竜騎士の挑戦
ベルガの山の中にて――、
ふいに目の前にあらわれた巨大トカゲ『竜』と、その上に乗ってる『竜騎士』さん。
ご両名の急な登場にびっくりさせられたが、さらに驚くことに――、
――ガサ、ガササッ!
森の中から前後左右くまなく現れた竜の姿、合計四頭か。すべての竜に人が――竜騎士が乗っている。
どうやら正面だけじゃなく、他にも気配を消して隠れていたらしい。
気づけば……オレたちは完全に包囲されていた!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ヒヒィー、ヒヒヒヒヒヒィー!!!!!
死にそうな鳴き声を上げて、オレたちの馬がおびえる。
逃げ場を失ったパニックのせいもあるんだろうけど――にしても異常な恐怖っぷりだ。
「……ええ。馬は『竜』を見ると本能的におびえてしまうそうです。これがベルガの竜騎士にゴーディア騎士が勝てぬ理由なのだそうで……こら、落ちつかんか! どうどう!」
――と、解説してくれたシメオンさんの声にもよゆうがない。
青い顔のアリアちゃんも、シメオンさんの腰にしがみついている。
ていうか、ぶっちゃけあちこちから飛んでくる竜の視線はオレもこわいです。
で、そんなオレたちに向け――荒っぽく声がかけられる。
「――てめえらか? ゴーディアからの間者ってのは?」
…………わお。もののみごとに不良ついていらっしゃる人だな。
オレたちをどなりつけた男――最初に現れたから竜騎士一号は、ひきしまった長身を革製のジャケット、胸当てやらトゲトゲの小手とか……世紀末でヒャッハーな防具でかためていた。
同じく革製のヘルメットみたいな防具で口元しか見えないものの、声の感じはまだ若い。二十代前半くらいだろうか?
それでいて、他の竜騎士から一目おかれてる感じは伝わってきた。
ていうか竜騎士っていうから、竜に乗った『騎士』を想像してたけど、別ものだな。こりゃ。
――で、その暴走族の頭みたいな竜騎士一号は乱暴な口調でたずねてくる。
「妙な毛皮を着た野郎にエルフのガキ、それに小ずるそうなジジイ――そんな不審な連中が来るって密告があったんだが……てめえらでまちがいねえみたいだな?」
……あれ? なんでこう早く、微妙に失礼だけど正確な情報が伝わってるんですかね?
と、首をかしげたオレへ――、
シメオンさんが緊迫感あふれる小声で状況を解説してくれる。
「――おそらくウェルキン公の手回しですな。あえて情報を漏らしたのでしょう」
……え、あの腹黒イケメン公爵が!? なんでそんなことを?!
オレたちが襲われて逃げ帰ったりしたら、ベルガとの友好交渉が失敗しちゃいますよ?
「むしろ、それが狙いでしょう。交渉失敗を理由に難癖をつけることができます。さらにゴーディア騎士の情けない敗北を知る我らを竜騎士に始末させられるかも――というもくろみもあるかもしれません」
あっさり言ったシメオンさんにオレはドン引きする。
う~ん。ここ数日で思ったけど『外交』ってけっこう難癖のつけあい、あげ足の取りあい、足の引っぱりあいなんだな。
なんつーか、あんまり国のおえらいさんがすることには思えないんですけど……。
「地位が上がっても人のやることに大してちがいはありません。それに慣れれば、これはこれでけっこう楽しいものですよ」
と、笑って応えるシメオンさんの闇は深い。
一方、そんな感じでひそひそ話してるオレたちに竜騎士たちはイラっときたらしい。
「その反応――やはりゴーディアの回し者みてえだな?!」
「ああ! ずいぶんナメたマネをしやがる!」
「ちょっとばかり痛い目にあってもらって、ゲスいもくろみを洗いざらい吐いてもらうぞ!」
などと、かなり乱暴なことをいってる竜騎士二号、三号、四号。
その怒りに乗ってる竜も反応して、とんでもなく強烈な殺気を放った。
しかし、シメオンさんはひるまず、おちついて言いかえす。
「いえ、ちがいます。我々は間者などではなく、ゴーディアより和平の仲介を依頼されたファールスのもので……ゴーディアより贈り物をあずかっております。そちらをごらんください」
「ふん。贈り物だと? どうせロクなものじゃねえだろうが……中身をあらためさせてもらおう」
――シメオンさんの言葉に反応し、竜騎士たちは馬車へ竜を寄せてくる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「――調べ終わるまで、そこでじっとしてな」
と、言い残した竜騎士一号と四号が馬車と積み荷を調べてる一方、骨皮素材の防具をまとった竜騎士二号三号が少し離れたとこにオレたちを連行し、見張った。
デカくてするどい牙――竜の牙らしき槍の穂先がオレたちをぴたりと狙っている。
金属を使ってないせいで手仕事の暖かみが感じられる槍だけど――武器は武器。向けられてきもちいいもんじゃない。
さらに恐竜みたいな怪物がこっちをにらんでるもんだから恐怖は数倍。ビビってると悟られないよう、オレはヘルメスさんとアレスさんの加護を目いっぱい利用する。
「ふん、なによ……さっきからジロジロにらんできてさ!」
一方、好奇心旺盛なアリアちゃんはさっそく竜の鼻をツンツンとつついて――。
騎士さんと竜にぎろりとにらまれ、あわててシメオンさんの背中に逃げこんでいる。
……ほら、言わんこっちゃない。
もっとも、そんな気まずい時間もすぐ終わり――贈り物を調べた竜騎士たちがもどってきた。
しかし竜騎士一号および竜騎士四号さんは贈り物をもらったのに、きげんが悪そうである。
「――ずいぶんナメたことぬかしやがるな! これのどこが贈り物だってんだ?!」
そういって抱えてきた贈り物――鉄製の防具やら武具を地面に転がす竜騎士四号さん。
……ん? なにが気に入らないんだろう?
精密に彫りこまれた紋様とかに匠の技が光る武器と防具――ヘパイストスさんの作品にはおよばないけど、それでもけっこうイイ仕事に見えるんですが?
同じ疑問を抱いたらしいシメオンさんと、オレが視線を交わしてると――、
「ザけてんじゃねえ! 金属製の鎧なんぞ身に着けて乗ったら竜が暴れて落ちるだろうが!? おれらと長年ドンパチやってきたゴーディアのヤツなら、それくらい知ってて当然だろ! おれたちに大ケガしろって言ってんのといっしょだぞ!」
と、殺気立つ竜騎士四号。
そこでようやく、オレたちは使えない武具を贈り物として持たされたのだと気付く。
「――どうやら、公にハメられたようですな。これはうかつでした」
と、シメオンさんがくやしそうにつぶやき、オレはあわてた。
――あわわ、どうします?!
「……とにかく、なんとか弁解してみましょう」
しかし、ここでもシメオンさんはあわてない。
一つ大きく深呼吸するとシメオンさんは流れるようにしゃべりだした。
「これはこれは失礼しました。しかし誤解です。あくまで我々は仲介を頼まれ、贈り物をあずかっただけ。実は……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「つまり、わたしたちは、かくかくしかじかこういうわけで……」
シメオンさんが全力で、この国にくることになった事情を話す。
わかりやすい説明のおかげで向こうの責任者・竜騎士一号さんは納得してくれた。
とくにウェルキン公をさりげなくディスって、ヒドイ目にあわされてるって話にしたのが、一番巧みだったと思う。(事実だけど……)
「なるほど。ケンカふっかけてきたあげく、和平交渉の条件として友好の使者か……。あの腹黒公爵にはおたがい苦労させられるな」
「ええ。弱者のツライところで……もっとも、こちらにはこちらの思惑がありましてな」
「……ふむ。『思惑』か? 聞かせてもらおうじゃねえか? ちゃんとした話なら、このおれ――フェリペが族長に取り次いでやるぜ」
「――ほう、あなたは族長のお知り合いなのですかな?」
――と、一気に交渉に持ちこみ、熱心に話し合う竜騎士一号フェリペさんとシメオンさん。
いやはや……やっぱ仲直りには共通の敵が一番だな。
そして、すごいぞシメオンさん――大ピンチを口先で回避するなんてさすがだ!
オレはほっと胸をなでおろした。
だが、しかし――、
「……あ?! そこのジイさんはともかく、なんで関係ないてめえがしゃしゃってくんだよ!? 妙なかっこうしやがって! 変なもんを着こんで、怪しげな神とやらおがんでる連中の親玉がベルガになんのようだ!」
と、竜騎士四号がオレにからんできた。しかも、やたら服装にケチをつけてくる。
どうやらオラついた竜騎士気質のせいで『獅子の毛皮』なんて目立つ格好をしてるオレが気に入らなかったらしい。
……むう、ヒドイな。オレのかっこうはともかく、人の信じてる神さまをけなすなんて。
ちょっと威厳には欠けるけど、ヘルメスさんを筆頭に有能で性格のいい神さまたちなんだぞ。
――と、言い返そうとしたとこで、オレはふと考えさせられる。
……あれ、でも待てよ?
そういや色情狂ふたりに腹黒美少女、それにオレを洗脳しようとした神さまが三柱もいるんだよなあ。
そう考えるとウチの神さまたちって、けっこうヒドいぞ?
もしかして……オリンポス教団って怪しい宗教なのかも……?
なんて微妙に信仰の危機におちいったオレ。
だが、そこで――オレの状況に気づいたシメオンさんが、話をやめてもどってきた。
そして、いきなり竜騎士四号をどなりつける!
「その方は――ヨシトどのはわたしの無理な願いに応え、一銭の得にもならぬのに協力してくれた方です! 罵詈雑言は許せませんぞ! また我が国の朋友であるオリンポス教団の信徒への侮辱にもがまんなりません! さ、早く謝ってくだされ!」
と、シメオンさんは竜騎士四号に激しく食ってかかる。
せっかく話し合いがうまく行きそうだったんだから、オレのことなんかほっときゃいいのに……。
そう思いつつも、シメオンさんがオレのため言い返してくれる姿に心を打たれた。
そして、ちょっと反省する。
……うぅ、宗教を広めてる当の教祖がブレちゃってすみません。
しかし――、
からんできた竜騎士四号は人の良さそうな老人に言い返され、イラッときたらしい。
「――てめえ、うるせえぞジジイ! 黙りやがれ!」
さすがに刃のついてるほうじゃなかったけど、槍の柄の部分で強くこづいた。
勢いよく、しりもちをつかされたシメオンさんが悲鳴を上げる。
「――あッ!」
「おい、よせッ! 客人に何やってんだ!」
「でもよ……フェリペ兄貴」
「『でも』もクソもねえ! 弱いもんに暴力をふるうなんぞ……お前に竜騎士の誇りはねえのか!」
と、竜騎士一号フェリペさんが止めに入ってくれて、それ以上の乱暴はなかった。
とはいえ……さすがにヒドイ。
かなりハデにコケたシメオンさんは、まだ立てずにいた。
そんなシメオンさんにアリアちゃんが駆けよって言う。
「シメオンさん、だいじょうぶ!? あんたら――お年寄りになんてことすんのよ!」
と、幼女に涙ながらに責められ、竜騎士たちは気マズそうな感じだ。
……ま、体面とか卑怯とか、そういうのけっこう気にするからね。ヤンキーの人たちって。
くしゅんとしてしまった竜騎士たちを前にオレはそう思う。
しかし――、
次のアリアちゃんの言葉で――ヘコんでたはずの竜騎士たちは殺気立つ。
「子どもとお年寄りを暴力でおどすなんて……竜騎士ってのは『ヘタレ』な連中ね!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ヘタレ竜騎士! 変態教祖はともかくとして早くシメオンさんにあやまりなさいよ!」
アリアちゃんの失礼な怒声に返ってきたのは沈黙――というより静かな怒り。
どうやら『ヘタレ』って言葉がどんぴしゃ禁句だったらしい。
で、そっから――、
「あぁぁッ?!!!!」
「このガキィ!???」
「コイテんじゃねえぞッ!!??」
竜騎士二号、三号、四号が一気にヒートアップ。ヤンキー特有のムダにデカい罵声を浴びせてくる。
そんな彼らを手でなだめつつ、フェリペさんは――、
「……おう、言ってくれたな? エルフの嬢ちゃん。ジイさんに手を出したことはこっちが悪かったし、人が心で大事にしてるもんを傷つけたこともあやまるぜ。だがヘタレと言われちゃ命がけで竜を駆る『竜騎士』の誇りに関わるのさ。そこは謝って言いなおしてくんな」
と、提案してくる。
あっちも謝り、こっちも謝り――五分五分になる。竜騎士としては最大限の譲歩だろう。
それだけファールスからの使者――シメオンさんのことを大事な客あつかいしてるってことか。
オラついてるようで、フェリペさんは意外と頭が回るみたいだ。
しかし……押しつけ大キライなツンデレエルフ幼女相手には最悪の言い方だった。
『だが断る』って感じで反発したアリアちゃんは――なぜかオレに話をふってくる。
「ふん! イヤよ! そこの不審教祖だって、かなりのヘタレだけど、あんたらほどじゃないわ!」
「……うむ。そうですな。弱者に対する優しさを知る――真の勇者ですな」
ちょ! いきなり、こっちに火の粉が飛んできたぞ!
しかもなぜか、シメオンさんまでうなずいて、オレのことをホメるふりして挑発してるし!
関係なさそうなとこで、いきなり話題にされてオレは焦る。
「……いえいえ。わたしは神に仕える一介の凡夫に過ぎません。竜を乗りこなされる勇者のかたの足下にもおよびませんよ」
と、さりげなく聖人スマイルでけんそんして話を流そうとしたが――そうはいかなかった。
「…………ほう。そこまで言うなら、教祖さんとやらの根性を見せてもらいたいもんだ。ちょっとこっちについてきてくんな。おれたちの『度胸試し』に付き合ってもらおうじゃねえか?」
フェリペさんの抑えた口調から伝わってくるのは冷たい怒り――断ったら血の雨が降りそうな雰囲気。
同盟も結ばなきゃいけないわけだし、『できません。ごめんなさい』ってわけにはいかなさそうだ。
てなわけで――オレは竜騎士の挑戦に応じるハメになる!




