黒鷲槍騎隊
ベルガ・ゴーディア国境近くの田園地帯にて――、
電撃ポンポコ部隊――ヴァジュラトゥーンは大暴れしまくった。
カラフル電気たぬきの大活躍で、からんできた乱暴騎士たちはことごとく地面に転がっている。
ちょっと予定外のできごともあったし、自爆で倒れてる騎士さんもいるけど……ともかく、ふりかかってきた火の粉ははらいのけられた。
うんうん。これにて一件落着だな。
オレは満足してライキリーをさやにおさめる。
一方、うしろに下がり、はらはらしつつオレの戦いを見守ってた竜騎士たちは――、
「なんて……かわいらしく……そしておそろしい……」
ぽんぽこ電撃アタックをくらって、ぷすぷす煙をふいてる騎士たちの姿に震えていた。
とくにフェリペくんなんかは真っ青な顔になっておびえている。
――ん? どうしたんだろう? なんか急にオレから距離を取り出したけど?
「……い、いや。教祖さんにケンカを売ってたら、おれたちもこうなってたわけだろ? 魔獣や神獣相手ならともかく、あんなしまりのねえポンポコ連中にボコられたんじゃ死んでも死にきれねえよ」
「……ああ、まったくだ」
「騎士ども……かわいそうに……」
竜騎士たちは今までの仲の悪さも忘れたようにゴーディア騎士たちに同情していた。
……あれ? なんかポンポコ小隊、思ったより恐れられてるみたいだな?
対人用ヴァジュラクーンの見せた予想以上の効果――オレが首をかしげてると、シメオンさんが肩をすくめて言った。
「おのれの強さに自信を持つものにとって、これほど恐ろしい相手はいないでしょうな。あれほどかわいらしく、まったく強そうに見えない生物に倒されるなど……誇りにかけても許せないでしょうし」
む~、そういうもんなのか?
あのアテナさん大喜びな見かけにも精神兵器としての効果があったみたいだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
てな感じにオレがタヌキ部隊の力に感心してる一方で――。
むこうでは問題児のエルフ幼女が竜騎士たちをおどしていた。
「あんたら。前みたいにからんできたら、あのしまりのない珍獣――じゃなかった、我が教団の神獣ヴァジュラクーンをけしかけるからね! それがイヤなら、あたしたちにちゃんと従いなさい!」
「お……おう」
「は、はい!」
アリアちゃんの脅迫におびえるフェリペくんと竜騎士たち。
その反応に気を良くしたのか、ふんぞり返ったエルフ幼女はさらにひどい要求をした。
「ふふふ。いい返事ね。それならまず、あんたらのぶんのピッタをあたしによこしなさい!」
「……え? ピッタ?」
「そうよ。あたしのぶんとシメオンおじちゃんのぶんはさっき食べちゃったから――なんか文句ある?」
「い、いえ! ございません!」
「ど、どうぞ! こちらを!」
そんな非道な恐喝にも思わず応じてしまう竜騎士たち。
お弁当として持たされた肉入りクレープ――ピッタをびくびくしながらエルフ幼女に差し出している。
あーこらこら。アリアちゃん、いくら好物だからって他人から食べ物をおどしとっちゃダメですって。
オレの召喚獣を勝手にユスリのネタに使われてもこまるし……。
ていうかシメオンさんのぶんまで食べてたのかよ。おそろしい食欲幼女だな……。
「別にいいじゃない。あんたのものはお姉ちゃんのもの。お姉ちゃんのものはあたしのものよ」
……う~ん。なんとなく身内あつかいしてくれてるっぽいのはうれしいんだけど……。
やっぱ納得いかないなぁ、そのつごうよすぎる変形型の一方的博愛主義。
といった感じのゆるいやりとりのあと――、
オレたちの会話をにこにこ聞いてたシメオンさんが、こういって皆をうながした。
「――さて、そろそろ先を急ぎましょう。騎士たちはしばらく動けなさそうですが、彼らが帰らぬことに気づき新手がやってくるかもしれません」
あ……そうだった。
シメオンさんの言葉に我に返ったオレたち。
シビレてる騎士たちをあとに残し、オレたちは機龍、竜、馬――三種類の移動手段を駆って再出発する。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
そこから、しばらく道を急ぐオレたち。
さいわいなことに途中で巡回する騎士に出会うこともなかった。
かくして昼過ぎ、城壁も見えてきてゴーディアの公都もまもなくといったところで――、
――目のいいフェリペくんがなにかに気づいた。
「おい……あれ!?」
土煙がむこうからやってくる。国境警備の騎士たちが立ててたのとそっくりな土煙だ。おそらく――これも馬に乗った騎士たちが立てたものだろう。
ただ先ほどとはその規模が大きくちがう。城壁の入り口である巨大な門から飛び出してきた一団――人馬のかたまりが巻き上げる土ぼこりは、さっきの倍くらいの高さと幅があった。
でもって――、
その一団はどんどんこっちに近づいてくる!
「止まれ! きさまらーーッ!」
かけられたのは殺気立った大声だった――重く低く内臓を震わせるような迫力がある。
至近距離だというのに、やたらどなるおヒゲの初老騎士さん。どうやらいげんあふれるこのオジイさんが今度の騎士たちのトップのようだ。
「そこに直れ! 問いただしたいことがある!」
耳がきんきんするような怒声の中――40人くらいの騎士たちがオレたちを包囲していく。
おお……さすが本拠地だけあって数が多い。
そしてムダに洗練されたムダのないムダ……ではない動き。一糸乱れぬ整然とした動作である。
六人のオレたちをあなどらず、騎士たちはあっというまに包囲を終えていた。
「おお……あの漆黒の装い。黒鷲の紋章――それに槍持ちということは……まさか黒鷲槍騎隊!?」
全員にお酒の名前がついてそうな黒づくめの服装、黒い旗の紋章などなど――騎士たちの外見を見て、シメオンさんが仰天したようにつぶやく。
「――な?!」
「てことは、あのオッサンがガルフォ将軍?! ゴーディア最強部隊のおでましかよ?!」
シメオンさんの言葉に竜騎士Aさんとフェリペくんがあわてた。
ふむ……『黒鷲槍騎隊』ってのは、どうやら有名な騎士団らしい。
む、負けん気の強い竜騎士にこんな反応させるとは、相手もなかなかのツワモノみたいだ。
で、その黒鷲隊の将軍ガルフォさんは――、
「国境警備の騎士どもを襲ったふらちものとはおぬしたちであろう! 三人の竜騎士にエルフの子どもと老人――それに妙な毛皮をまとったあやしげな男、まちがいないな?!」
「お待ちください、これにはこみいった理由がございます」
『ちがいます』と言いたいとこだったけど……言い逃れできる状況じゃない。
竜騎士×3+エルフ幼女+毛皮の男なんて一行、他にいるわけないしね。
だからシメオンさんはあわてて前に出て事情を説明しようとする。
だが……ガルフォ将軍はこっちの言うことなんかまるで聞いてなかった。
「理由だと!? 国境警備の騎士どもを打ち倒すのにどんな理由がいるというのだ?!」
「それは――彼らが我々を不法に拘束しようとしたからで……」
「ふん! やましいことがなければ抵抗などせねばよかろう!」
なんて感じでガルフォ将軍――取りつく島もない。
……いやいや。あのわからずやのゴロツ騎士相手じゃ、抵抗しなきゃ斬られてましたってば!
と、さすがに言い返そうとしたとこで――急に疑問がわいた。
あれ? どうしてそこらへんの事情を知ってるんだ?
フルボッコにされた騎士か、あるいは彼らを見つけた人が使者でも送ったのだろうか?
でも――最短距離を急いできたオレたちを追いぬいた人なんていなかった。それじゃ事情を伝えられないはずだよな?
――そんなオレの問いにガルフォ将軍はふんぞりかえって答える。
「『国境警備の一隊が竜騎士より襲撃を受けた』との報告が伝書鳩で送られてきてな。異変の発生を聞き、演習から帰った我らが急きょ待ち受けておったのだ!」
ああ、なるほど『伝書鳩』か。こっちの世界にもそんな便利なものがあったんだな。
でもってそのせいで、こんなに殺気全開のお出迎えだったのか――オレは将軍の答えに納得する。
だけど疑問が解決したからって、目の前のピンチな状況までどうにかなってくれるわけじゃない。
大人数の騎士に完全に包囲され――オレたちに逃げ場はなかった。
むう……さすがに、この人数差はきびしいかもしれん。
オレ一人なら包囲をやぶって逃げられるかもしれないけど……それじゃダメなんだ。
重要人物で恩人のシメオンさんを残していくわけにもいかないし、最愛のエルフさんの妹――アリアちゃんも残していけない。
この二人を守るだけでも手いっぱい。ましてそこに和平成功のため竜騎士たちも騎士たちも怪我させないって条件も加わると……。
――う~ん、これはちょっと無理ゲーじゃなかろうか?
いくら加護があるとはいえ、全力で戦ってもぎりぎりの相手だろうし。
いやはや……うかつだった。本拠地に無造作に近寄りすぎたみたいだ。
でも、まさか伝書鳩で通信してるなんて……ローテクをなめてたなあ。
と、オレが悔やむ一方で――、
「く……これはマズイぜ、伯父貴!」
「ああ。さすが公国最精鋭――逃走すらむずかしいようだ」
周囲を見回していうフェリペくん。
甥っ子に応じるシメオンさんの声にもよゆうがない!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
全員そろったすきのない騎士たちの構え――隊列はびっくりするくらい等間隔で整然として見事だ。
そこからオレたちに黒鷲隊からバチバチを殺気をふくんだ視線が飛んでくる。鋭い槍の穂先といっしょに向けられると実におそろしい視線だった。
ふーむ。昔から仲の悪い竜騎士に味方をボコられて、そうとう頭に来てるらしいな。
――といったふうに、おっかない黒鷲隊をながめつつ、オレは対応策を考えていた。
む……とりあえず最初の一団を電撃狸小隊で迎撃してみようか?
というより他に手はない……ケガをさせずに勝つ方法なんてあれ以外にないし。
でも、アレって追尾機能とか便利な能力があるぶん、同時に出せるのは二十体が限度なんだよな。
それに、ついさっき一度出したばっかりだから、うかつにぽんぽん出すと戦場で失神しかねないぞ。
などなど――オレはいろいろ考えてみたが解決策は浮かびそうにない。かといって説得が通じそうな相手でもなかった。
ザ・がんこジジイって感じのガルフォ将軍も配下の騎士たちも仲間がやられたことで頭に血が上ってる。
あの感じじゃ、こっちの話なんて聞いてはくれないだろう。
あれれ……マジでヤバそうだぞ。どうしよう?
最悪の場合、気絶させるだけじゃすまないかも……でも、それじゃ和平交渉どころの騒ぎじゃなくなるし。
オレが悩んでる間にもじりじりと包囲の輪が狭まり、合図を待つように騎士たちが視線を交わし合う。
竜騎士たちも青白い顔で武器を手にしたが多勢に無勢。かといって殺気立った騎士を前にして、降伏ってのも無理っぽい感じだ。
と、そこで――竜騎士たちのようすを見たガルフォ将軍が言った。
「――む、武器をかまえたな! おとなしくとらわれる気はないということか!」
「いえ! ちがいます! そもそも我々はベルガとゴーディアの和平のために……!」
ここにいたっても、なんとか争いをおさめようとするシメオンさん。
しかしガルフォ将軍の耳にその言葉は届かない。
「問答無用! いいわけはあとで聞く! もっともそれまで生き延びておればだがな! みなのもの――突撃用意せよ!」
そして、ガルフォ将軍の手が上げられ――攻撃が開始されようとした!
く……なんてわからずやばっかの国なんだよ! ゴーディアは!
ああ、もうしかたない! このままじゃ竜騎士たちもアリアちゃんもシメオンさんも――みんなやられてしまう! それよりは和平が台無しになっても、みんなの命のほうが……!
と、オレがろくでもない覚悟をしかけたとこで――、
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――ヒヒヒィーン! パカラッパカラ、パカラッ!
高々と馬のいななく声。くわえて、ひづめの音がぐんぐん接近してくる。
その場にいた全員の耳にとどいた音の主は――、
「――待てッ! 皆の者ッ!」
……周囲に凛とした声を響かせた。
そして、さらにもう一度――、
「待てッ!!! ガルフォ爺やッ!」
「……ひ、姫さまッ!?」
「姫さま……だと?!」
ガルフォ将軍を驚かせ、騎士たちへの攻撃指令を止めさせた声の発生源は、こっちにむかってくる細身の騎士――いや、女騎士さん。
全力で馬を疾走させ、やってきた人物の名を……オレは知ってる。
彼女の名はクラウディア――この国の主ウェルキン公の妹姫さまだ。




