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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第七章
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里のビックリ変化

 里への帰り道――。

 静かな森の中にエルフ幼女の寝息が響く。


「すぅ……すぅ……」


 さんざん泣いて疲れたのか、それとも姉に会って安心したからなのか――アリアちゃんはお姉さんに背負われてるうち、うつらうつらしはじめた。

 きゃしゃなマリアさんには重そうだから手伝いを申し出て、エルフ幼女は今オレの背中で夢を見てる。


「いけません! ヨシトさまにそのようなことをさせては……!」

「いや。オレのほうが体力ありますし、放っておけませんから……」

「あ、ダメです……ヨシトさま!」

「静かに……アリアちゃんが目をさましちゃいますよ」


 マリアさんは抵抗したが、オレは強引にエルフ幼女を抱き取る。

 安らかな寝顔は天使だけど目覚めたら怪獣な幼女だから、受け取るときはヒヤヒヤしたけど。 

 そしてアリアちゃんを起こさないため――って理由でオレたちは乗物からおりて森の中を歩くことにした。


 ……ま、ホントは二人だけの時間をじっくり味わいたかったからなんだが。 


 静かな森を黙ったまま並んで歩くオレたち。そのうしろをマリアさんの乗ってきた馬と自動追尾モードの機龍がついてくる。

 オレもマリアさんも無言だけど、これは別に気まずい沈黙じゃない。

 むしろ言葉なんかいらない。寄りそって手をつないで歩いてるだけで心もつながっているとわかる。

 こうして、しばらく幸せにひたったあとで――マリアさんが口を開いた。 


「…………ヨシトさま。申し遅れましたけど……無事のご帰還、うれしゅうございます」


 オレにぴったり身をよせたマリアさんが耳元でささやき、祝ってくれる。

 ……うんうん。こうやって待っててくれる人がいるって、ありがたい話だよな。  

 と、にやけたとこで――ふっと疑問に思った。

 

 ……あれ、待てよ? そういやマリアさん、どうやってオレたちの帰りを知ったんです? 


「里にモーラから知らせが入ったのです。執政さまから早馬で帰国の知らせがあったと――先だってアリアも同行していると聞かされていましたので、いてもたってもいられず出てきてしまいました」


 マリアさんはそう答えて顔を赤くし、オレはシメオンさんの配慮に感心する。


 ……ああ、なるほど。シメオンさんのおかげか。帰国の予定が立ったとこで、すぐに連絡を入れてくれたんだな。

 それにアリアちゃんの同行についても、ちゃんと伝えておいてくれたとは――。

 う~む……さすがの気配り。ああいう大人になりたいもんだよな~。

 


 なんてことを思いつつ、オレは美人エルフさんとならんで歩く。 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆  


 

 さて――、

 こうして恋人エルフとのリア充お散歩を楽しんだオレだったが、道のりはそれほど遠くない。周りの景色から、そろそろ里につくと分かった。

 二人だけの(熟睡中の妹エルフもいるけど……)時間が終わって残念だったものの、里に帰ってこれたのは、かなりうれしい。


 ……う~ん。アリアちゃんだけじゃなく、オレもホームシックだったかもしれないな。


 それほど長旅じゃなかったのに里が恋しい。

 やっぱ軍師兼相棒(アテナ)さんと恋人(マリア)さん抜きの旅は心細かったのだ。

 で、ようやく本拠地に帰れると思って心が弾んでたとき――それは目に入ってくる。



「……なんじゃ……こりゃあ?!」



 なんて殉職間際の刑事みたいな声が出たが――無理もないと思う。

 目に入ったのは深い森の影から顔を出した見覚えのない物体。少なくともオレが出発する前にはなかったはずのものだ。

 里の周辺には大木が並んでて、それとほぼ同じ高さだから――そうとうな大きさである。

 で、その巨大物体(デカブツ)は丸い耳と丸い頭、青白い肌を持っていて……、



「ま、まさか……あれ……いや、でも!?」



 視界に飛びこんできたものの正体はわかった――が、頭が理解を拒否した。混乱したオレは足を止め、その巨像にまじまじ視線を送る。

 う~ん。何度確認してもまちがいない。あれは、まちがいなく『あれ』だ……。

 しかし、それでも信じられなかったオレは、隣りのマリアさんにぼうぜんとたずねた。


「……な……なんなんですか? あれ?」



 あっけに取られつつも質問したオレに……マリアさんはうやうやしく答える。

 


「……はい。あれはヨシトさまの召喚獣ヴァジュラクーンの聖像にございます」  


 

 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 帰ってきたコルクの里――布教の本拠地にあったのは巨大な電気タヌキ像。その名を『ヴァジュラクーン』という雷神ゼウスの力を秘めた召喚獣のものだった。

 しかし大きい。特大サイズだ。ハリボテっぽいけど、ヘタすりゃ本物よりデカいかも……。

 心がぴょんぴょ……じゃなかった、ぽんぽこする感じのシルエットにオレは頭が痛くなる。  


 

「あの…………ヨシトさま?」   


 マリアさんの呼びかける声も耳に入らず、オレはアリアちゃんを背負ったまま、ふらふら巨像をめざす。とにかく近くまで行って自分の目で確認しなきゃ気がすまなかったのだ。

 しかし……里に近づくほど人の姿が増えてくる。そこらの道には長い行列までできていた。ごった返す人ごみのせいで、それ以上里には近づけなくなる。


 ……うお、ずいぶん混んでるな。例のエルフ巫女たちのファンだろうか?


 予想外の混雑にオレは最初そう思った。

『ELF35』と名乗るようになったエルフ巫女のアイドルグループは、かなり人気だったからだ。

 アテナさんの依頼で芸術女神(ミューズ)さんたちと、オルフェウスとかいう昔の歌手兼詩人(シンガーソングライター)さんがプロデュースしてくれたそうで、楽曲の評判がすごくいい。

 でもって、それをきれいなエルフ巫女さん集団が歌って踊るんだから――売れないわけがない。

『巫女ライバー』と呼ばれる、どこかで聞いたような名前のファンが多くできて、グッズやら握手券やら、たくさんお金を落としてくれる。教団にとってありがたいお客さんだ。

 ただ『アイドルライブでボロもうけ』ってのは、さすがに宗教団体としていかがなものかとも思ったのだけど――、


「もともと『ファン』という言葉の語源は巫女が熱狂するようすから来ています。そう考えれば本来の宗教的な意味にもどったということで――別におかしな話ではないでしょう?」

 

 とかなんとか、アテナさんに理由になってない理由で言いくるめられた。

 それ以降はもうなしくずし。気づけば『エルフ巫女ライブ』は銀行とカジノに次ぐ、教団の重要な収入源になってしまってる。

 だから長い行列を見たとき、巫女(そっち)のファンかと思ったのだが――、


 しかし――どうも、あの行列はちがうみたいだ。

 若い男性もならんでたが子どもに女性も多くいる。家族連れにオレたちみたく男女二人組も多い。巫女さんアイドルグループの客層とはちがう気がする。

 

 むむぅ……これ、どういうことなんだ?


 疑問に思って、急ぎ足で行列のほうに向かうオレ。

 すると――耳に慣れ親しんだ例の鳴き声が聞こえてきた。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「もっきゅ、もきゅーん、もっきゅっきゅ!」

 


 聞こえてきたのは『押さないでくださ~い、一列にならんでくださ~い』……って感じの鳴き声。

 そう、なんと……そこには巨像だけじゃなく人間サイズのヴァジュラクーンまでいた!

 しかも手持ちの看板で行列のみなさんを誘導までしている。

 

 ん……あれって着ぐるみか?! よくできてるな~!


 その1,5メートル級電気ダヌキが布でできてると気付き、驚かされた。

 巨像のほうもそうだけど、この着ぐるみもクオリティが高い。召喚者のオレですら一瞬、本物かと思うほどのできばえ。とくにおなかのぽんぽこりん具合は完璧な再現度を誇っている。


「もきゅ?」


 で、その人間サイズ電気ダヌキは、こっちに気づいたとたん手を上げた。

 しかも驚いたことに――、


「もっきゅー!!!」


 と、鳴き声をかけてきた。 

 いや――声だけじゃない。短い脚でぽこぽこと小走りに駆け寄ってくる。


 あ……もしかしたら、だれか知り合いが入ってるのか?

 ま、そりゃそうだよな。里の人間以外は考えられないし。

 でも、だれなんだろう? ここはちょっと聞いてみるか?


「あの……どなたが中に入ってるんです?」

「もっきゅきゅ……もきゅ~!」


 たずねたオレに対し、人間大ヴァジュラクーンは、かわいらしいしぐさで首を左右に振って見せた。

 さらに着ぐるみの口あたりに前足を当て、話せないって感じのジェスチャーもする。


 ……あ、なるほど。『中の人などいない』ってことですね? 


「もきゅもきゅ」


 大きくうなずいて見せるヴァジュラクーン。

 そして次に――電気ダヌキは前足を使い、森のほうを差して見せた。



 ……ふむ。どうやらついてこいって言ってるらしい。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 



 馬と機龍を道に待たせ、オレたち――オレとマリアさんとオレの背中で爆睡中のエルフ幼女は電気ダヌキのあとにつづく。

 なんというか、ほんとワケわからん悪夢みたいな光景だ。懐中時計片手に茶会へ急ぐウサギを見た某少女さんも、こんな気分だったのだろうか?


 一方、人のいない森の奥にオレたちを誘いこんだ人間大電気ダヌキは、ようやく立ち止まり、こちらに向きなおる。

 そして短い前足をまるっと大きな頭部にかけると――。



 すぽーーーーーーーーん!!!



 ――なんと、いきなり自分の首をもいでしまった!



 ひゃあああああああああぁーっ!! 

 ぎゃあああああああああっ!!

 く、く、首がぁーっ!!!


 

 …………って、あれ?



 いや、ちがった。首がもげだんじゃない。着ぐるみの頭部を外しただけだった。

 着ぐるみがリアルだから首が取れたように見えただけなんだが……マジで心臓に悪い。心の準備ができてなかったオレはビビらされる。

 でもって、その中から出てきた人物の顔には……さらに驚かされた。



「よいしょ……ふぅ……」

「あ、アテ……じゃなかった、パラス!?」



 マリアさんの前なのに、危うく女神としての名を呼んでしまうとこだった。

 けど……それもしょうがないことじゃなかろうか。

 電気ダヌキの中から、いきなり布教の相棒が出てきたのだから。



 で、もう完全についてけなくなってぽかんと口を開けたオレに――。

  


「……お帰りなさいヨシトさん。交渉はどうでしたか?」



 ――電気ダヌキの着ぐるみをまとった女神アテナさんが、しれっとあいさつした。 

 

  

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