めざせ結縁マスター
コルクの里、アレス大社そば――、
里のエルフ娘さん――エリーさんに恋の相談を持ちかけられたオレは問う。
「いったいどのような恋でお悩みなのでしょう? よろしければお聞かせ願えませんか?」
事情をよく知らない他人のおせっかいなアドバイスなんて正直なところ、たいがい役に立たない。
むしろ迷惑だったり、いやがられたりするほうが多いだろう。
だけど話を聞いてあげるだけでも、気分は大きく変わるもんだしね。
すると内気そうなエリーさんは、ぽつりぽつりと語り出した。
「あの……ですね。おそらく身分ちがいの恋……なのです。わたしの片想いで……」
「がんばって、その調子!」
「勇気を出すのよ! エリー!」
つっかえつっかえ言葉を口にするエリーさんを、他の二人のエルフ娘さんが応援している。
ていうか……ちょっとやりづらいな。
なんでこの人たちまでいっしょに話を聞いてるんだろう?
「あ、あたしたちのことはおかまいなく」
「ほら……それより早く! ヨシトさまにお伝えしなさい!」
微妙に相談にふさわしくない二人の応援を受け、こちらに近づいてくるエリーさん。
「では……ヨシトさま、お耳を拝借したいのですが……」
……ふむ。相手の名前はお友達にも秘密にしたいんだろう。エルフらしく美形なお顔が真っ赤になっている。
で、その麗しい尊顔をエリーさんはオレにずいずい近づけてくる。内気そうなのにずいぶん積極的だ。
『秘密を聞く』って理由がないかぎり、危険すぎる距離まで彼女は顔を寄せてくる。
そして――、
「ええと……実は……わたしが好き……なのは……」
と、想い人の名を内気エルフさんが口にしかけた、そのとき――。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……うおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
遠くから、やたらやかましい雄叫びが聞こえた。
熱血ロボアニメのようなその叫びはどんどん近づいてきて――、
……ん? 聞き覚えがあるぞ?
この声って……たしか、もしかして?!
なんと、そこにいたのは――おひさしぶり登場のアリアちゃん!
おしとやかなマリアさんの妹とは思えないおてんば娘さんだ。
「怒りのォォォォォッ! エルフ幼女ォ……キィィィーーック!」
で、その爆裂エルフ幼女はオレに向け、まさかの飛び蹴りを放ってきた。
ダッシュの勢いをそのまま乗せたキック――その勢いたるやすさまじい。
さらに言えば鬼の形相で迫る幼女の姿がもっとおそろしい。
「うわッ!」
「きゃ!」
あまりのことにオレはあわてて飛びのき、間近にせまってたエリーさんと距離を取る。
……うん。実はちょっとほっとした。
コミュ症ぎみのオレには至近距離にせまる美形エルフさんの相手は荷が重い。
その点は感謝だけれど――それはそれとして、この爆裂幼女をなんとかしないと……。
「ちょ! なによけてんのよッ!」
と、全力を乗せた蹴りをかわされ、空中で体勢を崩したアリアちゃん。
そのまま行けば地面にド派手な胴体着陸するとこを、体を横抱きにして受け止めてやる。
……よし。セーフセーフ。いくら不意打ちで奇襲されてもケガされたら後味悪いしな。
ほっと一息つくオレだったが、しかし――。
「は、放しなさいよ! 幼女になにしてんのよ! この不審者の変態教祖! 事案発生よ!」
「……は? 事案?!」
なんてことをわめくアリアちゃん。助けてもらっておいて失礼な!
だいたい、自称と見た目は幼女だけどアリアちゃんのほうが年上でしょうが。
理不尽な言いように、さすがのオレも頭にきた。
だが、オレが言い返す前に――、
「急に襲ってきてなんなのよ! アリア! 今、エリーがヨシトさまに大事な話があったのよ!」
「そうよ! 子どもが邪魔しないでちょうだい!」
ソーニャさんとリズさんがアリアちゃんに食ってかかる。
おとなしいエリーさんも迷惑そうな視線をエルフ幼女に注いでいた。
そんなエルフ三人娘さんへ――アリアちゃんは不敵に鼻を鳴らす。
「ふん! あんたらの魂胆なんか見え透いてるんだから! 玉の輿ねらうのはどうぞご勝手に――だけど、お姉ちゃんの幸せの邪魔するならようしゃしないからね!」
そう言うなり、ズビシッとエリーさんやソーニャさんに指を突きつけるアリアちゃん。
どこぞの逆転弁護士みたいなしぐさだ。
すると――なぜかエルフ娘さんたちはぎくりと震えた。
オレとアリアちゃんの顔を交互に見つめながら、あからさまに挙動不審なようすを見せる。
「……くッ! おぼえてらっしゃい!」
で、結局――捨てゼリフっぽい言葉を残して去ってしまう三人娘さん。
……ん? どうしたんだろう?
それに『玉の輿』? アリアちゃんの言葉の意味ってなんなんだ?
と、首をかしげるオレに一礼し、エルフ娘さんたちはいそいそと去っていってしまう。
「あっかんベ~! 二度とゲスい思惑で動くんじゃないわよ! わたしが見張ってるからね!」
一方、去りゆくエルフ娘たちの背中へ追いこみをかけるアリアちゃん。
続けて爆裂幼女はオレに視線を向け、どなり声を上げた。
「まったく油断もすきもありゃしない! あんたもあんたね! あんな分かりやすい誘惑に鼻の下伸ばしてるんじゃないわよ!」
……え? なんでオレ怒られてるの?
しかも『誘惑』って……オレはただ、教祖として相談に乗ってただけなのに……。
エルフ幼女のワケわからん難癖。
オレがきょとんとしてると――アリアちゃん、なぜか頭を抱えている。
「ああ……もう! 極めつけにニブいわね、あんた!」
あ……もしかして、オレがアテナさんとくっついたこと怒ってるのかな?
たしかに、このお姉ちゃん大好きエルフ幼女からしたら裏切りに見えたと思うし――傷つけてしまったかもしれない。
……うん。ここは素直にあやまっとこう。ごめんなさいアリアちゃん。
頭を下げたオレに対し――アリアちゃんはぽかんと口を開けた。
「……いや。それもたしかに腹を立ててたけど、お姉ちゃんがいいっていうならしかたないし……。ま、その調子ならやっぱり大丈夫そうね。でもあんまり他の女には近づかないこと! いいわね!」
とかなんとか、なんだか一人で納得したアリアちゃんは、すたたっと駆けて行ってしまう。
……?
今のってどういう意味なんだろう?
後には首をかしげるオレだけが残されたのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
翌日の夜――、
教団モーラ支部、アテナさんの部屋にて――、
軍神の暴走訓練を見せつけられ、一時は寝こんでしまったアテナさんも今では気を取り直し、またバリバリ働きだしている。
今日もいそがしい業務をこなしたあと、さらに自室の机で帳簿とにらめっこだ。
新たに仲間にした獣人たちは訓練で体をつかってるから、けっこう食べる。それで食費がかさんで大変なんだそうだ。
そんな仕事中毒女神さまの背中に向け、ベッドに腰かけたオレはアレスさんとの訓練内容やカジノの業務報告、あとは里のみなさんの要望なんかを話して――、
……ついでに気になってたアリアちゃんや里のエルフ娘さんとの出来事も告げる。
「――ってことがあったんですよ。いったいなんだったんでしょうね? あれ?」
「…………ほう」
いつもみたいに知恵を借りるつもりのなにげない質問だったんだが、ふいにこっちを向いたアテナさんがジト目で見つめてくる。
……あれ? オレ、なんかおかしなこと言ったかな?
と、疑問に思うオレ。
一方、いきなり立ちあがって、こっちへ近づいてきたアテナさんは……なんと!
ベッドにすわったオレのひざの上に腰をおろしてきた!
ちょ……うわ! いきなり何を!
オレがあわててのしかかってくる体を抱きとめると、美少女さんの髪から甘いにおいがふわりとただよい、鼻をくすぐり――心を騒がせる。
なにより、ひざと太ももに感じる柔らかなボリュームがたまりません。
あうう……アテナさん近いです。接近しすぎです。
この女神さまと他人じゃなくなって、かなりの日数を過ごしたけど……このすべてを見透かすような目にはまだ慣れない。
微妙にうすぐらい照明の中、密着して視線を合わせてると強烈にどぎまぎする。
いったい、なんなんですか急に積極的に……?!
――そんなオレの想いを知ってか知らずか?
オレの胸板にぴたりと顏をよせ、女神さまはつぶやく。
「…………おそらくエリーさん、たぶんソーニャさんやリズさんも……あなたの愛人の座を狙っているのですよ」
……え!? どういうこと? あのエリーさんが、なんでオレなんかと!?
驚きに目を見開いたオレにアテナさんはため息をつく。
「どうも自覚が足りないようですね。名目上とはいえ、あなたはカジノと銀行をかかえる教団のトップなのです。モーラの経済を左右するほどの富を手にした男――そんな相手と結ばれたら里の娘にとってはまさしく『玉の輿』と言えるでしょう?」
…………ああ。なるほど。
アリアちゃんが言ってたことって、そういうことだったのか。
自分は教祖だからとまともに受け止めてたが、エルフ娘さんの『恋の相談』って、実はオレへ接近する口実だったらしい。
そういう女の子のやりかたってのは、どこの世界でも変わらないみたいだ。
――でも、なんで急にアプローチをかけてきたんでしょうかね?
教団が稼ぎだしてから、けっこう日にちがたってるのに。どうして今になって?
「おそらく、今まであなたはマリアさん一筋に見えていたのでしょう。しかし、わたしという二人目の愛人ができたことで『ならば自分も』……と思ったのでは?」
う。アテナさんが愛人なんておそれ多いけど――そうか。解説されてようやく気づいた。
自分のニブさに我ながらあきれる。そりゃアリアちゃんもあんな顔するわけだ。
しかし……これはこまった。玉の輿狙いで迫られるとか予想もしてなかった。
不純な動機で寄ってこられても人間不信になりそうだし――どうしたらいいんだろうか?
「ふむ。そうですね……たしかにあなたのとぼしい甲斐性では、これ以上愛人を増やすと頭がいっぱいいっぱいになってしまうでしょう。教団の大事な時期にそれでは困ります。こちらとしても教祖の子孫を増やしたくはありますが――欲得づくの愛人は、のちのちもめごとのタネになりますし……」
そう言ってオレのひざの上、あごに手を当てて考えこんだアテナさん。
微妙に失礼なことを言われた気がしたが、真剣な表情で思考してるときのアテナさんは美しい。さすが知恵の女神さま。
こうして――しばらく思案する姿でオレを楽しませてくれたあと、女神さまは急に顔を上げる。
……どうやら、なにかひらめいたようだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
しばらく考えこんだのち――、
アテナさんは口を開く。
「……今回の件にうってつけの女神がいます。わたしとしてはあまり気は進みませんが、しかしこれも里を発展させる良い機会。声をかけ、加護を願ってみることにしましょう」
おお、よかった! なにか当てがあるんですね!
微妙にためらったのが少しばかり気になるけど、それでもさすが知恵の女神さま。
オレの貞操の危機を救うばかりか、里の発展にまで結びつけるなんて……感嘆せざるをえない。
――と、まあ、それはさておき。
さっきからアテナさん、オレのひざの上に乗りっぱなしですよね?
できたら……そろそろ降りてくれませんか?
「……ん? それは、わたしが重くて迷惑ということでしょうか?」
オレの言葉にちょっとご機嫌を害したような女神さま。
そのようすにあわてたオレは急いで言葉を重ねる。
あ、いえ。そうじゃありません!
迷惑じゃなくて、むしろごほうびではあるんですが……正直、美少女さんに急接近されてガマンが限界な感じです!
でも、さっきまでお仕事中みたいでしたし、今、オレが手を出しちゃったらお邪魔になるんじゃ?
と、欲望の暴走を押さえようとするオレだったが――。
あたふたするオレを、アテナさんはふふっと鼻で笑っている。
「……かまいませんよ。ヨシトさん。それも立派なしごとのうち。いえ。ここのところいそがしくて、つい忘れかけてましたが、教祖の子孫を増やす使命もあります……今が、ちょうどよい機会ですね」
――ほ、えッ!
忘れかけてたのかよ……というツッコミはともかく。
アテナさんの思いがけない誘惑の言葉にオレの頭が沸騰しそうだ。
そしてさらに思考停止しかけたオレの耳元で――、
「……それともイヤになったのですか? わたしとの子づくりは……」
かぐわしい吐息とともに、つやっぽい声ででささやき、いたずらっぽく微笑む女神さま。
うるんだ瞳が薄暗い照明の中でもきらりと輝き、オレは魅力的な表情から目が離せない。
息を飲んだオレの首筋を――美少女の細く長い指がつつっと、ゆっくりなぞっていく。
そんな小悪魔な感じの女神さまに、凡人のオレなんぞがあらがえるはずもなく。
で、結局――、
「…………イヤじゃ……ありません」
「それでは……」
屈服して小さくつぶやいたオレに、勝利の微笑を浮かべて顔を近づけてきた女神さま。
その唇が柔らかくオレの唇に重ねられ――。
……差し入れられた女神の舌が、オレの口の中をじっくり時間をかけて征服していく。
その後、一晩かけて――。
大事なお仕事をがんばらされるオレなのだった。
……あ、それにしても――。
アテナさんが言った新たな女神さま――あまり呼びたくない人ってだれなんだろう?




