは、空を飛ぶ乗り物。『ロッド号』の完成を見ていたのである。

 と言っても、作ったのはエイディス一人である。なのに、自分の名前では無く、姓の方を付けた理由について聞いてみると、

「一番大切なフライト鉱石はとーさんが持ってきてくれたし、作ったのは僕だけど、乗るのはにーさんだからね。僕の名前より、家族の姓の方が良いかなって」

 ということらしい。そうだ。俺はこれから、エイディスが作ったこのロッド号に乗って、空を飛ぶ予定なのだ。

「教えた通りに動かせば、危なくもないと思うんだけどー。空から落ちるっていうのは本当に怖いから、注意してねー?」

 心配そうにエイディスはこちらを見る。自分で作ったものへの自信くらいならあるはずだが、それでも、兄である俺を乗せるというのは不安が残っているらしい。

「大丈夫だって。お前が作ってくれたんなら、俺が乗らなきゃ、にーちゃんとして恥ずかしいだろ?」

「にーさん。怖くないの?」

「そりゃあ、空なんて飛んだことないから怖いけど、それはそれじゃん。まずは挑まなきゃ、なんもできないだろ」

「そういうとこ、やっぱりにーさんだよね」

 良く分からない納得のされ方をされたが、止められたわけでは無いらしいので良しとする。

「で、どうすれば良い? なんなら今からでもやれるぜ!」

 善は急げだ。空に巨大船が現れたとしてもまったく関係無く、あのお姫様にもう一度会いたいという思いは胸に燃え続けている。やはり人を突き動かすは恋なのである。

「まずはちゃんと飛んだり降りたりできる場所を見つけないとー」

「そういう場所はどんな場所が良いんだ?」

 聞いてばっかりであるが、完全に俺の知識外の話であるから仕方ない部分がある。

「ほら、前に入った飛空船が着陸した場所みたいな、広くって平らで、何も無い場所が良いかなー。飛ぶにせよ、降りるにせよ」

「ふうん。けど、さすがにあそこにまた入るのは無理だな。そもそもロッド号が入んないし」

 正規の出入り口は見張りがいるだろうし、以前の穴がまだあったとしても、ロッド号が入り込める大きさでは無かった。

「そうなんだよねー。それが今のところ、一番の課題かなー。町中じゃあ幾らなんでも障害物が多すぎるしね。そういう場所さえ見つけられれば、あとはもう飛ばすだけなんだけどさー」

「なんだ。そんなのが一番厄介なのか。なら、なんとかできるぞ?」

「え? 本当? にーさん」

 驚いた様子のエイディス。こいつは俺のことを何だと思っているのか。これでもお兄ちゃんだぞ。偉くっていろんなことを知ってるんだぞ? いや、そりゃあ今回に限っては頼りっぱなしだが。

「ちょっと気を付けなきゃいけないところだけど、こいつを飛ばすなら都合が良い場所があるんだよ。今から行ってみるか?」

「う、うん」

 何事も思い切りが大切なのだ。エイディスの返事を聞いてから、俺達は二人でロッド号を押しながら、その目的地へと向かった。




 ラクリムは城壁に囲まれた町であるが、その城壁。長らく地上からの攻められるという事態が無かったためか、そこまで厳重なものでは無かった。

 どちらかと言えば、城壁の老朽化により、崩れないかどうかが心配される程のボロさ。そんな城壁だからこそ、実は外への抜け道が幾つかあったりする。

「暇だからさ、何回か外に出たこともあるんだよ。最初はわくわくもしたんだけど、やっぱりなんもないから、お前を連れて行くってことは無かったんだな。でも、これを飛ばすには便利だろ?」

「まあ………そうなのかなー」

 ロッド号を押しながら、幾つかある、城壁の一部が崩れた穴を目指す。そういう場所に関しては町の端、さすがに人目があまりない場所に限られており、そこに辿り着くまでの間、エイディスと話を続ける。

「町の中は建物がいっぱいだけど、外はホントに何も無いんだぜ? 町の中よりもっと退屈なんだって。そりゃあ獣が出たりするかもだけど、そんなのに一度も会ったことないし」

「町の外って言っても、そこにも人は住んでるからねー。あんまり獣も近づかないんじゃない?」

 まあ、そうなのだろう。町の外と言っても、もっと遠くまで行かなければ、ラクリムの領地からは離れられない。目に映る壁を越えたところで、その先にも、ずっと既知の世界は続いているのであった。

「………なあ、エイディス?」

「なーに? にーさん」

「もっと遠くに行きたいって思ったこと………ないか?」

「うん? ええっとー………無いかなー」

「俺はさ………あるんだよな」

 空を飛ぶ道具を運んでいるからだろうか、どこか遠くへ行きたいという少なからずあった願望が、ひょいと顔を出してくる。

「にーさん。ラクリムを出たいのー?」

「どうだろう。父さんの後を継ぐってのも、悪く無いかなとは思うんだよ。あれはあれで、まあ、退屈はしないだろうし」

 ひたすら忙しなく働くのは良いことだと思う。働いた分だけ大なり小なり見返りはあるのだ。悪い事では決してない。

「けど、遠くへ行きたいとは思うんだー?」

「………なんでだろうな。世の中には面白そうなものが沢山あって、けど、俺達はそれを知れなくて………それって、めっちゃくっちゃ、損してる気がしねぇ?」

「あ、それは少し分かるかもだねー」

 そうだ。世界にはきっと、俺自身が知らないものに満ちているはずなのだ。なのに、この小さな国で一生を過ごさなければならぬという事実に、とても焦ってしまう。当時の俺の思いはそんな感情でいっぱいだった。

 一目惚れの恋にしたって、今まで無かったものに対する憧れみたいなものが、無かったとも言い切れない。

「何時かはさ………俺、家を出るかもしれない」

「にーさんだけずるくない? 僕だって、もしかしたら出るかもだよー?」

「母さんは二人で出て行ったら悲しむかもな」

「とーさんもねー」

 仮にの話だと言うのに、どこか暗くなってしまった。本当に、今から考えても、何故、こんな話をしたのかが分からなかった。

 別に、この後になって起こることに対して、何らかの予感がしていたわけでもあるまいに。

「………お、あそこだ。あそこ。あそこ、ただの穴に見えるけど、外に繋がってる」

 とりあえず外へ繋がる外壁の抜け道に辿り着いた。なんだか話を続ける気分でも無かったため、二人とも無言のまま、ロッド号を押していく。

 話し声が無くなったせいか、暫くは車輪がカタカタと鳴る音だけが耳に響く。そんな車輪が何十回転かした頃に、俺達はラクリムの城壁を抜けたのだった。

「わぁ。確かに広い。地形の凹凸も予想の範囲内だし、これならいけるよ、にーさん」

 ラクリムの外の景色。どこまでも続きそうな平面の大地が続くその景色は、エイディスのお眼鏡に適うものであったらしい。

「んじゃあ、これからさっそく飛んでみるか?」

「とりあえずは練習だよー。暫く練習して、行けそうなら、王城の上空に向かおう。無理なら今日は諦めなきゃだけど、それで良ーい?」

「わかった。この椅子っぽいのに乗れば良いんだよな?」

 ロッド号に備え付けられた、背もたれの無い板みたいな形の部分を指差す。その板の前には進行方向を操作するためのレバーが。その下には、車輪を回すためのペダルが存在している。

「うん。そこに乗って、そう、レバーを掴みつつ、ペダルを漕ぐんだ。暫く漕いで初速が付いたら、レバーの天辺にあるボタンを押せば………」

「飛ぶんだな?」

「うん。そのはず。その後の動かし方は、前に説明した通りだよー。基本的には感覚的に分かる様にはしているからー」

 何時も何時も、ロッド号を作成するエイディスを眺めているだけだったわけではない。ロッド号が完成した場合、俺が乗り手側となるために、操縦方法をエイディスから聞いて覚えていたのである。説明通りの動かし方であるならば、十分にできるというくらいには、何度も聞いた。

「よし! じゃあやってみるか!」

 ペダルを漕ぎ、ロッド号を前へ進ませる。車輪が舗装もされてない地面にガタガタと揺れるも、その揺れを我慢しつつ、さらにペダルを漕いで行く。

 十分に速度が出て来たなと感じたところで、レバーを握る手が強くなった。

(ボタンを押せば………本当に飛んじまうのか?) 

 当たり前の話だが、その時は、生まれて一度も空を飛んだことが無かった。いくら操縦方法を知っていても、実際に空を飛ぶとなれば緊張くらいはする。

「にーさん! 早く早く!」

 一方でエイディスは、俺がというかロッド号が早く飛ぶことを望んでいるらしい。エイディスにとって見れば、自分が作ったものの晴れ舞台と言った感じなのだろう。

「ええい! 物は試しってことで!」

 意を決してボタンを押した。すると、地面と車輪が触れ合い、ガタガタと揺れていたロッド号から、突然、揺れが無くなる。

「わっ、もしかして……これは!」

 揺れが無くなると同時に、摩擦が無くなったせいか、ロッド号のスピードが上がる。ふわふわとした、安定感の無さに襲われるものの、なんとかバランスを保つ。

「にーさん! 浮いてる! ばっちり浮いてるよ! けど、早く高度を上げて!」

「そうか! やっぱり浮いて………うわぁ!?」

 確かにロッド号は浮いていた。エイディスの設計は完璧だったのである。しかし大きな問題が一つ。速度を上げたロッド号は、その進行方向にある俺の背丈ほどの岩に突き進んでいたのだ。

「高度!? と、兎に角避けるには! えっと、えっと………こうか!」

 必死になれば何とかなるものか。焦りの中で、エイディスから教えられた操縦方法を思い出し、その技術にて、ロッド号の高度を上げる。

 結構な速さで進むロッド号が、そのまま岩にぶつかりそうになったその瞬間。こちらのレバー操作により、その進行方向を斜め上に変わる。

 ぎりぎりのところで岩を回避し、高度を上げて行くロッド号。上がれば上がるほどに、障害物が無くなって行き、自由に空を飛べる様にもなってきた。

「俺……俺! 空飛んでるよ! すっげぇ!!」

 さっきまでの、ちょっと暗い気分はどこへやら。頬、いや、体全体で感じる風の心地良さを感じながら、空を飛びまわる。

 幾らかレバーを倒したり引いたりしている中で、ロッド号の動きをどんどん把握していくのであった。

「にーさーん! ちょっとは慣れて来たー?」

 下の方からエイディスの声が聞こえて来る。大声で叫んでいるらしいのだが、こっちがそれなりに高度を上げていたせいか、小さくしか聞こえない。

(おっと、ちょっとはしゃぎ過ぎたかな?)

 初の飛行に興奮していて、それ以外の事に気が回ってなかったらしい。とりあえず弟の声がちゃんと聞こえる高度まで、ロッド号を下げて行く。

「おー! お前の言う通り、こいつ、ちゃんと動くぞー!」

 まずはロッド号を完成させたエイディスに報告だ。今、こうやって空を飛べているのは、弟のおかげであり、兄はちゃんとその事を認めなければならない。

「そりゃあ良かったよー! じゃあさ! とりあえず降りてきて、相談しようか!」

「相談? 何をだー?」

「何って、王城に行くんでしょー?」

 ああ、そうだ。すっかり忘れていた。そうしてエイディスの言葉で思い出す。俺はこれから、このロッド号を使って、あのお姫様に会いに行かなければならないのだった。


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