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契約。

どうぞ、と男の子は部屋の中央に置かれた小さめな気緑色のテーブルに、持っていたコップを置きました。ありがとう、と男性は言って、一口飲みます。ひかりも真似するかのように、ジュースを一口飲みました。

「ご両親は?」

尋ねる男性に、男の子は答えました。

「お母さんもお父さんも、今日は休日出勤で、夕方まで帰ってこないんです」

すると、そっか、と男性は呟きました。

「‥じゃぁ、都合がいいね」

言うと男性は着ていたワイシャツの胸ポケットから、一枚の紙を出しました。トランプと変わらないほど小さく畳んでいたその紙を、男性はノートほどの大きさまで広げました。ふたりの隣、ひかりは横から紙を覗き込みました。男性は気緑色のテーブルに置くと、男の子の方へ差し出します。

『契約書』、紙にはそう記述されていました。

男の子は何も言わずに立ち上がると、どこからか印鑑を持ってきます。

「こっそりお母さんの部屋から持ってきておいたんです。絶対、貸してはくれないから」

そう言って男の子は紙に印鑑を軽く押しました。

ありがとう、と男性は言ってまた胸ポケットへ紙を畳んでしまいます。

「じゃぁ、瞬君」

ふと男性は男の子を見ると言いました。

「手を出してくれる?」

瞬君、と呼ばれた男の子は不安げな表情を浮かべます。

「静電気みたいにビリッてしたりしないの?」男の子の問いに男性は小さく笑います。

「よく訊かれるんだ。でも大丈夫。全然痛くも痒くもないから」

男性の言葉に、男の子は眉間に寄せていた緊張を解きました。分かった、そう呟くと、男の子はそっと男性へと両手を差し出します。優しげに笑むと、男性はその手を掴みました。男性が一瞬目を閉じたか否か。少しだけ男性とひかりを交互に男の子が伺った頃。男性はすぐに手を放しました。

『何をしたの?』

思わずひかりは男性に手話を見せました。けれど男性は何も答えませんでした。男の子だけが、不審げにひかりを見つめています。


玄関口、男性は「ジュースありがとう」

と男の子に言いました。すると男の子はどこか不安げに男性に尋ねました。

「両親に連絡したりしないよね?」

男性はまた笑います。

「大丈夫、約束は守るよ」

約束、とひかりは一人出ない声で訊ねました。けれど男性が答えることはありません。外に出ようとした時でした。男の子が「おじさん!」と呼んだのです。男性が振り向くと、男の子は何か小さな包みを男性に差し出しました。ひかりは二人を見て首を傾げます。手の内に収まる大きさの紙包み。

「あの人にあげて」

男の子はそう言いました。


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