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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第六章
69/110

公爵と妹姫

 ゴーディア公国――公都ホルン。

 公爵邸謁見室、控えの間にて――。


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆

 

 ゴーディアに到着した翌日、宿を出たオレたちが向かったのは、この国の一番えらい人のお屋敷――というより宮殿みたいな場所だった。


「面会の約束をしておりましたモーラのシメオンです。ウェルキン公にお取りつぎを」

「……承っております。シメオンさま」


 やたらデカいお屋敷の正門、厳重に警備された巨大な扉の前。

 シメオンさんが門番に名乗ると、出てきたお役人らしき人物にお屋敷の中に通された。


「準備が整うまで、こちらでお待ちください」


 案内されたのはふかふかじゅうたんがしきつめられた一室。さすがに外国からのお客を受け入れる部屋だけあって内装は豪華だった。 

 しかし――そんな立派な場所に似合わないほのぼの会話が、ファールスの執政シメオンさんとエルフ幼女のアリアちゃんの間でかわされている。


「いいかい、アリアちゃん。おじちゃんたちはこれから、とっても大事な話があるんだ。さわがず、お行儀よく、この部屋でお留守番できるかな?」

「……うん。シメオンおじちゃん。アリア、がんばっていい子にする!」

「よしよし。おりこうさんだね、アリアちゃん」


 けなげな受け答えをするアリアちゃんに、表情がゆるむシメオンさんと部下の方々。

 シメオンさんはじめ部下の人たちに愛想をふりまいたエルフ幼女は、なんやかんやで一行に溶けこんでしまっている。

 ……う~ん。すっかりタラシこまれてるみたいだ。

 オレもあの子の本性を知らなければ、あんな風に笑えたんだけどね。


 そんなふうに思いっきり猫をかぶってるアリアちゃんに、オレはこっそり小声で問う。


「……あのさ。アリアちゃん、どこまでついて来る気?」

「ふん、あたしはお姉ちゃんにかわってあんたのお目付け役よ。あんたの行くとこ全部についていってやるんだから! ま、表向きはあんたの『世話役』ってことにしてあげるわ!」


 他の人に対するかわいらしい態度とはちがい、オレには敵意をぶつけてくるアリアちゃん。

 でも世話役というより、こっちが世話を焼かされそうな気がするんだよな……しかも、どこまでもオレについて来る気みたいだし。こりゃ、めんどうなことになりそうだ。

 最小限の人数で来てるもんだから、だれかに里までアリアちゃんを送ってもらうわけにもいかないし。


 ――妙ななりゆきに、オレはため息をつくしかない。


 で、そうこうしてるうち。 

 部屋に入ってきたお屋敷の執事っぽい年配のオッサンが――、 

 

「どうぞシメオンさま。我が主、ウェルキン公爵がお待ちです」


 と、オレたちに『謁見の間』へ行くようにうながしてきた。

 オレたちはその指示に従い、隣室にむかうことにする。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ちょっと緊張しながら入った『謁見の間』――豪華だけど趣味がよく、年代物らしい暖かみのある内装がまず目に入った。

 おお……なんだか積み重ねた歴史みたいなものが感じられますなあ。


 で、その部屋の中央――リッチな感じの椅子に腰かけ、オレたちを待ってた人物が一人。 


「お待たせしてもうしわけない。シメオンどの」

「いえいえ。こちらこそご多忙のところ、わざわざ面会の時間をいただき感謝の念にたえません」


 と、まずは社交辞令のごあいさつがかわされる。

 椅子から立ち上がり、こちらに頭を下げてきたのは、オレと同じく二十代半ばくらいの若い男。

 もっとも同じなのは年だけ、造形はあちらさんのほうがはるかに上だ。

 均整のとれた長身の上に、やや波打つ黒髪で縁取られた美形なお顔が乗っている。  


 で、そのハンサムさん――たぶん五代目のウェルキン公爵さんは深い青色の瞳を愉快そうに光らせ、オレに視線を送ってきた。


「おや……こちらは? 前回の交渉の際にはおられなかったようですが?」


 むっ……その発言からすると、会った相手の顔はきっちりおぼえてるのか?

 そういえばイイとこの生まれの人って『人の顔を覚えるのが一番の仕事』なんて話を聞いたことがあったな。


 ――とかなんとか思いながら、オレは商業神(ヘルメス)さんの加護『交渉術』を発揮し、それっぽい態度であいさつする。


「お初にお目にかかります。オリンポス教団の教祖を務めるヨシトともうします。どうぞ、お見知りおきを……」


 そういって深々一礼したオレに――。


「おお、あなたが噂に聞くオリンポス教団の教祖でしたか?」

「はい。モーラの街のほど近く、コルクの里という小さな村を本拠地に、ヨシトどのは教えを広めているのです」


 ウェルキン公から好奇心あふれる声がかかり、シメオンさんが事情を説明してくれる。 


「先だって、たまたまヨシトどのと面識を得ることができましてな。なかなかの人物なので、ウェルキン公にも面識を得ていただこうと、ここまでお連れしたわけです」

「ふむふむ。そうか。ようこそ来られましたヨシトどの。我が国を楽しんでいってください」


 シメオンさんの言葉にうなずき、歓迎してくれるウェルキン公。


 ……ていうか、あれ? なかなか好青年さんじゃないですか?

 騎士の国のトップで、しかも領土とか利権を欲しがるような人っていうから、てっきりイカつくて、ゴーマンな感じの人を想像してたのだが……そうじゃないみたいだ。

 思ってたのとはちがう展開にとまどうオレ。


 ――でも、これならシメオンさんの交渉もめんどうなくいきそうだな。 


 なんて調子のいいことを、そのときのオレは考えてたのだが――。

 切れ者のシメオンさんが助けを求めてくるような事態が、そんな簡単に片付くわけがなく……。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「では、例の件の交渉にうつりましょう。今日で細かな条件をすべて決め、条約を文書化してしまいたいのですが……」


 あいさつをすませ、シメオンさんが本格的な交渉に入ろうとした、そのとき――。



 ――バッタァーン! 



 とんでもなくデカい音を立て、謁見室の扉が開かれた!

 んでもって、ダイナミック登場を果たしたその人物は大きな声を張り上げる。


「兄上ッ! ファールスから使者が来ているというのはまことか!?」

「……クラウディア。今は外国からの使者がおいでなのだぞ。もう少し礼をわきまえなさい」


 ウェルキン公がたしなめが、突然の訪問者はかまわず室内に入ってくる。

 

 公を『兄上』と呼んだこと、それにクラウディアという名前からすると、ウェルキン公の妹さんなのだろう。つまりお姫さまなんだと思うけど……そうは見えない。

 顔立ちはお兄さんに似てうるわしいのだが、艶のある髪はバッサリ短く切られて、目つきもキツイ。

 さらにオレと同じくらいの身長の体をゴツイよろいで包んでいる。だから、女性らしさがあまり感じられない――いわゆる女騎士さんだ。

 むしろ『弟』といわれたほうが信じられたかも……。 


 で、そのクラウディアさんとやらは、取り巻きらしき数人の騎士とともに、ずかずかと謁見室に乗り込んできて――シメオンさんにつめよった。


「貴様か?! 策を(ろう)して我が国から領土をかすめ取ろうという卑劣漢は!?」


 女騎士さんのほか、けっこうガタイのいい騎士――武装してる数人に囲まれるシメオンさん。

 かなりおっかない状況だけど、シメオンさんは落ち着いた声で反論する。


「『策を弄して』などと申されては心外ですな。すべて古文書に記された事実を元に、我が国は当然の権利を主張しておるだけです」


 おお! この状況でもさすがに冷静だ。切れ者っぽさ全開ですね!

 オレはシメオンさんの落ち着きに感動した。


 だが――クラウディアという女騎士さんは、さらに頭に血を上らせたようだ。


「ふん! 口先だけのやからの言うことなど、だれが信用できよう。どうせその古文書とやらも偽造したものにちがいない!」


 美女騎士さんの決めつけるような言いかたに、オレは説得がムダだと思い知る。


 ……ああ、こりゃダメだ。自分の中で結論が決まっちゃってる感じの人たちだ。

 自分が正しいと思ってるから、なにをどう説明しても難癖つけてくるタイプ。

 生前勤めてた会社の上司にもこういう人がいて、あつかいが大変だった。お客さんとしてもちょくちょく見かけて、かなりひどい目にあった。

『ひたすら謝りつつ、言われたことは気にしない』って対処をすればいいんだが――それでも、かなりメンドいタイプの人なんだよな。


 ……あーあ。見た目はきれいな人なのに中身がこれってもったいない。


 と、そこまでは他人事のように考えられてたオレだったけど――。 

 クラウディアさんご一行さまから少し遅れて姿をあらわした騎士のすがたに、ぎょっとさせられる。


 いや……。

 正確に言うと大柄でゴリラみたいな体型をした騎士がかついだもの――暴れるちっちゃなエルフ少女の姿に驚かされたのだ。



 ――ちょっ! なんでいきなり連れ去られてるのアリアちゃん!?



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 毎回、誘拐されるどこぞのピー〇姫みたいなアリアちゃんに、オレたちはあっけにとられた。


「もう――放しなさいよッ! この変態!」


 囚われのアリアちゃんはわめきながら、じたばた逃げようとするが、がんじょうなゴリラ騎士はびくともしない。


「隣の部屋から顔を出してこちらを探っていたのでな。間者かと思って問いただしたところ――エルフの娘だったではないか。これは怪しいと思ってつれてきたのだ」


「ああ、そういえば……奴隷エルフを身近において、いかがわしい作業に従事させる連中がいると聞いたことがある。まったく破廉恥な!」

「ふむ。ファールスの国主がエルフの奴隷を求めているという話もあったな。きっとこやつらもその手の連中にちがいない」

「にしても……このような幼子を……」 


 勝手な思い込み会話がどんどん連鎖コンボして、こっちは口をはさめない。そのうちオレたちは、なんだか変態ご一行さまみたいなあつかいを受けてしまう。


 ――で、セルフエスカレートした話に潔癖症っぽいクラウディアさんが顔を真っ赤にして怒る。


「このように幼いエルフの娘を身辺にはべらせ愛玩するなど……みだらな! お前らのような人間がこの国にいると風紀が乱れ惰弱の気風が広まり、騎士どもが弱くなる――さっさとこの国を去れ!」


 ……うわ。なんか、すごい誤解を受けてるみたいだ。


 いや、たしかにモーラのお役人たちはアリアちゃんを愛玩といえば愛玩してた。

 けど、それは親戚のおじちゃんおばちゃんみたいな感じで、決していかがわしい意味じゃない。

 

 そして今も――。

 シメオンさんが捕まったアリアちゃんの姿に心を痛め、声を上げている。 


「その子を……アリアちゃんをはなしてくだされ!」

「ダメだ! お前たちが我らから奪った領土を返し、この国に関わらぬと誓わぬかぎりはな!」

「くっ、なぜ、そのような無体なことを!」


 自分が脅されたときには眉ひとつ動かさなかったシメオンさんが、アリアちゃんが捕えられただけで顔色を変えている。お仕事の義務とアリアちゃんかわいさの板挟みになってる感じだ。


 ……ていうか昨日と今日だけで、どんだけアリアちゃんにたらしこまれてるんだよ。  


 で、そんなシメオンさんは、なんとかアリアちゃんを返してもらおうと懇願するものの、頭の固い騎士には通用していなくて――。


 オレたち一行は突然のピンチに固まるしかない。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「領土を返し、この国から早く出ていけ! そして二度と国境をまたぐな!」

「そうだな。神妙に出ていくというなら、我らの国の威信を傷つけたことは不問にしてやろう」


 アリアちゃんを人質に取るような形で、好き勝手なことを言うゴーディア騎士たち。 


 一方、アリアちゃんは抱え込まれ、押さえつけられ、顔を真っ青にしてた。

 だが、ありがたくないことに気の強さだけはまだまだたっぷり残ってるようで――。

 幼女エルフは公爵の妹姫――女騎士さんと、その取り巻き騎士たちを大声で罵りだす。


「なによっ! 見かけ倒しのへっぽこ騎士の威信がどうしたっての! 子ども脅していい気になってるあんたらに比べたら、そこのエロ教祖のほうが数倍強いんだからね!」



 ――そんなちびっこエルフの言葉に室内はしんと静まった。



 あ……いや。アリアちゃん。認めてくれたのはうれしいんだけどさ。

 なんで、こういうロクでもないときだけ、そういうこと言うの?

 今、そのセリフはどう考えたって挑発にしか聞こえないじゃないか!?


 なんてオレの恐れはどんぴしゃで当たり――、

 ちらっと視線を送った先、女騎士さんおよび、その取り巻き騎士さんたちはそろって青筋を立てているごようす。


「…………ほう。このエルフのガキめ。なんと言った? どうにもしつけが足らんようだな?」

「ああ。オリンポス教団では子どもに、ずいぶんと愉快な考え方を吹きこんでおるようだな?」

「へっぽこ騎士……だと? そこまで言うならヨシトとか言ったな? 貴様の力……見せてもらおうではないか?!」


 自分のセリフでさらに怒りをエスカレートさせちゃってる騎士さんご一行。


 ちょっと! 公爵さん! この人たち部下なんですよね? 

 だったら、こんな乱暴はやめさせてください!


 ――オレは助けをもとめる視線を送ったが、ウェルキン公は首を左右に振った。


「血の気が多い連中なのですよ。戦いにかけては誇りを持っていますし、こうなっては、わたしにもどうしようもない。あなたが腕前を見せる以外には……」


 好青年にみえた公爵さんは肩をすくめ、『おれ関係ないし』って雰囲気をただよわせている。


 ……え? つまり止める気なんかないってこと?  


 ていうか……なんでこうなるの!? 何かもめたら、すぐバトルに持ちこむなんて――どんだけ少年誌脳な国柄なんだよ!


 予想のななめ上を行く展開に内心でわめくオレだったが――室内の空気はどんどんヤバくなっていく! 



  

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