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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第六章
68/110

旅立ち、到着、一大事

 どうも。異世界教祖のヨシトです。

 ここまで、けっこう長いことコルクの里でがんばってきましたが、どうやらそれも一段落。

 これから新たな旅立ちが待ってるぞ――って感じでしょうか。


 とかなんとか……前向きなことを口では言いつつ、実は内心かなりビビってたりします。


 戦略シミュレーションゲームじゃ、本拠地の内政値MAXにしてから、ようやく外征に出るって感じのヘタレプレイばかりでしたからね。そのころには北条か武田か伊達が東日本制覇してたり、あるいは袁紹か曹操さんが中原を制してたり――。

 そんな感じのヒッキーな性格なんで……安住の地を離れるのはキツイです。まだ発展途上な里を後にするのも、ちょっと気が引けるわけですし。


 まあ……ヘボい雇われ教祖があれこれ心配しようが、里には優秀な知恵女神さまがいるんで問題なく回るんでしょうけど。


 てなわけで――。

 魔法教祖ビビりなヨシト……始まります。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 コルクの里――長老屋敷、 

 すっかり見慣れたこの部屋――いろんな思い出のあるここともしばらくお別れだ。

 しんみりしたオレは恋人の美人エルフ――マリアさんに悲しい気分で伝える。


「すいません、マリアさん……ちょっとの間、留守にしなきゃならないみたいです」 

「ヨシト……さま。さびしいです」   

 

 万感の思いをこめて、オレを見つめてくるマリアさん――オレは彼女と熱っぽい視線をかわす。

 だが、そこで――、


「ふんッ……浮気旅行じゃないでしょうね?」


 空気をだいなしにする発言をしてくれたのは、マリアさんの妹のアリアちゃん。

 オレとマリアさんが向かい合うとなり、テーブルの上にひじをつき、お菓子をほおばりながら、アリアちゃんは嫌味なことを言ってくる。

 

 ――ああ、もう! なんてこと言うんだ! このエルフ幼女め!! 

 マリアさんとの、せっかくのラブラブ雰囲気(ムード)がだいなしじゃないか!


「アリア! ヨシトさまに失礼なことを申し上げてはダメと、あれほどいったでしょうに!」

「ふ~んだ!」 


 姉のマリアさんのお説教も通じないアリアちゃん。

 ま、ふだんがやさしい人だから、怒っても怖くないのだろう。

 しかし――、

   

「……ま、あたしはお邪魔虫みたいだから、あとは若いお二人で……」 


 ここまで散々邪魔しといて、エルフ幼女は部屋を去っていく。

 その後ろ姿にため息をついたあと、マリアさんはわびてくる。


「もう、あの子ったら……もうしわけありません。ヨシトさま」

「いえ。だいじょうぶです。なんやかんやで二人きりになれましたし」


 ようやく人目が無くなり、遠慮なく抱き合うオレたち。

 さらにイイ雰囲気になる二人だったが――、


 一方、部屋の扉の前――、


「あのエロ教祖。またどこで悪い虫つけてくるかわからないわね。やっぱりあたしの監視が必要だわ」


 なんてエルフ幼女が妙な決心を固めてるとは知らないまま――オレは出発の日を迎える。

      


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ゴーディアへの出発の日、朝早く――。


 オレが長老屋敷から急いで外に出ると、シメオンさんはすでに馬車とともに待っていた。  

 なんでも昨日の夜から、この里に来て泊まっていたらしい。

 モーラの執政――おえらいさんを待たせてしまったことにオレは頭を下げる。

  

「すいません、シメオンさん。わざわざ里のほうに迎えに来てもらうことになって……」

「いやいや。モーラからゴーディアに向かうなら、この里は通り道に当たります。あなたに行ったり来たりの手間をとらせるより、こっちのほうが合理的なやり方でしょう? それに昨晩はカジノと奉納神楽を楽しませていただきましたし」


 と、笑って答えてくれたシメオンさんはあいかわらず気さくだ。そんな態度のせいもあって、旅用の服に身を包んだ彼は、ちょっと裕福な商人さんくらいにしか見えない。

 連れてる人数も最小限――荷物持ち兼護衛役が二人、助手の文官さんも二人。あとは贈り物らしい荷物がいくつか馬車につまれてるだけだ。

 

 ……う~ん。おえらいさんの旅の人数が、こんなに少なくていいのだろうか?

 昔のロープレじゃないんだし、もう少しパーティの人数がいてもいいような気がするぞ。


「行き先はすぐ隣の国ですからな。それほど人数は必要ありません。わたし自身、あまり仰々しいのは好みませんし、向こうの警戒を誘わぬよう、さりげなく国内に入ったほうがめんどうも少ない」


 と、そこだけはきらりと目を光らせて言うシメオンさん。


 ……おお、この人数も作戦のうちだったんだ。

 さすがアテナさんにも認められるほどの切れ者シメオンさんだな。

 感心するオレにシメオンさんは人の良さそうな表情で応える。



 ――で、そんなオレたちを里の知り合いたちが見送ってくれた。



「ヨシトさま……お気を付けて」

「師匠、ご武運を!」

 

 まずは里の長老ヨブさんに、オレの一番弟子ロックさんがあいさつ。

  

「いってらっしゃい。ヨシトさん」

「教祖さん、シメオンさまをたのむぜ」

 

 布教の相棒アテナさんに獣人親分のマークスさんも一声かけてくれる。

 そして、さらに――。


「ヨシト……さま。どうか無事で……」


 少し目を潤ませたマリアさんもいる。彼女に悲しい顔をさせてしまったことにオレは胸を締め付けられた。こみあげる思いのまま、マリアさんをぎゅっと抱きしめる。

 見つめ合った二人は幸せなキスを交わし――しばらく別れを惜しんだ。



「では、行きますぞ。ヨシトどの」

「…………はい」


 遠慮がちに一声かけてきたシメオンさんにうなずくと馬車に乗り――オレは隣国ゴーディアに旅立つ。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 出発は朝――そして目的地への到着は昼過ぎ、夕方前の時間帯だった。


「って……あれ?! もう着いた?!」

 

 あっけにとられるほど、あっという間に隣国ゴーディアに到着した。

 整備された道を馬車で飛ばして川に行き、そこから渡し船に乗って向こう岸についたら、また向こうで馬車に乗りかえてピューって感じの道のりだ。てまどる要素がなかった。

 ゴーディアは農業国というのは本当らしく、田園と牧場が交互に訪れるのどかな風景が続き――旅の景色を楽しんでるうち、さっさとゴーディアの中心都市ホルンについてしまったのだ。

  

 むう……さっき、マリアさんとしんみりした別れをしたのがバカみたいだ。

 せめて旅と言えばつきものの盗賊襲撃イベントがあれば、話がおもしろくなったのに――。


「ここは騎士の国ですからな。治安がいいのです。盗賊などが出るすきはありませんよ」


 オレのグチに、そういって笑うシメオンさん。

 そうこうしてるうち馬車は城壁をくぐり、街中に進入していく。

 モーラの華やかさとは少しちがう、質実剛健な感じの街並みだが、にぎわいっぷりは同じくらい。街の雰囲気のちがいを味わってるうち――馬車はシメオンさんが常連になってる宿屋の前についた。 


 ――で、シメオンさんがにこにこ笑顔のまま、オレに宿の情報を教えてくれる。 


「さ、ヨシトどの、こちらです。豪華ではありませんが、落ち着きのあるいい宿ですよ。交渉のたびいつも世話になっております。農業国だけあって食材は新鮮ですし、それになにより肉がうまい」


 ほう……それは楽しみですな。

 短い旅だったので食事をとる暇もなかったから、けっこう腹ペコだった。

 オレたちは荷物を部屋においてすぐ食堂にむかう。昼すぎで夕飯にはまだ間がある時刻だけど、大きな広間は宿泊客でにぎわっていた。



「では、無事の到着を祝いまして……乾杯!」



 シメオンさんのあいさつとともに、まずは小さな樽みたいなジョッキに入った麦酒(エール)でのどを湿らせる。キンキンに冷えたビールかと思ったら常温なんでびっくりしたけど、いい麦を使ってるせいだろうか? かすかに泡立つ黄金色の液体は豊かな味わいだった。 

 

 で、そこからお待ちかねの食事――運ばれてきたのはごろっとしたお肉の串焼きだった。

 ゴーディアは農業だけでなく牧畜も盛んらしく、たしかにお肉がうまい。炭火で焼いた赤味の多い肉は歯応え十分。味付けは塩とハーブだけみたいだったが……噛みしめるたびに焼き立てのお肉から肉汁がほとばしる。

 

 ――おお、いいねえ、この肉食ってる感!


 かたまりのお肉を食いちぎり、麦酒だったり、焼き立ての香ばしいパンといっしょに流し込むだけで、生きてる意味が実感できちゃったり、できなかったり――いやあ、とにかくたまりませんなあ。

 異世界トリップしたわりに、恵まれすぎてる環境にムフフとほほがゆるむ異世界教祖さん。

 旅立ちに不安を感じてたのがアホくさくなるくらいだ。



 と……そこまではよかったんだが……。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 夕方までじっくり腹ごしらえしたオレたち一行はその後、食堂から部屋にもどった。


「よし。それではまず、そのつぼから確認しよう」

 

 シメオンさんと部下たちは翌日の会見に備えて贈り物のチェックに入った。国同士のやりとりだから、うかつに欠陥品を渡したりしたら外交問題になるらしい。だから、びっくりするほど慎重に贈り物を再チェックしている。

 どうやら、しっかり腹ごしらえして英気を養ったのはこのためみたいだ。

 一方、キビキビ働くシメオンさんたちと違い、することのないオレは微妙に気まずい感じでいた。 


 ……むむ。これは邪魔しないように、どこかに出かけてたほうがいいのかな?


 なんてオレは思ってたが――。


「あれ? このじゅうたんだけ他のより重いですね?」

「……もしかしたら船でしぶきがかかり、濡れてしまったかもしれません」

「う~ん。注意しましたし、油紙をかけていたんですが……」

「わかった。とにかく広げて確認しよう」


 ずっしり重厚で高そうなじゅうたんを調べてるとき、文官の一人が声を上げた。

 あやしんだシメオンさんが、丸めたじゅうたんを広げた、そのとき――。


 じゅうたんからゴロリと転がる何者かの影。

 一瞬、目を疑う一同――集まったその視線の中で、のんきに寝てたのは見覚えのあるエルフ幼女だった!

 


 ……ちょ! なんでこんなとこにいるの! アリアちゃん!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 丸められてたじゅうたんから転がり落ちたのは……なんとエルフ幼女のアリアちゃんだった。

 そんなワケのわからん状況に、オレだけじゃなくシメオンさんはじめモーラの役人ご一行の目も点になっている。


 このじゅうたん――けっこう豪勢な織物だったんで生地が重く、一方、エルフ幼女は体重が軽すぎて荷物を積んだときには気づかれなかったみたいだ。 

 どうやらエルフ幼女さん――昨夜、セルフす巻きになって、オレたち一行の旅にまぎれこんだらしい。


 そして、ぼうぜんとしてる一行の目の前。

 どこぞのエジプト女王みたいな登場をした幼女エルフが目をさます。



「――ふああぁぁぁぁ。あれ? もうついたの? はやかったわね?」



 ……ああ、うん。乗り継ぎがうまくいってね。

 って、そうじゃなくて! コルクの里に帰りなさい! 今、すぐに!


 ようやく我をとりもどしてオレが怒ると――。

 アリアちゃんは大げさな悲鳴を上げてシメオンさんの背後に逃げ込む。


「きゃあ、近寄らないで! 変態教祖! 幼女への声かけ事案発生よ!」


 ……いやいや。アリアちゃん。あきらかに悪いのは勝手についてきたそっちなのに、なんでそういう濡れ衣を着せてくるかな?

 なんだか文官さんと護衛さんの視線がけわしくなったんで、マジでそういうのはやめてください。そういうのがつもりつもって無関心で冷たく思いやりのない社会の元凶になりますからね。


 どんだけムチャな言い分だろうと、口げんかは声がデカい方が勝つ――って世の不条理をかみしめながら、オレはエルフ幼女を説得しようとするが――。


「やだッ! 絶対に帰らない!」


 ガンコなアリアちゃんはシメオンさんの足にしがみついて離れようとしない。 

 その姿にほだされたのか、シメオンさんまでオレをなだめてくる。


「……まあまあ、ヨシトどの。今日はもう遅い。このような幼子を一人返すわけにはいきますまい。今からでは馬車もありませんし。とりあえず今日はこの宿で一泊させて……善後策は明日考えましょう」


 そんな聖人みたいなシメオンさんに対しても、アリアちゃんは失礼なことをいう。


「わ~い! ありがとう! おじいちゃん!」

「……いや……そのせめて、おじさんで……お願いします」


 微妙に傷つきヘコみながらも、まだアリアちゃんをかばうシメオンさん。

 ああ、イイ人ですね。シメオンさん。

 でも幼子と言っても実はオレより年上なんですけどね。そのエルフ幼女。


 しかし……オレの切実な心の声は、だれにも届かない。 


「はあ……」


 シメオンさんの背中に隠れ、あっかんべーしてるエルフ幼女の姿にオレはため息をつく。

 まったく……もう。いきなり予想外のとこで問題発生じゃないか。


     

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