表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

男の子。

電車の中はそれほど混んではいなかったけど、ひかりは何となくドアの近く、隅の方に立って、ドアの窓から景色を見つめていました。

トンネルや家々を通り越して、何駅か通り過ぎた頃。人の数は段々と少なくなっていました。ようやくのんびり座れるくらい長い席が空いて、ひかりはそっと席に座りました。

それから少しした頃。ひかりの知らないところで、周りの人々の視線はひかりに向けられていました。


わー…

わーん。

ひかりの隣で、小さな男の子が泣いていたのです。席の辺りを走り回って転けたのか膝を擦りむいたようでした。母親の姿はありません。

けれど、ひかりには到底聞こえない声でした。「ねぇ、あの人気づいてないのかなぁ?」

向かい側に座っている、女子高生がこそこそ喋っています。

「聞こえてないんじゃないの?」

「それって馬鹿じゃん。私だったら声かけるよ」

「本当に?」

二人の女子高生は笑います。


「ねぇあなた」

どこからか来た中年女性がひかりに声をかけました。

「ねぇ!ちょっと」

トントンとひかりの肩を叩いて、女性は呼びました。まるで音楽を聴いていたイヤホンを外すように、ひかりは驚いて中年女性を見上げました。

「何で声かけてあげないの、泣いてるでしょ?」

女性は眉を寄せて言いました。ひかりは女性の唇の形を読んで、驚いて隣の男の子を見ました。

「大丈夫よ大丈夫」中年女性は男の子の前にしゃがみこんで、傷を見ます。

ひかりはあたふたして、男の子を気遣うように顔を覗き込みます。けれど、中年女性は顔をしかめると、

「いいわよ、もう」

と言いました。

ひかりは気まずい空気を振り払うように慌てて手話をしました。すると中年女性は表情を急に固めると、両手を振ります。

「あ、いいのよいいの。あらそうだったの、ごめんなさいね」

ごめんなさい、と繰り返して言うと、中年女性は足早に席に戻って行ってしまいました。

周りの様子を確かめるように辺りを見回すと、皆口裏を合わせたようにひかりから視線を外しました。視線をくすんだ床に落とすと、ひかりは肩を落としました。こんなことはたまにあるのですが、やはり何度あっても気分のいいものではありません。

その時でした。

「気にするな」

どこからか声が聞こえたのです。

「気にしなくていい」

耳が聞こえたのは十数年ぶりでした。何が起きているのかと顔をあげてキョロキョロすると、自分の肩に誰かの手が置かれているのにひかりは気づきました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ