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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第六章
81/110

族長と執政と……

 竜騎士の本拠地ターク=サッキ、族長の館にて――、



「…………………………」

「………………」



 意味深な会話をしたきり、シメオンさんと竜騎士の族長スコールさんはにらみあうばかり。

 しびれを切らしたフェリペくんが、どなりつけるように問う。


「おい親父! どういうことだよ!? このオッサンの知り合いなのか?」


 うんうん。それはオレも聞きた――――って、まてよ?! 

 フェリペくん、今、スコールさんを親父って言ったよな?! 

 てことはフェリペくん、族長の息子さん……なのか? 

 ……なるほど。そういえばたしかに体型が似てる――そして里の人に敬われてるわけもわかった。


 ま――だけど、そんなことどうでもいい。大事なのはシメオンさんと竜騎士族長の因縁だ。

 フェリペくんのことはばっさり無視して、オレはシメオンさんに視線を送る。



 すると――シメオンさんが口を開いた。



「…………あの男。竜騎士の族長スコールはわたしの妹の夫――我が義弟なのです」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


「――な、親父が義弟?! てことは、そのオッサンがおれの……」


 竜騎士の長スコールさんが義弟だというシメオンさん――その言葉に驚くフェリペくん。しかし族長は無言のままだ。

 そんなスコールさんにはかまわず、シメオンさんは事情を語り続ける。


「スコールは、かつて傭兵として名を馳せた飛竜騎士ワイバーンライダー。ですが……そんなヤツでも駆け出しのころは金に困っておりました。そのころのヤツを下宿させていたのが、わたしの家だったのです」


 ……ほう。やっぱ族長さんは竜騎士さんだったんだな。飛竜騎士――なんか響きがすごくかっこいいぞ。

 そんなシメオンさんの回想に、ようやく族長スコールさんも重い口を開く。


「…………うむ。アッカギ山で生まれたばかりの飛竜を見つけ、あこがれの飛竜騎士になれると思ったのだが――あいにく里に飛竜を養うよゆうはなくてな。親父から『元の場所にもどしてこい』と言われて、衝動的に家出して……そこから傭兵の道に飛びこんだというわけだ」

    

 ……ふむふむ。事情は分かった。

 けど……なんか家出の理由がちょっとあれだな。

 子ネコをひろってきたあげく、親に怒られて家出――小学生みたいな展開だ。


 ――てなオレの感想はさておき、族長スコールは話を続ける。


「敵対しているゴーディアに行くわけにもいかず、その先の街モーラで隊商の護衛をしてエサ代をかせいだのだが……成長期の飛竜あやつは大食らいでな。年中金欠でひいひい言っておったよ。そんなとき転がりこんだ格安の下宿が当時商人であったシメオンの家というわけだ」


 過去を思い出したのか、なつかしそうな顔になるスコールさん。

 しかし――その表情も、すぐに少しくもってしまう。


「ワシは成長した飛竜を駆り、傭兵としてさまざまな戦場をめぐった。そのうちに名が売れ、いつしか名指しで依頼が来るようになった……だが、無敵の飛竜騎士だの空の覇者だの言われて慢心しておったのだろう。後先考えず無茶な依頼を受けて――激戦のさなか飛竜を死なせてしまった」


 ――愛竜の死を語ったスコールさんの声は沈む。


「もう戦場にはいられなかった。竜を亡くしたワシはただの一戦士でしかなく、依頼も減った。それでいて敵は多くなっていたから命の危険もある…………そんなこんなでワシは傭兵稼業で溜めた金を持って故郷に帰ることにした」


 ……ふむふむ。たしかに竜のいない竜騎士ってのもしまらない。それに飛竜がいなくなったんだから、家出を続ける理由もなくなったってわけか。   


 と、オレが納得してる間に――。

 族長スコール氏の話はかんじんな部分に近づいていた。


「しかし……帰郷するにあたって、ただ一つ心残りがあった。愛する女ができていたのだ。名前はアーニャ――行商人の兄シメオンが遠出している間、アーニャは家の仕事を引き受けていてな。わしも下宿中めんどう見てもらってるうち……いつしか二人は恋仲になっていた」


 ほう……それがシメオンの妹さんと族長のなれそめか。

 この威厳あふれる族長さんに若いころがあったなんて信じられないけど、しかし、なかなか甘酸っぱい思い出ですな~。

 んで、その先は……どうなりました?


「傭兵をやめるのと同時にアーニャを妻にし、故郷へ連れ帰ろうと思った。しかし両親を早くに亡くしてから兄妹二人きりで育ったあやつは……兄を残して嫁に来ることをいやがった」


 う~ん……ま、そりゃそうだろう。

 たった一人の家族と離れて知らない土地で暮らせって言われても、こまるにちがいない。

 でも、それじゃ――族長さんはどうしたんだろう?  


 疑問に思ったオレ、そしてフェリペくんなんかの視線が集まる中。

 族長さんはとんでもないことを口にした。



「だからワシは…………アーニャを強引に連れ去ったのだ」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 



「おふくろを連れ去った?! なにやってんだよ親父!? そりゃ人さらいとか、かどわかしっつう所業じゃねえか!?」


 フェリペくんが思わず声を上げた。外見のオラつき具合に反して、意外と常識人らしい。

 その言葉にスコールさんが恥じたようにうつむく。


 一方、妹を連れ去られた当の本人――シメオンさんが淡々と後を続けた。


「……あのときはえらく驚いたぞ。長旅から帰ってみれば家には誰もいず、扉にかんぬきもかかっていない。なにごとかあったのかと八方手を尽くして探し回ることになった」


 落ち着いた口調――だけど妙な迫力があって、だれも声をかけられない。

 そんなシメオンさんにスコールさんは深々と頭を下げた。


「…………すまぬ、シメオン。お前から勝手に最愛の妹を奪ったばかりか……死なせてしまった」


 ……は? 死なせた?!

 ただごとじゃない発言に、ビックリするオレ。

 フェリペくんも同じく驚いたようで――大声で父親に問う。 


「親父! おふくろを死なせたってどういうことだよ!?」

「寒さが体にあわなかったのだろう……この谷に来て三年過ぎ、息子(フェリペ)を生んだあとの肥立ちが悪かったせいもあってアーニャは死んでしまった…………ワシが……無理にこの谷に連れてこなければ……」


 血相を変えた息子さんに答え、後悔をスコールさんは吐きだした。 

 その、いかつい顔にぽろりと涙がこぼれている。

 どうやら――奥さんの死をそうとう悔やんでるらしい。

 

「本当に……本当にすまぬ…………アーニャの死を伝えて、わびねばとおもったが、さんざん不義理を重ねた身では、あわせる顔もなく…………」


 と、うめくようにつぶやいたスコールさん。

 そしていきなり――椅子から転げ落ちるように床に這いつくばった。


「シメオンよ。たいそうワシを恨んでおるだろう。憎んでおるだろう。それでもしかたない――すまぬ、このとおりだ」

 

 床――シメオンさんの足下に頭こすりつけ、スコールさんはわびる。


「……お、親父……」


 そんな族長の姿にぼう然とするオレたち。

 一方、シメオンさんは土下座したスコールさんに歩み寄り、抱え起こして言う。


「恨んでなどおらぬ。いや、たしかに目に入れても痛くないほどかわいい妹だ。連れ去られてすぐはお前を怒りも恨みもした。だがアーニャが亡くなる少し前、わたしに手紙がとどいてな」


「…………アーニャからの手紙……だと?」


 つぶやいて顔を上げたスコールさんへ――、

 穏やかな声でシメオンさんは語る。


「ああ。行商に手紙をあずけてよこしたよ――そこには駆け落ちした先を知られぬため、連絡しなかったことの詫びと、それに(スコール)を憎まないでくれと、お前とは深く愛し合っていて……子どももできて幸せだと書かれていた」

「駆け落ち?! アーニャが……そんなことを……?!」 


 スコールさんが口をパクパクとさせた。 

 そんな義弟さんに柔らかな笑みを向け、シメオンさんは言う。


「うむ……。あの子としても本心は、お前にさらってもらいたかったのだろう。街に残っておれば妹はわたしに気をつかって、いつまでも行き遅れのままだったろうしな。お前が連れ去ってくれたおかげで、あの子は短いながらも本当の幸せをつかめたのだ――今はそう思うことにしている」


 シメオンさんの言葉にうつむくスコールさん。

 ギリリ、音を立てるまで唇を噛みしめると、もう一度わびた。


「…………すまぬ、シメオン」 

「もう謝るなといったぞスコール。それより後でアーニャの墓に参らせてくれ」

「…………ああ、うむ。ひさしぶりに兄にあえて、あいつも喜ぶだろう」



 と、場が和んだとこで――、 

 雰囲気に飲まれてたオレたちに笑顔を向けるシメオンさん。



「私用をはさんでもうしわけありません。さ、本来の用事をすませてしまいしょうか?」 

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 シメオンさんが『本来の用事』といった瞬間、竜騎士族長(スコール)さんがあわてた。

 赤くなった目をさらしながらも、必死にいいつのる。 


「シメオン! 不義理を許してもらったばかりのところをすまんが、族長として一族に不利になることは承諾できんぞ! 本来なら、あの騎士国の使いというだけで追いかえすところだったのだ!」

「ああ。そうだろう。だが、わたしの話はベルガにとって悪い話ではないはずだ」


 シメオンさんはゴーディアとの友好条約を隠れみのにした『モーラ・ベルガ同盟』を持ち出す。

 すると――、


「なるほど。たしかに理がある――間に敵国(ゴーディア)をはさんでいるおかげでモーラとベルガは同盟しようがなかった。しかし和平条約を結んで自在に行き来できれば連携も取りやすくなるわけか?」

 

 スコールさんはかなり乗り気なようす。

  

「わかった。里の主だったものたちに話をしてみよう――おそらく皆うなずくはずだ」

「うむ。頼んだぞ」 

 


 ――協力を約束してくれた族長さんに、シメオンさんは大きくうなずく。


 


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