女騎士撃退作戦!
ゴーディア公国、公都ホルン。
公爵邸の謁見室にて――。
女騎士――ゴーディアの姫クラウディアさんアンド取り巻き騎士ABCDから、バチバチ敵意あふれる視線が飛んでくる。
……う~ん。この人たち、どうやら戦闘する気まんまんらしい。
しかし、戦いに出てくるのは……予想外にも女騎士のクラウディアさんみたいだ。
「姫さま。ご武運を!」
「あのような怪しげなやから――姫さまの剣のさびに変えてしまえばよいのです!」
「ええ! 我らを愚弄した報い、ヤツの体に存分に刻みこんでください!」
「……ああ。よくわかった。みなのもの応援を頼むぞ」
と、言葉をかわしあうゴーディア騎士一行さま。
――うわ! 剣のさびって、がっつり真剣使う気じゃないですか! この人たち!
しかも、オレのこと斬るのが前提みたいだし!
ゴーディア騎士たちのぶっとんだ乱暴さに、オレはあっけにとられるしかない。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
すっかり戦闘モードの騎士たちに対し、モーラからやってきたオレたちは不安げに青い顔を見合わせている。
「まいりましたな……これは……」
そう言って頭をかかえるモーラ執政のシメオンさん。
ホントすいません。ウチのアリアちゃんが、ご迷惑をおかけして。
『さすがです。お兄さま』なんて絶対に言ってくれない、かわいげのない妹分ですけど、保護者代理として一応あやまっておきます。
と、もうしわけなさにオレは頭を下げるが――。
「……いえ。もともと何か言いがかりをつけて、さらに有利な条件を引き出すつもりだったのでしょう。ウェルキン公は策士であられますからな。アリアちゃんはたまたま口実に使われたにすぎません」
と、フォローを入れてくれるシメオンさん。
一瞬、エルフ幼女かわいさに錯乱したのかと思ったが、そうでもないようだ。
シメオンさんの表情は真剣に見える。
てことは今オレたちが置かれてるこの状況がウェルキン公の策ってこと?
そもそも、あのハンサム公爵ってそんな腹黒さんだったでんすか?
ぱっと見、そうは思えなかったんですが……。
首をかしげるオレに、ちらりと横目でウェルキン公を見たシメオンさんが小声で言う。
「……ああ見えて公は陰謀を好まれる恐ろしい方なのですよ。ま、為政者として十分以上の働きを見せていますから、ゴーディア国民にしてみれば良い君主なのかもしれませんが……」
ふむふむ。そっか。実はウェルキン公、お友達になりたくないタイプの人だったらしい。
あんな美形さんなのに陰謀好きとか――ホント人は態度とか見かけによらないよな。
……うん、やっぱイケメンは敵だ。
あいつらに心を許しちゃいけなかったんだ。
いいイケメンは死んだイケメンだけだ。
――なんて偏見全開なことをかんがえてるオレへ、シメオンさんがさらに告げる。
「けしかけてきた人選も、かなり意地が悪い。クラウディアさまは女性ながら剣技においてはここ騎士国でも有数の腕前だそうです。もし負ければ『女に負けるなどモーラに兵なし』と言われましょうし、かといって勝てば『女相手に大人げない』とののしられましょう」
……むう。なるほど。
勝っても負けてもダメってことか。そりゃ八方ふさがりだな。
シメオンさんが頭を抱えた理由がようやくわかったぞ。
と、うなずいてるオレに――、
「ええ。そこでヨシトどの。なにかこの場をうまく収める、よい知恵などはございませんか?」
弱り切った感じのシメオンさんはすがるような、それでいて探るような視線をオレに向けてくる。
……いや。いきなり『よい知恵ありませんか』なんて言われましても……ねえ?
教祖なんて名乗らしてもらってるけど、結局オレってタダの信心電波塔――現世でも異世界でも言われたことをこなすだけの社畜だし。
急に振られた無茶ぶりな難問。断ろうとしたオレだったが……そこで一つ思い出した。
待てよ――たしかアテナさん『こまったことがあったら、指輪を使って相談しろ』って言ってたよな。
うん。そうだ!
こういうピンチのときこそ神さまに相談だ!
ってことで――、
「……わかりました。では神々に良い知恵を求めてみましょう」
宗教家っぽくそう言うと、オレは瞑想の姿勢に入った。
理由はもちろん、ホントに神さまに相談に乗ってもらうため。
そして交渉ごとならば、やっぱり担当はこの人――交渉と商業の神ヘルメスさんだよな。
――オレはさりげなく指輪をさわり、ヘルメスさんへ遠距離通話る。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
(……あの、すいません。おじゃまします。ヘルメスさん)
ひっそりと声をかけたが、返事がない。
相手は神さまだし、ただのしかばねになってるはずがない――ということは、お留守なのだろうか?
ちょっと不安になりつつ、オレはもう一度、声をかける。
(……ヘルメスさ~ん。お留守ですか~?)
と――。
「ああ、たいへん失礼――つい金勘定と信心の計算に夢中になっておりました」
ヘルメスさんがようやく、返事をしてくれた。
それにしても『金勘定に夢中』ってどういうことですか?
そんな成金っぽいまねって、切れ者でスマートな感じのヘルメスさんらしくないんですが。
「――いえ。千年以上、これほど多くの金銭と信心をあつめたことがなくて……つい……」
言葉の後半、声が湿っているヘルメスさん。
……そうか。そういえばヘルメスさん、信心不足をなんとかしようとがんばってきたみたいだもんな。
そりゃあ、ひさしぶりに昔の栄光がもどってきたら、うれしい気分にもなるだろう。
と、ちょっとしんみりしたオレに、気を取り直したヘルメスさんが問いかけてくる。
「それでヨシトさん。今回はどのような用件ですか? アテナから聞いた話ではたしか隣国・ゴーディア公国に向かわれたとか?」
(……あ、そうでした。実はその件で相談がありまして……)
――親切にたずねてくれた商業神さんに、オレはここまでの事情を告げる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
(――というわけで、勝っても負けてもメンドくさい状況なんですよ。ヘルメスさんの知恵でなんとかなりませんかね?)
ウェルキン公の陰謀で女騎士さんと取り巻きにからまれてる状況を告げると――。
「ふ~む。なるほど。なかなかイヤらしい手ですね。……しかし打つ手がないわけではありません」
なんとヘルメスさん、あっさり解決策があると言ってきた。
……え? マジですか?! さすが交渉と商業の神さまだ!
でも、このピンチを乗り切る方法ってなんなんです?!
びっくりしながらたずねたオレに、ヘルメスさんは再びあっさり告げる。
「簡単なことです。『舐めプ』ですよ」
――は? 『舐めプ』?
「あれ? ごぞんじありませんか? 『舐めたプレイ』略して『舐めプ』。あえて装備やアイテムなどで不利な制限をつけたりして、舐めたようにゲームをプレイすることです」
……え、ええ。これでもオタのはしくれですからね。もちろん知ってますよ。
ただ神さまの口から出てくる単語とは思わなかったんで――ちょっとビックリな感じです。
いったい、どこでそんな言葉を覚えたんですか?
「息抜きによく動画サイトを見るのですよ。あれなら仕事の合間だったり、仕事しながらでも楽しめますから。特にゲーム攻略動画なんかはいいですね。つい物欲が刺激されます」
と、ニコニコしながら言うヘルメスさん。
……は、はあ。そういえば、かなり仕事いそがそうですもんね。
商業神の思わぬ趣味とせちがらい事情をきかされて、ぽかんとするオレ。
……ま、まあ、それはともかくとして。
『舐めプ』って具体的になにをすればいいんでしょうか?
「それは……ですね。まずアレスの加護が必要なのですが――」
――たずねたオレにヘルメスさんはにやっと笑い、『女騎士撃退・舐めプ作戦』の内容を告げる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「――と、このようにするのです」
(あ……なるほど! それならうまくいくかもしれませんね!)
ヘルメスさんから必勝プランを授かったオレ。
それから今度は軍神アレスさんと打ち合わせをすませる。
これは、かなりあっという間に終わった。
「……よし、これで『例の武術』は達人レベルで使いこなせるようにしたよ。戦場での真っ向勝負じゃないから、おれとしてはあまり好きな技術じゃないが……日本に行ったときタケミカズチさんにすすめられて覚えといてよかった。なにごとも経験だね」
オレに新たな加護――というか技を授けてくれたアレスさんは満足そうに言う。
(あ、ありがとうございます。アレスさん。ただ習得がかんたんすぎて逆にこわいんですが……)
マト〇ックスでなみの早さで『とある技』を覚えさせられたオレは不安になるが、アレスさんは豪快に笑った。
「なあに。だいじょうぶさ。加護を信じるんだ。加護とともにあらんことを……。というわけで、おれはエルフ巫女の『奉納神楽』……じゃなかった獣人の訓練にもどるよ。じゃあねヨシトくん」
うぅ……そういう風にネタぎみに言われるとよけい不安なんですけどねえ。
軽い口調に不満をもったオレだったけど、すでにアレスさんは訓練――というかたぶん『奉納神楽』にもどったあと。
…………うん。しょうがないや。がんばってみるか。
というわけで――、
覚悟を決め、オレは意識を現世にもどす。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
閉じていたまぶたをひらくと――そこには不安そうなシメオンさんの顔があった。
オレは一行を安心させるため、そして自分を落ちつかせるため、あえてゆっくりした口調で言う。
「だいぶお待たせしましたが、ようやく天啓がくだりました。なんとかなるかもしれません」
「おお! それはよかった! お願いしますぞヨシトどの!」
と、言葉をかわすオレたちに――、
姫騎士クラウディアさんから、あざわらうような声がかかった。
「……ふん。ずいぶんと長い祈りだったな。神頼みはうまくいきそうか?」
「無駄なことを。それより自分の冥福でも祈ったほうがよかろうよ」
「ああ。そうだ。今からでも遅くはないぞ」
そこへさらに騎士たちの暴言が続く。
姫騎士さんに好かれようとしてるのか、オレに対して妙に攻撃的な騎士たちだ。
……ちっ。これだから女性人口の少ない組織って、やっかいなんだよな。
オタサーの姫ならぬ騎士サーの姫ってところだろうか?
さすがにちょっと頭にきた――けど、ここで挑発に乗ったらダメだ。
いらだちは顔に出さず、オレはゆっくりとクラウディアさんの前に向かった。
そして女騎士さんが向けてくる強烈な視線を、静かに受け止める。
「む……」
そんなオレの落ちつきに、一瞬ひるんだようすのクラウディアさん。
だがすぐに気を取り直し、オレに高々と宣戦を告げる。
「……さあ、剣をとれ。尋常に勝負だ!」
そう言うと、闘志をみなぎらせて剣を抜き、構えをとるクラウディアさん。
体の正面――いわゆる正眼でかまえられた正統派っぽい剣には素人目に見てもすきがない。
う~む。さすがだな。
騎士の国でも有数の腕前っていうのはだてじゃないみたいだ。
「……ごくり」
決闘場となった謁見室は高まった殺気に静まり返っていた――だれかが唾を飲む音すら聞こえてくるくらいだ。
今にも戦いがはじまりそうな室内には、ピンと張りつめた雰囲気がただよう。
……おお。ひさびさにガチのバトルシーンっぽくなってきましたなあ。
だけど――。
オレは女騎士さんと真っ向勝負なんかしてやらない。
予定通り、これより『女騎士撃退・舐めプ』作戦を開始します。
というわけで――。
「……ああ、そうでした。そういえば戦う前にやっておくことを忘れていました」
わざとらしくつぶやいたオレはふりかえった。
そして不安そうにこっちを見てるモーラの執政さんへ、こう告げる。
「――シメオンさん。この刀をあずかっていてください。あと、ついでにこの獅子の毛皮も……」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「すいません。この刀と毛皮――少しの間、持っててもらえませんか?」
そう言うと、オレは返事も待たずにひょいひょいと装備を手渡していく。
それを、ぽかんとした顔で受け取るシメオンさんの部下たち。
――と、そこでようやくシメオンさんが声を上げた。
「ヨシトどの! さすがにそれはッ……?!」
「な……武器をッ?!」
「どういうことだ!?」
味方だけじゃなく、むこうの騎士たちも驚きの声を上げる。
しかし目を丸くしてる室内の人たちを尻目に――、
装備を捨て身軽になったオレは床へひざをつき、きっちり正座の姿勢をとる。
「………………き、きさま、なんのつもりだ!?」
武器を捨て、さらに床にすわりこんだオレ――まるで戦う意思の感じられない姿だ。
そんなかっこうを見せられて、あっけにとられたあと、思わずどなったクラウディアさんへ――、
オレはにっこり笑って見せた。
それも見た相手が腹を立てるよう、できるだけ聖人っぽい微笑みを向ける。
そして――よゆうたっぷりに言う。
「淑女に刃を向け、傷つけなどしては一大事。そうならないよう、わたしは素手で行かせてもらいます。さあ……かかってきてください」




