出来ること。
しかし、男性がそれを止めました。
「ちょっと待って」
男性は小さな声で言いました。
「でも…」
男の子がようやく何かを言おうとしたのです。
男性は男の子を見て、ひかりも追うように見ました。
「でも、僕にもできることが何かあると思うんです」
相変わらずイラついた様子の女性に、男性は女性が持っている熊のキーホルダーを掴みました。
「お分かりですか?」
男性はそう言います。ひかりはきょとんとして女性と同じように男性を見ました。男性は熊のぬいぐるみをもごもごと触ります。すると、むいぐるみの端に切れ目ができて、中から何か黒いものが出てきたのです。
ひかりが目を丸くしていると、男性は女性に言いました。
「これ、中身が防犯ブザーなんです」
そう言って男性がぬいぐるみを押すと、途端にけたたましい音が響きました。女性は一瞬耳を塞いで、それから男性と男の子を見て、瞬きます。
「僕が…」
男の子が勇気を出すようにして女性に言いました。
「僕が助けてあげるから」
女性は男の子を見ました。
「僕が助けに行ってあげるから」
男の子は、まっすぐな目で女性を見つめます。女性は投げやりな目つきで男の子を見ていましたが、やがて歯を食いしばるようにして頭を振りました。あぁ、と叫んだかと思えば、女性はその場に座り込みます。ガクッと折れて、女性は男性が手放した熊のぬいぐるみを握りしめます。それからはぁ、と息を吐くと、何かを捨てるように話しました。
「前はね、優しかったのよ、凄く。家事も手伝ってくれて。一緒に笑って。ホントに楽しかったの。」
女性は手の中で、ぬいぐるみをねじります。
「だけど、いつの間にか…どこでどうなったのか、彼、私に当たるようになって」
もう、女性は何も見てはいないようでした。
「どうしてなのかなぁ…何で…何で…」
女性の定まらない視線を、男の子は黙って見ています。そうして女性は何もお言わなくなりました。男の子も黙っていて。その流れを一掃したのは、男性でした。
「香織さん、瞬君。いい方法が一つだけあるのですが…」
男性とひかりは、女性の家の前に来ていました。




