5話 危機は危機として、その大きさが問題だ
暑い。ひたすらに暑い。夜が来て、日の光が無くなっているというのに、どうしてこうも暑いのか。
俺、アーラン・ロッドは、我知らず空を見上げた。瞬く星が霞んで見える。
未開の土地で墜落してから暫く。まず始めたことはロンブライナの調子を確認することからだった。
不時着が予想以上に上手く行ったらしく、外部に目立った損傷は無かったが、それでも動かない。となると内部の故障であろう。
もっとも可能性が高いのはフライト鉱石とそれを中心としたロンブライナに浮力と推力を与える推進室である。
小型飛空船乗りとして経験を積めば、専門家ほどで無くても、整備の技能は付く。覗いて確かめれば故障の原因が判明し、なんとか修理できるかもしれない。
そうして覗いて確信した。修理には少なくとも半日は掛かる。フライト鉱石の形が落下の衝撃で歪んでいたのだ。
フライト鉱石は適切な形にしなければ、その浮遊力を十分に発揮できぬし、一定の方向にその力を発し、前方で移動する推進力とするには、さらにフライト鉱石を稼働させる機構が必要になってくる。
その機構には目に見える不具合は無いのが不幸中の幸い。となると俺は歪んだフライト鉱石を適切な形に整えてやらなければならない。
フライト鉱石の変形を整えるには、それそのままヤスリ削りが望ましく、それ用の道具が小型飛空船には備え付けられていた。
ただし適切な形にするにはそれなりの集中力が必要であるし、地道かつ慣れぬ作業であるため時間が掛かるだろう。スムーズに進んだとして半日。それが俺の出した結論だったのだが………。
「………半日。甘い考えだったか」
ペリカヌ内部よりもっと温度差の激しいこの大地。フライト鉱石の調整を始めた俺だったが、すぐに作業を止める破目になった。
「こんな状況で、整備作業なんてできる精神力が持つかよ………」
暑く、汗が額から流れ続ける。目は朦朧とし、吐く息がすぐに蒸気となるのか霞む。一応、遭難した際のキットも船に積んでいるため、飲料には余裕があるものの、それも酷く温い。
このままでいれば、整備どころか今夜、生き残ることも不可能になるかもしれない。それほどの暑さだ。はっきり言ってしまえば、これほど暑い気温というものを経験した事が無い。
「なんとか………熱から逃れる方法を考えなきゃ、本気でヤバいな………」
汗が流れているうちはまだ良いが、それが止まったりすれば最悪だろう。人間は熱に弱い生き物なのだ。汗を掻くという体温調整機能が少しでも麻痺すれば、その時点で死を覚悟した方が良い。
「そう言えば、こんな場所でも自生する植物はあるのか………」
ふと、意識が少し離れた場所で、背の低い森となっている場所を見やる。あの森の木々のおかげで不時着できたのであるが、それでも不気味だ。どこかつるりとした幹に異常に細い枝が何本も生えている。枝からは葉が出ているのだが、その色は真っ白であった。
「………一か八か、かもな」
ロンブライナの影で、ほぼ寝転ぶ様な体勢でいた俺だが、震える足をなんとか立ち上げ、そちらに向かって見ることにした。
何か考えがあったわけではない。あそこには奇妙とは言え生き物がいるのだから、人間だって生きやすい場所なのではと思ったのだ。
状況が状況なので、まるであの世へ誘われている様な気分である。あちらは死後の世界では無いか。だとするのなら自分は地獄行きか。それほど悪いことをした覚えは無いのだが………。
「本当に………あの世かなんかかも……な」
ふらつきながら奇妙な木々の近くまで歩いたところで、何故かひんやりとした空気を感じた。
こんな都合の良いことがあるものだろうか。熱を避ける方法がすぐ近くにあるなんて、自分は幻覚か夢でも見ているのか。
「いや………木自体が冷たいのか?」
気味の悪い木に手で触れる。外気とは比べものにならぬほどに温度が低いその木は、群生していると、きっと周囲の気温も下げてくれるのかもしれない。
天の助け……いや、大地の恵みと言うべきか。とりあえず体を木に預け、一息吐く。火照る体から熱が抜けて行く気がして気分が良かった。
汗が引いてくると精神的な余裕も出て来る。ロンブライナからは距離があるために整備ができぬから建設的な行動こそ取れぬものの、周囲の様子を伺うくらいはできるだろう。
「一応………見た目は変だが、植物………なんだよな?」
木に触れると、まるでゴムの様にぐにゃりとしている。このおかげでロンブライナが落下する衝撃が緩和されたのだ。一方で、こんな植物が存在していたのかと驚きもする。
「世界ってのは、兎に角広いんだな」
この植物がどうしてこの様な姿をしていて、この様な感触をしているのかは、学者ならぬ俺にはわからない。只々、こんな植物の存在を認める世界の奇怪さに感心するばかり。
「………まあ、これのおかげで生き残れたんだから良しとするか」
そう結論付けることしかできない。そうしてこの後の展望について考え始めた。とりあえず休息を取るべきだ。
今は生きやすい場所にいるとは言え、さきほどまでの暑さで体力を奪われ尽くしている。とりあえず休息しつつ夜を生き延び、朝になった段階でロンブライナの整備を開始するべきだろう。
眠るべきか。問題はそこである。ここは屋根と壁のある場所では無いのだから、単純に睡眠を取れる場所とは言えない。朝までは気温が高い場所だから凍える心配は無いとは言え、それでも地面に直接というのは抵抗感がある。
それに無防備を晒せば、野生の…………。
「ちょっと待て、この発想はちょっと嫌だぞ?」
獣などこの周辺に居て欲しく無い。いたら周囲に存在する木々と同じ様に不気味に決まっているし、結構限界に近い俺の精神状態がさらに悪化してしまうだろう。
「………まさかな」
さて、こういうのを嫌な予感と言うのだろうか。人間、きっと悪い事をすぐ頭に思い浮かべられる者が長生きするのである。そういう人間の子どもが生まれ、どんどん研ぎ澄まされて、悪い予感ばかりが当たる様になる。きっとそうだ。
「なら………もしかしたら」
ガサガサと音が聞こえる。風だろうか? この暑い夜には丁度良いかもしれないが、別に頬に触れてくれるわけでもない。むしろ頬を切り裂く爪を持っているやも………。
「くるな……くるな……くるなよ…………」
音がさらに大きくなっていく。何かが近づいている。それはきっと風などで無く、生きた……凶暴で………強大で………筋肉質で、背丈も高く………何時も満面の笑みな表情がむしろ不気味で…………。
「って………おい!!」
「ほう! これは早くに見つかり僥倖と言ったところであるな!」
そこには、この不可思議な土地が酷く似合う男が一人。ブラッホ・ライラホという巨漢が草木を掻き分け現れたのだ。
「な、なんで……!?」
「遭難したであろう船員を見捨てるほど、艦長は無慈悲というわけではないのだよ。いや、考えなしでは無い。というべきであるかな?」
俺を救出に来た。そういうことなのだろうか。こんなまったく分からぬ場所で、時間帯だって過酷な状態になる時間だろうに。
「にしたって来るのが早すぎるというか………いや、こっちは助かりますけど」
「あの船を拓けた土地に落着させたのが、君にとっては幸運だったのだよ。調査を命じた範囲は事前に命令していたのだから、その周辺にペリカヌを向かわせ、上空から見れば、落下した小型飛空船がすぐに見つけられた」
あとはその近くに救出する人間を派遣すれば、高確率で俺を見つけることができると、そういうことだろうか。
「まいったな………ここまで迅速にされると、立つ瀬がむしろ無くなる」
俺自身の失敗が目立ってしまいそうだ。生き残ることが出来たという安心感からか、そんな心配まで浮かんできた。
「何があったかは分からんが、不測の事態だったのだろ? でなければこうなるものか。経験あるものの失敗は経験無きものの成功より受け入れろ。であるよ! さて、さっさと船へ戻ろうではないか。さすがに私も、これから野宿をすると言う気分にはなれぬからな、ここは!」
さすがのブラッホも、不気味な場所は不気味と感じるらしい。その事にホッとしたのか、俺はこれまでの疲労が一気に襲い掛かってくる気がしたのだった。
ペリカヌへ戻ると、俺は艦内にある医務室へと運ばれた。そう、ほぼ運び込まれたと言って良い。
既に体力の大半を使い果たしていたから、船に辿り着くと同時に足で立てなくなってしまったのだ。
そのままブラッホに背負われると、ここで調子を見て貰えと叩き込まれてしまった。医務室だからして、ここには比較的清潔で上等なベッドがあり、勿論ながら船医が存在していた。名前をマズール・フォンクラインという50代前半の小男で、医者らしい医者の風貌をしている。あくまで風貌のみであるが。
「ふむ。珍しい。まさか真っ当な患者が運び込まれるなんてのはな」
「患者が珍しいって言うのは良いことでは?」
運び込まれた医務室のベッドで、上半身だけを起こしながら、俺はマズール船医へ話し掛ける。本当はさっさと眠りたい気分なのだが、まだ起きていられるうちに、体調やら墜落した後にどの様な事態になったのかを伝えろとの事。治療のためには必要らしい。
「この部屋に来るのは二種類。患者と馬鹿だ」
「馬鹿?」
「仮病で仕事をサボる馬鹿や、自分が本当に病気だと思ってる馬鹿。まあそういう馬鹿だな。君はそうでないことを祈りたいね」
「多分………そういうタイプじゃあないでしょうね」
「熱中症と過労だ。打ち身もある。患者と言えば患者だろうさ。君がそれらの病状でここにいると理解している限りは」
「いやあ………理解しないってことは無いと思いますが」
ここまでマズールの言葉を聞けば分かるだろう。彼は辛口だ。この医務室へ運ばれる船員は、体が完全に回復する前に、彼の言葉から逃げ出す様に立ち去る事で有名である。
「寝て水分を十分に取れ。夜の間は船内でも暑いが、外よりはマシだろう。本当は船が涼しい場所に向かうのが一番だが、何もかも望めんのが動く船というものだ。患者にはこう行うことにしていてね。船に乗って体に問題が出るのは、半分くらいは自業自得だ。と」
「耳が痛てぇって話です」
こうは言うものの、率直に言われるとむしろすっきりする。いろいろ目に見えて気を使われるよりかは随分とマシな反応なのだ。
「ならば耐えて体力の回復に専念したまえ。まだ若く、丈夫な体を持っているのだからな」
「そうしろってことは、そろそろ休んでも良いと?」
「ああ、別に構わん。これだけ話せるのなら、まあ大丈夫だろう。あとは目を瞑らせて寝息を立たせたなら、私の治療の9割型は完了だろうさ」
「そりゃあ困る」
「ああ?」
マズールの言う通りに休むつもりだったが、気になることが生まれたため、まだ話を続行することにした。それにしたって、長時間は無理だろうが。
「俺が遭難している間、船内はどうでした? 騒動になった? 艦長の様子とか分かりますか?」
「…………どうやら患者では無く馬鹿の方だったらしいな。さてどうしようか、医務室から追い出すわけにはいかんし、話し相手になれそうなネリネ君は、他で暑さにやられそうな船員の様子見に忙しい」
マズールの言葉で出て来たネリネとは、ネリネ・テインスという俺と同じ元ラクリム国出身者で、活発そうな外見をした十代の女だ。彼女目当てに医務室へ来る船員もいるらしいが、そういう人種も、マズールに言わせれば馬鹿なのだろう。
「安心して寝れないって患者がいるんなら、寝させる様に努力すんのが船医じゃないですかね? 船内部様子くらい、寝物語に語ってくれるのも、給金の範囲じゃありませんか?」
「ふんっ。どうということでも無い。艦長は早急に君を捜索すると言って、ほぼ独断で意見を押し切った時は反感を買っていたがね、すぐさま君を見つけたことで、そんなものは掻き消えた様だよ」
やはりか。それを聞いて安心した。どうやら大きな問題は起きなかったらしい。
船は現在、墜落したロンブライナの回収作業を行っているらしいが、俺の救出とその作業のために、危険な地帯へペリカヌを向かわせたと、艦長が責められているのが個人的に一番嫌な状況であった。
しかし、それだけは避けることが出来たらしい。であるならば、飛空開拓計画はまだまだ続行するだろう。
「じゃあこれで最後。俺が寝たら誰かに伝えてください。この土地の中心にある竜巻には気を付けろ。崩れたらヤバいぞって」
「ちょっと待て。その情報はかなり重要では無いかね? おい、そこははっきりと伝えるべきじゃないか。おい!」
マズールの怒鳴り声を子守唄に、俺はベッドへと完全に寝転んだ。意識を手放そうなどと努力しなくても、体をベッドに預ければ、そのまま気絶する様に俺は夢の中へと入って行った。
俺が目を覚ます頃、ペリカヌは既にあの奇妙な土地を離れた空を飛んでいた。危険地帯であり、その危険地帯にしてはそれなりの情報を収集できたという判断かららしい。
その判断……何故、俺が知ることができているのかについては、無事起き上がられる様になって、すぐ艦長に会議室へ呼び出されたからであった。
「さて、言い忘れていましたが、無事の帰還、お祝いさせていただきますわね」
会議室内で、幾らか二人きりで話してから、アニーサ艦長はこんな事を言う。
「あー………俺………なんていうか責められてるんですよね?」
頼まれた仕事を失敗した。過程がどうであれ、それは仕事で給金を貰う立場にとっては叱られたり責められたりして当たり前の事だと思っている。
今回の呼び出しにしてもそうなのだと思っていたのだが、艦長からその手の言葉は一切無く、状況説明と俺からの聞き出しだけが行なわれている。遂には痺れを切らして、俺から普通の状況では無いのかと聞いてしまった。
「責める……? 何故?」
「何故って、調査も満足にできず、小型飛空船一つ中破させちまったんですよ!?」
ロンブライナは俺が思っている以上に壊れていたらしい。いくらクッションとなる木々があったとは言え、無理な着陸はしっかり小型飛空船を苛んでいたのだ。
もしブラッホが来てくれなければ、あそこの気温をなんとか出来ていたところで、ロンブライナをもう一度飛ばすことなどできなかったかもしれない。
兎に角ふんだりけったりであり、良いとこなしの結果で終わったと言える。
「ポーズと言うのならそれで十分ですもの。船員が遭難するほどのリスクを負ったのでしたら、それが成果と表現できると言ますか」
「ちょっと待て、成果とかリスクを負ったとかどういうことだ!? また何か狙いがあるのか!? って言うかあったのか!?」
涼しい顔で話すアニーサ艦長。俺の遭難まで想定通りなどと言うのであれば、それはそれで今後の対応を考えなければなるまい。
「ですからその説明のために呼び出させていただいたのですわ。さすがに一番害を受けた人間が何も知らぬというのはやや抵抗を感じますし」
それなりにこちらの事を考えているということだろうか。実際そうだったとしても、まだまだ納得できないし許すつもりは無いが。
「説明ってのなら、しっかりとしてくださいよ。答え如何に寄れば、この船を降りることも考えなきゃあならんですからね」
「あら、それで本当に宜しいんですの?」
「は?」
「願い……それを叶えるためには、あなたはこの開拓計画に参加しなければならない。そうではなくて?」
「あんた………」
ラクリム国を滅ぼした巨大飛空船の正体を追う。こちらの目的がそれである様に、アニーサ艦長の目的も同様だと考えている。こっちがそう考えているのだから、向こうにしてもそうなのではないかと思えていたが、実際にそうだったらしい。
「ま、今は置いておきましょう? 計画に参加する限り、この件は幾らでも話すことができますもの。それよりも今回の経緯について。それを聞きたいのではなくて?」
「あ、ああ………」
完全に手玉に取られている。やはりこの艦長は苦手だ。こっちはそれほど頭が良い方ではないというのに、相手は常人の何倍もやり手なのだから。
同じく頭が良い弟が相手にすべき人間ではないか?
「そもそもが、ああいう土地が実際にあることを確認し、クリストの方々からもたらされた情報の確度を上げること自体が目的でしたけれど、ついでに行うのでしたら、益を上げようとわたくし考えましたの」
「益って……どういう類の?」
「計画は国の支援の元に行うものですけれど、国からのそれはあくまで基本的な、植民候補地を探すというものに対してだけ。それ以外の行動を伴えば、物資がかつかつになってしまうのが実際でして………」
アニーサ艦長にとっては、それでは困るということか。
「ちょっと待ってくれ………ください。俺はてっきり、国もラクリムを滅ぼしたあの船を……」
「それ以上は仰らないように。あくまで裏の話ですから。そう、国にとっても表向きな話ではございませんの。ですから、堂々とその件に関する支援は行えないというのが実情なのですわね」
今回の任務で得られる益。それは国が植民候補地を探すという行動以外の部分で支援を行うための理由作りであると説明される。
「理由作りって……めんどくさい話ですねぇ」
「そう。面倒くさいものなのですの。その面倒くささを取っ払う事が出来る可能性。それが今回の任務にあったのですわ」
内世界には無い土地。その土地に関する情報。それらは良い餌になるのだそうだ。
「そりゃあ冒険譚ってのは美味しそうには見えるだろうが、一般向けでしょう、そういうの。国のお偉いさん方がそんな話に騙されるかどうか」
「その偉い方々が顔を伺うものこそ、一般の方々ですから。この開拓計画で面白き土地の情報も得られるとなれば、それを支援するという名目が十分に立つ形に」
本当に面倒くさい。一々行動にそこまでの値札を付けなければ何もできぬのが世の中というのだろうか。俺にはさっぱりだった。
「あ、けど待てよ? それにしたって、しっかりとした情報は得られなかったんでしょう? 俺自身がこのザマだ」
「そうでもありませんわよ? あなたが既に話した情報や、あなたを捜索する際に知り得た土地の様相。それらから、様々な説が考えられるそうで、その仮説と表現するのかしら。それを面白おかしく喧伝すれば、それなりの冒険譚なるとのことですの」
ペリカヌには学者の様な人間も船員として乗っている。その学者に、この艦長は確認してみたのだろう。今回の件は良い話として盛れるかどうかと言うことを。
例えばである。あの土地で俺が見た竜巻は、熱い空気と冷たい空気がぶつかり合っている、正真正銘、あの土地の中心であるという仮説。
さらに定期的に大地へ吹き付ける空気が変わる場所で、それこそが昼と夜で交互に寒く、暑くなる現象の正体であり、俺は丁度、その間の時間に空を飛んでいたから、その空気の移り変わりに巻き込まれてロンブライナを落としてしまった。とか、大地の木々が不気味な姿で柔らかいものであったのは、朝昼夜と厳しく移り変わる気候へ瞬時に対応するため、固い植物は淘汰された結果である。その証拠に暑い夜は自らを冷やすことで対応するなどの行動を植物が起こしていた。とかである。
「面白そうな話を作れる材料は揃ったから、俺もお咎め無しってわけですか」
「それと、ちょっとした調査だけで揃えられる材料でしたから、あなたが危険な目に遭うという事はそもそも想定外と言い訳させていただきますわね」
「実際には遭ったうえ、それを利用する気満々って顔してますが」
「既にそうなってしまった以上は仕方ありませんの。利用できるものは利用する主義ですし」
危険な任務に赴き、貴重な情報を手に入れ、その情報が面白いものであったと一般人に喧伝する。さぞかし支援を貰える良い理由になるのだろうさ。
「まったく………大した人だよ。あんた」
「そうでもありませんわ。実際、あなたが遭難したと聞いた時は焦ってしまいましたし………まだ序の口だと言うのに」
「序の口?」
「あら? 覚悟が足りぬと見えますわね。わたくし達は、これから、もっと摩訶不思議な土地を周らなければならぬのですよ? 今回程度で、てんやわんやになっていては、今後の活動に支障を来す。そうは思いませんか?」
だから俺にも腕を磨け。暗にそんなことを伝えられた気がする。つまりは、結局お叱りを受けたわけであった。




