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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第六章
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竜騎士出現

 ベルガは山の国――けわしい山々が国土のほとんどを占めている。

 人類世界の端に当たるこの国は、我らが住む世界と魔物が住む異界とを分かつ山脈に存在しているのだ。

 この地の民は魔物の襲撃にそなえ、守りの固い谷底の平地にまとまって住み、周囲の荒れ地で羊や山羊などの牧畜、そしてわずかばかりの耕地で農作業に精を出す。

 はっきり言えば――危険であり、貧しく苦しい生活である。


 ……だが、ベルガの民には『竜』がいる。


 ベルガの民が使うのは、我らが『竜』と聞いて真っ先に思い浮かべる飛竜(ワイバーン)ではない。嶽竜(サウラ)という名の中型で空も飛べぬ、火もはけぬ――ぱっと見は醜く巨大なトカゲだ。

 しかし、この嶽竜――地上では最強の生物と言っていい。走る速度は駿馬を越え、力は巨熊を倒すほど。

なにより頑強な皮膚でおおわれた体は刃物を通さない。

 卵のころから手塩にかけ、育て上げたこの(サウラ)を用い、ベルガの民は魔物を狩り、ときに山から里に下りてきて収穫や財物を奪っていく。


(中略) 


 ――ベルガでは竜に乗ることを『騎竜』といい、騎竜をおこなう戦士は『竜騎士』と呼ばれ名誉ある存在とされる。  

 嶽竜にまたがり、竜皮製の防具そして竜の内臓と骨で作られた弓など――おそるべき武装をした竜騎士たちには十二都市最強をうたわれるゴーディアの騎士すらかなわない。

 竜騎士たちがゴーディアに深く攻めこまぬのは、大事な竜を死なせることを恐れるから――それだけの理由だ。  


 わたしと教祖ヨシトどのは、そのような者たちが住む国へむかっていた。

 相手が相手である。もちろん一筋縄でいかない仕事と覚悟していた。


 だが、まさか入国してすぐ、あのような変事に会うとは……。 



 ~『シメオン備忘録』より抜粋~ 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 

 


 ゴーディア、ベルガ国境付近――オレたちを乗せた馬車はとことこ走っていた。

 平野が広がってた光景から、そびえたってた山が近くなってきた。道も、ちょっとずつけわしく、かたむきがきつくなってきてる。 


 ウェルキン公のお屋敷を出てから二日――あっさり国境(ここ)まで到着した。

 馬車の速度や昼間しか動いてないことを考えると、それほど距離はない。

 もしかすると『国』といっても日本で言う『県』くらいの大きさしかないのかも……。 


 ……そういや、昔の日本でも滋賀を近江国(おうみのくに)とか、奈良を大和国(やまとのくに)とか言ってたらしいもんな。

  


 で、そんな旅の道づれは――モーラの執政シメオンさん、エルフ幼女アリアちゃんの二人だけ。

 シメオンさんの部下は、報告のため二人がモーラに帰り、残る二人は連絡係としてゴーディアの宿屋で待機ってことになってる。 

 一方、シメオンさん、アリアちゃん、オレの三人はごらんのとおりベルガへ向かう馬車の上だ。

 表向きはゴーディアとベルガの和平のため――裏ではモーラとベルガの秘密同盟のために。  


 てな感じでザ・サスペンスな展開になるかと思ってたのだが――、



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「くぅ……くぅ……」


 長旅に疲れたエルフ幼女さんは、すっかり夢の世界行き。御者席で馬車を操ってるシメオンさんのひざの上、よだれを垂らして熟睡中だ。

 そんなアリアちゃんをシメオンさんは孫を見るようなまなざしでながめてた。でこぼこしてきた道――揺れでアリアちゃんを起こさないよう、馬車のスピードをゆるめている。


 で、そのあげく――、


「――行商人をしていた若いころを思い出しますな。あのころも幼い妹をひざに乗せ、馬車であちこち旅したものでした」


 つぶやいてシメオンさんは、たそがれてる。


 う~む……すごくほっこりする光景です。

 これから国際的な謀略だったり、和平交渉にむかうような一行にはぜんぜん思えない。 

 なんというか……こんなゆるい感じでホントにいいんですかね? 

 国同士の大事な場面なのにエルフ幼女まで連れてきちゃってるし。

  


「――いえ。よいのです。これならば我らを極秘の外交使節と思うものはいないでしょうから」


 ひざの上で爆睡中のアリアちゃんの髪をそっとなで、シメオンさんは言う。


 ……う~む。それはたしかに。

 乗ってる馬車も商人用の適当な中古品。ゴーディアからベルガへの贈り物は別の日常品の影に隠されてるし――偽装は完璧だ。 

 でも、さすがにアリアちゃんまで連れてくることはなかったような気もしますよ?

 部下の人に頼んで里に送り返してもらったほうがよかったんじゃありません? 


 ――そんなオレの疑問をシメオンさんが小声で否定する。 


「それはできません。エルフの子は高く売れますからね。人買いに目を付けられたら、部下たちでは守りきれない――それにゴーディアではまた人質にされる危険もあります。ならばむしろ、あなたのそばに置いたほうが安全というもの」


 ……あ、なるほど。

 エルフ幼女にメロメロになってるせいかと思ってたけど――けっこうアリアちゃんのこと考えてくれてたんだな。シメオンさん。

 そういえば以前、コルクの里が襲われた理由もエルフが奴隷として高く売れるせいだったし。 



 てなわけで――、

 納得したオレと一行は馬車をベルガに進めていく。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 

 オレたちはベルガ・ゴーディア国境をあっさり越えた。

 国境線とか厳重な検問所があるかと思ってビクビクしてたけど……そんなものはなかった。

 道の脇には山と平野が広がるだけ。兵隊さんの姿なんて一つもない。


「ここらは農地としての価値がありませんからな。どちらも積極的に領土として主張せぬのです。だからこういったゆるい警備状況になってるようですよ」


 ――と、キョドリながらあたりを見回してたオレにシメオンさんの解説が入る。

 警備兵にからまれるんじゃないかとか、ちょっと不安だったオレはシメオンさんの言葉で、ほっとさせられたのだが――、



 しかし――。

 


 そっから山のふもと、森の中へ、しばらく入って行ったところ。

 木が生い茂り、前後左右が深い緑に囲まれた一画、木漏れ日だけが周囲を照らすうす暗い空間にて――、



 ブヒヒヒヒヒヒィーッ!


 

 馬車を挽いてた馬がいきなり、大きくいなないて暴れ出す。 

 あれ? おかしいな? ここまでは、おとなしくてすなおだったのに? 


「……おや? どうした? どうどうどう」 


 手慣れたようすでシメオンさんはなだめようとしたが……馬は静まらない。

 シメオンさんの努力に反し、馬は小刻みに足踏みしながら、短い鳴き声を出し続ける。


 ん? なんでこうも反抗的になって…………いや、ちがう。おびえてるんだ。


 オレがそう気づかされたのは、こちらを向いた馬の目に、まぎれもない恐怖の感情があったから。

 そして馬がパニクってる理由も、すぐにオレたちに伝わってくる!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ふわっと急に風向きが変わり、森の中の冷気がオレたちに吹きつけてきた。

 同時に――風に乗って異臭がオレたちの鼻に届く。



「なによ。さわがしいわね………………って、う、なんか……なまぐさい」



 馬がいななき、暴れたせいか――ここでようやく、お目覚めのアリアちゃん。

 エルフ幼女は起き上がるなり、シメオンさんのひざの上で的確な感想を吐く。  


 ……うん。たしかに。

 夕飯がお刺身だった翌日の生ごみみたいなにおいがする。


 で、そのにおいの発生源はと言えば――、

    


 ――ガササッ



 木の葉が作っていた緑のカーテンをかき分け、姿をあらわそうとする巨大な影。

 そいつは大きさからは信じられないほど静かに、こっちへせまってくる。 

 

「「――なッ!」」


 そして姿を現し、オレとシメオンさんを絶句させたのは――。

 上に人を乗せた、ビックリするくらい巨大な生物だった。


「で、デカい……」

「む、こやつは……」


 周囲に溶けこむ深い緑の肌にはゴツイうろこがびっしり生え、バカでかい口には親指くらいの牙がぎっしり並んでる。

 で、そのデカブツは――拳くらいあるビッグな目玉で、こっちをギロリとにらみつけてきた!  


「ヒッ!」


 その強烈な迫力(めぢから)に、アリアちゃんののどから短い悲鳴が漏れる。

 同じく一瞬、パニックになりかけたオレだったが、自分の今いる場所が――竜騎士国(ベルガ)だと思い出して、上げかけた声を飲みこむ。


 ……うお! こ、これがもしかして『竜』なのか……?

 どっちかっていうと……これって、竜っていうより『恐竜』じゃないか?

 それか、でかいトカゲと言うべきだろう。


 イメージとはちがう『竜』の姿にちょっと違和感を覚えるオレ。

 しかし、最初の印象が強烈だったからむっちゃ大きく見えたけど――実際のとこは軽自動車くらいの大きさだな。

 と、観察するよゆうがもどるが……それにしても、なかなかの迫力ではある。 



 一方、その巨大トカゲというか恐竜もどきの上に乗った人物は、オレたちに向け、敵意丸出しの口調でこう言った。



「――てめえら……だれの許可を得て、おれらの土地に入ってやがる?!」

 



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