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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第七章
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帰り道、再会

『シメオン備忘録』より――。


 ――旅は終わり、我々はそれぞれの帰路につこうとしている。


 強大な隣国ゴーディアの言いがかりから始まった今回の一件。頭の固い騎士相手の交渉は、あいかわらずやっかいだったが、おかげでいくつか収穫もあった。


 まず第一の収穫――しばらくゴーディアからの無理な要求が避けられる点。


 もともと我がファールス国・商人の街モーラと、農業国ゴーディアは依存関係にある。

 我らはゴーディアの上質かつ大量の農産品で利益を上げ、商売にうとい騎士たちは下手な取引で作物を買いたたかれずにすむ――たがいに大いに利のある関係だ。

 隣国同士、対立することがあっても致命的な戦がおこらなかったのは、そのおかげである。


 だが、ときおりゴーディア騎士どもは、間に入った商人(われら)の儲けに腹を立てる。

 自分たちだけで商売すれば、もっと儲かるにちがいない――そんな思いが騎士たちを動かすのだ。

 とくにウェルキン公のように有能な君主が出たときはなおさら。取引が打ち切られることもある。

 もっとも商売はそれほど甘くない。いくばくもたたぬうち海千山千の商人にだまされ、モーラに泣きついてくることになる。

 かくして関係修復されるわけだが……両国とも大損に変わりはない。避けたい事態だ。

 まして川原を奪われてしまえば、そもそもの貿易場所が消えてしまう。これも断じて避けたい。


 しかし今回、ヨシトどののこちらの意を汲んだ働きで見事にゴーディア公の注目を引きつけてくれた。

 策士である公の興味がヨシトどのにうつり、味方にしようと企むかぎり、教団の土地に手出しはすまい。その間、我らの行う貿易は守られる。

 


 ただ一点、人の良いヨシトどのが陰謀家の公に取りこまれぬよう、十分な注意は必要だが――。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 宴の翌朝――。

 オレたちはゴーディアの公都ホルンを旅立つ。


 昼までゆっくりしてられないのは、シメオンさんたちの事情だ。

 モーラに帰って今回の交渉の結果――和平条約をきっちり正式のものにする必要があるらしい。

 あんだけ動き回ったあと、まだやることがあるなんて、ホントお役人さんって大変だよな~。 

 

 ま、その点、教祖(オレ)は楽だ。里に帰ったらなにするか、のんきに考えてられる。 

 え~と。まずマリアさんの手料理をごちそうになり……その後はマリアさんご本人を……むふふ。

 そんなことを考えたエロ教祖さんの脳内、なぜか裸エプロン姿のエルフ美女が浮かぶ。


 ……オレ、この交渉が終わって里に帰ったら……マリアさんとイチャイチャするんだ。  

       

 と、立てちゃいけないフラグを立てかけたとこでシメオンさんから声をかけられる。


「そろそろ出発ですぞ。準備はよろしいですかなヨシトどの?」

「……え、あ……はい。わかりました」


 あわてて返事したオレは機龍を操り、アリアちゃんとシメオンさんたちを乗せた馬車に続く。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 



 一方、公都ホルンを囲む城壁の上――。



「オリンポス教団と教祖ヨシト……必ず、わたしのものになってもらおう」

「……………………ヨシト………………さま」



 去りゆくヨシトたちをウェルキン公は野心たっぷりに見送り――、

 クラウディア姫は……消えそうなほどかすかな声で男の名を呼んだ。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 帰り道は――なにごともなし。

 出現(エンカウント)率があがりそうなタイミングに盗賊とかモンスターは、なにやってるんだろうか?


 ……ま、おかげで無事に帰れたけどさ。


 ほんで――。

 来たときと逆に田園地帯を抜け、渡し船で国境の川を渡り、オレたちはモーラに帰ってきた。

 船から降り、自分らの国について――そこでようやくシメオンさんの部下たちは一息つく。

 

「……ふぅぅぅ」

「ようやく着いたな」

「ああ……我々は帰ってきた」


 ため息が漏れ、どの顔もほっとしてた。イス〇ンダルから帰った宇宙戦艦の艦長みたいな感じだ。

 ……ま、当たり前か。やっぱモメてる相手国にいるのは緊張するしね。

 そんな中――ただ一人シメオンさんだけ態度が変わらない。悠々と落ち着いてた。

 優しそうで気の弱そうな見た目だけど、中身はかなりタフな人だ。


 で、シメオンさんは――。


「ヨシトどの。主への報告とさまざまな後始末のため、我々はここで失礼をさせていただきます。あなたの多大な協力に感謝を……また里にお邪魔させていただきますが、そのときまでお達者で」


 オレに深々と頭を下げ、別れを告げる。

 モーラの街行きの特急馬車が用意されてて、シメオンさん一行はそれに乗るみたいだ。

 あらかじめ役目を終えたあとの連絡用に準備してたらしい。

 ……う~む。さすが有能さん。ナイス手回しだな。 


 そして次に――シメオンさんはアリアちゃんに声をかけた。


「ここでお別れですよ、アリアちゃん。おかげでたいへん楽しい旅になりました」

「……シメオン……おじちゃん……」

 

 うるうる目を潤ませ、しがみつくエルフ幼女をシメオンさんは軽く抱きかえした。

 そして、なごりおしそうにしつつもオレのほうへ押しやる。

 

「……ヨシトどの……アリアちゃんを……くれぐれもよろしく……」


 妙に悲痛なあいさつをして部下といっしょに馬車に乗りこんだシメオンさん。  

 その馬車が小さくなるまで、オレたちは見つめていて……。


 ま、ここまでは感動的な場面だったんだが――ふとオレは気づく。


 あれ? シメオンさん、なんであんなに別れを悲しむんだ? 

 里と街はそんなに離れてない。会おうと思えばすぐ会える距離なのに……。 

 もしかして……ちょっとの別れすらガマンできないってことだろうか?

 そこまでエルフ幼女中毒を起こしてるなんて……あの有能執政さん。ちょっと心配だぞ?



 ――てなことを思いつつ、オレは愛騎・鋼鉄機龍(ドラグノイド)にエルフ幼女を乗せ、里に向かう。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 そこからコルクの里まで――うんと気まずい道のりが続いた。


「……………………………………」

「あの……アリアちゃん?」

「………………なによ?」

「あ、いや……なんでもありません」


 かわいがってくれたシメオンさんとの別れが悲しかったのか?

 エルフ幼女は無言のまま。かける言葉がなくてオレはとまどう。

 ついでにいうとアリアちゃん、竜騎士族長さんからもらった飛竜の卵を大事に持ってた。おなかに大荷物をかかえてるもんだから、支えづらくてしょうがない。


 う~ん……子どもの夢は大事にしてやりたいけど。もうちょっと、なんとかならんかな?

 あ……そうだ。けっこうがんじょうそうな卵だし、ヒモで機龍の後ろにぶらさげるとか?

 

「ダメっ! この子はあたしが守って、きっちり(かえ)してあげるの!」


 ……オレのささやかな提案は断固はねのけられた。

 母鳥のようにぎっちり卵をかかえたアリアちゃんに、オレはため息をつく。



 しかし――そんな微妙な旅路も予想より早く終わる。

 気づまりな状況を終わらせたのは――かつてオレが切り開いた森の中、響く馬蹄の音。


「……ん? なんか……向こうから来てるのか?」 


 道の向こう――森の影になってるカーブの先からリズミカルな物音が響いてくる。

 せわしない馬蹄の響きは、ずいぶん飛ばしてるように聞こえた。

 で、音の主はカーブを曲がり、こっちに姿を見せたわけだが――。



 ――お馬さんに全力疾走させてきた人物に、オレたちは驚かされる!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「お、お姉ちゃん!」

「えッ……マリアさん!?」



 なんと。馬に乗って現れたのはオレの恋人エルフ、マリアさんだった!

 驚きにオレは思わず機龍の足を止める。

 一方、オレたちを見つけたマリアさんは馬を飛び下り、こっちにやってきた。

 初めて見るはずの奇妙なシロモノ『機龍』に目もくれず、足早に歩み寄ったマリアさんは――、


「歯を食いしばりなさい……アリアっ……!」  

  

 妹さんの名をさけび、手のひらを大きくふりかぶった。

 え……? マリアさん、なに軍人さんみたいなことを言って――?!

 と、あっけにとられるオレの目の前、マリアさんのビンタが炸裂!




 ――バチィィィッッッ!!!!!!

    



 アリアちゃんの横っ面が、かなり痛そうな音を立てる。

 衝撃でかかえた竜の卵が転げ落ち、アリアちゃんのほっぺはみるみるうちに赤く染まった。


 うわッ、ちょ……強烈すぎるぞ! マリアさんの愛のムチ!

『そんなエルフ修正してやる!』って感じの一発だった。  

 なぐられずに大人になったエルフはいないかもしれないけど……アリアちゃんはまだ子どもですって!

 ていうか、あんなキツイ一撃をくらってだいじょうぶなのか?! 


 ――と、思わず息を飲んだオレの視線の先。


「……お、おねえ……ちゃん?」


 ビンタを食らったアリアちゃんは、なにがあったかわからず、きょとんとしてた。

 優しい姉の見せた剣幕が信じられなかったんだろう。

 そんな妹にマリアさんは、再び厳しい声を浴びせる。


「自分がなにをしたかわかってるのアリア!? あなたの勝手のせいでヨシトさまと、モーラのみなさまにどれほど迷惑をかけたことか……!」


 と、ガミガミしかりつけたあと――。

 マリアさんは妹を急に抱きよせ、その体を必死に探る。 


「――だいじょうぶ!? ケガなんてしなかったアリア!? ひどい目にあわされたりしてない!?」 


 顔面を全力でひっぱたいといて――今度はまるで逆の行動を取るマリアさん。

 しかし……どれだけ心配してたか、その口調と混乱した動作だけでわかった。 

 そんな姉の姿にアリアちゃんの顔が、くしゃっと崩れる。



「……ご、ごめんなさい。お姉……ちゃん!!!」

 


 素直に謝ったあと、アリアちゃんの目から大粒の涙がこぼれ――、

    


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「う、う、うぅぅ……えええええええええええええええん!!!!!!」


 森の中、エルフ幼女の泣き声が大きく響いた。

 アリアちゃんはマリアさんに全力でしがみつき――声にならない声でこう訴える。


「こ、こ、こわがったよぅ! ひどり……ずっど、ざびじがった……おねえぢゃ……あいだがっだ!」

「よしよし……もうだいじょうぶ! 絶対にもう一人にしないから!」

 

 泣きじゃくる妹をマリアさんは優しく抱きしめ、なだめ――、

 一方、オレは強情なアリアちゃんが見せた泣き顔に驚かされ、同時に気付かされる。


 そっか……そりゃそうだよな。

 LED以上の長寿命を誇るエルフからすれば、アリアちゃんはまだ子どもなんだ。

 自分から突っこんだピンチとはいえ、騎士に人質にされたり、山の中で竜に遭遇したり、そうとう恐ろしい体験だったはず。

 肉親に叱られて抱きしめられて――ようやく、こらえてた感情を表に出せたんだろう。


 まったく……どうして、もっと早く気づいてやれなかった? 

 ホントに未熟者だよなオレって……。

 

 湧いてきた後悔とともに、オレはエルフ姉妹のとこに歩み寄る。

 そして――うるんだ目でこっちを見上げたマリアさんに、こう言った。


「……だいじょうぶです、マリアさん。危ない場面もありましたけどアリアちゃんにケガはありません。一人でもちゃんとしてましたし……怖いこともあったろうに、りっぱに耐えてましたよ」


 罪悪感もあってオレが告げると――。

 目に大粒の涙を浮かべたマリアさんが必死に頭を下げてくる。

  

「す、すみませんヨシトさま!! また、この子がごめいわくをおかけして……それなのに、また助けていた……だい……うッ、ううぅッ……!」


 気持ちが高ぶったせいか。最後まで言えなかったマリアさんを――オレは優しく抱きよせた。

 すると……マリアさんの柔らかな体温が、じかに腕に伝わってくる。


 ひさしぶりに感じた、なつかしくほのかな暖かさに――。

 オレはようやく、心から――『帰ってきた』って思えた。





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