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フライトコロナイズ  作者: きーち
第2章
14/49

4話 良いことばかりでないことは良く知っている

「はい? なんですって?」

「何度も言うが、君に調査飛行をやって貰うことになった」

 嫌な予感。それは暑苦しさが増すばかりの昨夜からずっとしていたのだ。そうして朝が来て、丁度良い気温になってきたなと思ったところで、小型船整備室まで呼び出された。

 呼び出した主は班長のビーリーである。そして聞かされる内容は俺にとって非常に酷なものであったのだ。

「いや、その、船外の状況について、一応、俺は知ってるつもりなんですけど」

「既に船をこれ以上近づけることを危ぶむ声があるくらいだからな」

 夜は寝苦しいなんてレベルではないくらいに暑苦しくなっているし、昼になれば厚着を重ねなければ活動なんかできないくらいに寒い。

 それでもペリカヌ内はある種の閉鎖空間だからまだマシなのだ。外に出れば、さらにこの寒暖は激しくなる。そうして調査と言うからには、この変化の中心地へと向かうことになるのだ。

「で、そんな事を命令して、無事生還させてくれる保障とかってありますかね?」

「ロンブライナは小型船の中で一番早いじゃあないか」

「その調査ってのが絶対にしなきゃいけないことなのかって聞いてんですよ!!」

 ビーリーから伝えられた調査命令は、寒暖差が丁度良い気温になる朝方、もしくは夕刻に小型飛行船を飛ばし、出来得る限りこの寒暖差の発生源へ近づくことで、原因を探るというものであった。

 そも、ペリカヌの目的は植民地開拓のための調査であり、こんな危険地帯と調査では無かったはずだが。

「なんでも本国の偉い学者さんだかなんだかが、こういう土地が存在することの仮説? そういうのを説いていたらしくてね」

「で?」

「ほ、ほら、学問とは実験が本分という奴で、もし確かめられればこの計画内での最初の成果足り得るとかなんとか………」

「本分って言うなら植民地を見つけるのが一番だと思うんですけどねぇ………」

 と、ここで愚痴は止めて置く。結局、命令を出したのはビーリーでは無くアニーサ艦長なのだ。彼女が命令するからには、相応に理由があることなのだろうさ。

「私だってそう思う。思うが、デカい船が動くというのは、定期的に成果と言う燃料がいるということなのだろうな。私個人の現場判断で言えることと言えば、危ないと思ったら引き返せくらいなのが情けない話さ」

「そんじゃあ、ロンブライナの調整、一緒に見てくださいよ。それくらいしてくれたって罰は当たらないはずだ」

 整備は整備班がするが、それを操縦者が操縦しやすい形に調整するのは操縦者の仕事。少しでも飛空船の不調での事故を無くしたいので、できるだけ整備に関わる人員を増やして貰いたかった。

「正直なところ、なんで部下をこんな良く分からない土地で危ない目に遭わせるんだと胸糞悪くなる部分はあるよ」

 そういうのが冒険だと言ってしまえばそれまでだが、こうやって気を使って貰えるのはやや嬉しい。存外、俺もちょろい精神構造しているなと思ってしまった。




 結局、出発するのはその日の夕方少し前になった。未だに肌寒い気温であるが、これからどんどん熱くなる。我慢できる程度に寒いうちから出発した方が、俺自身にとって安全だろう。

「とりあえず各部の補強はしておいたよ。無理な機動はしないで、直線的に動いてくれれば、スピードも維持できるはず。けど稼働時間は確実に短くなるだろうからそのつもりで」

 極端な熱差は機体をいじめ、ガタを近づけさせる。そのためにどの様な対策をしたのかか。という説明を弟から聞きながら、俺は発進を待つ。というか、ロンブライナへの入出口に座りながら、出発しろと言われれば今すぐにでも出来る状況ではある。

「具体的には分かんねぇのかよ。その稼働限界って言うのは」

 どれだけ動いたら危険か。それが分かることが一番の安全である。その危険に足を踏み込まないでいれば、生きて帰れるということなのだから。

「飛ぶ場所が場所だからね。ちょっと予想は難しいかな」

 未知の場所故にデータが足りない。首を振るエイディスに対して、俺がそれ以上言えることは無い。いや、あるにはあるが、それは愚痴とか泣き言の類であるため、弟には言えないのである。

「安全運航を心掛けますよってところかねぇ」

「言っちゃあなんだけど、ある程度、そういう意味での手は抜いても良いと思うよ。報告に関しても、分かることだけ言えば良いんだしさ」

「だな。ま、やれるだけやって帰るさ………お、見送りか?」

 不真面目な話をしていると、こちらに近づいて来る人影が一つ。誰かと思えば、同じ小型飛空船班のレイリー・ウォーラだった。相も変わらず小さい背丈で、こちらに近寄るにしても、予想より時間が掛かる程度には歩幅も短い。

「良かった、まだいた」

「おーおー。まだ生きてるぜ。先輩を心配して頑張れの一言でも伝えに来てくれたかな? レイリー君は」

「馬鹿言ってんじゃあありませんよ。それより、本当に大丈夫なんですか? なんなら僕が変わってあげても良いですけど」

 なんだ、結局は心配で来てくれたのではないか。小憎らしい奴め。

「ロンブライナを俺と同じくらいに動かせるか? こういう時は、出来るだけ帰れる可能性の高い奴が出るもんなんだよ」

 憎まれ口には憎まれ口で返す。それでいて、別に仲が悪いわけでは無いはずだ。その程度の関係性を、この後輩とも言えるレイリーとは築けていると考えていた。

「それなら良いんですけどね………他の人から言われたかもしれませんが、こんな任務で死ぬとか墜落とか、そういう事態は馬鹿らしいんで、絶対に避けてください。第一迷惑だ」

 はてさて、遠回しにとても心配された手前、こっちはこっちで安心させてやらなくてはなるまい。

「帰還するかどうかの判断は俺に任されてるんだ。無茶はしないさ。心配するくらいなら、帰れた時、どうやって出迎えるかに頭悩ませとけよ」

「まったく! 本当にどうなっても知りませんからね!」

 どうにも怒らせてしまったらしく、そのまま顔を紅くしてこの場を去って言ってしまった。

「なんていうか、結構、兄さんも気に入ってるよね、彼」

「本当の弟が最近可愛げ無くなってきたからな。年下の後輩って奴が気になってくんのかもしんねぇなぁ」

「本当の弟としてはうかうかしてられない発言だね、それ」

 ケラケラと笑うエイディス。ここでちょっとでも嫉妬してくれないところが可愛げ無いと言うのである。

「でさ、兄さんに判断が任されているって言うけどさ、むしろそれ危なく無い?」

「やっぱりそう思うか?」

 可愛げが無いと言えば、こう察しの良いところもであろう。こちらの虚勢も一気に剥がされてしまう。家族で無ければ恐ろしい相手と認識していたはずだ。

「自己判断なんて、現場じゃ一番キツイことだしね」

「まったくだ。せいぜい無事帰れることを祈って置いてくれよ」

 俺自身、功名心に惑わされ、判断を間違えることが無いと言い切れない部分があった。判断を間違えない様にすること。それをどれだけ戒めたところで、俺自身が俺に向けたものであるため、何時零れ落とすか知れたものではない。

 正に運を天任せ。祈ることが最大限に出来ることだった。

「話が弾むところ悪いが、そろそろ出発の時間だ。良いかね? アーランくん」

 整備班の班長、マーギナ・フォルランスがその小太りな体をひょこひょこと動かし、エイディスとの会話に入ってくる。

 できればずっと話を続けていたい気分だったが、こう言われては仕方あるまい。これ以降は仕事の時間。嫌であろうとも真面目にせねば命に関わる。

「了解です。ハッチ解放後、すぐに出ますから、ロンブライナから離れていてください」

 それだけ伝えて、俺はロンブライナへと搭乗した。船に入ればうつ伏せに。そうして前を見る。ロンブライナの透過壁から見える景色は、先ほど見ていた整備室のままであるが、暫くするとハッチが開き、外の景色が見え始めた。

 ロンブライナ越しでも、明確に気温が低くなったのが分かる。ただ、やはり耐えられぬという程では無い。そしてこれからの気温はどんどん上がって行くため、寒さを心配する必要は無くなってくる。

(問題は熱さだろうな)

 夜の闇がやってくればくるほどに気温は熱くなってくる。人間は熱に弱い生き物であるため、なんとか周囲の気温を把握しておかなければ。

「さっさと行ってさっさと帰る。それを心掛けるさ」

 ハッチが完全に解放されると、俺はロンブライナを飛ばした。夕暮れに赤く染まり始めた未開の土地で、この土地の不可思議を探るのだ。




 ロンブライナを暫く飛ばす。向かう先は熱変化の中心地であるが、明確にどこがそうと判明しているわけでも無いため、大凡、その方向だろうと思われる地点へただロンブライナを飛行させていた。

(何か変わった景色でもって思ってたが、どこもそんな感じになってきたな………)

 透過壁から大地の方向を見れば、妙な草木が大地を覆っている光景。非常に分厚い葉を生い茂らせた木々であったり、背の高い草。色が緑では無く青になっているのもある。まるで異界にでも迷い込んだような感覚に襲われた。

(気候が特殊だから、そこで自生する植物も特殊ってことか?)

 植物学者でも何でも無いため、あの植物の形容がどの様な意味を持つのかは判断できぬ。ただ言えることは、動物の姿が見えない事にホッとしているということ。

(動物まで異様な姿だったらちょっとしたホラーだもんな)

 異界の様に見える景色が魔界のそれになりそうだ。体が震えそうになるのは寒さのせいではあるまい。というか、既に寒くは無い。丁度良い気温と言えるだろうか。

(タイムリミットが近くなってきたってことか?)

 規定時間の半分を過ぎた。ということかもしれない。とりあえずこのまま何も変化が無ければ余裕を持っての帰還ということになりそうだが………。

(なんだ……? ありゃあ………)

 見る景色を大地から空へと向ける。丁度、ロンブライナにとって平行方向に見える景色に、何かが見えた。

 それは縦の線であった。茶色……土色か。そういう色の線が視線の先に見えた。

(あれは………竜巻か?)

 長い。とても長い竜巻の様にそれは見えた。ただし普通の竜巻とは違い、くびれがあった。空と大地に向かって太くなり、その間は細くなっている。ただし細い部分もそれなりの幅があるはずだ。それくらいに大きな竜巻だったのだ。今、ロンブライナがいる場所からかなり離れているはずだが、それでも視界に収めることができるのだ。

「近寄るか? いや………それとも……」

 どうするべきか迷う。さらに近寄り観察したいという好奇心と、この件をまずペリカヌへ報告して、判断を待つべきだ。という慎重さを大事にしたいという思考。

 自分自身に問い掛けて、どちらかと言えば後者を選ぶべきだという考えが強くなる。

 そうだ。こんなところで無茶をしたって仕方ない。調査と言うのなら、一旦帰って、再度別の機会で。ということもできるのだから。

 少々、場の異質さに当てられて、暴走しそうになった。これは行けないと額に流れた汗を拭う―――

「ちょっと待て!? 汗だって!?」

 汗を拭った手を咄嗟に見つめる。俺は汗を掻いていた。緊張や焦りによるものじゃあない。熱さによるものだ。ちょっと待て、まだ完全な夜までは時間があるはずじゃあないか。

「気温が上がっている!? なんで……!!!!」

 視界の先、遠くに見えていた竜巻の線が崩れた。暫く後、ロンブライナが大きく揺れる。その揺れは収まることが無く、さらに激しくなっていく。

「ちょっ………っざけんなよ!!」

 船のバランスを維持できない。左右どころか前後上下に揺れ始めたロンブライナは、水平などという平和的な姿勢ではいられなくなる。

 それがどういう意味を持つかと言えば、フライト鉱石による推進力が船を飛ばす事に専念できず、空を飛行することが困難になるということ。

「冗談じゃねぇぞ! こんな場所で墜落なんてしてられるかよ!」

 乱れ飛ぼうとするロンブライナをなんとか操作する。限界以上の集中力でブレる視界から的確に情報を取り入れ、最適解でロンブライナを動かしていった。

 確かに厄介な状況であるが、このまま上手くやれば切り抜けられるかもしれない………俺自身が万全であれば、であるが。

「しまっ……!」

 手が滑った。ほんの少しだけ。手汗のせいだ。激しい風の乱流は、その勢いだけでなく、何故か熱さや寒さを運んできていたのだ。交互、いや、そんな秩序だったものですらない。乱れる風は乱れる温度を運び、俺の精神と肉体を苛んでいた。

 ただでさえバランス性の悪いロンブライナである。ほんの少しの乱れは大きなミスを生む。致命的な角度に傾いたロンブライナは、そのまま大地へと近づいていく。

「な、め、ん、な、よ!!!」

 強く操縦桿を握る。力を込めたことで何かが変わるわけではないが、力みは乱れた心に明確な強さを与えられるのだ。

 再度、引き絞った集中力でロンブライナを立て直す。未だ大地が近くなってはいるものの、その勢いは確実に減じていた。

(重要なのは勢いだ)

 それを失えば重力に従って下へと加速していく。勢いがあればあったで船のバランスは崩れるし、その勢いのまま地面へぶつかれば単なる落下よりも酷い事態となるだろう。

 その均衡を取るのは、頭痛を覚えるくらいの思考とそれを反映する俺の腕。

 自分の腕だけが頼りと言葉にすれば恰好良いかもしれないが、実際にそんな状況になれば焦りしか心の中に無くなってしまう。

「このっ……!」

 近づく地面。そこに生える植物達の不気味さが、死を想起させるために苛つく。深く考えるな。考えてまた操縦をしくじればそれこそ一巻の終わりである。

 操縦桿をほんの少し動かす。必要なのはその行動だけであった。思考すらもいらない。危険かそうでないか。その本能だけですべての情報を取捨選択する。

「………」

 言葉も無くなる。ただじっと目と操縦桿を握る手だけを動かし続ける。自分の体とロンブライナが一つになる様な錯覚。俺の手は翼で、俺の足は推進器だ。

 今、俺は姿勢を崩しているが、それを持ちなおそうとしている。空という場所に溺れ、動きを泳ぎに変えようとしている。

 こんな錯覚は地面スレスレに至った段階で晴れることになった。これで終了だ。俺ができることはすべてした。

 斜め下へ緩やかに落ちて行くロンブライナ。一度姿勢を崩した時点で、空への復帰は不可能だと判断している。だから大地への不時着を狙っていた。

 そのための万事は尽くした。後に待つのは不足の事態が起きないことを願うこと。大地とロンブライナがぶつかった時点で、多大な被害が出ないことを祈ると言う行為のみ。

 すぐに衝撃はやってきた。大地の異様な木々とぶつかり、想定より頑丈であったらしいロンブライナがそれを圧し折っていく。

(この木………思ったより柔いぞ……!!)

 幸運だ。これは幸運だった。木々は柔らかく、すぐに曲がり、ロンブライナを減速させてくれた。

 大地へぶつかる衝撃は最小限のものとなり、木々が無くなる大地が露出した部分へと出る頃には、横滑りする程度でロンブライナを着陸させることに成功していた。

「はぁ………はぁ………お、俺………生きてるか?」

 船に合わせて加速していた精神は、船の着陸と同時に通常のそれへと戻っていた。強く握る操縦桿から手を離そうとするも、固く硬直していたらしく、暫く掛かった。

 次に透過壁越しに周囲を見る。丁度、木々が連なる林を抜けて、開けた土地へと落ちたらしい。

 ロンブライナはどうだろうか。外から見てみないことには分からないが、致命的な損傷は無い様に思える。しかし一方で、どこかに故障が生じているのか、再度の浮上を試みても、動いてくれない。

「やばいな………」

 とりあえずロンブライナの入出口から体を這い出させ、周囲の景色を眺めてから呟いた。

「生き残れるか……俺は……」

 未知なる土地に着陸した。飛行を維持できぬなら次善の策は不時着することであったが、不時着したこの土地は俺の命にとって優しく無い場所かもしれない。

 頬を伝う汗は、この土地の蒸し暑さのせいだけでは無いのかもしれなかった。




 ペリカヌ内において、一つの混乱が発生している。その混乱はこういう開拓計画をすすめる上で発生する可能性が高いものであろう。

 つまりは艦長である自分。アニーサ・メレウ・ラクリムの手腕に掛かっていると言って良い。

「首尾よく収めたところで、何がしか得があるというわけではございませんけれど………」

 自分の仕事場であるペリカヌの上部艦首。その中心後方で周囲よりやや高い位置にある艦長席に座りながら、ポツリと言葉を漏らしてしまう。

「でも、何もしないなんてことは駄目ですよ。艦長」

 上部艦首にて観測士をしてくれているシィラ・メリベイが、自分の言葉に反応した。シィラは愛嬌のある顔をした女性で、ウェーブの掛かったショートの青髪がその雰囲気を助長していた。相手に気後れを生ませる自分の容貌とは正反対だ。

 この仕事場において、距離の近い同性というのはそれだけで仲が良くなる。自分の愚痴みたいな言葉に対して、すぐに反応できたのも、彼女が自分の事を多少なりとも気安いと思ってくれているからかもしれない。

「そうですわね。船員が遭難した。それもわたくしの命令に関わる仕事で。得か損かなどという話自体が失言でしたわ。すみません」

 そう言って手で口を塞ぐ真似をする。シィラが言い返してくれることはある程度想定済みだ。こうやって船内の雰囲気が遭難した小型飛空船操縦士、アーラン・ロッドへの同情心が高まれば、救出作業という仕事に移行し易くなる。

(今は一刻を争う事態ですもの。いちいち救出する見捨てるなどと口論している暇なんてありませんし、行動が早ければ早いほど、助かる可能性は高いはず)

 混乱。アーラン・ロッドが未開の土地での調査中に、ペリカヌへ帰還しなかった。短時間での調査であったはずであり、どことも知れぬ土地でまさか脱走したということも無いだろうから、何がしか不測の事態があったのだろうと結論付けられている。

 ペリカヌ内では、船員達が初めての遭難者に対して、様々な意見が飛び交っており、それが混乱となっているのだ。

「………心配ですよね。アーランさん。あの人、面倒見の良い人でしたから、いろんな人とも仲が良くて………私みたいに心配してる人、少なく無いと思います」

 シィラが率直な意見を述べる。船内で一番多い意見がこれだ。アーラン・ロッドは、基本的に人が悪いタイプでは無い。周囲と良く話をするし、人見知りもしないのだから、好印象を持っている人間が多いのだ。

 それに小型飛空船操縦士というのは、自分の体と船一つで空を飛びまわるという印象から、一種の憧れとして見られる場合もあり、彼の無事を純粋に祈る船員が多いのは納得だ。

「明日は我が身と怯える船員もいると聞きますわ。助け出せれば、そういう恐怖も拭えるでしょうし、各船員に救出活動を行う旨、伝えておきますわね」

 二番目に多い意見を口にする。開拓計画は危険と隣り合わせだ。そんなこと、誰もが理解していると思っていたのだが、その事を、船員の遭難という事態で漸く実感した人間が、存外に多かった。

 怯えは意欲を奪う。そうなれば計画そのものにも支障が出るので、なんとかそれを拭いたいというのは切実な話であった。

「絶対その方が良いですよ。その………耳に挟んだんですけど、艦長が悪いんだって言う人も…………」

「ええ、わたくしの指示に対して被害が出たのですから、そういう意見は無い方がおかしいですわ。むしろ伝えていただいて感謝しますわよ、シィラさん」

 この三番目の意見がもっとも危険だ。自分のミスを見て、足を掬おうとしてくる人間がいるというのは、艦長と言う職に就く上でもっとも憂慮すべき事態だろう。

 まあ、この意見が三番目であるというのであれば、まだ自分は艦長として認められているのだと思っておきたい。

「さて、一にも二にも行動ですわ。さっそく各班の班長を呼び出して、救出作戦を実行しないとですわね」

 最後に自分の意見であるが、勿論ながらアーラン・ロッドの救出に注力したいと思っている。

 何せ彼が助かってくれることが、自分にとって一番損の少ない事なのだから。



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