VS脳筋騎士団
「く、こいつ――よくも汚い手で姫さまに触れたなッ!」
若い騎士くん――まだ少年っぽさも残した青年が剣をぶんぶん振り回して、こっちにせまってくる。
どうやら、あがめてた姫さまをオレがぽんぽん投げ飛ばしたあげく、唇を狙ったように見えたらしい。
……いや。オレだってセイ〇ーさんみたいなかっこうした女騎士さんはキライじゃないですよ。
だから、姫さまにあこがれる気持ちはよ~くわかるし、傷つけられて腹立つのもわかる。
助けるためでもお触り厳禁――なんて理不尽ルールも納得できないけど理解しよう。
だけど……君が剣をフルスイングした先には、その大事な姫さまががいるんだってヴぁ!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「――邪教の首魁め! この剣で成敗してくれる!」
頭に血を上らせ、目を血走らせて刃物を振り回す青年騎士くん。
言葉にするとアブなく聞こえるだろうけど、実際に目にするともっとアブない。
新興宗教なんぞ広めてる教祖が言うのもなんだが――アレな信者さんってホントこわいね。
しかも彼が剣を向けてる先にはオレだけじゃなく、大事な姫騎士さんであるはずのクラウディアさんもいるわけで――。
「――きゃあっ!」
さっきまでのりりしさがウソみたいに、ふつうの女の子みたいな悲鳴を上げてるクラウディアさん。
う~ん。そうとうさっきのが怖かったみたいだな。こりゃ動けなさそうだ。
理不尽なケンカをふっかけてきた女騎士さんだが、さすがにこのまま放ってはおけない。
……まあ、美人さんに大ケガさせても寝覚めが悪いしね。
というわけで――オレはアブナイ騎士くんをなんとかすることにした。
まずはクラウディアさんを抱え、ひとまず安全なとこへ飛びのく。
「すいませんが……あの騎士くん。ちょっとおとなしくなってもらいますよ」
床に置いたクラウディアさんにそう告げると、返事も待たず騎士くんに無造作に接近をかける。
すると案の定、騎士くんはオレに向かい全力で襲いかかってきた。
「――死ねぇっ!」
もちろん、これは誘い――ブチ切れ騎士くんの大ぶり攻撃を軽くバックステップでかわす。
そして全力攻撃でバランスを崩したとこで一気に接近、みぞおちを拳で打ち抜くと――。
「……きゅ!」
変な声を漏らして騎士くんは白目をむいた。
で、崩れ落ちる体を支えて床にころがし、だれも大ケガしなかったことに、ほっと一息つくオレ。
だが――。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「お前ッ! なにをする!」
「姫さまだけでなく、よくもラルフを!」
姫さまを助けたんだしホメられていい場面だと思うんだが――ゴーディア騎士たちは怒りの表情を浮かべオレを囲んできた。その手には抜身の剣……おお。殺る気まんまんですな。
と、そこで――、
「――これ以上の狼藉はならぬ! ヨシトどのは十分に腕前を示された!」
はらはら状況を見てたウェルキン公が、さすがに止めに入った。
しかし騎士たちは剣から手を放さないまま。
さらに代表して一番えらそうにしてた初老騎士がこう言い返す。
「――公よ、我らガトー家にも建国以来、代々剣で国に仕えてきた武門の意地があります。総領たる我が息ラルフが妙な輩に恥をかかされたままでは名誉に関わる!」
と、言い切るオッサン騎士。同時に騎士一同は、こっちを憎々しげににらみつけてきた。
……むう。どうやらさっきのラルフくんはこの人の息子だったらしい。
でも刃物で襲いかかってきておいて、負けたら気にくわんってどんだけ勝手だよ。
めんどいから、もめ事のときはすぐあやまるオレでも――さすがに頭にきたぞ!
ここまでの戦いで気分がノってたせいもあり、『そっちがやる気なら』って感じになったオレ。
というわけで……『第二次なめプ作戦』開始だ。
再び正座したオレは理不尽騎士たちにこう告げる。
「――かまいませんよ。交渉を前に時間をとってもなんですから……そちらは、まとめてどうぞ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「騎士の方々……条約の調印がひかえていますから、手早く終わらせましょう」
――ノリノリで攻撃を待つオレにウェルキン公だけじゃなくシメオンさんも目を丸くした。
「ヨシトどの! さすがに一対多数で、その姿勢は……!?」
「う、うむ! 教祖どのの腕前はよく理解した! これ以上はけっこう!」
ウェルキン公とシメオンさん――おえらいさんな二人が止めに入るが、オレの挑発は完全に騎士たちを怒らせたみたいだ。
「きさま――どこまでゴーディア騎士を愚弄するつもりか!?」
と、あくまで『居合』の技――座った状態で戦おうとするオレに激怒する騎士たち。
……まあ、たしかに自分で見ても『なめプ』すぎる姿勢だけどね――勝算はある。
騎士さんは獣人や群鬼とか今まで戦った連中に比べて、そこまで強いわけじゃない。
信者も増え軍神の加護も強まってる今なら……油断しないかぎり、五人くらいまとめてなんとかなるだろうってことで――。
「――おやおや、勇ましいですね。では自信のほどを実際に見せていただきましょう」
めずらしく好戦的な気分のオレが、ムカつく教祖スマイルでよゆうを見せると――。
「……おのれ、我らを舐めおって! 許さん!」
「切り刻んでさらし者にしてくれるわ!」
さっそく脳ミソまで筋肉っぽい騎士二人が剣を振りかぶって襲ってくる。
……よし。ではスプラッタなことを叫んできた筋肉騎士1号から、お相手しよう。
そう決めると剣の軌道を見切ったオレは、ぎりぎりで身をそらしてかわした。さらにそこから前に踏みこんで筋肉騎士1号の手首をつかむ。
そして関節をきめて押さえこみつつ――筋肉騎士1号が手に持った剣で、次にかかってくる筋肉騎士2号の剣を受け流した。
――ガギィ!
響いたのは耳ざわりな金属音――刃物と刃物がぶつかり、こすれる音だ。
オレに剣を使われた騎士1号と、攻撃を受け流された騎士2号――双方の顔が驚きにゆがむ。
「なにッ!」
「おれの剣を……使った?!」
と、筋肉兄弟が目を丸くしたとこで――。
オレは手首をとらえた筋肉騎士1号の背中を強く押し出してやる。目標は攻撃をそらされ、あっけにとられた筋肉騎士2号だ。
で、ガチムチ騎士たちを正面衝突させると――。
「がッ!」
「ぐッ!」
ガチムチ騎士同士のあまりうれしくない熱烈キスシーンが繰り広げられ、頭部を強く打った騎士たちはかんたんに意識を失う。
……よし。これで最初の若騎士ラルフくんもふくめ、三人撃破だ!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
取り巻き騎士のうち三人を倒したオレは再び正座の姿勢にもどる。
残る敵は三人か――え~と、それじゃ騎士ABCと呼ぶことにしよう。
「……む、一人の敵相手なれど……かくなる上はやむをえん。散れ、包囲しろ!」
あっさり撃退される味方を見たせいか、残りの騎士ABCは慎重な戦法に切り替えてきた。
初老の騎士A――ラルフくんの父が指示を出すと、騎士BCが従い、オレのまわりを旋回しながら、すきをうかがってくる。
……ほほう。さすがにベテランな感じのオッサン騎士。
とはいえ脳筋騎士だけあって、複雑な作戦は立てられないみたいだ。
オレの死角を狙う作戦はけっこう見え見え――だれかが背後に来るたび『お前やれよ』、『いや、まだ……次行くわ』と口の動きで会話してるのが丸わかりだったりする。
……う~ん。なんだかなあ。
ま、それならそれで逆に利用させてもらおうってことで左右の騎士AとCに注意を向け、わざと警戒をおろそかにしてみせると――。
予想通り『今だ!』と騎士Aから指示が飛ぶ。同時に背後からせまってくる気配がした。
で、後ろから襲いかかってくる敵、騎士Bの足下へ――、
オレはふりかえりもせず、正座の状態からいきなり後転して飛びこむ。
「――バカな! なぜ、こちらにッ!?」
死角から奇襲をかけるはずが、予想外の反撃でパニクってる騎士Bさん。
そんな騎士Bの足下から立ちあがりつつ、タイミングよくオレが腰をはねあげると――鎧を装着したフルアーマー騎士がポンと宙を舞う。
「……背後に飛んだ……だと!?」
「なんなのだ?! あの技……完全武装の騎士がなぜああも軽々と!?」
はるか上空、天井近くまで打ち上げられた騎士Bに視線が集中した。
そして一瞬、オレから敵の意識が離れたとこで――オレは一気に反撃にうつる。
第二の目標は騎士Cはゴリラみたいな体格の大男――さっきアリアちゃんを捕まえてた騎士だ。
そのゴリ男が宙を舞う仲間に釘付けになってるすきに、オレはするっと間合いをつめ、角ばったゴツイあごへ拳で鋭く打撃を入れる。
「……ッ、ぐッ」
脳を揺らされ、うめき声をあげてひざをついたゴリ騎士さん。
そのあごにもう一発――一撃目とは逆方向からの打撃で完全に意識を刈り取る。
今度は一声も上げられぬまま、ゴリ騎士の巨体は床に倒れた。
そして残るは……一人。
さっきから仲間に指示を出してたラルフくんの父――騎士Aだ。
顔色を変えた初老の騎士へ――オレは地を這うような低い姿勢から加速をかけ、一気に迫る。
「むッ……させるかッ!?」
さすがベテラン騎士だけあって、オッサンは駆け寄ったオレへ反射的に横殴りの剣をふるってきた。
しかし……オレは文字通り、そのさらに上をいく。
「――覇ッ!」
気合一番――横払いの斬撃を大ジャンプでかわしたオレはベテラン騎士に飛びかかった。
そして驚きにゆがむその顔面に真空飛膝蹴をぶちこむ!
――ドガッ!
「ぐふッ!」
最高速度で体重を乗せたひざ蹴り――まともにくらった初老騎士Aが白目をむき、のけぞって倒れる。
そして、ほぼ同時――。
……ズシィン!!
さっきから高々と宙を舞ってた騎士Bが、ようやく腹を下にして墜落――重い衝撃を受けて息がつまったらしく、二、三度ピクピク震えたあと完全に動きを止める。
こうして――取り巻き騎士たちは全員が戦闘能力を失った。
唯一クラウディアさんだけは、まだ動けそうだが……しかし完全に闘志を失っているらしい。さっきからオレが戦う姿を、ぼうっと見てるだけだった。
てなわけで――。
騎士すべてが倒された光景に謁見室には沈黙が広がる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「………………」
「……………………」
室内が気まずいくらい静かになったあと――、
「………………そ、そこまで! 見事であられた、教祖どの!」
ようやく、あせったような公の声が室内に響く。
その声であっけにとられてたモーラ一行も我に返った。
「――ヨシトどの! なんと素晴らしい腕前か!」
「豪勇で知られたゴーディア騎士たちを、まさかたった一人で倒してしまわれるとは……!」
「ええ! 聞かされていた話以上です!」
と、シメオンさんの部下たちから口々にほめられ――、
騎士が全滅したおかげで自由を取りもどしたエルフ幼女――アリアちゃんも、こう口にする。
「……ふ、ふん。なかなかじゃない。まあ、これくらいできなきゃ、お姉ちゃんの恋人になる資格なんてないんだけどね」
……ふ~む。素直じゃないけど、それでも認めてもらえたっぽいな。
うまくいったのはアレスさんからもらった加護のおかげ。
だからオレの力ってわけじゃないけど――それでも人から認められるとうれしい。
それにオレの働きで相手のいやらしい策もしっかりつぶせたみたいだ。
「……ずいぶんとヒヤヒヤさせられましたが、しかし、よくやってくだされたヨシトどの。これで交渉が楽になります」
小声で礼を言ってきたシメオンさんが、にやっと笑みを浮かべる。
ま、素手のオレ一人を大勢で襲ったあげく返り討ちにされたわけだしね。
おとなげないのは完全に相手方のほう。しかけられたモーラに落ち度はないし、むしろ相手の無礼をつっついて、さらにいい条件を勝ち取れるかも……。
となれば外交担当者のシメオンさんがうれしそうな理由もよくわかる。
……うん。いろいろあったけど、これにてお仕事は無事終了だな。
シメオンさんに恩も返せたし、わざわざ遠くまで来たかいがあった。
後は、さっさとコルクの里にもどってアテナさんに報告しよう。
なんて、そのときのオレは調子のいいことを考えてたのだが――。
その後――予想外の事態が発生し、コルクの里への帰り道は遠のくことになる。




