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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第八章
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新たな施設と新たな住人

 ドーモ、ミナサン! 

 異世界で布教にいそしんでおります久世ヨシトです。


 信者を求めるギリシャ神話の最高神ゼウスさんのムチャぶりで異世界に飛ばされたオレ――ですが、ブラック企業でつちかった社畜精神でなんとかやれてます。

 それもこれも商業神ヘルメスさんや軍神アレスさんなど、ギリシャ神さんたちの加護のおかげですし、頭を使うことは知の女神アテナさんに完全おまかせ状態なんですが……。



 と、まあ、どうにかこうにか教祖業をこなしてるオレですけど、実は苦手なことが一つあります。

 なにかといえば……それは『お説教』ですね。

 信者さんも増えてきたし、教祖としては絶対やらなきゃいけないお仕事ですし、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、と、自分を追いこんではいるんですけど、やっぱどうも……。



「オレなんぞが他人さまにエラそうなこと言っていいのかな?」

「ていうか、そもそも人の心を打つ演説なんて、できるわけないし」



 とかなんとか思ってしまって、気がひけます。

 で、そんなときはどうするかといえば、そこは交渉の神さまである有能ヘルメスさんに丸投げ……もとい憑依してもらって、なんとかしているわけなんですよ……。

 


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 はぐれエルフの住むコルクの里。

 その一角にある木のにおいも新しい商業神ヘルメス神殿にて――、



「『商売の秘訣』などという便利なものはありません。ですが、商人を続けていくうえで大事なことがいくつかあります。それは『高望みせず堅実に』そして『世のため、人のため商売すること』です」     


 オレに憑依したヘルメスさんによる説教――というより経営セミナーが始まっている。

 カジノやら銀行やらでもうけてる教団ウチ商売方法やりかたが知りたいと、けっこう多くの商人さんが集まってた。   

 ただ講師のオレ(ヘルメスさん入り)の言葉は微妙に商人さんらの考えとちがったらしく、疑問の声が上がる。



「――いやいや。そんな甘ったるいことを言ってちゃ商売なんぞやってられんよ。常に油断なく一攫千金ボロもうけの機会を狙い続けるのが商人の性ってもんでさ」

「そうだぜ。だいたい、おれたちゃご立派な道徳を聞かされにきたわけじゃねえ。もっとちゃんと商売のことを話してくんな!」



 と、ちょっとガラの悪そうな商人AさんBさんが口をはさんできて、うなずく商人さんも数人。

 ……う~ん。ま、現実的な意見ではあるな。ヘルメスさんの言葉も理想が高すぎる感じがするし。 

 そんな光景を見て、オレはちょっとヒヤヒヤした。

 だが、オレの体をあやつってるヘルメスさんはにっこり笑って答える。


「いえいえ。これは道徳ではなく、ちゃんとした商売の話ですよ。まず高望みを戒める理由ですが、経営に無理が出るからです。悪事でも働かなければ達成できない高望みに意味はありません」


『リバースカード、オープン! キリッ!』って感じでオレ(というかヘルメスさん)が反撃すると――、

 ワルそう商人ABは見た目と違って素直にうなずく。


「う、それは……そうかもしれん。高望みで身を滅ぼしちゃ意味がねえ」

「む、いわれてみれば――たしかに。悪いことしてバレたら商売どころの騒ぎじゃなくなるしな」


 そんな商人ABにヘルメスさんは、もうひと押し。


「……ええ。そうでしょう。また『世のため人のための商売』というのもキレイゴトなどではありません。人のためになる商売というのはつまり『社会から必要とされ続ける事業』ということ。息の長い商売ができるということでもあります」


 と――。


「ふ~む。なるほど。もうけが少なそうに見えても世間に必要とされるんなら、仕事が無くなることもないだろうしな」

「ああ。逆にゲスな商売は儲かるようで長続きしねえし。一度ゲスなことすると客は逃げていくし」


 さっきまでの乱暴な反論が嘘のように、ワルっぽい商人ABは納得している。 

 こうしてガラの悪い商人をダンガンな感じでロンパしちゃって、だまらせたオレ(実はヘルメスさん)に他の聴衆から感嘆の吐息が漏れた。 



 あ、でも……ですね。

 実は…………。

 


 この商人ABさん、教団ウチが事前にこっそり雇った商人さんだったりする……いわゆるサクラってやつなんですな。 

 二人とも打ち合わせ通りの熱演――つまり、さっきの言い争いも実は脚本通りのイカサマってことになる。

 エラそうにキレイゴトいっといて、裏でこんな手を使うことにオレはシブい顔したんだが――、

 

「まとはずれな質問をされて伝えたいことをぼやかされるより、想定済みの反対意見を論破したほうが話に筋が通ります。粗暴で愚劣な論敵は最大の味方なのです。説得力を上げて説教を成功させるための説得技術ですよ。言ってることはまちがっていないのですし、これくらいは許容範囲なのではありませんか?」


 ……え、そういわれると。そんなような気も……しないわけでも……なくもないような……。

 なんて、いつの間にか説得されてる自分に気づき、オレは神さまのコワサを実感させられてしまった。



 うぅ、さすが交渉の神さま……ヘルメス、恐ろしい子!



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 で、しばらくして――。

 熱の入ったセミナーも終わり、オレは商人さんたちの起立拍手スタンディングオベーションで見送られる。 


 ……さて、それじゃ今日の説教セミナーは成功したみたいですし――そろそろ体を返してくれませんか。ヘルメスさん。



「ああ。アテナのところへ行くのですね。わかりました――では、どうぞ。ユーハブコントロール」


 オレの頼みにヘルメスさんは苦笑しつつ、ボディをすぐ返してくれた。


「教祖どの、よいお話でしたな。ぐいぐい引きこまれましたよ」

「ええ。まったくもってそのとおり。人に勧められて来て、初めは半信半疑でしたが……なかなかどうして、ためになるお話ばかりでしたよ」


 とかなんとか声をかけてくる商人さんらに――、


「ありがとうございます。みなさまに商業神ヘルメスの加護がありますよう」


 あいさつと愛想笑いを返し、オレはそそくさと神殿をあとにする。

 そして足を早めて向かった先とはーー、

 これまた新たに作られた神殿ーーその名も『知女神アテナの学堂』だった。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



『アテナの学堂』――いちおう知の女神アテナさんの神殿てことになってるけど、実際は教育施設。つまり『学校』だった。



「教育こそ史上最強の洗脳! 多くの宗教団体が教育機関を持っているのもその証といえるでしょう! 鉄は熱いうちに打つ。三つ子の魂百まで、雀百まで踊り忘れず――ということで、幼少期からの教育で熱心な信者を作り出すのです! 名付けてチルドレン・オブ・信仰マシン・オーガニックシステム――通称COSMOSです!」

 

 なんて、ちょっとアブナイことを熱く語ってたアテナさんが作り上げた施設である。

 ここでは、はぐれエルフや獣人、あとは貧民街スラムの住人とか――子どもたちを集め、初歩の読み書きやそろばんを教えている。


(恵まれない環境の子どもたちが多くて、そこらへんはアテナさんのさりげないやさしさなのだろうか?)


 で、教師はもちろんアテナさん。他にも仕事があっていそがしいだろうに、これだけは絶対に他人にまかせようとしない。

 結果として『パラス』を名乗り、少女の姿でいるアテナさんが女神姿の自分の像の前で勉強を教えてるなんてナゾな状況が生まれていた。



 その学堂へオレは、とある用があって向かったわけだけど――、 



「……あれ? まだ授業中か?」



 学堂の周りに人影はなく、一方、内部には人の気配が大勢。

 しかも神殿から響いてくる熱心な声はアテナさんのもの。



 ……ふ~む。こりゃまいったな。どうやら急いで来すぎてしまったようだ。

 授業の邪魔するとアテナさんから冷たい激怒の視線をくらうし……あれってマジこわいんだよなぁ。



 ――しかたないのでオレは外で待つことにした。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 学堂から漏れ聞こえる凛とした知恵と戦の女神さまの声――オレはぼんやり耳をかたむける。

 ふむ。どうやら算数というか、そろばんの授業をしてるようだけど――。



「――まず商業神ヘルメスが、あなたがたにお手伝いの駄賃としてリンゴ五つを約束しました。しかし吝嗇ケチなヘルメスは駄賃を惜しみ一つ減らしてわたしてきたのです」


 てな感じに、読み書きでもそろばんでもアテナさんは問題文にギリシャ神の名前をまぎれさせてる。何度も聞くうちに無意識で覚えさせていくスタイルらしい。

 いわゆるサブリミナル効果ってやつだろうか? 


「さらに、その中から強欲なゼウスが三個を奪ってしまいます。とても悲しい状況です。そこであなたがたを憐れんだ慈悲深く知恵にあふれる女神アテナがリンゴ五個を与えました。さて、今、あなたが持っているリンゴはいくつですか?」


 ただ……微妙に他の神さまをけなして、自分をイイ立場においてるな。

 そんなアテナさんのやりかたにオレが苦笑いしてると。


 

 パッカパッカ、ガラゴロ――、

 


 背後から馬のひづめの音、馬車の車輪が立てる音がひびき――、

 さらに、こう声をかけられる。



「おうッ、だれかと思えば教祖さんじゃねえか?!」

  


 聞き覚えのある威勢のいい声にふりかえると――。

 そこにはベルガ竜騎士一族の族長の息子さん、フェリペくんがいた。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 ベルガからゴーディア、そして帰り道の途中まで、オレやシメオンさんたちと旅をともにして来たフェリペくん。

 が、実は彼だけ国境の川で一度、足止めを食らっていた。

 それもこれも川の渡しですったもんだがあったせいだ。渡し船に愛竜ハーティロックを載せる段階でまわりにいた馬がおびえて暴れだし、大さわぎになったのである。

 で、結局、別の大型の船が来るのを待ち、そっちに愛竜ハーティロックを載せてきたらしい。


 その後はフェリペくん。母の兄――伯父であるシメオンさんの家に居候している。

 もっとも、ただ伯父さんの家にいるんじゃ意味がない。『世間を知るには実践が一番』と、なにか商売してみるようシメオンさんに助言されたんだそうで……。



「最初は親父みたいに護衛や傭兵をやろうと思ったんだけどよ。さすがに、それだけはやめてくれって伯父貴おじきに言われてな。しかたねえから運送業をやってるわけさ」

 

 と、馬車を止めて、ぶつくさ言ったフェリペくんは不満そう。

 でも……ま、そりゃしかたなかろう。

 妹の忘れ形見である甥御さんに、シメオンさんはアブナイことをさせられまい。

 まして竜騎士族長の息子ってフェリペくんの立場を考えたら、戦闘をやってケガさせてもさせられても外交問題になってしまうし。

 


「――ちぇッ。教祖さんまでそういうこと言うのかい? せっかく刺激のない田舎を離れられたってのに、こっちのほうが息苦しいじゃねえか? あんた。えらいんだろ? 伯父貴に言ってなんとかしてくれよ」


 などと、たしなめたオレにまで、からんでくる若い竜騎士くん。

   

 ……ふ~む。こりゃ慣れない町暮らしで、かなりウップンがたまってるようですな?

 でもって、ちょうど仕事がひと段落したとこに顔見知りを見かけ、話しかけてきたってわけか?

 オレは空っぽな馬車の荷台、お疲れ気味のフェリペくんのようすから推理した。

 


 むむ、なんだかメンドそうな展開――と、ちょっと腰が引けたけど、そこでオレは思い直す。



 ……ま、いいか。教祖としてちょっとばかし若者の相談に乗ってやろう。

 どうせアテナさんの授業が終わるまでヒマなんだし。




 そう考えて――オレはフェリペくんとダベりながら時間をつぶすことにした。




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