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フライトコロナイズ  作者: きーち
第3章
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4話 クジラがくる

 本格的な探索となれば準備に時間が掛かる。携帯食糧と移動用のロープをどれだけコンパクトに運べるか。荷物を詰めたサックは誰が持つのか? どのサックにどういう種類のものを詰めれば良いか。探索はそもそもどれくらいの時間や期間で行うのか等々、探索を決めたと言っても、決定から出発に至るまでには時間が掛かるものだ。

 現在、俺を含む(未だに何故かと問い掛けたくなる)作業員班は、探索班となって砂漠の地下空間へ向かうための準備を行っていた。

 場所は小型飛空船の格納庫。単純に船内で広い場所であり、荷物を広げても邪魔にならないからこそのこの場所だ。

「へえ。これは何?」

「フックだよ。ロープとセットで使って、どっかに引っ掛けたりするんだと………って、なんで説明させられてるんだ、俺は?」

 格納庫で飛空船を整備しているはずの弟、エイディスが、荷物を整理している俺の側へやってきて、その様子を観察してくる。家族であるから、そこに居られて居心地が悪いということも無いが、それにしたってどうしたんだと聞きたくはなるだろう。

「こっちはこっちで暇なんだよね。兄さんのロンブライナもほぼ整備は終わったしさ」

 一時は中破状態だったロンブライナも、整備班の頑張りにより、今では飛び立ち、十分に空戦できる状態にまで持ち直している。後は俺が何度か乗り、細かい調整を行うだけと言う段階なのだが、残念ながら俺はこれから陸どころか地下の仕事へ赴くわけだ。

 暇だから作業員班の仕事を手伝っていたはずなのに、操縦士としての仕事をさて置き地上で冒険とは、本当に自分の立場に困惑してしまう。それが別段、嫌では無いところが得にだ。

「こっちは忙しいんだよ。ったく、時間には限りがあるってのに」

「ハーハッハ! 兄弟仲良く話す時間くらいはあるだろうさ! なあ、諸君!」

 ここには俺達兄弟だけでは無く、当たり前の様に作業員班がいる。その班長のブラッホは、上機嫌を隠そうともせずに笑っていた。

 これから、状況はどんどん面白くなる。なにせ未知で未開で不可思議な場所へと赴くのだ。これが冒険の醍醐味だと彼は笑っていた。何時もより3倍くらい楽しそうに笑っていたのだ。

「もう、ハンチョーったら、別にこれが最後ってわけでも無し、幾らでも話す機会なんて……って言うと、なんだか本当に最後の言葉になりそうなのはなんでかしらね?」

「不吉なこと言ってんじゃねえよ、てめえこの女」

 相変わらず仲の悪そうなサウラとバーリンであるが、これにも何時の間にか慣れてしまった。恐らく、他の作業班員にとっては、もう既に日常茶飯事を通り過ぎて一風景になっているのだろう。だから、別にああだこうだと言わない。

「ま、まあ、兄弟の仲が良さそうなのは、見ていて気分の悪いものでは無い、さ。仲が悪いよりは随分とマシだ。二人は、どうして兄弟で開拓計画に参加しようと思ったんだ?」

 何時の間にか傍にいるビーズに、何時かに彼へ聞いた質問をそのまま返されてしまう。ここで答えないという選択肢も無いが、どう答えたものかなと思案する。すると俺より先にエイディスが答えた。

「僕らは、この計画の成功そのものより、そのあとにあるだろう成果目当てってところですよ。はい」

 弟は嘘を吐いていない。ただ、普通に聞けば名誉や名声、あとは即物的な褒美を目当てにしていると思うだろう。実際、復讐のためだなどと言ったところで空気を悪くするだけなのだし、そういう勘違いはし続けていて欲しいものだ。

「名誉だとしたらまだわかる部分があるが、もし金銭が目的だとしたら不思議であるな!二人とも、特殊技能を持っているように見える!」

 ブラッホから指摘される様に、金銭が目当てだとしたら不思議な立場となってしまう。小型飛空船乗りや整備士なんかの職種は、計画に参加する意義が無い。もっと安全に稼げる仕事があるからだ。

 だから安易に金稼ぎが目的などと嘘は吐けない。

「金銭ではないですね。まあ、名誉の方ってわけでもないですけど、どちらかと言えばそっちに近いか。なぁ、エイディス」

「だね。形の無いものであるのは確か」

 具体的には言えない。復讐が口に出し難い理由というのも勿論あるが、あやふやなものを求めているという自覚もあるからだ。復讐するにしたって、復讐するべき明確な対象が、外の世界からきた巨大飛空船なんていう良く分からないものなのである。

「ふむぅ。やはり人それぞれ理由があるのであるな! 私なんぞは、単純に好奇心によってこの場にいるわけであるが!」

「それは知ってます」

 いっそ、ブラッホの様に直球勝負で生きられたらと思うところはある。きっと無理だから、思うだけでしかないが。

「なんにせよ、楽しむことが重要であるよ! 仕事であろうとも、実際には面倒なことだとしても、楽しめた輩が勝ちなのだからな!」

 ならば、船がどんな事態になったとしても、ブラッホにとっては勝ちなのだろう。彼はどんな状況だろうとも、その笑みを絶やさないだろうから。

 それにしても、復讐も楽しめたら勝ちなのかと尋ねたくなる。

「そ、そろそろ準備も終わりだな。出発のタイミングは何時にする?」

 話しながらの作業を続けていると、ビーズが整理された荷物を見てから言葉を発する。

「今度は砂漠を探索するわけじゃねえから、時間とか関係あんのか?」

「あるに決まってるでしょう? 私たちがあの空間に行ったのは夕方で、その時は見た感じ安全そうだったから、また夕方に行く方が良いに決まってるのよ」

「冒険だろ? だったら夕方以外の時間に行った方が、発見が多いじゃねえか。そうに違いねえよ。なんだ、何が決まってるってんだ」

「いくら冒険たって、安全に行けるところを危険に行くなんてことしてたら、命が幾つあっても足りないって言ってんのよ!」

 さて、またバーリンとサウラの喧嘩がヒートアップしている。ブラッホが止めるのを待つか、それともうるさく無いように場所を移動しておくか。どちらを選ぼうかと迷っていると、思わぬところで仲裁が入った。

「おお、ここか。ここにおったのか」

 魔法士の老人、デリダウが、珍しく自分の研究室から出て、格納庫へとやってきたらしい。こんな場所では珍しい顔というのもあって、皆の意識がそこに向く。喧嘩をしていた二人もおかげで静かになるのであるから、老人の登場はそれだけで歓迎するべきだ。

「おや! ご老人! こんなところにわざわざ何ですかな! 用があるのなら、こちらから赴きましたのに!」

 ブラッホはデリダウの体を気遣う様に目を向けながら、老人に近づいていく。デリダウがいったいどんな理由でここに来たのかは俺も気になるため、俺もそれに合わせてデリダウに近づいた。

 こんな風にブラッホの行動に合わせて動いてしまうから、彼とペアみたいな扱いになるのかもしれない。

「誰かに言付を頼むほど老いちゃあおらんよ。艦内くらいの広さなら自分で歩けるしの」

 言う通り、デリダウの腰は多少曲がってはいるが、歩く速度は遅いというわけでも無い。本人も動けぬ老人扱いされるくらいなら、自分で動くというタイプなのかもしれない。

「けど、わざわざ歩いてやってくるくらいにはここに来る理由があったんでしょう? 何なんです?」

 いくら自分で歩けると言っても、デリダウが自分の研究室から出ることは稀だ。普段から部屋でペリカヌが手に入れた情報を精査したり考察したり研究したりしている老人なので、用のあるときはこちらから出向くのが普通なのだ。

「いや、君らが砂漠の地下で見つけたものについて、漸くわしの耳へ入ってきたんじゃがの?」

「まだ詳しく話せるほどの内容ではありませんがな! 何せ本当に一目見たくらいで!」

(声を張り上げて言うことでは無いと思うんだけどなぁ)

 ブラッホの大声に頭を掻きながら、デリダウがどう返すかを待つ。先生みたいな魔法使いは、いったい何を講義しに来たのやら。

「うむ。その一目見た空間なんじゃが、一つの生態系が作られていたと見て良いのじゃな?」

「生態系って………ああ、地上に無いんならどこか別の場所にって話でしたっけ? ありました。ありましたよ。まだはっきりと判断できませんけど、あそこには生物の気配がたくさんありました」

 光を放つ植物。地底から天の砂に潜るクジラというかエイ。もっと深く探索すれば、まだまだあの地下空間に適応した生物が見つかることだろう。生態系と言うのなら、確かにあの空間にそれは存在し、ほとんどそこで完結していたのではないかとすら言える。

「そのことなんじゃが………やはり妙じゃと思ってのう」

「妙とは何事がですかな? 先生の予想通りであったわけではありませんか!」

 そうだ。デリダウの予想のおかげであの場所を発見することが出来た。そのことは喜ぶべきであり、謎に思って首を傾げることでは無いと思うのだが。

「うむ。地上に生態系が無いのであれば別の場所にとわしは考えたわけじゃが、そもそも、この砂漠はそれほど生き難い場所かね?」

「十分にそうだと思いますけど?」

 日が出ればクソほどに暑く、日が沈めば凍えるほどに寒くなる。こんな場所で生きたくないと誰だって思うはず。そう思えば、あの地下空間はそこに生きる者にとっては天国と言えるのかもしれない。

「しかしじゃな、生物っというものは普通、地上に生きとるもんじゃ。わざわざ地下に行こうとは思わん。何らかの理由が無ければの」

 どれだけ厳しい環境であろうとも、そこで生きられるのなら、それが生物にとっての安定だとデリダウは話す。

 場所を移動するというのは、どんな厳しい環境と比べてもリスクある行為なのだと。

「生物とは環境に適応する。それは先天的に持った強力強大な能力であるが、この能力には弱点があっての。大きな変化には体が耐え切れぬという部分がそうなのじゃ」

 辛い場所でも住めば都。都の住民は町を飛び出しては生きていけないと、そういうことらしい。

「それでも、やっぱり地下にはあの生物たちがいて、砂漠にはいっさいそういうのが見れませんでしたけどね」

 やはりあの砂漠が嫌で地下に逃げたとしか思えない。

「そう。問題はそこにある。本来の生態系が地上で、今は地下空間に移っていると考えるのであれば、地上で何かが起こり、結果、地下へ向かわざるを得なかったと考える方が自然じゃろ?」

「地下にあのような空間があると知っていれば、そこへ向かうのは当たり前だと思いますがな!」

 楽な場所があるのならそこへ向かう。生物として当たり前の行動では無いかと尋ねるブラッホに、デリダウは否定の意味を込めたであろう首を横に振る。

「ここにいる誰が、地下にあのような場所があると知っておったかね? 知らんかったからこそ、あの地下空間に驚嘆したのじゃろうて。他の生き物にしてもそうじゃ。地下空間があると知って地下へ向かったわけではない。恐らくはこの砂漠から逃げるという行動の際、地下へ逃げることを選んだ生物群が、あの地下に生態系を築いたとみるべきじゃろうな」

「は? ちょっと待ってください。砂漠から逃げるですって? 不吉な言葉だなぁ」

 そういう言葉は止めて欲しい。不吉な言葉は不吉な事件を呼び寄せがちだ。

「ううん。そう、話の主題はそこなのじゃよ。この砂漠において、他の生物が逃げ出す様な何かが起こったのではないかと、そう考えられてのう。何やら怖い考えじゃろう? じゃから、確認がてら、君らに伝えなければと思って」

 怖い。そうだ、怖い考えだ。だって考えてみろ。他の生物が逃げたということは、俺たちだって逃げなければならない状況なのかもしれないのだから。そんな場所に、俺たちは何日も滞在している。

「その逃げる理由とは、即ち自然現象ですかな?」

 その地域にいる生物がすべて逃げ出すとなればそんなものだろうとブラッホが一つ案を出した。

「それも考えられんことは無いが、さっきも言うとった通り、生き物は環境に適応するもんじゃからして、どれだけ大きな自然現象じゃとしても、そこで適応し、生き残る生物はいるはずじゃないかの」

 デリダウはまた違った予想をしているらしい。彼が怖い考えだとするその予想はいったい何なのか。

「こういう考え方はできんじゃろうか? 他の生物は追い出されたと。もっともこの場所で強力な何かに、生存圏を脅かされたから、別の場所に移動したのだと」

「もっとも強力な何か? それはいったい―――

 その時、船が揺れた。ペリカヌはまだ砂漠に下りたままであるから、揺れる理由は無い。もしや下の砂が崩れたのかと思ったが、崩れるべき場所は既に崩れているからこその砂漠の平地であり、そうそう足場が不安定になることは無いと思える。

 だが確かに揺れたのだ。船だけで無く、大地そのものが揺れた。そんな感覚だったと思う。

「な、なんだ? 今の?」

「地震であるかな? このあたりの地盤は不安定なのやも。地下にはあのようなものがああるわけだしな!」

 確かに、いくら安定している様に見えても、その下はどうなっているか分かったもんじゃあない。

「地上が不安定となると、探索中、船は空にいた方が良いかもしれませんね」

「うむ。これで地下が崩れていなければ良いが………おや? どうかしましたかな、先生? 青い顔をしていますが………」

 デリダウは震えていた。冷や汗のようなものも顔に浮き始めていた。いったい何なのだ、その表情は。

「この砂漠に来てからもうかなり時間が経過しておる………いるのだとしたら、何時であってもおかしくはないと思っておったが……こ、このタイミングで……?」

「なんだよ、このタイミングって一体………え?」

 声だ。その時、声が響いた。どこからではない、船全体を揺らすような叫び声。動物が上げる咆哮か。いや、それ以上に甲高く、船を、大気を揺らす様な、もうそれは自然現象に近い音。しかし自然現象と呼べないほどの威圧感を覚える。いや、これは恐怖か。

「な、な、なんだ今の声!? って、船が動いてる!?」

 体に掛かる軽い低重力感。これは船が浮上を始めた際の感覚だ。船の浮上には船員全員へ何がしかの合図や指示があるはずなのに、まったく知らされない状況で船が浮いているのである。

「船が勝手に………ってわけじゃあないか。もしかして艦長が!?」

 ペリカヌに意思は無いのだから、誰かが動かしたに決まっているのだ。そうして、船を独断で浮上させる権利は、艦長が搭乗しているのであれば艦長にしかない。

 アニーサ艦長であるなら、この時間帯、周囲に指示を出して船を動かせるはずの上部艦首にいる。

「緊急事態かもしれん! 作業員班! 集まりたまえ! 我々はすぐに艦長の意思確認に向かう! アーランくんにエイディスくんは持ち場で待機し、それぞれの班の班長に指示を仰ぎたまえ! それと先生どのは………ええい、とりあえず落ち着くまでここに居させてやってくれまいか!」

「は、はい! わかりました!」

 ブラッホの指示は素早く、適格だった。こうなると不測の事態と言えども安心できる。俺はデリダウ老に近寄り、ぶつぶつと何やら呟きながら震えるこの老人を、とりあえず邪魔にならない様に、かつ、比較的安全な様に、格納庫の端へと連れて行った。

「間違いない………現れた。現れたのじゃ………。そういう存在は予想されておったが、まさか本当に出会うとは………」

 何かを呟き続けるデリダウだが、その言葉は不吉な音にしか聞こえないため、できる限り聞きたくなかった。

 デリダウをとりあえずの場所まで移動させると、丁度、小型飛空船班の班長、ビーリーが走り、格納庫内へとやってきていた。心なしか青い顔をしている。

「班長! いったい何があったんです!?」

 こっちだって事情は知りたい。やってきたビーリー班長に詰め寄るも、彼はただ首を横に振るだけだ。

「話は後にして小型飛空船を出すぞ! 出して……いや、その前に、確かに事情を知る必要があるか………あの窓だ。あの窓から兎に角ペリカヌの後方を見ろ!!」

 ビーリー班長が格納庫に備え付けられた小さな丸窓を指差す。その窓が何だと言うのか。焦りから押し切られたものの、俺はその指示に不満を覚えた。それを見るまでは。

「いったい何………が………えっ………」

 船の後方。船を追う様に存在する一つの影があった。大きい。ひたすらに大きい。ペリカヌの3倍はあろうかと言う巨大な影がそこにあった。

 浮上し、その影から逃げるペリカヌ。角度が変わったからだろう、それは日の光による影から姿を現す。

 樹皮の様な硬質感を持つ皺だらけの表皮を持ち、ところどころに赤いガラスのような丸い目を輝かせている。一本の野太い棒に見えるその体全体の前方半分くらいは、ぱっくりと二つに分かれていた。

 その分かれている部分が、それの口だと理解した時、胃の奥から何かがこみ上げてくる。

「うっぷ……!!」

 手で口を咄嗟に抑え、吐きそうになったそれを飲み込む。気分が悪い。窓の外に見えたそれの姿を目に収め、理解した時、ひたすらの吐き気が俺の体を襲ったのだ。

(なんだアレ!? なんだ!? 何で……何が!?)

 いや、理解したわけでは無い。むしろ理解から遠ざけようとする。あんなのはただデカいだけの生き物だ。そう思い込もうとして、気分の悪さを意思で押さえつける。

「大丈夫か?」

 肩に手を置かれる。ビーリー班長だ。彼もきっと、アレを見たのだ。だから青い顔をしていた。この気持ち悪さを彼も感じていたのだろう。

「な、なんとか……これくらい」

 立っていられない段階までは至らない。それよりもまず、アレがペリカヌを追って来ている事実の方が重要だ。

「良し、ならばすぐに小型飛空船に乗りたまえ。ロンブライナはもう動けるのだろう?」

「やっぱそういう展開ですか………レイリーはもしかして?」

「ああ、気分の悪さに立ち上がりすらできんところまでやられていた。みすみす死なせるわけにはいかんから、待機だよ」

 これから俺たちは、窓の外にいるアレからペリカヌを守るために、小型飛空船で牽制を行おうと言うのだ。

 見ただけで気分の悪くなるアレと戦う。ゾッとする行為であるが、それでも生きるためにはやらねばならぬだろう。アレはひたすらにデカかった。あんなものがペリカヌにじゃれ付くだけでも、致命的な結果となるのは目に見えている。

「レイリーのやつ……意外と根性がねぇな」

「すでにアレを見た船員を半分が彼と同じ症状に陥っている。気分が悪くても動ける者が動かなければならん」

 なんてこったと言う話だ。最悪な気分だが、その最悪な状況から脱するための行動を。俺はまったく無いやる気を生存本能で代替えさせて、ロンブライナへと向かう。

「兄さん!」

 エイディスが既にロンブライナを発進させる準備を進めていた。エイディスはアレを見ていないから十分に動ける。恐らくは整備班の班長から外だけは見るなと言い聞かされているのだろう。

「エイディス! ロンブライナ、いけるか!?」

「うん! って、本当は調整も済んでないし不満一杯だけど、緊急事態なんだろ?」

 エイディスの言葉に頷きで肯定する。調整が済んでいないという言葉に、俺だって不満を覚えるものの、やはり今は仕方ない。

 ロンブライナ上部から操縦室へ滑り込み、定位置でうつ伏せという姿勢となるや、顔を上げ、前を見る。

「………牽制ったって、どうなるもんでも無さそうだよな」

 格納庫から外へと飛び立つための入出口が開く。それは船の後部にあるのだから、そこが開けば、そのままアレが見える。ペリカヌの何倍もあるあの怪物が。

「くっそ……!」

 正面で見れば、嫌でも吐き気がする。それを抑えることはできるものの、それで精神力を幾らか使っていれば、船を動かす集中力が減じる。そのことに腹が立つ。

「ロンブライナ………頼むぞ」

 自らに自信が無いのならば、信じられるのは飛空船だけだ。意思なきロンブライナの操縦桿を強く握り、ロンブライナを発進させる。

 アレを見た整備班の班員や、エイディスが腰を抜かしているのを尻目に、ロンブライナがペリカヌの格納庫を出て、砂漠の空を飛び立った。




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