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フライトコロナイズ  作者: きーち
第2章
12/49

2話 単なる偶然を切っ掛けと呼ぶ

 ロンブライナが皆を着陸させたのは、未知の遊牧民達のテントがあるであろう場所から、警戒されない様に、少し距離を離した場所だ。

 当然、そこからテントが存在する場所まで、歩いてならば暫く時間が掛かる。

 船酔いから多少回復して後、俺達は歩いて目的地へと向かうことになったのだが、辿り着く間。暇なので世間話をしていた。

「皆様。もし彼らと出会った場合、動じず。かと言って威嚇せず。と言った態度を貫いてください」

「具体的にはどうあれば良いんだ?」

 主な話の内容は、遊牧民に会った時、どう対応すれば良いのかをミナ導師に尋ねることだった。

 正直なところ、みんな不安なのだ。これから会う相手が凶暴だったり感性が違ったらどうしようとか考えている。

 俺にしてもそうで、遊牧民達から情報を引き出そうなどと考えているものの、それよりもまず、相手が意思疎通できるかどうかが不安で仕方なかった。

「丁度今、こうやって話しているような態度であれば良いのです。不穏の反対は平穏。つまり平時の態度こそ、険悪さから離れるための姿ということ」

「ふむふむ! なるほどなるほど! 実に分かりやすい態度ですな! それなら任せていただきたい! 何せ私は何時でもどこでも、この態度を変えぬ構え!」

「ブラッホ殿は多少、自らの言動を慎んでください。できれば体も丸め、縮めるかの様な態度でお願いします」

「何故っ!?」

 さっそくブラッホが駄目だしされてしまう。そうして、ミナ導師は他の人間の姿についても、幾らか注意する気になったらしい。

「次に態度を幾らか改めていただきたいのはビーズ殿」

「お、俺か?」

 ビクリと肩を震わせる様な仕草で、作業員のビーズがミナ導師を見やる。

「黒ずくめの姿なのは致し方無しですが、その目つきはどうにかなりませんか?」

「に、肉体的外見は、もっとどうしようも無いと思うのだが………」

 確かにどうしようも無いが、ビーズの外見は怖いし、気配を消して唐突に現れる。というようなことを時たまするため、幾らか意識して改めた方が良いとは思う。

「バーリン殿とサウラさんは問題ありません。特にバーリン殿は素晴らしい」

「マジかよ! いやあ、才能ってのがあるかもな」

 嬉しそうな表情を浮かべるバーリン。ここ最近はこれと言って偉ぶることができていないため、ここで認められたのが嬉しいのかもしれない。

「ええ。実にすばらしいものです。特に、その、どこにでもいるような外見や態度。どこに住む人間も、そう変わらないのだなぁ。と相手に親近感を抱かせることができるでしょう」

「え、え? それって、良いことなのか? え?」

 上機嫌タイムは短い時間で過ぎ去ってしまった様だ。調子に乗っている姿は比較的ウザいため、それはそれで構わない。

「あーってことは、あたしもどこにでもいそうって感じなのねー。じゃあさ、アーランくんはどうなの?」

「は? 俺か?」

 サウラから、最後のメンバーである俺に話題が飛んで来た。辛口を向けられたら落ち込む自信ならあるぞ?

「アーラン殿は………そうですね。何やら意欲がありそうですから、その勢いを忘れない様に」

「意欲ねぇ………」

 なんだか弟と同じことを言われてしまった。しかし意欲がありそうであると、傍から見て分かるとは、少々、自分の言動を注意する必要がありそうだ。

 そんな事を考えながら歩いていると、視界の向こうにテントらしきものがチラつき始める。もう少し歩けば目的地に辿り着くだろう。

 そういった頃合いに、向こうからも近づく人間がいた。老人一歩手前の壮年男性だ。黒髪より白髪が多いのが分かる程度に気苦労していそうな。そんな男である。

 近づき、見えてきた服装は、一見厚着であるが薄手にも見える。服の色は黄ばんでいるというか、白をあえてその色に染めているような、独特なもの。民族的と言う奴だろうか。

 男はさらに俺達に近づくと、手の平をこちらに向ける。

「―――!!」

 そうして何かを叫んだ。言葉の様だが、その意味がまったくわからない。言語が違うのである。ラージリヴァ国やその周辺国家は共通の公用語と言うものが存在するのだが、その公用語ではない。ましてや俺が知っているラクリム国語のはずも無い。

 手の平を見せているところを見るに、立ち止まれ。という意味なのだろうか? 何にせよ、争うつもりなど無いわけだから、目の前の男と話すためにはここで止まる。

 そうして自然と、俺達の目線はミナ導師へと向かう。今、この状況において、何をするにも彼女の意思が必要だった。

 その肝心なミナ導師は、顎に一度手を置き、短い言葉を口にした。

「―――」

 本当に短いその言葉であったが、俺にはその意味が分からない。ただ、どこか、先ほど近づいてきた男が口にした言葉と似ている。どこがと言われても困るのだが、舌の回り方と表現すれば良いのだろうか。

「―――?」

「―――――」

 男とミナ導師が話を続ける。そう、話を続けていた。つまり言葉が通じているのである。

「な、なぁ……ミナさん。あんた、言葉が………」

「お静かに。今、こちらの立場を明かしているところです。説明はその後にします」

 疑問を抱いたままであるのだが、そのままにしていろと言われてしまう。確かに彼女にとってみれば、この第一接触が一番大事なのだろう。それは分かるのであるが、何か訳も分からぬことを傍で話されていると思うと、どこかじれったく感じてしまうのは、仕方のないことだと思う。

「おい、どう見るよ」

 耳元で、会話の邪魔にならぬ程度の小声でバーリンが話し掛けて来た。しかし、そんな事を尋ねられても困るのだ。

「どう見るって………上手くいってるんじゃないのか?」

 話が出来るだけで上等なのではないだろうか。ただ、その会話だけで険悪になってしまうのが人というものだ。これから一歩間違えて、大変な事になってしまう可能性はまだまだある。

 自分の手の届かない問題に対して、ハラハラしなければならない時間が続くのであった。

「――――」

 と、暫く男とミナ導師の会話を見学していると、男は頷き、背中を見せてから、テントの方へと歩き始めた。

「みなさん。彼の後に着いて行ってください。テントにいる方々にも、我々の事を紹介してくれるそうです」

「おや? ということは、もしや成功したのかね?」

 言われた通り、男の後ろに歩いているブラッホが、ミナ導師に尋ねる。ブラッホで無くても、そろそろ説明が欲しいと思う頃合いだった。

「一応、ここまでは。と言ったところでしょうか。言葉が通じた事が大変良かったかと」

 テントに辿り着くまであと少し。その間に、ミナ導師から色々、どういう状況に変わったのかを聞き出し、俺達の共通認識にしなければならない。そう言う思いが全員にある。

「言葉が通じたってことはさ。もしかして実は未知の相手ってわけでも無かった?」

 サウラが気になることを尋ねた。確かにそれは俺も聞きたかったのだ。まったくの初めてなのだとしたら、言葉など通じないはずなのだ。だと言うのに話せたと言うことは、実は既知の世界から来た人間達なのやも。

「半分は知っており、もう半分は知らない相手………ということになりますね」

「ちょっと良く分かんねぇな」

 曖昧に言われても困る。テントへ辿り着く前に、ここは率直に話をすべきではないのか。

「基地としているヒドランデの南方に、パーニッサという国があります。その国の言葉と、今、前を歩いていらっしゃる方の言語が、通じるものがあったのですよ。ですから、試しにパーニッサ語で挨拶をしてみると、そのまま話が通じました」

「ってことは、もしかしてテントの住人はパーニッサ国人か? 実はここらへんに先んじて植民していたとかそういう………」

「いえ、それはどうでしょうか?」

 どうにもミナ導師は違う印象を受けたらしい。言葉が同じだと言うのに、何故そう感じたのか。

「何か、引っ掛かるものがあるのかね?」

 腕を組んで尋ねるはブラッホだった。珍しいことに真面目な顔を浮かべている。

「所々に通じない言葉があったり、どちらかと言えばパーニッサ国の古い……所謂古語というものの方が通じやすかったのです。恐らくは………」

「お、恐らくは………なんだ?」

 ミナ導師が思わせぶりな事を言うせいで、普段から積極的に会話をしないビーズまでもが質問を始め出した。

「いえ……まだ彼らの来歴をすべて聞いたわけではありませんから。決めつけとなり、先入観を持ってはいけません。とりあえず話は通じる。そうして、会って話をするという程度の関係性になったとだけ理解しておいてください」

 そう長い時間、会話を続けていたわけでは無かったため、詳しくはミナ導師も判断できぬらしい。彼女がそうであるならば、俺達も質問を止めてしまうしかない。次に何がしかの回答を得られるとすれば、テントへと辿り着いてからだろう。




 テントに住む……というか、定期的に遊牧している彼らは、自分達をクリストであると名乗った。

 彼らの言葉で旅を続ける者。という意味らしく、彼らの何代も前から。と言うより、彼らの歴史のその前半部分の多くにおいて、既に彼らは旅人だったらしい。

「以前まではこの地よりさらに北。なんでも広大かつ肥沃な平原のある地域を旅していたそうです」

「へえ。旅………その翻訳ってのは正しいのか? 遊牧じゃなく?」

 クリスト達のテント。そこへ案内された俺達は、彼らの長を紹介された。最初に出会った男よりさらに年老いた翁であり、この集団の最年長であることが知れた。

 そんな彼と語りあったのはミナ導師だった。彼女か一度話し合ったおかげで、小さいテントの一つで、とりあえず味方同士、話をする許可を得たのである。

「先ほども申した通り、彼らの話す言葉はパーニッサ語と共通する部分がありましたから、まず間違いないかと」

「それが些か疑問であるな! 彼らは離れた土地からやってきたのだろう? パーニッサ語を話せると言うのはどういうことなのかね?」

 今現在は、ミナ導師が聞き出したクリスト達の来歴について、俺達の間で共有する作業を進めていた。

 ミナ導師はここまでの行程や、繰り返される質問責めのせいで、疲労が顔に浮かび始めているが、そこは仕事人。しっかりと話しは続けてくれている。

「パーニッサ語では無く、正確にはパーニッサ古語。パーニッサ国とクリストの方々は起源を同じくしているとのことで………」

 ミナ導師の語るところに寄れば、彼らは遥か昔、ある土地で国を営む種族だったが、その国が滅びた。その原因について、少なくともクリスト達は神の怒りを買ったと考えているそうだが、結果、彼らは神に与えられた罰として、世界を隅々まで歩き回るという苦難が課せられたと言う。

 だからこその旅なのである。遊牧はそういう生活形態を指す言葉だが、旅とは移動そのものに意味がある。

 彼らの移動はまさしく旅なのだそうだ。

「そ、そもそも遊牧は、一定の場所を移動するものだ。旅を続ける彼らは、また別種の苦難を抱えているのであろうことは想像に難く無い、な」

 珍しく饒舌になるビーズ。もしかしたら彼の琴線の何かに触れる話題だったのかもしれない。

「で、大方、旅を続けるのが辛くなってどっかの土地に定住した奴らの子孫がパーニッサ国ってことかよ?」

「バーリン殿の仰る通り、起源を同じくするとはそういうことです」

 実際に会ったクリスト達の人数は全員で13人ほど。旅集団を維持する数としては決して多く無い。かつてはもっと人がいたそうであるが、旅を続けるうちに、土地への定住者が増えて、結果、今の人数になってしまったとのこと。

「なあ、一つ良いか?」

 これまでの話の中で、ちょっと気になったことがあったので、手を上げて質問してみる。

「なんでしょう?」

「彼らの来歴を聞いて思ったんだが………これってチャンスじゃないか?」

 この出会い。俺達にとって吉と出るのではと考える。

「チャンスって、どゆこと?」

 ミナ導師から聞かれると思ったのだが、聞いて来たのはサウラだった。

「ほら、俺達の目的は未開の土地を探ることだろ? そうして今回、未知の旅人達と出会ったわけだ。しかも彼らは、俺達の知らない土地を旅してきたってことらしい。ってことは、わかるだろ?」

「あーそっか。一気に知らないあちこちの土地について知ることができるんじゃん。腕が鳴るわー!」

 裾を捲るジェスチャーをしながらサウラが話す。そうなのだ。人との出会いでもっとも価値があるのは知らぬ知識を得るということだろう。今回は有益な情報が手に入る可能性が大きい。そのことは非常に幸運だと思う。

「しかし、そうなってくると我々だけで判断できぬということになりそうではないかね?」

 一応、この場における一番の目上であろうブラッホがそう言葉にすれば、次の取るべき行動は決まってしまう。

「もう一度、クリストの長と話をして、こちらの代表者を呼ぶ旨を伝えてくるべきですね。通訳は私がしますので、今後の話については艦長も交えて話を続けるべきです」

 当初の目的であった穏便な第一接触は、予想外に上手く行った形になるのだから、後は艦長の交渉次第。そういう結論に至ったのである。




(結局、未知の相手と接触したって言っても、俺だけじゃあ何もできねえんだよな)

 ペリカヌから艦長を連れて来て暫く。現在、艦長とクリストの長は小さいテントの一つの中で、二人して何やらを話し合っている。通訳にミナ導師を挟んでのことであるので、正確には三人だが、何にせよ、俺などは蚊帳の外に置かれてしまっていた。

 そうして俺が何をしているかと言えば、彼らが話し合うテントの外で、見張りの真似事をしているのである。

 ただ、クリスト達は言葉こそ通じぬものの、それほど俺達を警戒しているわけでも無さそうだし、急に襲い掛かってくる可能性は低い。つまり見張りと言えども飾りだ。

 ただテントの側でぼーっと立っていることしかできない。他の連中も、その殆どがやる事が無いのでテントの周辺を哨戒と称してうろついている始末。

 唯一残っているのは、俺を除けばブラッホくらいであった。この男、意外と命令には忠実なのだ。

「やれやれ。接触実行組に選ばれた時はわくわくできるやもと思ったものだが、これでは船に残っていた方がマシと言うものだったかな?」

 だが、そんなブラッホも、暇であることは耐えきれていないようで、苦笑いめいたものを表情として浮かべていた。

「暇ですよね………言葉が通じないってのは不便極まりないって思いますよ。ここに暮らしている人と話したりできるのなら、それはそれで面白いかもしれないってのに」

 ブラッホの言葉に同意してから、一応は見張り役なので周囲を見渡す。すると俺達に興味を持ったのか、クリスト達の中から10歳くらいの男の子と女の子が近寄ってきた。

 表情は好奇心半分、恐る恐る半分と言ったところだろうか。

「ん? 何だ? 悪いが、テントの中じゃあ今、大人たちが小難しい話をしているから、子どもは………って、言葉通じないのか」

 頭を掻きつつ、どうしたものかと子ども達を見つめる。敵意などは無い様子なので、放っておいても良さそうであるが。

「ふむ? 何やら伝えたそうにしているな?」

 ブラッホも子ども達の言動が気になるのか、こちらに近寄ってきた。大丈夫か? 相手は子どもだぞ? その巨体で怯えたりしないか?

「―――! ―――――!! ――!」

 いや、怯えるというより興奮している。まったく意味の分からぬ言葉を口にしながら、俺に向かってジェスチャーを繰り返していた。

「あー、悪いな。言葉が分かんねぇんだわ。って、こっちの言葉も分からないのか。参ったな」

 頭を掻いて困った表情を浮かべてみる。これで相手にこちらの感情が伝わるだろうか? こちらの表情を察したのか、男の子は言葉を話すのを止めて、さらに身振り手振りを増やしていく。

 それをじっくり観察していると、何かこう、手で独特な形を表現している様に見えた。これは何だろうか? 動物……鳥……いや………。

「あ、もしかして、飛空船か? 俺が乗って来た」

 空に人差し指を向けて確認してみる。こちらの意思が通じたのか、男の子はコクコクと頷いた。ちなみに女の子の方はブラッホと遊んでいる。彼女はあの巨体に興味があった様だ。

「空に飛空船が飛ぶところ見たのか? それとも、艦長を乗せてくるところを見たのか………ああ、動かしてたのは俺だ俺。なんだ、飛空船はあんまり見たこと無いのか?」

 とりあえず空を指差してから、その指を自分の顔に向けてみる。すると男の子の目の輝きが増した様に思う。

 この目。なんとは無しに、昔の自分を思い出してしまう。空を飛ぶという事自体に憧れた、ラクリムに住んでいた頃の俺だ。

 彼もまた、辛い旅暮らしの中で見た、飛空船というものに憧れているのだろうか。

「まあ、こういう暮らしの中じゃあ、飛空船に乗る機会なんて無いか。なあ、もし本当に空を飛びたいって思うのなら、いろんなことを学べよ。自分で作るとか、誰かから貰うとか、このテントでの旅生活から飛び出すとか、選択肢は色々あるんだ。それを選べるかどうかは、どれだけの事を学んで来たかに掛かってるんだからな」

 こんな言葉など通じまい。通じないからこそ、こういう言葉を向けることができるのかもしれない。

 ただ、不思議そうな表情を浮かべる男の子の頭をそっと撫でてから、不器用な笑みを浮かべる事で、少しでもこちらの意思を伝える様に心掛けた。

「中々にロマンチストなのだな、アーランくんは!」

「ブラッホさんはどうなんです?」

 女の子を肩車し始めたブラッホを見て、逆に尋ねてみる。きゃいきゃいと騒ぐ女の子を見て笑うブラッホの姿は、奇妙に似合っていた。

「私かね? 私は何時だって浪漫を探しているよ! 人とはそうであるべきだ!」

 ブラッホがそう言って笑い、肩を揺らすと、女の子がさらに喜んだ。なんとも胆の据わった子どもである。

「浪漫探究者ねぇ。健全っちゃあ健全か………うん? どうした?」

 ジェスチャーを再度始める男の子。次はいったいどんなものを表現するつもりなのだろうか。

「なんだ? それは飛空船の形だろ? 次は………大きい? 大きい飛空船が………おい、ちょっと待て」

 飛空船の形の手を作った後、大きさの表現であろう、手を一杯に広げる。という動作を繰り返す男の子。

 大きな飛空船。ジェスチャーでそんな事をこちらへと伝えているのだと思う。問題はその大きな飛空船についてだ。

(ペリカヌのことか? いや………)

 男の子は次に、方角を俺達がやってきた方向と反対の場所に指を向け、その後、俺を指差した。どうやら疑問を持っているらしく、指差しをした後は、首を傾げる動きをしている。

「なあ、もしかして、あっちの方向に大きな船が飛んで行ったって、そう伝えてるのか? 俺がそれを知ってるかって? おい、どれだけデカいんだ? それは何時、何処で見たんだ?」

「待ちたまえよ、アーランくん。どうしたんだ、急に怖い顔になって、それも言葉が通じぬ相手に質問攻めとは。怯えているじゃあないか!」

 はっとして、男の子の肩を掴みかけていた自分に気が付く。男の子の表情は、ブラッホの言う通りやや怯えていた。俺の表情が豹変したのだ、そうもなる。

「い、いや……悪い………悪かった。けど、なあ、何か知ってるのか? いったい何を伝えようとしているんだ、お前は」

 男の子に尋ねるものの、相手はただ首を傾げるだけだ。言葉が通じないということが、こうまでもどかしいとは。

「アーランくん。それはとても大切なことなのかね?」

 女の子を肩から降ろしつつ、今度はブラッホが尋ねて来た。珍しく真面目な顔をしている。

「ええ、多分……俺にとっては………もしかしたら今回の開拓計画にも。あの、中にいる艦長達と」

「話を通して見るというのも手であるな!」

 こちらが言おうとしていたことを先んじて口にされてしまう。

「冒険における浪漫とは、偶然の様な出会いが、一風変わった結果をもたらすという部分にこそあると、私は考えているのだよ! であるならば、この出会い、ちょっと大事にしてみるのも手かもしれん!」

 それだけ俺に言葉を向けると、ブラッホはそのまま、艦長達が話しをしているテントの中へ、無遠慮に足を踏み入れたのだった。



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