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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第七章
84/110

騎士VS竜騎士

 ベルガ、ゴーディア国境付近。

 山のふもと、畑の広がる農村地帯にて――、



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「……さっさと行こうぜ。ここらであまりうろうろしたくねえからな」


 なんだか居心地悪そうな竜騎士三人を代表し、フェリペくんが言った。

 ……ん? どうしたんだろう? そんなにそわそわして……?

 首をかしげたオレたちにフェリペくんはこう続ける。


「一帯を治めてる騎士と竜騎士おれたちは折り合いが悪くてな。長々といるとめんどうなことになる」


 ああ……そういや竜騎士たちが里に下りてきて悪さをするんで、ゴーディアの人たちがこまってるって話をきかされたっけ?

 作物を取られたり、畑を荒らされたりとか……う~ん。昔話の鬼みたいな悪さだなあ。

 これから和平――つまり仲直りに行くんだし、のちのち通りすがりの風来坊とか、さすらいの騎士に退治されそうな悪さはちょっとやめといたほうが……ねえ。


 そんな風にやんわりたしなめたオレに、エルフ幼女がよけいな付け足しを入れてくる。

 大事そうにシメオンさんに抱えられたアリアちゃんは、大事そうに飛竜の卵をかかえたまま、相変わらずのとげとげしい口調で言った。


「そうよそうよ! このドロボー、押しこみゴートー!」

「おいこら! だれが押しこみ強盗だ!」


 当然、フェリペくんは問題児トラブルメーカーエルフの言葉に怒った。


「だいたい、他人の土地で勝手に作物作り出すほうが悪いだろうが! ここらはもともとオレたちの土地なんだぞ! それも親父が族長になってからは畑をつぶしたり、作物を脅して奪ったりなんてマネもしてねえ! 土地の使用料として収穫の何割かを受け取ってるだけだ!」


 ……え? あれ? 聞かされてた話と全然ちがうぞ?

 目を白黒させてるオレに知恵袋のシメオンさんが解説してくれる。


「……ふむ。立場のちがいからくる考え方のちがいでしょうな。農耕民であるゴーディアからすれば開拓した土地は自分のものという意識でしょうが、山の民であるベルガからすれば土地を奪われたともいえる――どうやら、ゴーディアからの意見ばかりが世に出て、わたしはそれをうのみにしていたようです」

 

 と、すまなそうに言うシメオンさん。 

 ……ふ~む。なるほど。やっぱ争いごとって片方の話ばっかり聞いてちゃダメなんだな。

 ちゃんと両方の意見を聞かないと……。 

 なんて、あたりまえの感想をいだくオレ。

 そんな会話をしながら馬と機龍と竜を進めてるうち――、 


 フェリペくんの不安が現実のものとなる。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 

 


 山を下り、ふもとについてから少しして――。


 ゴーディアでは作物を運ぶ馬車のために道が整備されていた。

 オレたちはその街道をそれぞれの乗騎にまたがって行く。


「ん? あれは?!」


 すると――遠くで土ぼこりが立つのが見えた。

 街道の向こうから近づいてくる土煙、目ざとく見つけた竜騎士たちに緊張が走る。


「――ちッ、代官所の連中め、いつもより早いな。もうきやがった!」


 フェリペくんに忌々しそうにつぶやかせた、その土煙の正体は……。



 全員が馬に乗って完全武装した騎士の一団だった。

 

「とまれ! きさまら、止まれ!」


 竜を警戒したのか、やや離れたとこで十人ほどの騎士は馬を止める。

 そして、そのうちの一人――先頭に立つ騎士が居丈高な口調でこっちに呼びかけてきた。

 こっちも道をふさがれてるんで、その指示に従わざるをえない。

 ほんで、オレたちが足を止めると――、 


「この蛮族ども! なにをしにきた!?」


 さっき呼びかけてきた騎士がケンカ腰でたずねてきた。その口調にオレはちょっとカチンとくる。


 ……むう。なんだよ? いきなり失礼な。それでも騎士なのか?


 騎士っていうと立派なふるまいをしそうなイメージがあったから、正直幻滅だ。 

 ほんでもって乱暴に声をかけてきたヤツは――中年くらいで他の騎士よりも年上っぽい。かぶとにツノがついてるとこから見ると隊長さんだろう……ツノ付きは隊長機って昔から決まってるし。


 でも……ずいぶん乱暴で隊長らしからぬ発言だよな? 『土地を奪われた』というフェリペくんの話を聞かされたあとだと印象もだいぶ変わる。相手をいきなり蛮族呼ばわりするとかロクな相手じゃなさそうだぞ。


 そんな感想を抱いたオレと竜騎士一同は、かなりイラッとして騎士隊長をにらむ。

 ただ、それでも、これから和平交渉――仲直りの話し合いに行くのだからと自重するオレたち。


 ――と、そこでシメオンさんが口をはさみ、事情を話す。 


「実は……かくかくしかじかこういうわけで、わたしどもモーラの人間が、ウェルキン公からのご依頼で和平の仲介をおこなっておりました。こちらの竜騎士は和平の件でベルガより送られた使節です。ゴーディアに害をなそうとするわけありません」



 なんて、さっぱりくっきり明快にシメオンさんは説明してくれたのだが――、



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 シメオンさんの親切ていねいな説明――しかし騎士隊長は、ぷいっとそっぽを向いた。


「……ふん。そんな話など聞かされておらん。だいたい公がなぜ、おまえらモーラの商人風情に和平の仲介など頼むのだ?」


 そんなことを言って耳を貸そうともしない騎士隊長さん。


 ……ありゃりゃ。連絡不十分だったか? 縦割り行政の弊害だろうか? 生前勤めてたブラック企業でも、お役所相手の仕事じゃちょくちょくこういうことがあって……ホント大変だったなあ。

 ……いや、そもそもウェルキン公、交渉がうまく行くとは思ってなかったからなのかもしれない。

 それなら一々連絡する必要はないわけで――あの腹黒公爵そういうとこだけ合理的そうだし。

 

 と、オレは目の前のややこしい状況の原因を考えてた。

 一方、騎士たちは敵意あふれる態度でこっちに接してくる。

 

「公の名をかたるなどあやしいヤツらめ! 詰所に来い! 事情がわかるまで牢に閉じこめておく!」


 わからずやの騎士たちはムチャなことをいい、剣まで抜いてこっちに向けてきた。 

 う~ん。職務熱心なのかもしれないけど……これはちょっとやりすぎじゃないか?


「いえいえ。ちゃんと公に連絡をとっていただければわかる話で……」


 それでもシメオンさんは穏便にすまそうと言葉を重ねるが――、


「おい、こら! てめえらのほうから和平を持ちかけてきたんだろうが!? なのにこの無礼な態度はどういうこったよ!?」 


 シメオンさんの配慮を無視し、フェリペくんが荒っぽく言い返す。

 ……ま、あんまりほめられた態度じゃないけど、気持ちは同感だ。

 しかし騎士隊長はどなりかえされたことで、さらに怒りが増したようす。


「なんだと!? そもそも我々がなぜ蛮族どもに和平など持ちかけねばならぬ!? 農地としては使い道のない山に情けで住まわせてやってるというのに、収穫を奪おうとする連中と和平など結ぶものか!?」

「てめえ! そっちこそ他人の土地を勝手に耕して奪ってった泥棒じゃねえか!」

  

 騎士隊長の暴言にフェリペくんもキレて――竜騎士たちも竜骨の槍の穂先を騎士にむけた。


「ふん! 平地での戦を避け、山に逃げ込むしか能のない卑怯な蛮族どもに何ができる!」

「んだと?! 数で押しこんでくる卑怯者はてめえらじゃねえか! 山の中での一対一じゃボロ負けしてるヘタレ騎士どもがエラそうなこと抜かしてんじゃねえ!」


 と、殺意のこもった視線と会話をバチバチかわす騎士と竜騎士たち。

 たがいに武器をかまえ、いきなりドンパチはじまりそうな気配にオレはドンびきする。


 ……ああ、もう。どうしてこっちの人はこうもオラついてるんだろうか?

 もうちょっと穏やかに会話とか交渉とかできないもんだろうかね。

 なんだか……いつもいつも行く先々で暴力沙汰ばっかな気がするぞ。


 そんなオレの感想にシメオンさんがため息をつく。 


「……どこも治安がよくありませんので、互いに互いを警戒しておりますからな。人心の乱れること麻のごとしです。おかげでわたしどものような人間にはやりづらい世の中ですよ」


 はあ……有能賢明なシメオンさんも、いろいろ大変なんですね。


 一方、騎士と竜騎士たちのにらみあいはさらにヒートアップしてた。

 その火の粉はこっちにも飛んできて――、

 

「よし! 抵抗したな! さいわいなことに相手はわずか三人だ、やってしまえ!」

「こいつらはどうします? 子どももおるようですが……?」

「公の名をかたった連中であるし、行動をともにしている以上はヤツラの仲間だろう。ならば子どもだろうと切り捨ててかまわん!」



 ――なんと! 騎士たちは幼女のアリアちゃんにまで剣を向けてきた!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「おじちゃん!」

「なんと無体な……!」


 剣とむきだしの殺意を向けられ、アリアちゃんは思わずシメオンさんにしがみついた。

 そんな理不尽騎士らにフェリペくんもあきれ顔だ。


「女やガキにも容赦なしか……てめえら、さすがにそいつはねえぞ?」

「うるさい! きさまらが抵抗するのが悪い!」


 しかし頭に血が上った騎士隊長は逆ギレ気味に言い返してくる。

 もう後には引かない、引けない――って感じの怒りっぷりだ。 


 ……あちゃあ。このままじゃガチの刃傷沙汰だな。和平どころの話じゃない。

 でも……双方にケガ人や死人が出るのはヤだし……メンどいけどしょうがないか。 


 出番が来たことを悟ったオレは、小さくため息をついた。


 ……やれやれ。こういうときのためにそなえておいた『例のアレ』を使うときが来たようですな。

 モメごとは嫌いだし恨みを買うのもヤダから、基本あんまりケンカとかやりたくないんだが……。

 でも、ちょっとばかしムカつく相手だから……まあ、いっか。

 どうせ『アレ』を使えば、死人やひどいケガ人は出ないはずだし。


 あっさり軽い気持ちで決心すると、オレは一歩前に出た。

 そして竜騎士たち――とくにフェリペくんに向け、オレはこういう。 


「――みなさんは使者の任があるでしょう。ここはわたし一人に収めさせてもらえませんか?」

「おい! さすがにこの人数相手に一人じゃ無理だぜ!?」

 

 オレのことを気づかったのかフェリペくんは引いてくれそうもない。

 しかし、そこですかさずシメオンさんがフォローを入れてくれる。

 

「フェリペ。だいじょうぶだ。ヨシトどのにおまかせしなさい」

「でもよ伯父貴! あいつ騎竜の腕前はたしかだが、ケンカは強いのか? 騎士どもはけっこうやるぞ。なみたいていの腕じゃ……」


 何度か小競り合いがあったからなのか、騎士たちの力を知るフェリペくんと竜騎士たちは不安そう。

 しかし――以前、オレが素手で騎士たちをフルボッコにしたとこを見てるシメオンさんは断言した。


「ヨシトどのの強さはわたしが保証する」

「そうね。そのていどのヤツらなら、そこの変態教祖で十分よ」


 さらにアリアちゃんも自信満々に同意する。

 堂々とした二人のようすにフェリペくんは、しぶしぶ引き下がった。


「ちっ……でも危なそうなら、すぐ加勢に入るからな! 伯父貴!」

「ああ、もしものときは頼むよ。もっとも、そうはならないだろうが……」


 なんて感じに甥っ子を抑えてくれたシメオンさんに感謝だ。

 一方、前に出たオレに対し――騎士たちは青筋を立ててプルプル震えていた。


「たった一人……だと?」

「ずいぶんとなめてくれたな!?」

「騎士への侮辱は万死に値する――容赦はせんぞ!」


 ……ん? 前にもどっかで騎士に聞かされたようなセリフだな?

 そんなたいそうお怒りの騎士たちに、とびっきりムカつく教祖スマイルをあげたオレは――、



 ――愛刀『ライキリー』を抜刀する!

 

 

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