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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第五章
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軍神の特訓そして……

 軍神アレスがコルクの里に降臨して三日がたち――、

 今日も剣士エルフに憑依して、アレスさんは獣人たちの訓練に励む。


『よ~し、今日の鍛錬はここで終了! ランニングでクールダウンだ!』

押忍(オス)ッ!」


 さわやかな汗をかきつつ先頭を走るアレスさんと、目をキラキラ輝かせてそれに続く獣人たち。

 ……青春だ。これはまごうことなき青春ドラマだ。 


 どうしてこうなった……かと言えば、それはたぶんアレスさんの性格のせいだろう。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 模擬戦で、その実力を示したアレスさんに獣人たちは素直に従うようになった。

弱肉強食(つよいとえらい)』って身もふたもない獣人たちの価値観のおかげで、アレスさんはぶっちぎりの敬意をもって迎えられ、訓練はかなり順調だ。


 ただアレスさんは鬼軍曹というよりオタ軍曹――同じ軍曹でもハート〇マンより、ケロ〇って感じの人だから、当初に目指してた海兵隊式はあっさり断念。

 そのかわりスポ根な感じの『特訓』に路線変更されたようだ。


 ……ま、性格に合わないことってあんまりやるべきじゃないしね。


 そんなわけで、ありのままの自分見せたアレスさんにより、暑苦しいスポ根路線で再開された特訓だが――これがけっこう、うまく行ってるみたいだ。


 ただし問題が一つあって――、

 アレス大社にお勤めのエルフ巫女さんたちが、運動部のマネージャーみたいになってしまってる。


「ノイスくん、どうぞ」

「おお……悪いな」


 今も大汗をかいてるイノシシ獣人さんにかいがいしくタオルを渡したり――、


「……はい。はちみつレモン。疲れてるときに効くわよ」

「ああ……ありがとう」


 ウサギ獣人さんと、なんか甘酸っぱいやりとりを交わしたりしている。


『うんうん……青春ってすばらしいな』


 そんな光景に大きくうなずいてるアレスさん。

 ……なんだか、すごく予定と違う状況だ。

 二日目、心配になってようすを見に来たアテナさんなんか目にしたあんまりな光景に――、


「……こんなの絶対おかしいよ」


 と、どこぞの魔法少女っぽくつぶやいて、すぐに帰って寝こんじゃったし。

 ま、連日の徹夜のあとにこれを見せられちゃね。その気持ちはよ~くわかります。


 しかし――、

 こんな色物トレーニングとはいえ、さすがに軍神じきじきの訓練ではある。

 獣人たちの能力は順調に強化されてるみたいだ。


「やった! おととい持ち上げられなかった岩を今日は持ち上げられたぞ!」

『おおッ! すごいじゃないか! たった三日間でおどろきの効果だな!』

 

 アレスさんから雑誌裏の広告みたいなことを言われてるのはイヌ獣人のポーチさん。たしかにすごい。一抱え以上ある大きな岩を片手であっさり持ち上げていた。


 ――で、そのバツグンなトレーニング効果は純朴な獣人たちをいたく感動させたらしい。軍神アレスへの畏敬の念はさらに深まったようだ。


「すばらしいです! これもすべてアレスさまのおかげです!」

『いやいや……諸君の信仰心の強さが生み出した奇跡さ。しかし鍛錬を怠ればすぐに元にもどってしまうからね。励み続けることが大事だよ』

「「「はい! アレス大先生!」」」


 と、なんやかんやでしっかり信者と信仰心を獲得してる軍神さまなのだった。


 ……う~ん、結果オーライな人だよな。

 

 

 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 やがて、訓練も終盤にさしかかり――。

 

『よしッ! みんな。最後はあの夕日に向かって全力で走るぞ!』

「はいッ! アレスコーチ」


 と、学園ものじみたやりとりをしてるアレスさんと獣人一同さん。

 もう完全に昭和ドラマです。本当にありがとうございました。


『じゃあ、みんな声を出していこう! アララララーイ!』 

「「「「アララララーイ!」」」」」


 軍神さんと獣人たちは、どこぞのマケドニア長槍隊(ファランクス)みたいなかけ声とともに、ホントに夕日にむかって走り出してしまう。


 ――そんな光景をオレは離れたとこから、かなり微妙な表情で見送っていた。

 

 ちなみに昨日からオレは訓練に参加していない。

 ……理由? そりゃもちろん模擬戦でフルボッコにされたせいだ。

 軍神に一撃入れてしまった代償は大きく、マジになったアレスさんに追い回されたオレは強烈な打撃を何発も喰らうハメになった。

 それでもいちおう手かげんしてもらったようで後遺症が残るようなケガはない。

 ただ、そのかわり、ひじのぶつけるとビリッとする部分(ファニーボーン)とか足の小指の先とか、弁慶の泣き所とか――精神的にダメージのでかい場所に何発も痛恨の一撃を喰らった。


 ……まったく、あの軍神さんめ。地味にきっつい復讐をしてくれる。

 あれはほとんど拷問だったぞ。二度とあの人と模擬戦なんかやるもんか。


 で、肉体的に痛めつけられ、ちょっと心を折られたオレは翌日から見学に回った。

 さすがにやりすぎたと思ったのか、アレスさんも無理に参加しろとは言わない。

 獣人たちも素直にアレスさんに従ってるから、オレが訓練に参加しなくても問題なさそうだ。 


 ……ま、しかしそれでもオレは教祖。暴走しがちなアレスさんの監視役として顔は出すけどさ。   

 アテナさんも寝こんじゃってるし、だれかが見張っておかないと、あの軍神さまはなにをするやら。

  

 というわけで――。

 今日もなんとか訓練は終わりを告げた。さいわいなこと獣人さんたちはみんな無事。

 アレスさんの指導はけっこう親切だし、この調子の訓練が続くなら心配はなさそうだ。


「……ふう」


 お目付け役の任を終えたオレは安堵のため息をつき、長老屋敷の自室にもどろうとするが――。


「……ッ!」


 歩き出そうとしたオレは……足を止めた。

 急な動作のせいでアレスさんにボコられた体の各所が地味に痛い。

 我慢できないほどじゃないのが微妙に腹立たしい。


「ああ、もうッ!」


 オレが悪態をついたとこで――。


「……だいじょうぶですか? ヨシトさま」 


 と、声がかかり、同時に濡れた手ぬぐいみたいなものが差し出される。


「あ、どうも」


 と、受け取ってそのままひじに当てると……ひんやり冷たい触感。痛みに火照った部分に心地いい。

 ずいぶん気の利いた差し入れだ。ホントに助かる。

 

「……ありがとうございます」 


 痛みが引くまで冷たさを存分に堪能したあと、オレは礼を言うため顔を上げた。

 すると――。

 

「いえ、そんな……」

「たいしたことはございません。昨日から痛そうにしておられましたし」

「いつもお世話になっておりますから」


 そこにいたのは三人の若いエルフ娘さん。あまり話したことない人たちだ。

 けど……どこかで見覚えがある。


 ――ああ、そうか。この里が人買いに襲われたとき、助けたエルフの娘さんか。

 たしか捕えられた檻の中で、オレの酔拳を見せつけられて気持ち悪がった娘さんたち。

 ていうか、全員なんだか妙にモジモジしてるけど……いったいどうしたんだろう?

 なにかオレに用でもあるんでしょうか?


「ヨシトさま、実は今日は……お願いがあってまいったのです」


 代表して一番気の強そうなエルフ娘Aさん――たしかソーニャさんだっけ? が、こたえてくれた。


 ……ん、お願いですか? なんでしょうかね?


「お願いというか……相談なのですが……」


 今度はエルフ娘Bさん――えっとリズさんだったかな? が、口を開く。 


 はあ。相談……ですか?

 なんだか煮え切らないというか、はっきりしない態度だな。

 もしかして大声じゃ言いづらいような相談なのだろうか?


 ま、それならそれで……頼られて悪い気はしない。

 教祖としてオレが信頼されるようになったってことだし。

 それに里のみなさんはオレにとって、もはや家族も同然――このエルフ娘さんたちは妹みたいなもの。

 『妹からの人生相談』と言えば、これは断る理由がありませんな。


 ……いや、待てよ。

 見た目はオレより若いが彼女たちのほうが年上。オレの妹がこんなに年上なはずはない……のか?


 ……ま、こまけえことはいいんだよ。

 大事なのは迷える子羊さんがそこにいて困ってるってこと。

 軍神にボコられてリタイア中の教祖でよろしければ、ぜひ話をうかがいましょう。


 ということで――。


「遠慮などいりませんよ。どうぞ相談とやらを聞かせてください」

「あの……では……お恥ずかしい話なのですが……」


 教祖としてやる気を出したオレがうながすと、エルフ娘さんCがおずおずと話し出した。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 



 エルフ娘Cさん――エリーさんの相談は、オレの予想の斜め上を行っていた。

 おとなしそうなエリーさんが覚悟を決め、オレに告げた相談内容ってのは――。


「ヨシトさまに聴いていただきたいのはその……実は……恋の悩みについてなのです」

 

「こ、恋の悩みってことは……え~と、つまり恋愛相談ってことですか?」

「え、ええ。ぶしつけなお願いでもうしわけないのですが、ぜひともヨシトさまに……」


 伏し目がち――気弱そうに見えたエリーさんが視線に強い意志をこめ、こちらを見上げてくる。


 ――むむッ、これはまずいぞ!

 エリーさんが口にした予想外の内容にオレは頭をかかえる。 


 ……正直、恋愛相談に答えられるような人生経験なんぞオレは積んじゃいない。

 男にとっては見果てぬ夢――ハーレムに近い状況にいるけど、これはまわりに流されまくった結果だし。

 それ以前は大学時代に手ひどく振られたショックで異性恐怖症のコミュ症だったもんな。

 しかも、その派手にフラレた経験以外、まともな恋愛の経験はない。オレが一番苦手と言っていい分野だろう。 


 ……う~む。『恋愛相談』っていっても、なにをこたえりゃいいんだろう?


 と、オレは悩むが、しかし――、

 目を潤ませてこちらを見つめるエリーさん。

 彼女の真剣な表情を見るかぎり「やっぱ無理」とか「できません」とは言えない。

 そのときのオレは、おとなしそうなエルフ娘さんの悩みを、なんとか解決してあげたいと思ってしまったのだ。


「わかりました……で、それはどういった悩みなのでしょうか?」


 だからオレはエルフ娘さんに話を聞くことにする。 



 ――それがこのあと、かなりの大事をまねくとも知らずに。  




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