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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第六章
80/110

竜騎士の隠れ里

 竜騎士の国ベルガの山中深く――、


 先行する竜騎士ご一行へ、機龍に乗ったオレがついてく。

 そしてさらに後ろ――機龍を作るとき馬車を解体(バラ)しちゃったもんで、騎乗するはめになったシメオンさんがアリアちゃんを前に乗せて続いた。

 馬が竜におびえないよう少し距離を取ったシメオンさんは乗馬に慣れたようす――せまくてデコボコな山道もあぶなげない。


 ――そんな並びでオレたちはアップダウンのきつい山道をゆく。

 

 シンドイ道が続くが、ときどきキレイな景色が木の切れ目からのぞいた。切り立った山の姿はけわしいけど美しく、心をなごませる。


「おお、これはなかなか……」


 オレが景色に見とれると――ふりかえったフェリペくんが自慢そうに告げた。 


「あれがアッカギー山、むこうがミャウギ山――この景色が見えりゃ目的地まで間もなくだ。おれたちギュンマー族の里『ターク=サッキ』はすぐそこにある」

 

 ……ほう。グンマーのタカサキ――じゃなかったギュンマー族の里『ターク=サッキ』か。

 いったい、どんな場所なんだろう?

 

 

 なんて思いながら進んでるうち――、

 深い森がいきなりとぎれ――竜騎士の里が姿をあらわす。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「ここがおれたちの里『ターク=サッキ』だ!」


 と、フェリペくんが指さす方角――、

 竜騎士の里『ターク=サッキ』は、けわしい山と山の間、深く切れ込んだ谷の中にあった。 

 魔物の侵入を防ぐためなのだろう。すきまなく地面に差してならべた丸太の防壁が谷の端――里の入り口をがっちりガードしてる。 


 ――で、門には竜騎士っぽい門番(ガードマン)が二人。

 その竜騎士門番はオレたちに気づき、あわてて声をかけてくる。


「フェリペさん、そいつらは……?」

「族長への客人だ。そそうのないようにあつかえよ」


 あっさり言ったフェリペくんに門番さんはシブい顔。


「ダメです、いけませんよ。よそものを勝手に入れるなんて」

「そういうな。ここはおれの顔を立てると思って」

「むぅ……そこまで、おっしゃるなら……でも、なにかあっても責任は取りませんからね」

 

 てなやりとりのあと、重い音を立てて丸太の門が上がる。


「ようこそ。ターク=サッキへ。さあ、入ってくれ」


 そう言うなり、慣れたようすで竜に門をくぐらせるフェリペくんと竜騎士たち。 

 一方、門番はオレたちのことをにらみつけつつ通す――歓迎されてない感じだな。

 あとに続くシメオンさんも竜に囲まれた馬と同じく、居心地悪そうにささやく。


「……竜騎士たちはかなり排他的だと聞いております。招かれず里に入ったものは手ひどく痛めつけられて、追い返されるそうで……しかし、あのフェリペという青年、ずいぶん顔がきくのですな。こうもあっさり我々を中に通してくれるとは……」


 シメオンさんは見直したように言う。

 う~ん。そういえば族長とも知り合いみたいだったし。

 フェリペくん、ああ見えてけっこうえらい竜騎士さんなのだろうか?

 なんて首をかしげながら里の内部に入ってくオレ――、

 すると――、 



 キュルルルルルルゥゥ……



 急に妙な音が響き、同時に機龍の動きがにぶくなる。

 あれ……? どうしたんだ?



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 急に重くなった機龍の動き――、

 驚くオレの脳内に、ヘパイストスさんのあわてた声が響く。 

 

(いかん、ゼンマイ切れじゃ! 本来ならもう少し持つはずなんじゃが……)


 ……ああ、そういやヘルメスさん飛ばしまくってましたもんね。

 あんだけハデに動けば、そりゃゼンマイだって切れますよ。

 納得したオレの脳内――今度は商業神(ヘルメス)さんが、すまなそうに言う。


(……もうしわけありません。わたしとしたことが……) 


 いえ、いいんですよ。いちおう、ちゃんと里には来れましたから。

 でも……機龍(コイツ)のゼンマイが切れちゃったら、帰りはどうすりゃいいんです? 

 馬車は解体しちゃって他に乗り物がありません。少々こまるんですが……?


 困惑したオレにヘパイストスさんもこまったように言う。


(う~む。またゼンマイを巻いてもらうしかないのう)

 

 ……うう、イヤだなあ。またアレやらされるんですか? 

 なんて神さまと脳内会話をしてると、フェリペくんが心配そうに声をかけてくる。


「おい、どうした? お前の竜――どこかぐあい悪いんじゃねえか?」

「ご心配なく。休息に入ろうとしてるだけです。どこかにコイツを置かせていただけませんか?」


 たずねたオレにフェリペくんが里の一角、ちょっと開けた場所をあごで差す。


「おう。そこが竜の休み場だ――金気のもんでできたソイツに竜がびくつかねえよう、できるだけはしのほうに止めてくんな」


 てなフェリペくんの指示どおり、そこでオレは機龍を降り、同じく竜騎士たちも竜からおりた。

 オレを勝利に導いた機龍は体の下にひざをたたんで、いわゆる『香箱すわり』で動きを止める。


 すると――なぜかそのまわり、少し離れた場所で竜たちが同じかっこうで座った。


 ……ん? なんだありゃ? 

 首をかしげたオレにフェリペくんが答える。


「お前の機龍とやらが竜たちに認められた証拠だ。竜は力を認めた相手のマネをするからな」  


 ……ほう。それはよかった……のかな?

『香箱すわり』でネコの集会みたいに並んでる竜の集団って……なんかビミョーだけど。

 オレが抱いた感想にヘルメスさんの笑い声がひびく。


(はっはっは……かわいいものじゃありませんか。そして認められたのは機龍だけではない。竜騎士もあなたに一目おいたようです――先ほど門をあっさり通させたのも、その表れでしょう) 


 ……ふむ。なるほど。それもこれもヘルメスさんの計算通りってことか。

 少々脱線もあったけど……恐怖体験をしたかいがあったな。

 けど……『成人儀礼』でしたっけ? ……なんで、あんなキケンなことするんでしょうね? 


 あまり納得できないオレにヘルメスさんが冷静に解説する。


(集団から不要な人間を排除するため……でしょうね。危険から逃げる者はいざというとき役に立ちませんし、みえを張って命を落とす愚か者も集団には有害無益です。その点、竜騎士の『度胸試し』ではその双方を排除できる。さらに騎竜の技量の高いものも選抜できますし)


 ……へ、へえ。乱暴ですけど、あの『度胸試し』にもそれなりに意味はあったんですね。

 ヘルメスさんの冷たい分析にうなずきつつ、オレはちょっと引いた。

 一方、ヘルメスさんは淡々と、微妙な気分にさせる豆知識を披露してくれる。


(裏社会など争いが多い組織では度胸試しも過激になるそうです。ギャングのチキンレースもそうですね。日本の薩摩という場所でも、いつ玉が出るかわからない火縄銃を部屋の中心に吊るし、くるくる回しながら談笑したという例もあるそうですよ)


 うわ~、やだな~。そんな薩摩式ロシアンルーレット――略してサツマン・ルーレット。

 ……おそるべし、戦闘民族サツマ人。



 なんて脳内会話をヘルメスさんとしつつ――、

 オレはフェリペくんの案内で里の奥へ向かう。


 

 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 族長の屋敷にむかう途中に見た家――ギュンマー族のお宅はヘンテコな外見だった。

 まず……屋根の高さがかなり低い。ちらっとのぞいた感じだと、その分だけ地面を掘りスペースを稼いでるらしい。


「谷間の強風で背の高い建物は作れんのでしょう……山の寒さを防ぐにも半地下だと便利なようです」

「そうね……たしかに冷えこむわ。くしゅん!」 


 と、シメオンさんが教えてくれ、アリアちゃんがくしゃみで答えた。

 エルフ幼女の言葉通り、夕方になりかけた里には冷たい風がぴゅうぴゅう吹きだしている。 


 で、そんなギュンマー族の家――材料は竜や動物、魔物なんかの骨と皮がメイン。

 大きめの天幕(テント)が一つの部屋で、それがいくつもつながって家になってる感じだ。 

 そんな家が立ち並ぶ中、オレたちはギュンマー族の視線にさらされつつ、族長の家をめざす。



 そして――オレたちは里の中で一番大きな天幕へたどりついた。 

 

「族長に話をつけてくる。あんたらはここで休んでてくれ。そこの茶でも飲んでるといい」


 フェリペくんがざっくり言い、オレたちをとある一室で待たせて立ち去る。

 その言葉通り、部屋の中央――赤々と燃えるたき火みたいな暖炉があって、ヤカンみたいな湯沸しが乗せられていた。天井には煙抜きの穴が小さく開いている。


「ふむ。では、お言葉に甘えてお茶でもいただきましょうか? さあ、どうぞ」

「あ、どうも……」


 シメオンさんがなにかの角でできたコップにお茶をそそいでくれ、オレは礼を言って受け取った。

 浴びた谷風で体がけっこう冷えてたから、湯気の立つ飲み物と炎の温かさにほっと気分がゆるむ。 


「なかなか風情のある所ですな……ふむ、ギュンマーの民は、このような場所に……」

「ふぁあ……」


 シメオンさんは興味深そうにあたりを見回す。

 一方、アリアちゃんは暖かい部屋で眠たそう。小さな口を大きく開けてあくびをした。

 そして――しばらく部屋で待たされたのち。



「……待たせたな」



 ――竜騎士フェリペがむかえにきた。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

 


「族長がお呼びだ。おれが話をしたら……直接、お前らに会いたいと言っている」


 と、事情を教えてくれたフェリペくんのあとにオレたちは続く。 

 いくつかの部屋というか天幕を通り抜け、たどりついたのはかなり大きな一間だった。  


 松明で照らされた部屋は広く、人がいっぱい入りそう。たぶんギュンマー族の会議場なんだろう。

 しかし、そこでオレたちを待っていたのは一人だけ――その人物は部屋の一番奥、一段高いとこで竜の頭骨付きの椅子に腰かけていた。


 む……ギュンマー族の族長さん……なんだろうか?

 すらっと背が高く、年は五十くらい――鋭い目つきはフェリペくんや仲間の竜騎士たちと同じ。 

 たぶん、この人も竜騎士だったんだろう。 



 ――ほんで、その初老男性(オッサン)は重々しく口を開き、まずオレに声をかけてきた。



「族長のスコールだ。ヨシトとやらフェリペから話はきいたぞ。なんでも、あやつを峠で破ったとか?」

「いえ。運がよかっただけです」


 と、返したオレだったが、そこから先、どう話をすすめようか迷った。 

 すると――、


「………………ヨシトどの、ここはわたしにおまかせあれ」

 

 会話をさえぎり、シメオンさんが前に出る。

 こういうのはシメオンさんの担当だと思ってたし、オレは安心して言うとおりにした。



 だが――、

 シメオンさんの口から出てきた言葉は予想外のもので――、




「……ひさしぶりだな、スコール」


「…………フェリペから名前を聞いて、もしやと思ったが……やはりお前か、シメオン」




 言葉をかわしたシメオンさんと族長スコールさんの間、けわしい視線が飛び交い、火花が飛ぶ。



 ……え?! どういうこと!? 

 もしかして二人は知り合い……なのか!?

 


 ――急な展開にオレは目を丸くする!

 



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