表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フライトコロナイズ  作者: きーち
第2章
11/49

1話 きっとそれは最初のとっかかり

 飛空開拓計画の始めとはどの事を指すのか。人を募集し始めた時か集まってからか。国が計画を行うという方針を固めた時からか。

 いろいろと意見はあるだろうが、仕事と言う意味での始まりは、公的な地図を作り始めることからである。

「大凡、事前情報通りの土地や気候が存在しているな! この方面を探索する冒険家などは比較的少ないが、少ないながらも誇りを持っていると見える!」

 ペリカヌの下部艦首から見える景色。そこを見つめながら、白兵員と作業員を兼ねる班の班長をしている、ブラッホ・ライラホが呟く。というか叫ぶ。喜ばしそうに笑う彼であるが、その度に肩が大きく揺れるため、なんだか威嚇している様にも見えた。

「冒険家が少ないってのはどうしてですか? 一応、主要航路の端は基地にしているヒドランデへ繋がってるんでしょう?」

 俺ことアーラン・ロッドは、ブラッホの隣に立って、下部艦首の透過壁を見つめる。艦首と言っても、居るのはブラッホと、その部下の班員を除けば俺くらいなものだ。ペリカヌの操舵や周辺観測。そして艦長などは上部艦首にいるのである。

 上部艦首と下部艦首は名前の通り、ペリカヌ前方の上下に存在しており、上部艦首は船の指示系統を集めた部分であると言える。

 では下部艦橋はどういう場所かと言えば、土地を上空から調査するための場所だと言えた。透過壁が床の大部分を占めており、床を覗けば船の下方を見ることができた。床が抜けている様にも見えるため、慣れない人間にとっては少し怖い場所だとも言える。

 ブラッホ達がここで何をしているかについては、ある意味でこの開拓計画の主要業務、未開拓地の地図作りであった。

「冒険者が少ないのは、面白みが無いと言う話らしいな! 見ての通りの山岳地帯が続いているだろう? 山稜の形からして、この風景は暫く飛んでも変わらんはずだよ! 徒歩では辛い道のりであるし、それに対する見返りも少ないと思われる。ただね、私は思うのだ! こういう辛く殺風景な土地にこそ、真の冒険というものが埋まっているのであると!」

「はんちょー。話は良いから、観測続けてねー」

 やる気の無さそうな女の声が響く。声の主はブラッホの部下の一人であるサウラ・カーラという女だ。

 肩くらいまでありそうな青髪を後ろでまとめて、服装も軽装で、見た目活発そうであるが、それでも20代に届かぬ年齢であり、そんな女が白兵員兼作業員班にいるのは一見不可思議である。

 だが、そんな彼女が今している仕事を見れば、そんな謎は謎で無くなる。彼女は地図を製図しているのだ。

 開拓の証というのは、その土地を知るということだろう。国が未開拓と言っても、そこに足を踏み入れた人間は結構いるもので、その情報が冒険譚だったりの資料で残っている。参考にするには丁度良い代物なのだが、あくまで非公式やアマチュアが書いたものである。

 資料としての価値はある程度あるものの、まるっきり信用しても良いかと言われれば不安の多い資料なのだ。そんな資料を元に現地で調査し、しっかりとした物を残す。その仕事もブラッホの班の仕事であるらしい。

 そんな中でもサウラは地図を製図する技能を持っている女性で、ある意味ではこの開拓計画の主役だろう。彼女が地図を残さなければ、俺達が未開拓地の空を飛ぶ意味が無くなってしまう。

「観測と言われてもな! こうも変わらぬ景色だと、あそこが高いそこが低いしか言うことが無くなってしまうよ! 私は人間だが、鳴き声は高い低いというものになってしまいそうである!」

「じゃあ高い低い鳴いててくださいね。あ、アーランくんじゃん。西の方を飛んで来たんだっけ? どうだった?」

 気さくそうに話し掛けてくるサウラ。歳が近いからだろう。

 ちなみに俺がここにいる理由は、小型飛空船操縦班の仕事が、ペリカヌの進行方向とは別の方向に小型飛空船を飛ばし、調査範囲を広げるというものであるからだ。

 仕事の結果をサウラに伝えて、彼女が製図できる範囲を広げるという作業と合わせてのものであるため、定期的にこの下部艦首に来ていた。必然的に、ブラッホとその班員達とは良く交流することになる。

「レイリーやビーリー班長の方はどうなんだよ。まだ飛んでんのか? お前だけ先に帰ってきたってことかよ。体力ねーなー」

 へらへら笑いつつ、憎まれ口を叩くのはバーリン・カラックだ。同じラクリム出身者であり、さらに年長者であるからか、何かにつけて先輩面しようとしている節がある。

「乗り慣れない船に乗ってるからな。もうちょいしたら、普通の船の同じ程度にゃあ動かせる様になるんだが」

 実はバーリンの言う通り、集中力が切れたから他の操縦士より先にペリカヌへ帰還したのである。俺に宛がわれた小型飛空船は兎角駄々っ子で、使いこなすにやや難ありだった。少なくとも長距離を長時間で飛ぶような仕事には向かないタイプだと思っている。

「おいおい。なっさけねぇ話じゃねぇか。俺達ラクリム出身同盟の意地はどうしたんだ」

「なんだよ、そのラクリム出身同盟って」

「あ、私も初耳ー」

 実はサウラもラクリム出身者だ。艦長からしてラクリム出身者のこのペリカヌには、至る所にラクリム出身者がいる。と言っても、出身者同士同盟を作った覚えなど一切ない。

「これから作っていくってんだよ! 良いか? 俺達は国無き民であれがそうで、だから一緒に力を合わせてだなぁ」

「とりあえず、何がしかの題目を決めてから作るかどうかは考えようぜ………うわっ!」

 話の途中で、バーリンと俺の間に、ぬっと顔を入れて来た男がいた。ブラッホ班の最後の一人、ビーズ・ロートナである。

 黒い髪に黒い服装。人相は暗く、なんだか真っ黒な印象を受ける男である。しかもなにやら堀が深い顔立ちというか、人相が濃く、尚且つ悪い。

「ちゃ、茶だ。飲むと良い」

「あ、ありがとう」

 盆に乗せたお茶をこちらに差し出してくるビーズ。人相は非常に悪いが、こういう気を使う性質の男である。性格まで悪い男では無いのだろう。

「それにしても、こういう光景にも些か飽きてきた頃合いであるな。暫く山岳地帯を観測し、小型飛空船班が帰還すればその情報を聞く。それでまあ、一日の仕事のだいたいは終わってしまう。これでは飽きに飽きがまわって、冬になってしまうよ!」

 ブラッホが何やら呟く。秋と飽きを掛けたらしいがちっとも面白く無い。

「って、さっき、こういう場所にこそ真の冒険があるとか言ってませんでしたか?」

「私個人はそう思っているがね、他の船員は別だろう。このまま変化が無ければ、不満を持つ人間が増える。艦内にも寒風吹き入れるというものだ」

 途端に真面目な顔をして、そんな事をブラッホは言う。これだから彼のことは苦手なのだ。

「やる気が無くなったり、ギスギスしそうってことですね。確かにそうだよなぁ。そろそろ調査範囲の変更や拡大なんかしていくべきなんじゃあ―――

「アーランさん!」

 話の途中で、同じ小型飛空船操縦士のレイリー・ウォーラが部屋に入って来た。帰還したのでその報告を。という割には、何故か酷く慌てた表情を浮かべていた。

「あ? どうした? 小型船を格納庫で引っ掛けでもしたか?」

「そんなのはしませんよ! というか、今、ビーリーさんが艦長に報告中で………と、兎に角! 小型船操縦班と作業員班は上の艦首に集まってください!」

「おいおい。なんだか知らんが、結構大変な事態じゃあないか?」

「だからそう言ってるんです! そ、外の人! 外に住む人達をビーリーさんが発見したんですよ!」




 外に住む人達。部屋の外に住む。みたいな意味では無く、未開拓地に住む人間のことである。

 未開拓地に既に人が住んでいると表現するとおかしく思えるかもしれないが、人間というのはかなり厳しい環境でも生きることができ、尚且つ旅を続ける者達も少なからずいるので、自分達がまだ探索していない土地に、既に人が住んでいるというのが多々あるのだ。

 さらに言ってしまえば、人間と言う種の発生が自分達にとって既知の場所という確証もあるまい。もっと違う場所で先祖が生まれ、知らぬ各地で暮らしていてもおかしくは無い。

 そうしてペリカヌは、そんなどこかで別れた人種を発見してしまったのである。

「良くあると言えば良くあることですの。実際、わたくし達が既知としている領域の中にも、開拓の繰り返す中で出会った人種や国家が多数ありますし」

 この世界は広い。どこまでもどこまでも続く土地が世界を埋め尽くしている。そんな土地では知らぬ相手と出会うのは日常茶飯事であるとアニーサ・メレウ・ラクリム艦長は語る。

 場所は上部艦首であり、艦長含むペリカヌを動かすメンバーと俺達小型飛空船操縦士達。そしてブラッホ班長率いる作業員班。そうして一人の女性が存在していた。

 名をミナ・ペイランガと言い、二十代後半くらいの女性だ。白と黒を合わせた分厚く独特なデザインの服を着込んでいる。何故その様な姿をしているかと言えば、それが聖服と言うもので、彼女はカーラン教の導師であるからだ。

 そんな彼女が艦長の言葉に次いで話す。

「この出会い。慎重に選択しなければなりません。相手は言語、文化、価値観、その他諸々について、我々のそれから大きく離れている可能性が十分にありますから」

 カーラン教の導師らしい寛容性を発揮するミナ。ちなみにカーラン教とは、ガーヴィッド公国の国教である。

 その主義の根本は産めよ増やせよ地に満ちよ。というなんともまあざっくりとした神の託宣にあるらしい。特にその最後の地に満ちよ。の部分が肝心で、この果ての無い世界で、果てまで人という人種を埋め尽くすのを目的としている。神様らしい無茶な命令である。

 その神様に忠実な彼らは、人は人同士争うべきでなく、とにかく手を取り合い、さらに土地を開拓し、ひたすらに自分達の生存圏を増やすべきなのだと言う主張の元にその教義を広めていた。

 開拓計画を国家の一大事業としているガーヴィッド国としてはその教義に共感する部分がある。

 身も蓋も無い言い方をすれば都合が良い教義であるから、国教として布教を認めている。神様がそう言っているのだからそうなのだ。という理屈は、無理難題を押し通す説得力があった。

「基本的な部分として少人数で接触することがどの様な場合も理想です。向こうが多人数という状況を作り出すことこそ、第一接触において重要な物となるでしょう。勿論危険も有り得ますから、その人員選びも考えなければなりませんが」

 ミナの話を、皆をして真面目に聞く。俺にしたってそうだ。なにせ彼女はカーラン教の導師だからだ。カーラン教の導師が相手だとどうしてこうなるかと言えば、彼らは未知の人種や文化と出会う際、争い無く事を進めるためのプロフェッショナルだからである。

 彼らの教義を実行するには、知らない相手でも積極的に接触し、仲良くしなければならないという基本にして非常に難しい問題に挑まなければならない。

 そんな彼らは、導師というひたすらにその方法を学び、考え、模索する専門職を置いている。開拓計画にはそんな専門知識を持った人間を一人置くのが常であり、カーラン教の導師は開拓計画に欠かせない人材の一人なのだった。

「導師様。言語等違った場合、意思疎通は可能かどうかがまず問題ですわね?」

 アニーサ艦長もこの件における知識や知恵はミナが上であると認めている。即ち、未知の人種との接触は、ミナの意向が重要視されるということになる。

「その通りです艦長。私は内世界の言語を幾つか習得しており、さらに新たな言語と出会った際、それを私達の言語に当て嵌めて翻訳する手法も学んでおりますが、それでも初接触で十分な言葉での交流はできない。そういう危険性は有り得る話でしょう」

 そこまで話して、皆は自分の胸に手を置いた。

「ですから、そういう初接触というものに慣れている私がまず接触する人員の一人として立候補させていただきます」

 ある意味では当たり前のことをミナが口にする。というか、彼女がまず行動してくれなければ、未知の人種などに接触するべきではない。

 そういう行為に対して経験の無いやつらばかりなのだ。知識も無く接触して問題を引き起こせば、開拓計画そのものが破綻してしまうだろうし。

「ではミナ導師が一人。他の人員ですけれど、そうですわね………この場合、少数が良いと言っても、相手の規模を見て考えるべきでしょう。ビーリーさん。発見したのはあなたですけれど、どれほどの人数だったか分かりまして?」

 艦長に尋ねられたビーリー班長は、自分が発見した光景を思い出す様に暫し目を閉じ、3秒ほどしてから目を開いた。

「細かい人数はわかりませんが、1つの大きく丸いテントと、それより一回り小さいテントが3つ張ってあった様に思いますな。大きい方のテントは、10人くらいは入れそうな大きさだったと思いますが………」

 ビーリーのそう言った情報は既に報告済みなのだろうが、この場での再度確認という意味もあるのだろう。彼の発言に、ミナが頷く。

「典型的な遊牧民集団だと思われます。比較的内世界に近い土地で、今まで発見されなかったと言うことを考えると、これまでは別の土地を周っていたと結論を出せます。大きいテントは居住用。他のテントは荷物や家畜用という構成やも。なので相手の人数は大きいテントに納まる程度。ビーリー操縦士が判断した様に10人程度と予想できます」

 では人数は何人ほどが適切か。まではミナは言わない。そこの判断は艦長の仕事なのだろう。あくまで相手は10人程度。それより少ない人数で接触すべし。という事を伝えるのみだ。

「ふぅむ…………人員はミナ導師と作業員班の方々全員…………ああ、そうですわ。アーランさん。あなたも参加していただけませんかしら?」

「は? ちょっ、俺!?」

 いきなり指定されて驚く。どうして俺なのだ。俺は専門知識など無いぞ。

「ペリカヌで接近というのは相手に警戒心を与える可能性がありますわ。でしたら、歩いて向かえる程度に離れた場所へ、小型飛空船にて他の5人を運んでいただければと思っていますの」

「いや、そりゃあ小型飛空船に外付けの運搬室でも取り付ければ、2回ほどの往復で、その人数くらいは運べますけど、だったら発見したビーリー班長がすれば………」

 ちらりとビーリーを見るも、彼は何も言わない。艦長の意見に従うと言った様子だ。

「ビーリーさんにはまた違う仕事を頼もうと思っていますわ。それに作業員の方々を降ろして後も、彼らの作業を手伝っていただければありがたいですわね。何せ人は限られていますし、そう何度も往復するというのも、相手方を警戒させる事に繋がります。であれば、体力的な意味でもアーランさんが適任かと」

「つまり小型船を動かした後は体も動かせと」

「有り体に言えばそうですの」

 なんとも人遣いの荒い艦長である。それに対する反感がまったく無いわけでは無いが、それでも乗ってやろうかと思う自分がいる。

「単なる小型飛空船操縦士が、未知の人種と出会うことにもなるんですが、それも構わないと?」

「そこでミスは犯さないと考える程度には信頼していると思っています」

「そりゃあまあ、このペリカヌに乗ってから暫く時間は経ってますけどね」

「もし、それでも納得できないのでしたら、あなたの目が信用できると思ってくださいましね?」

 その言葉を聞いた時、俺は何か、心に雷でも走った様な衝動があった。




 勿論、それは恋とか感動とか、そういう類のものではない。むしろ打算的な意味合いであろうと思われる。

 ただ、その考えが信用できるものかを確認するために、俺は一旦、小型飛空船格納庫で小型飛空船の整備をしているであろう弟のエイディス・ロッドへと相談することにしたのである。

「そりゃあ兄さん。九分九厘、当たってると思うよ。その勘」

 やはり弟も同じように思ったらしい。どういう思いかと言えば、アニーサ艦長もまた、俺達と同様に、故郷のラクリム国を滅ぼした巨大飛空船を追っているのではないか。という思いだ。

「目って言葉がな………行動やら人柄って点じゃあないってのはそういうことなんだろうさ」

 復讐心などは目に出るものだ。復讐する対象を心に浮かべれば、目が独特なものになるのだと、俺は思っている。

 それは俺やエイディスがそうであり、時たま、アニーサ艦長も浮かべていたものであった。

「つまりさ、接触作業を手伝う代わりに、兄さんに探って来いってことなんだろうね。あの巨大飛空船についてをさ」

 ペリカヌが行う飛空開拓計画は、表向き、ラクリム国の再興という綺麗な目的がある。一方で裏側には、ラクリムを滅ぼした船とそれを所有する組織の探索というものがあると、俺達兄弟は睨んでいた。

 ならばアニーサ艦長の狙いは、彼女個人からの感情だけでなく、ラージリヴァ国の目的も重なっているのだろうと考えられる。

「俺達にとってもチャンスなのには違いないよな。接触相手だけど、何かしておきたいことはお前にあるか?」

 少なくとも俺とエイディスは兄弟であり同志だ。片方がチャンスを掴んだのなら、もう片方に報告し、相談することで得るものがある。

「なんてったって未知数だからね。これぞって案があるわけじゃあ無いんだけど、兎に角、その接触する相手が巨大飛空戦について知っているかどうかを聞いた方が良いだろうね」

 場所によっては、あの巨大飛空船を見ているかもしれない。今まで遊牧してきたというのなら、十数年前だってどこかで生きていたのだ。

 もし巨大飛空船を見ていたのなら、その記憶はまだ残っているはずだろう。

「聞けるとしたらその程度か。って、言葉が通じるかどうか怪しいけどな」

 頭を掻く。接触云々に関しては、その役目の主役はミナ導師である。それは彼女くらいしかまともに接触する方法を知らないからであるが、こっちがどの様な思惑を持っていたとしても、その事実は変わらない。

「だね。出たとこ勝負になりそうだ………あ、けど、初めて会う人間に対して、上手く立ち回る方法なら、僕も一つ知ってるよ」

「へぇ。そりゃあどんなだ?」

 何か有益な情報かもしれぬと思って耳を傾ける。

「押し負けずに勢い良く。ボディーランゲージを欠かさないって感じ」

「なんだよそれ」

 弟の助言は、何はともあれ行動しろと言うことらしかった。




「で、接触する前から全員疲れてるのかよ」

 未知の集団との接触のため、集団がテントを張っている場所から少し離れた場所に人を降ろすを繰り返した俺は、ペリカヌの地上との往復で、結構疲れていた。

 ただし、俺はマシな方なのである。他の参加メンバーはと言えば、ほぼ青い顔をしてうなだれていた。

「乗り心地…………最悪だな……おい」

 青い顔をしている者の一人。バーリンは手で口を抑えている。吐き気を我慢しているのだ。

「酔ったか。まあ、動かす側だって無茶な軌道すれば気分が悪くなるんだ。箱の中入って空を飛ぶなんてのは、そうもなるよな」

 小型飛空船に運搬室と言う名の箱を取り付け、そこに人を乗せる。それが今回の移動方法だった。かなり気を使って動かしたのであるが、それでも箱の中にいる人間は最悪な乗り心地だっただろうと思われる。

 そもそも小型飛空船はそれ用の船で無い限り、人を何人も運ぶ様にはできていない。俺のロンブライナが安定性にやや難のある船であることも一因となり、この様に地上に降りただけでへとへとなどと言う状況になってしまった。

 ただ一人。例外を除けばであるが。

「はっはっは! 皆々、不甲斐ないであるぞ! これから我々は外世界の住民と出会うのだ! 心を躍らせ、体も躍らせる! それこそがあるべき姿では無いかね!」

 ブラッホだ。相も変らぬ笑顔と不必要な元気さで、皆に大声を浴びせかけていた。こういう状況においては頼りになると表現できるのだろうか? それとも、大変にムカつくと思えば良いのか。

「元気ですね。ブラッホさん。ああいうのに乗り慣れてたり?」

 ロンブライナに取り付けられた運搬室を指差すも、ブラッホは首を横に振った。

「いいや! まったくであるな! 中々の良い経験であると思ったよ! 恐らく私の体臭は汗臭いのだと、あの小さな箱で実感することもできたわけでな!」

 ブラッホが乗るのなら、どんな箱だって小さいだろう。そんな事を内心で思いながら、俺は気分を悪くしているらしい別の人間に話し掛けた。

「なあ、ミナさん。大丈夫かい? 全員揃ったわけだが、暫く休んでおくか?」

 この場に置いて、俺達の意思決定をするのはミナ導師である。そんな彼女も船酔いに苦しんでいる様で、彼女の顔色を純粋に伺う。

「い、いえ……空を何度も飛ぶこの小型飛空船を、これから接触する彼らは見ているはずです。あまり時間を置けば、向こうの不信感が増すかと…………」

 だから気分が悪くても目的地に向かおう。ミナ導師はそう続けたかったらしいが、吐き気を抑える手が、その言葉を塞いでしまっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ