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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第五章
65/110

愛女神の加護

『エルフ巫女さんを偶像(アイドル)にして信心を集める』


 そんなアフロディーテさんのアイディアは理解できないわけじゃない。

 日本でも熱心なファンのことを『信者』っていうわけだし。あの強烈な情熱を『信心』にできたら、それは大きな力になるだろう。


 でも……だけど……。

 キャバクラとか握手券とか――人の好意を利用してお金もうけするのは、なんだか汚い気がする。少なくともオレはイヤだった。

 接待で行ったことのあるキャバクラと似たような『告解所』を見回し、オレはしぶい顔をする。



 ――そんなオレの気分は美と愛の女神さまにあっさり読まれてたみたいだ。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「ふ~ん。『理解できるけど納得できない』って感じね? ヨシトくん」


 オレの顔を一目見ただけで美の女神さまは考えてることを見抜いてきた。

 むう……すごい読心術だ。もしかしてヘルメスさんの交渉術より強力なんじゃないだろうか?

 

「うふふ。これでも愛の女神だもの。男心に関しては他のだれよりもくわしいわ。この力のおかげでヘラやアテナを出し抜いて審査員の心をつかみ、『もっとも美しい女神コンテスト』で黄金林檎(トロフィー)を勝ち取ったこともあるのよ」


 ――と、自慢げにLLサイズの胸を張るアフロディーテさん。


 ほほう。ヘラさんって、たしかゼウスさんのお姉さんで奥さんだっけ? 

 そっちの女神さまのことはよく知らないし、知りたいとも思わないのでスルー……闇が深そうだし。

 でも、あのアテナさんを出し抜くなんてすごいですね。


 なんてオレがほめると――美の女神さまはちょっと肩を落として言う。

  

「まあね。もっとも、そのせいで英雄が死にまくったり、(トロイ)が一つ滅びちゃったりしたんだけど……」


 ……前言撤回。迷惑すぎるぞ。その才能(スキル)

 そして『美女コンテスト』が理由で命を落とした英雄さんと滅びた国がかわいそすぎる。

 あとでちゃんと謝ったのかな。ウチの神さまのみなさんは……たぶん謝ってないんだろうな。


 ――にしても、なんでそのすごい神業(スキル)を使ってオレをじっくり観察してくるんだろう?


「そりゃ気になるわよ。いくらこっちで『信心』を集めても、教祖のヨシトくんがいなきゃ向こうの世界に中継できないんだもの。やる気を失われたら一大事だわ」

 

 ……ちぇっ、そういうことか。どうせオレはただの信心中継装置(アンテナ)ですよ。

 オレがふてくされると、アフロディーテさんは柔らかな――『ザ・お姉さま』って感じの笑顔でなだめてくる。


「そうスネないの。ヨシトくん。今じゃみんながあなたを頼りにしてるんだから……あの他人に頼らないアテナまでね、これってすごいことよ」


 無邪気に笑うアフロディーテさん。そんな彼女のことはなんだか……憎めない。

 ちょっとトーンダウンしたオレに向け、アフロディーテさんは物わかり良さそうに言う。


「もちろん。どうしてもヨシトくんがこの信心収集法をやめてほしいなら、そうするけど……」

 

 いえ……アイドル巫女さんが信心集めに効果的だってのはよくわかります。

 でも、お金もうけにエゲつなさすぎじゃありません? 

 こんな感じで宗教を名乗っていいんでしょうか?

 なんだか他の真っ当にやってる宗教家さんたちにもうしわけない気がするんですが……。


「そうね。たしかに……わたしもアテナもかなり悪どいやりかたってのは重々承知の上よ。でもね。働いてる女の子たちの表情を見てごらんなさいな」


 ……ん? どういうことだろう?

 疑問に思いつつも、オレは女神さまに言われたとおりエルフ巫女さんたちに視線を送る。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



告解所(キャバクラ)』に『奉納神楽(アイドルライブ)』。

 どちらもエルフの見た目の良さを利用してるようで、オレはちょっと気が引けてたんだが――、



「赤ブドウ酒二本追加お願いします」

「こっちは発泡麦酒五本で!」

「かしこまりました! よろこんで!」



 ……むぅ。リズさんもエリーさんもソーニャさんもたしかにみんな生き生きしてるな。

 うすぐらいロウソクの明かりの中でも、エルフ娘さんの目はキラキラ光ってた。

 それだけじゃない。獣人さんたちやエルフ青年隊も楽しく働いてるみたいだ。



「あの子たちも里の役に立てるってことがうれしいのよ。資源の少ないこの里じゃ産業が限られるもの――だからアテナが賭博と金融を選ぶしかなかったんだし。エルフの娘たちが、あなたの愛人になろうとしたのも玉の輿狙いだけじゃなく『里の役に立ちたい』って思ったからじゃないかしら?」


 ……なるほど。そういうことか。    

 エルフ娘さんたちに生きがいになる仕事を与えるのが、女神さまたちの狙いだったのか。 

 自分の力で稼ごうとしてるエルフ娘さんたちは……たしかに、なんだか輝いて見えた。

  

 むむぅ……毎度ながら、ぶっとんでるように見えて、アテナさんやら神さまたちの考え深さには驚かされる。

 そして、アフロディーテさんも痴女に見えたけど、やっぱり女神さまだったんだ。

 あんまり子どもみたいな正義感をふりかざして反論しないほうがいいのかも……。


 そう思って感心し、うなずいてると――。


 ……ムニッ。


 いつの間にか、ひじのあたりに柔らかい感触が当たっているぞ?

 ていうか、アフロディーテさん近すぎませんか? 

 さっきから、どんどんすり寄ってきてる気がしますよ!?



「ま、興ざめな仕事の話は置いておくとしましょ――今、わたしはあなたの恋人の中にいる。つまりこの状態であなたとイタしても別に浮気にはならないってことよね?」


 とかなんとか不穏な発言をしながら、さらにすり寄ってくる痴女女神さま。


 いやいや! よくありませんって!

 むしろ、よけい悪いです! 

 なんでいきなりハッチャけて、ワケわからんこと言ってるんですか!?

 うわっ、やっぱりこの女神さまは痴女だったよ!

 

 むにむにとボリューム感を押しつけてくる女神さまを、オレは少々強引に押しのけた。

 そして、ちょっと怒って見せる。


「あんまりしつこいようなら……こっちにも考えがあります!」

「あら、なにかしら? ちょっとくらいの乱暴なら、むしろスパイス! ヨシトくんも、この極上のワガママボディを楽しむチャンスよ~!」


 しかし、まるで効いてない。むしろ自分ホメしながら身を寄せてくる。

 またしても腕に押し付けた胸の柔らかさで、オレの理性を奪おうとしてくる女神さま。


 うわあ……本物の変態さんだ。

 こんな人にいつまでもマリアさんの体を使わせておくわけにはいかない!

 もう巫女さんたちには『男心操縦術』を十分に教えただろうし。



 というわけで――オレは覚悟を決めて、女神さまの肩をつかむ。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「……すみません。アフロディーテさん。お誘いはうれしいんですが外側がいっしょでもダメです。オレが好きなのはあくまでもマリアさんの中身なんです!」


 オレはダンコ断言する。


 べ、別に巨乳彼女なんて惜しくないさ。オレはヒンヌー教徒だからね。

 だから……惜しくないったら惜しくないんだからね!


 と、ツンデレ気味に言いはなったオレ。



「…………ふ~ん。そう」



 すると、女神さまは思いのほかあっさり引き下がってくれた。

 しかし、意味深な笑みを浮かべているのが妙に怖い。

 

 ちょっとビビったオレに対し――。


「……それなら、本人にちゃんと伝えてあげなきゃね」



 そう言ったとたん――アフロディーテさんの体がいきなり倒れた!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「うわッ! ちょ! なに急に憑依を解いてるんですか!?」


 オレは倒れたエルフ美女――マリアさんの体をあわてて抱えた。

 受け止めた体に、さっきまでのボリューム感が明らかに消えている。

 ということは、今、オレの腕の中にいるのは……?


「…………ヨシト……さ……ま」


 抱きとめた腕の中、うつろながらも熱のこもった視線がオレに向けられる。

 オレにすべてをゆだねてるようなこの表情――それに折れそうなまでに細いこの体。


 ……よかった! オレのマリアさんが、もどってきたんだ!


 そう実感させられて、オレはなんだかほっとする。

 アテナさんの保証があるにしろ、大事な人の体が奪われてる状況ってやっぱり不安だったしね。

 

 一方、マリアさんはいきなりオレにぴっとりとしがみついてきた!


「うれしい……です。ヨシトさまにそこまで思っていただけて……わたしは本当に幸せ者です!」



 ……は? どういうこと?

 マリアさんのようすに戸惑うオレの脳内に女神さまが話しかけてきた。


(今までの話――実はマリアちゃんに全部聞こえてたのよ)


 ……ま、マジですか!?

 じゃ、迫られてるとことかも全部マリアさんに見られてたんですか?


(ええ、そりゃもちろん全部よ)

 

 な、なんで、そんなことしたんです!?

 あなたは見られて興奮するタイプかもしれませんが、オレはそうじゃありません!

 超恥ずかしいじゃないですか!!

 

 抗議するオレにアフロディーテさんはあいかわらずのお姉さま口調で応えてくる。


(そんなことより、あなたは恋人のフォローをしてあげなさい。すごく心配してたみたいよ。あなたが、他のエルフの子にとられちゃうんじゃないかって)


 ――え。マリアさんが心配?!

 そうなんですか? マリアさん?!


「……はい。リズがヨシトさまに迫っていたと噂に聞かされて――ヨシトさまが、わたしから去ってしまうのではないかと勝手に疑って勝手に不安になっていました。もうしわけありません。ヨシトさま」

  

 そう言って泣きそうな顔を浮かべたマリアさん。

 その切ない表情に、オレはどれだけ彼女を不安にさせていたかを悟る。


 ……そっか。そうだったのか。

 もしかしてアフロディーテさん――オレの口から『マリアさんが好き』という発言を引き出すため、わざとあんな挑発とお芝居を?


(ええ、そういうこと。憑依してみたら、この子、かなり心が弱ってたみたいだから――恋愛の女神としては放っておけなくてね)


 おお。なるほど!

 ホントにありがとうございます! さすが女神さまです!


 さっきまで抱いていた失礼な感想を忘れ、つごうよく感謝するオレ。

 だが女神さまはいたずらっぽく、笑いを含んだ声でオレに返答する。


(……まあ、ヨシトくんが食いついてきたら、そのときはそのときだったけど) 

 

 う…………やっぱり、ダメな人だ。

 ……まあ、結果オーライということで、よしとしよう。


(それじゃ、おせっかいついでに最後に一つ、わたしから『加護』をあげる……)



 ――と、頭の中で女神さまの声が響いたとたん。



 あれ? 腕の中のマリアさんに感じる愛おしさが――急に強くなったぞ。

 今までだってかなり好きだったけど……これほどじゃなかった。

 たれ目がちな緑の瞳、白くなめらかな肌――細い体、すべてにドキドキさせられる。付き合いたてのころみたいな動悸が止まらない。 


 それはマリアさんも同じようで……。


「ヨシトさま。なんだかわたし……」


 そう言うなり、きゅうっとかわいらしくしがみついてきた。

 胸の中に湧き上がる切なさに押されるまま、たまらずオレも強く抱きしめる。

 いきなりあふれてきた感情にびっくりしたオレは頭の中だけで女神さまにきいた。 


 ――ちょ、アフロディーテさん。いったいなにしたんですか!?


(恋愛の女神としての『加護』よ。あなたたち二人の恋心を、これからずっと付き合いたてのままでいられるようにしておいたわ。じゃ、お邪魔虫はここで退散するわね)


 ――そう言って、遠くなっていく女神さまの声。


 ちょっと! どういうことですか!?

 と、問いただすが……返答は帰ってこない。


 ……いや、まあ、ある意味、最高の加護をもらったんだけどさ。 


 腕の中のエルフ美女と視線を重ねながら、オレはそう思う。

 そして女神さまへの感謝と、あふれる愛情のままにマリアさんと熱い口づけをかわした。


 で――存分にキスを楽しんだそのあと。

 マリアさんを部屋に抱きかかえて帰り、がんばってしまったのは言うまでもない。

  


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「特産野生ブドウ酒入りま~す」

「はい、よろこんで~!」 



 一方、暗がりを長老屋敷に向かうオレたちの背後では――、

 こちらも女神の加護を受けたリズさんが史上最高売り上げを記録していた。

 


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