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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第七章
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和平の宴

 今日もう三度も来ることになった謁見の間にて――。

 オレはシメオンさんの助言通り、ウェルキン公に領地をいただきますって伝えてた。



「大物見台周辺の地――分不相応でありますが、お言葉に甘え、わがオリンポス教団がありがたく受け取らせていただきます。公の寛大な寄進には信徒を代表して心からの感謝を……」

「…………そうですな。たしかにあの土地は、ヨシトどのらにふさわしいかもしれません」


 教祖っぽい態度で話を受けたオレに、シメオンさんもむっつり同意する。

 もちろん、この態度は演技だ。あっさり賛成したら、むこうの意図を読んでると知られてしまうかもしれないし。

 だから、ウチの教団とモメたくないからガマンって口調で話してる。


 しかし……さすがベテラン外交官。すばらしい役者っぷりですな~。


 ――で、名演技はウェルキンさんにも通じたっぽく、腹黒公もかなりごきげんな感じだ。

 有能執政さんに一泡吹かせられ、気分がいいらしい。


「おお、賢者と呼ばれるあなたも賛成してくださいますか! それはなにより!」


 と、うれしそうにうなずいている。

 そして第一の問題、ゴーディア・モーラ間のめんどうが片付いたとこで――。



 ――今度は竜騎士たちを招いて、ベルガとゴーディアの間の和平交渉がはじまった。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 竜騎士の国と騎士の国の交渉は……あっさり終わった。もちろん、いい意味で。


「先の提案さえ通ればゴーディアから異論はありません……この条件で和平成立。相互不可侵条約の締結といたしましょう」

「……ふむ。この程度の修正なら問題なし。族長も了承されましょう」

「ああ、わかった。それじゃ、その案でこちらも和平を飲ませてもらう」

  

 ウェルキン公からの修正案にシメオンさんが目を通し、ベルガに大きな害は無さそうだと判断してうなずく。

 そのようすを見たフェリペくんが修正案を飲んで――これで和平は成立だ。

 敵国同士の仲直りだしもっともめるかと思ったけど、とんとん拍子に話は進み、あっさり交渉終了。


 ……う~む。いったい長年の敵対関係とはなんだったのか?


 ま、これもシメオンさんがフォローしてくれたからかな?

 シメオンさんがゴーディアの出方を予想して練り上げた和平案に苦情やら訂正はほぼ入らなかった。

 あとは――ウェルキン公がベルガにあまり関心なかったのも、あっさり決着の理由かもしれない。


 さて――といったところで、ようやく今回の交渉は完結。

 条約文書の紙にぎこちなくサインしてるフェリペくんを見ると、肩の荷が下りた気がする。

 そんな達成感はみんな同じっぽく、こっちも署名を終えたウェルキン公が笑顔で言った。

 

「和平を記念し、祝杯をあげようではありませんか? ささやかですが宴の準備などいたしましょう」

「ふむ。ありがたい話です。実り多き交渉でしたが、少しばかり長引きましたので、実のところ腹の虫が悲鳴を上げております」


 腹黒美形公のさわやかなお誘いに、シメオンさんが冗談で応じる。 

 う~ん……オレとしちゃさっさと休みたいし、早くコルクの里に帰りたかったんだが……。

 ……ま、これもお仕事のうちか。 

 小さなとこで友好関係をアピールしておくのも、外交だと重要なことなのかもしれないし。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 てなわけで――ゴーディア公宮『銀蔦の間』で祝宴が開かれた。

 出席者はベルガ代表の竜騎士、モーラ代表のオレたち、それにゴーディア騎士のみなさん。

 一同の前でウェルキンさんがグラスをかかげ、乾杯の音頭をとる。 


「三か国のすばらしき和平を祝して乾杯!」

「「「「……乾杯」」」」


 こうして始まった宴会――ウェルキン公はささやかと言ってたけど、それなりに豪勢だ。お酒なんか樽で置かれてるし、おいしそうな料理も卓上いっぱいにならべられてる。

 なんといっても、あいかわらずお肉がうまい。焼き加減も火を通し過ぎず、やわらかジューシーな食感にほっぺが落ちそうだ。

 宮廷料理の味付けなのか、酸味のあるソースの味付けがより肉のうまみを引き立てている気がした。



「ふ~ん。微妙な味ね。あたしはもっと気取らない感じが好みなんだけど」


 とかなんとか――少し離れたむこうの席では、エルフ幼女がエラそうな感想を言ってる。 

 しかし言葉のわりにむちゃくちゃペースが早い。見る見るうちにお皿からお肉が消え――、


「お肉おかわり! また注文するのがめんどうだし、二皿ちょうだい!」


 目を丸くした給仕の召使いさんに、ずうずうしく要求をしてた。

 ……う~ん。完全にお料理を満喫していますなあ。あのエルフ幼女さん。

 すでにポンポコリンなおなかに、まだつめこむ気なのだろうか?

 

 と、そんな感じに全力エンジョイする幼女エルフがいる一方――宴会に参加したゴーディア騎士たちは楽しそうじゃない。

 領土を奪われたことがまだ不満なのだろう。最後に土地をかっさらってったオレへの視線がキツイ。



 ……ふん。気にするもんか。どうせコルクの里に帰ったら、もう会わない人たちだろうし。



 と、このときは考えてたけど――。

 そんなオレの予感は、すぐ外れることになる。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 

 夜も深くなり――宴は騒がしくなる。

 なんやかんやあっても、おいしい酒と料理で気分が明るくなるのだろう。

 大量の燭台で照らされた宴会場に酒のにおいがただよい、酔った騎士たちのほがらかな声がひびく。


 ま……こういう雰囲気は別に嫌いじゃない。楽しそうな他人を見てるのは気分がいいし。


 ただ――、



「ヨシトどの、我が国の料理は口に合いますかな? 歓待にご不満などありませんでしょうか?」

「……え、ええ。おかげさまで。楽しませていただいております」

「おお。そうですか。それはなにより。では遠慮なく召し上がれ。新たな料理と酒もどんどん持ってこさせましょう」


 そんな中、オレは――お隣りの席、妙にすり寄ってくるウェルキン公にうんざりしてた。

 あまり近づきたくない腹黒さんだけど、せっかく交渉がうまくいったとこで気分を悪くさせるわけにもいかず……。

 ヘルメスさんの交渉術をフル稼働し、おせじを言い、愛想笑いを顔にはりつける。

 おかげで、せっかくの料理も酒も落ち着いて味わえない。


 むぅ……これだから立場ってメンドい。教祖になんかになるのも考えものだよな。

 あっちの世界にいたときもコミュ障ぎみで、飲み会づきあいとか苦手だったし、これからもこういう感じならユウウツすぎるぞ。


 ――なんて、オレは内心げっそりしてた。



 さて、ついでにいうと――その場にはウェルキン公だけじゃなく妹姫さんもいた。

 オレはゴーディアの美形VIP兄妹に左右を囲まれていたのだ。

 

「……さ、クラウディア。ヨシトどのにお酌を」

「は、はい……兄上。……よ、ヨシトどの、どうぞ」

「あ、これはどうも……ありがとうございます」


 おめかししたクラウディアさんが、慣れない手つきで泡立つ麦酒を注いでくれる。

 初めて見る姫っぽいドレス姿も新鮮で目の保養だけど……なんとなく女騎士の姿のほうがクラウディアさんっぽい気もする。  

 

 ――で、そんなクラウディアさんは、慣れない姿のせいか顔を紅くしながらも、オレに言った。


「あの……ヨシトどの。よろしければ再度お手合わせを。そのときまでに絶対腕を上げておきます!」

「……え、ええ。また今度、機会がありましたら」


 当分こっちには来ないだろう――と、思いつつも無難に話を合わせるオレ。

 そんなオレに真剣な目をむけ、クラウディアさんは強い口調で重ねて言う。


「必ずお願いします! 約束ですよ!」


 お、おお……あいかわらず武術に熱心ですな。

 そんなバトル脳の妹さんに対し、ウェルキン公が口をはさんでくる。


「これ、クラウディア。年ごろの男女がする再会の約束が、手合わせの依頼とはなげかわしい」  

「あ、兄上……!? いえ、わたしはそういうつもりでは……!」


 公の言葉に妹姫があわてて、会場の騎士たちから笑いが起こった。

 なんか妙な冗談だなと思いつつも、オレは空気を読んでいっしょに笑う。

 

 と、まあ、がんばってとりつくろって教祖の仕事をしたつもりだったけど――。

 このときのオレはウェルキン公がなんで妹さんを近づけて来たのか、わからないままだった。

 後から思えばうかつだったんだが……、


 

 ――そんなニブすぎたオレを少し離れたとこでシメオンさんが心配そうに見ていた。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 その後、少しして宴会も終わり――、

 オレたちは翌日の出発に備え、公宮内に用意してもらった部屋に戻る。



 どさり……。



 行儀悪くふかふかベッドの上に体を投げ出すと、疲れがいきなり出てきた。ついでにここまでの旅路が走馬灯のように浮かんでくる。 

 思えば里からゴーディアまで来て、依頼を受けてベルガに行って、またゴーディアー想像してたより長い日程になったな。

 初めてアテナさんと離れて旅した異世界――騎士と戦うことになったり、竜騎士との峠バトルとか、いろいろあったけど、実りのある旅になったんじゃないだろうか?



 ……あ、でも勝手に土地なんかもらって、アテナさんに怒られるかもしれない。

 けど……これは恩人シメオンさんの願いでもあるし、しょうがないよな?    



 一瞬、まぶたに浮かんだアテナさんの冷たい怒り顔。オレはむりやり忘れ、翌日のことを考える。



 ……ああ。そうだよ。明日にはようやくコルクの里に帰れるんだ!


 長老のヨブさん、一番弟子のロックさん、元商人のアンディさん、クマ獣人のマークスさん。布教の相棒のアテナさんに……そしてなにより最愛のエルフ美女マリアさん。

 里で待ってる人たちを思い浮かべると、安心感が腹の底からじんわり湧いてきた。

 すると――ほっとした気分にたらふく飲んだ酒、たっぷり食べた料理のせいもあわさって、眠気が押し寄せてくる。

 そして、まぶたの重さを感じた次の瞬間――。



 ――オレはすとんと眠りの世界に落ちていた。 

 



  


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