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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第九章
99/110

教祖の臨時業務

 女神ヘスティアの神域ダイニングキッチンにてーー、

 お呼ばれした朝食どきーー、


「この前は助かりました。おかげでディオニュソスさんに協力してもらえましたよ」


 朝ごはんをいただく前に、まず感謝を伝えるとーー、


「なーに。あの甥っ子、遊ばせてるより役立たせたほうがいいんだよ。せっかくオリンポス十二神に混ぜてやったんだから、しっかり信心を稼いでもらわなきゃ」


 威勢のいいヘスティアさんの声が返ってきた。


 ちなみに今朝のメニューは焼鮭定食ーー鮭の焦げた皮がなんとも香ばしく食欲をそそる。

 ご飯も炊き立てツヤツヤ。わかめと豆腐のみそ汁もシンプルながら至高の逸品。

 新鮮野菜のおひたしで健康にも気をつかってくれて、さらに漬かり具合が完璧なたくあんまでついてる。

 さすがは料理女神さまーーウチは食に関しては充実した職場だ。

 食後のお茶まで存分に堪能したあと、オレは神域をあとにする。


 ーーごちそうさまでした。いつも美味しいご飯ありがとうございます。


「はいはい。気をつけていってくるんだよ」


 こうして朝食を済ませたところで、オレは里の見回りへとむかう。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 最近、里の人手が不足するときがある。人数が必要な事業が増えたせいだ。

 獣人さんを仲間に加え、頭数はそろってると思ったけど、事業の拡大に追いついていないらしい。

 となるとーーカジノやキャバクラとか、教団の大事な稼ぎの警備にも人手不足のしわ寄せがいく。

 そこでオレがヘルプに入り、トラブル対応することになったのだ。



 ただ……こういう非常事態のときこそ、事件が向こうからやって来るわけでーー、

 案の定、エルフ巫女さんが働いてるあたりで騒ぎが起きてた。



「おい、あっち、なんかヤバい雰囲気だぞ!」

「うわ! 剣抜いてるじゃないか!!」

「危なっ! 警備の人呼んだほうがいいだろコレ!」 


 

 聞きつけたお客さんのざわめきーー発生源へオレは向かってく。

 たどりついたのは『奉納神楽』つまり巫女アイドルの劇場手前あたり。

 遠目にわかるくらい野次馬が集まってる所へ、急ぎ駆けつける。



 で、現場に急行すると、そこではーー、

 エルフ巫女さんがトラブルに巻き込まれてた。


 名前はたしかエルダ……じゃなかったエリーさん。奉納神楽で大人気のアイドル巫女さんだ。

 でも今は整った顔立ちを不安で曇らせちゃってる。

 理由はーーガラの悪い連中に囲まれてるから。



「ったく、ここじゃ客の酌もロクにできねえのか? なにが『すみません。コンサートがあるので失礼します』だよ?」

「おうおう。ちょっと酌してくれりゃすむ話だろ。それが被害者ヅラして警備なんぞ呼びやがって」


 酔った男が六人ほど。テンプレなセリフでエリーさんに難癖つけてた。

 使いこんだ剣と防具、擦り切れたマントーー見た目からすると戦士さんか。

 朝から酒を飲んで気分が大きくなっちゃって、アイドルエルフさんに絡んだごようすだ。


 

 ……う〜ん。お客さんが増えたけど、ガラの悪い人も目立つようになったなあ。



 で、そのガラ悪戦士団は里の中で剣まで抜いてる。危ない。迷惑だ。



 そして、なんとーー、

 巫女のエリーさんをかばってたのは、エルフのジュードくん。

 マリアさんの幼なじみで里の警備担当ーーでも色々あってオレたちとは険悪な関係だ。


 とはいえ里の仲間を放っとくわけにはいかない。

 まして今のジュードくん、腕から血を流しているのだから。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 


 出血しつつエリーさんをかばうジュードくん。

 そんな彼に戦士たちは容赦無く罵声を浴びせる。


「どけっ、お前なぞに用はねえ」

「『巫女への乱暴はおやめください』だと? 抜かしてんじゃねえぞ! 弱いくせにしゃしゃって来てんじゃねえ!」


 ……もちろん。ジュードくんは弱くなんかない。状況が悪すぎただけ。

 急な人手不足でワンオペ警備をやってたとこで巫女さんのトラブルに遭遇。野次馬の話じゃ、仲裁に入ったとこを逆ギレした相手に斬りつけられたようだ。

 さらに悪ノリした他の戦士たちも剣を抜きーー今のありさまってことらしい。

 身を守るためジュードくんも剣を手にし、戦士たちもその気になって、ついにーー、



「おら……よッ!」


 

 前に出た一人ーー戦士Aが剣を振るう。 



「くッ! しまっーー!」

 


 傷の痛みのせいか。

 斬撃をうまく受け流せず、ジュードくんは剣を落としてしまった。

 そこへーー、



「なんだ? もう終わりかぁ?」



 戦士Aが剣を大きく振りかぶる。

 ただ、その戦士Aーー酔いと興奮で理性が飛んでしまったみたい。

 大ケガ確実っぽい一撃がうなりを上げてジュードくんに襲いかかりーー、




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 ーーブンッ!

 



 頭上から降り下された斬撃。

 防ぐ手段を失ったジュードくんは思わず目をつむった。

 だが、次の瞬間ーー、




 ーーカァァァン!!




 響き渡る金属音は弾き飛ばされた剣が立てたもの……あ、もちろんオレの仕業です。

 距離があったんで猛ダッシュ。その勢いのまま振り下ろされた剣に横から蹴りを入れたのだ。



 ーーうん。ギリギリ間に合ってよかった。



「あ、ヨシトさまッ!!」

「……くッ、あんたッ!?」


 視線があったエリーさんとジュードくんが目を見張り、オレは黙ってうなずく。 

 と、そこへーー、



「ーーテメェ! なにしやがる!」


 

 怒声を上げる戦士A。

 蹴り飛ばされた剣の代わりにジュードくんが落としたのを拾い、そのまま切り上げてきた。

 狙いはオレの下腹部。的確に急所を狙う実戦的な一撃だ。


 ……ふむ。そこそこ腕のイイ戦士さんらしい。


 もっともオレには軍神アレスさんの加護『動体視力』と『反射神経』がある。

 加護を生かし、戦士Aの剣筋を見切ると軽く後ろに飛び、低空から迫る刃をかわした。

 あとは空振りしてガラ空きの胴へーー後ろ回し蹴りを一閃。


「うゲボッ!?」


 驚きと痛みを超短時間で表現した戦士Aは地面に崩れ落ちる。

 てなわけで、まず一人KOだ。 


 でもーー状況はあまり変わらない。

 仲間をやられ、残りの連中が頭に血を上らせてる。


「なんだ、お前、急に出てきやがって! よくもウチの舎弟をーー!」

「妙なカッコしやがって。どこのどいつだ?! ああ?!」


 芸のない罵声を上げる戦士たちが五人。

 まとまった殺気が塊になり、ぶわっと立ち上る。 

 そんな戦士たちのようすにーー、



 ……ごくり。



 周囲の野次馬が息を呑みーー、


「ヨシトさま! 気をつけて!」

「……そうだ! あんたも早く武器を!!」  


 エリーさんとジュードくんも、あわてて声をかけてくる。



 だがーーオレは抜刀しない。

 腰の愛刀ライキリーはそのままーー、




 ……いや。オレはライキリーを鞘ごと地面に置く。



 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 目の前で武器を捨てたのが予想外だったらしい。

 野次馬たちからどよめきが上がる。

 戦士たちも一瞬硬直したのちーー、


「……素手……だと? 俺たちを……ナメてんのか!?」

「バカにしてんじゃねえぞ!!」

  

 全員が逆上していた。

 酒で赤くなってた顔に追加で血が昇る。

 そんな戦士連中にーー、



「お客さまに武器は向けられません。素手でお相手しましょう」

 


 オレは余裕たっぷりな教祖スマイルで答える。

 すると案の定ーー、


「ふざけ……やがって!!」

「くそッ……もう手加減なしでかまわねえ!! 切り刻んでしまえ!!」


 皆さま完全にプッツンしたらしい。

 特にガタイのいい戦士Bさんがお怒りのようす。

 ギリギリ歯を食いしばり、激情でプルプル身を震わせてる。

 

 ま……これで良し。

 挑発は大成功。狙い通りの展開だ。

 戦士一行の敵意は全部オレに集まってる。


 

 だからケガしてるジュードくんとエリーさんにーーヤツらの意識は向かない。


 

 ほんでーー、

 オレはさりげなく視線を送りーー二人に逃げるよう目配せをした。


アイドル巫女エリーさんは、こくこくとうなずく。

 ジュードくんは一瞬ためらったものの、怯えるエリーさんを見て考え直したようす。

 二人連れ立って、この場をそっと後にする。

  


 ーーよし。いいぞ。そのまま逃げ切っちゃえ。



 二人を視野の端で確認しつつ、オレは酒乱戦士隊に向き直った。

 ヤツらの敵意はオレに集中してる。

 さっきまで絡んでた相手が逃げたのにも気づいてない。

 うん。挑発して頭に血を上らせたかいがあった。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ジュードくんとエリーさんの姿は遠くに消えた。うまく逃げ切れたらしい。 

 それでもーーオレは挑発を続ける。



「どうしました? 恐ろしくて攻めてこられませんか?」


 

 と、教祖モードの悟り顔で優しく言ってやる。

 ……ふっふっふ。相手はかなりムカつくだろう。



「ホントに……さんざ……ナメちらかしやがってーー」



 オレの煽りを受け、怒りが限界越えな感じの大型戦士Bさん。 

 ま、当然か。悟り顔のオレってかなりムカつくもんな。

 で、ヒートアップした大戦士Bはーー、



「てんめええぇぇぇぇぇッッ!!!」


 

 絶叫とともに読みやすい攻撃をしてくれる。

 デカい体から繰り出される長剣の左右交互斬撃ーー威力はありそうだが、当たらなければどうということはない感じの攻撃だ。 

 左、右、左ーータイミングをはかると、オレは振るわれた剣をギリギリで回避。

 そのまま一気に踏み込み、戦士Bの足を払った。


「あっ!?」


 バランスを崩した戦士Bの顔面へ、すかさず飛び膝蹴りをブチこむとーー、


「う、ぐぅーー」


 よし。一撃で意識を刈り取れた。

 どてんと転がり、白目をむいた戦士Bーーその姿に野次馬たちが思わず笑い声を上げる。 


 

 ……そう。これが素手のまま挑発を続けた理由。


 

 里の仲間ーージュードくんにケガさせた仕返しだ。

 大勢のお客さんの目の前で、素手のオレにボコられる醜態をさらしてもらおう。

 そんな目論見とともにオレは戦士たちに向き直る。


 と、そこへーー、


「くそッ、これならどうだッ!」


 剣を逆手持ちにして突っこんでくる戦士Cさん。

 ほう。速さに自信がありそうな戦闘スタイルですね。

 そんな戦士Cの高速突撃をーーこっちはそれ以上の高速突撃で迎え撃つ。

 

「なッ!? はやッ!!」

 

 予想以上の速さで迫るオレに恐怖を感じたらしい。

 戦士Cは急停止してつんのめるーーそうなればもうこっちのもの。

 中段、次は下段ーー左右の蹴りを放ち、脇腹、ふくらはぎを痛めつける。


「ーーぐ、がッ!!」


 ダメージで悲鳴を上げた戦士Cにーーとどめの上段ハイキック。

 あご先を撃ち抜かれたCは一瞬で意識を失い、膝から崩れ落ちた。



 ……うん。ここまで全員キックだけで倒せた。気分はどこぞの海賊コックさんだな。



「おお。見事な……」

「すげぇ。蹴りだけで三人も……」

「……あっという間だったな」


 オレが見せた技に、野次馬たちから歓声と拍手が上がった。

 さっきまでは悲鳴も聞こえてたけど、雰囲気が全然変わってる。


「だれだ? あの人?」

「この里を仕切ってるオリンポス教団の教祖さんだな。かなりお強いらしいぞ」

「おお、なるほど。そういえば聞いたことがある」


 そんな声も聞こえてきて、ちょっと照れ臭い。

 一方、残りの戦士たちDEFはオレの正体を知ってひるんだようす。


「えッ、まさかあいつが?!」

「一人で鬼の群れを潰したっていう!?」

「そういや、あの妙な毛皮はーー」


 一瞬で酔いが覚めたらしい。

 戦士たちの顔色が赤から白に変わってく。



 と、そこでーーようやく里の警備隊が到着した。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 

「こっちだ! 急げ!」



 真っ先に駆けつけてくれたのはイノシシ獣人ノイスさん。

 隊員の獣人たちを率いての登場だ。


「遅れてすまねえ! 教祖さん! 大物見台への輸送でさっきまで駆り出されててなーー」


 ふむ。別件で出張中か。それじゃしょうがない。

 むしろ素早く助けに来てくれたのがありがたいですね。


「そういってくれて助かるぜ。急いできた甲斐があるってもんだ」


 そんな話をしてる間にーー、

 オレの見せた力量、それに警備獣人の登場から不利を悟ったのか。

 残りの戦士たちはバラバラに逃げ去ってく。  


「あッ! 待ちやがれ!」


 後ろ姿にノイスさんが大声を上げ、獣人たち数人が後を追って行った。 


 ちなみに地面に残された戦士ABCさんはまだ眠ったまま。

 目を覚ましたら、おっかないクマ獣人ーーマークスさんあたりに焼きを入れてもらうことにしよう。


 てなわけで、里の騒ぎは一件落着したわけだけど……、

 気になるのはケガしたジュードくん。

 ノイスさんの話じゃ、助けを呼んでくれたのは彼らしい。

 でも、礼を言おうとしたら警備隊の中にはいなかった。



 ーーま、前から気まずい感じだし。顔を合わせづらいのか。今度さりげなくお礼しておこう。


 

 そう思い直して、オレは乱闘現場を後にする。






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