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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第六章
73/110

公爵の依頼

 領土交渉のはずが剣を持った騎士たちと素手で戦うハメに――。

 なにを言っているかわけがわからねえと思うが、ありのまま今、おこったことを(以下略)。 

 てな感じの異常事態(ドンパチ)が発生したせいで、ファールス執政シメオンさんと、ゴーディア国主ウェルキン公との会談は中止となった。


 ま……そこらに騎士がうめきながら転がってて、まともにお話できる環境じゃないもんな。

 張本人のオレは他人事のように冷静に考える……どうせ、むこうの自業自得だしね。


 そんなオレを周囲の人間が恐れ半分、尊敬半分って感じで見ていた。

 うん。気持ちはわかる――合気使いのツワモノ感ってすごいもんな。渋川〇気さんみたいで……。  



 一方、おえらいさんで常識人な二人は――、



「かようなことになり、もうしわけない。体裁をつくろうため、時間をいただけないでしょうか?」

「いえいえ。ひどいおケガなどなされていないとよいのですが――」


 作戦を考えなおすためだろうか?

 ウェルキン公があたふたと会談の延期を言い出し、シメオンさんはやわらかな笑みで受け入れた。

 そのへんはピンチを切り抜けられたよゆうだろう。もっとも最後にくぎをさすことは忘れない。

   


「――しかし、交渉再開はできるだけ早いうちに願いますぞ」

「…………ええ、二、三日のうちに必ず」


 てなわけで、オレたちは謁見室をあとにすることになった。

 そのあと宿屋に帰ったオレたちは、いやがらせを撃退できたことに祝杯を上げる。



「では、本日のヨシトどのの活躍を祝して……乾杯!」

「「「「乾杯」」」」



 おいしいお肉とお酒で気力を回復――次の交渉にそなえることにした。  



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 でもって……翌日さっそく。

 オレとシメオンさんはウェルキン公から招待を受けた。


「ほう。会食ですか? 条約の締結ではなく……ですか?」


 首をかしげたシメオンさん。

 だが断る理由もないので、誘いを受けることになった。

 そして夕方、オレたちはまたも公のお屋敷に向かう。


 ――ちなみにアリアちゃんはシメオンさんの部下とお留守番だ。

 

「なんでよ! あたしだって、お屋敷のおいしい料理食べたい!」


 食い意地の張ったエルフ幼女は激オコだったけど……また騎士にケンカふっかけられちゃたまらない。ここの宿のお料理もおいしいんだから、ぜいたく言わずにガマンしなさい。


 オレは兄貴分としてきびしく言いつけるが――、

 

「ふ~んだ! それならあんたが破産するくらいガッツリ食べてやるんだから!」


 アリアちゃんは鼻を鳴らして口答えする。

 そのあげく、シメオンさんが目を細くしてアリアちゃんを甘やかす。


「おお、いいとも! 子どもはどんどん食べなさい。おじさんがごちそうしてあげるからね」

「わあ! ありがとう。シメオンおじさん!」


 ……う~ん。シメオンさんのせいでグダグダだな。

 ま、バカにならない額のエルフ幼女の食費が、モーラの経費で落ちるっていうんだからいいか。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 で、約束の時間の少し前――オレとシメオンさんは宿を出た。

 向かう先はもちろん、ウェルキン公のお屋敷。

 たどりついたオレたちは昨日の謁見室ではなく、やや広い『中食堂』に案内される。 



 ……ていうか『中食堂』って名のわりにけっこうでかいな。しかも『中』があるってことは他に『大食堂』とか『小食堂』もあるのか?

 く、あのハンサム腹黒公爵め――顔がイイだけじゃなくお金持ちとか人生ぬるゲーすぎだろ。

 うぅ、頭が痛い……オレのトラウマと劣等感が刺激される。


 うん……やっぱりもげちゃえ。ウェルキン公爵め。

 さらに髪もいっぱい抜けてしまえ。朝、枕に抜け落ちた髪の本数にむせび泣け。

 あと、夜ふかししすぎて、口内炎がたくさんできてしまえ。


 なんてヒガミ全開な感想とともにオレが視線を走らせた先。

 食堂におかれたリッチそうな長テーブルには、すでに公が席についていて――、


「ようこそ、よく来てくだされた。昨日はわが家臣が失礼をいたしまして、まこともうしわけない。そのわびもこめて一席もうけさせていただきました」


 と、イスから立ったウェルキンさんが大歓迎って態度で出迎えてくれる。

 まわりに護衛は二人だけ。昨日の今日だから脳筋騎士団(ガトーのみなさん)もいない。

 ケンカをふっかかてきた女騎士(クラウディア)さんもご不在のようだ。 

 つまり『もはや争うつもりはない』ってことだろうか?


 ……でも、その平和主義アピールが逆にあやしいな。

 整ったお顔に浮かべてる、さわやかな笑みもなんかいかがわしいし。

 昨日、騎士をけしかけられたオレは疑わざるをえない。



 ――そんな疑惑は出てきた料理の豪華さと、公の態度のせいでどんどん深まっていく。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ウェルキンさんはよゆうの笑みを浮かべ、お客をもてなす主人役(ホスト)に徹する。

 顔面偏差値の高さのせいもあり、ホントに水商売(ホスト)っぽい感じ――この前、あたふた会談を中止したときとは別人みたいだ。


「うわさによれば、ヨシトどのはたった一人で鬼の群れを倒されたとか。話半分に聞いておりましたが、目の前で見てようやく信じられました。昨日の騎士どもは、わが国でも有数の武人たちなのですが、いやはや……彼らが負けたのも道理ですな」


 などなど、ウェルキン公はオレへのおせじをぽんぽん並べてくる。

 ホメられるのはうれしいけど相手は腹黒公爵だ。裏の意図がありそうで素直によろこべない。

 ……生前、ブラック企業につとめてたときもこうだったな。

 だれかがおごってくれたり猫なで声でホメてくるのは、ムチャな要求の前ふりなんだよな。


 おかげで、せっかくの豪華料理の味もよくわからない。果物ソースをかけた野鳥の冷製肉とか、もっとしっかり味わいたかったのに……。


 ――不安になったオレは話を強引に進めることにした。



「公よりのお言葉と歓待、大変光栄です――しかし、わたしなどのことより重要な案件があるのでは?」 


 商業神の交渉術で言葉はていねいだけど――つまり『こんな事グダグダやってないで、さっさと交渉をすすめろよ』と言ったオレ。

 するとウェルキン公は『空気読めないやつ』って感じの黒い表情を浮かべた。

 もっとも、それはホントに一瞬――軍神の動体視力と交渉術があったから読めただけ。すぐさわやか青年スマイルにもどった公は、こまったように肩をすくめて見せる。 

   


「ああ、そのことですが――実は少々問題が発生しましてね。昨日のあなたの活躍のおかげで交渉の内容がもれてしまい……土地のことに関しては人一倍うるさい騎士どもがさわぎ出したのですよ」


 ……ん? つまりオレが騎士をフルボッコにしたせいで問題発生ってこと?

 そもそも騎士たちをけしかけてきたのはウェルキン公――あなたでしょうに?

 ま、それはいいとして……なんで騎士たちが土地にうるさいんだ?


 オレが首をひねったとこで――シメオンさんが口をはさむ。


「開拓した農地を守るため武芸を磨いたのが『騎士』の起源。それゆえ『騎士』はわずかの土地にでも命をかけるほど執着します。自国の領土ならいつか恩賞として与えられるかもしれず――それが他国のものになるのは許せないのでしょう」


 ……ふむふむ。つまり『騎士』は土地大好きだから領土が奪われるのが許せないってことか。

 解説ありがとうございます。シメオンさん。


 ――でも、それって、ただのゴーディアのつごうですよね? 

 国をまとめるのはウェルキン公の仕事でしょ? 交渉相手のこっちにそのツケを押しつけられてもこまるんですが。  


 なんてツッコミをオレが入れると――。


「ええ。もちろんそのとおり。しかし騎士たちを説得するのにどれだけ時間がかかるか……悠長な議論はそちらもお望みではないはずです。交渉の早期再開にはそちらの協力が必要不可欠です」


 と、開き直った態度のウェルキン公。

 ……むう。その手できたか。昔、こういう取引先があったなあ。完全にむこうのミスなのに、取引相手のこっちにも負担を求めてくるタイプ――これはやっかいだぞ。 


 オレはいやな予感に背筋をふるわせた。

 一方、シメオンさんは交渉を続けるための条件をたずねる。


「では……こちらは、なにをどうすればよいのですか?」

「『大物見台』と周辺の川原を失っても惜しくはない――そう思わせるような別の利益を騎士どもに示していただければ説得もはかどるのですが……」


 ウェルキン公は、そこで意味ありげに言葉を切る。


「……ほう、『別の利益』といわれますと?」


 もう一度、たずねたシメオンさんに、公は会心の笑みでこたえた。



「ファールス執政のシメオンどの、そしてオリンポス教団教祖のヨシトどの。あなたがたにお願いしたいのは……我が国の長年の宿敵ベルガとの和平の仲介です」



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「和平の仲介をしていただければ騎士どもも感謝し、領土の割譲にも応じるでしょう。我が国はベルガからの度重なる侵入で大きな被害を受けていますから……」


 なんか敏腕悪徳セールスマンみたいにバラ色の未来を語りだすウェルキン公。

 つまり『和平の仲介してくれなきゃ、交渉を長引かせてやる』ってことだろ? 

 しかも、なんかむこうが領土をゆずってやるみたいな話になってるし。


 ……う~む。さすがに、それはつごうよすぎじゃないだろうか?


 うん。シメオンさん。やっぱここはガツンと断ってさっさと条約結ばせちゃいましょう。

 外交使節(オレたち)に失礼なケンカをふっかけた弱みをつっつけば、押し切れるはずです。

  

 なんて想いをこめた視線を送ったオレ。

 だが老執政――切れ者のシメオンさんの答えは歯切れが悪かった。

 すこし考えこんだシメオンさんはいう。



「――すこし、考えさせていただきたい」

「ええ。もちろん。よい返事を期待しておりますよ」

 


 シメオンさんの答えに、ウェルキン公はふくみのある笑みを向け――、

 こうして第二回外交交渉は終了した。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 晩さん会のあと、宿屋に帰り着くやいなや――。

 お肉をいっぱい食べたのか、おなかポンポコリンなアリアちゃんが迎えてくれた。 

 ただエルフ幼女は開口一番、かわいくないことを口にする。


「おかえりなさい。お土産(みやげ)は?」

「どうぞアリアちゃん。果物菓子だよ」

「わ~い。ありがとうシメオンおじさん」


 ていうか、アリアちゃん――そのポンポコおなかで、さらに食べるの?

 オレは不安に思ったが、エルフ幼女に甘いシメオンさんがお菓子をわたしてしまう。 

 そして、お菓子をほおばるアリアちゃんをひざに乗せたアットホームすぎる姿勢で、シメオンさんはウェルキン公から持ちこまれた和平の仲介について語った。



 ――もちろん。シメオンさんの部下は、いっせいに反対する。



「そのような話、なぜお断りにならぬのです? シメオンさま」

「そうです。わざわざ一銭の国益にもならない仲介などする必要はないでしょう。仲介がうまくいったとしても、敵がいなくなるゴーディアがいい目を見るだけではありませんか?」

「ええ。もし仲介が失敗すれば、それを理由に交渉を打ち切られかねませんし」 


 ……むう。言いたいことを先に全部言われてしまったな。

 で、オレもシメオンさんに問いかけるような視線をむけると――、


「ゴーディアにはゴーディアの思惑がありましょう。が、こちらにもこちらの思惑があります。わたしとしては今回の仲介を――ベルガと手を結ぶ機会にするつもりですよ」


 シメオンさんはいたずらっぽく笑ってこたえる。


 ……え? 『ベルガと手を結ぶ』? 

 なんでベルガと同盟しなきゃいけないんでしょうか?

 いきなりの話にとまどったオレが問うと――シメオンさんはこう答えた。


「公は野心家です。今回は貿易利権を分けることで手を引いてそうですが――また、すぐに別の策をしかけてくるでしょう」


 ……む、それはたしかに。

 態度はていねいだけど、あの公爵――性格の悪さが外ににじみ出てたもんな。

 とくに、あのムダに整った顔立ちとかに……。


 ……うむ。あの感じじゃ、きっと攻めてくるにちがいない。


 そんなオレの偏見丸出しの意見に軽くうなずき、シメオンさんは説明を続ける。


「――いざ戦となったとき、ゴーディアの背後をついてくれる同盟国があれば助かります。それには仲介を頼まれた今がいい機会。ベルガと同盟をむすび、いざというとき対ゴーディアで連携するのです」


 ここまでのシメオンさんの言葉で、ようやく部下の人たちはうなずく。


「ふ~む。和平の仲介役をよそおって、実はこちらの同盟交渉をおこなうわけ……ですか」

「ゴーディアの依頼で行くわけですから、怪しまれずにすみますね」


 口々に納得の声が上がり、そして――オレもシメオンさんの策に、深く感心させられる。


 おお! そう言うことだったのか!

 そこまで考えたなんてすごいな! さすがシメオンさん!


 しかし、すばらしい策をきかせてくれたシメオンさんは――感動してるオレを見て、少しためらう。


「ただ……ヨシトどの。ベルガは人類世界の辺境――野生の竜や迷いこんだ魔物もいる危険な場所です。住民の気性も荒い。あなたの腕ならそうそう心配はないでしょうが、万が一ということもある――本当に同行をおねがいしてよろしいのですかな?」


 わざわざ教えてくれたシメオンさんの腕の中、孫みたいにだっこされてるアリアちゃんも心配そうだ。 


 しかし――オレは断らない。

 もちろん。おっかないのも危ないのもイヤだ。

 けど……ここまでいろいろ里のために骨を折ってくれた里の恩人が、アブないとこに行くんだ。せめて手助けして少しくらいは恩返ししとかないとね。


 ――それに竜騎士なんてファンタジーの極みなものも見てみたいし。


 てわけで――、


「おともしますよ。ここまで来たら乗りかかった船です」


 あっさり言ったオレにシメオンさん、目を丸くする。


「ほ、本当によいのですか? あなたにとってはまるで関係ない状況だというのに……?」


 ……ああ。そういやそうですね。ウチの腹黒有能美少女のおかげで、ここんとこムチャぶりになんとかこたえるのが、ついクセになってるんですよ。


 ――く。静まれ! 静まるんだ! オレの中の社畜まもの


 なんてふざけて返したオレに――、


「ムチャぶりがくせに……ですか? ずいぶんと過酷なしごとですな、教祖というのは……しかし、ありがとうございます」



 あきれたように言いつつも感謝してくれるシメオンさん。

 こうして方針は決まった。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 で、翌朝――、

 シメオンさんは公のお屋敷に行き、和平交渉を受けると告げた。


「話はまとまりました。和平使節の件――引き受けさせていただきます」

「おお! ベルガに行ってくださるか?! これはありがたい。長年の敵対関係ゆえ、我らが行っても、ろくに話を聞いてもらえませぬからな」


 すると――ウェルキン公、大喜びである。

 ……うん。こりゃ、なにか裏があるな。今の態度で確信した。

 とはいえ、今さら『やっぱヤメ』ってドタキャンはきかなさそうだ。



 てなわけで――、

 オレは竜騎士の国ベルガへむかう。



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