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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第一章
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軍神の加護2

「くッ!」

 

 手傷を負い、武器を失ったエルフがうめく。出血がひどい。

 そのさまを盗賊たちは遠巻きに見守る。死にもの狂いの反撃を受けないよう、慎重に。

 出血がエルフから戦力を奪いきるまで待つつもりだろうか?

 たしかに彼らに急ぐ必要はない。あくまで足止めできればいいのだろう。余裕の笑みを浮かべている。

 このエルフをいたぶってやろうという意地の悪い目論見も見て取れた。

 

「まだだ……まだこんなところで倒れるわけには!」

 

 しかし、エルフは闘志を捨てていない。必死に食らいつこうとする。

 逃げるという選択肢はない。それほどまでに守りたいものがあるのだ。


 だが、出血は容赦なく意志と体力とを奪っていく。

 届かぬ願い。かなわぬ願い。

『それでも』と考えたとき、人は祈り、救いを求めるのだ。


「……くッ、だれか助けてくれ。頼む」

 

 ついにエルフは祈り、救いを求めた。 


 よし。今だ! 宗教者として、すがるものあらば手助けせねば。

 そうだ。宗教者とは弱者の味方をするべきもの。

 ハローワーク近辺、心の弱った子羊に網を張る布教者のように――。

 

 ではエルフさん。力が欲しいか? ならばくれてや……



「ごちゃごちゃよけいなこと考えてないで、さっさと行ってください」

「わっ、ちょっと!」


 アテナに背中を蹴られたオレは盗賊たちの前に転がり出るはめになった。 

 非合法な商売に精を出してるみなさんのけわしい視線が、突然飛びこんできたオレに集中する。

 


「んだ!? てめえ!」

 いきなり、どなられた。

 ま、怪しいですよね。ある日、森の中、獅子の毛皮を着たおっさんがでてきたら……、


「あ、いや。通りすがりの聖職者です。暴力はいけません。人から奪うのではなく与えられる人間になってほしい。親御さんもそう思ってあなたを育てたはずですよ」

 しかし、まずは説得だ。どんな相手も悔い改めれば救ってあげる。それが教祖としてのあるべき姿。

 

 だが――、


「あ? うちはジイさんの代から一族まるっと盗賊稼業よ!」  

 ありゃりゃ。盗賊界のサラブレッドさんでしたか。 


「それより、てめえは何もんだ!? こんなとこで何してやがる!」

 説得失敗。オレは盗賊に刃を向けられる。


(やっぱりこうなったか。こういう状況がいやだったから隠れていたのに……)


 正直、ああだのこうだのと格好をつけていたのは、出番をうかがっていたわけじゃない。修羅場に出ていく覚悟がつかなかったのだ。

 だって怖いじゃないか。相手にしなきゃならないのは白刃を手にした人相の悪いオッサン数人。

 アレスに加護をもらったといっても、それがどのレベルのものかわかるわけがない。

 せっかく生き返った命、粗末にしたくはないのだ。

 

 だが、いまやもう引き返しのきかない状況である。


 と、そこへ――、


「よせ! そのものたちは我らとは関係ない! 手を出すな!」

 エルフさん。自分もピンチだというのに通りすがりのオレをかばってくれる。なんて勇敢な人だ。 

 

 だけど、盗賊とかその手の人たちにそのセリフは……

 芸人に『絶対~するな!』って何度も言うのと同じなんですよねえ。


 案の定――、


「かまわねえ! 騒がれても面倒だ。そいつもやっちまえ!」

 一番近くにいた盗賊のオッサンAが襲ってくる。

 巻き添えの市民を殺すという判断に、いっさいのためらいがない。

 明確な殺意とともにこちらに駆け寄り、疾走の勢いのまま――剣を突き出してきた。


 迫る刃、切っ先はオレの首筋めがけて伸びてくる。


(うわ、ちょ! 死ぬ!)


 そう思った瞬間――体が勝手に動いた。

 すいっと。


「え?!」

 自分でも驚いたのだ。渾身の突きをかわされたオッサンはもっとおどろいたにちがいない。


「なに!?」

 勢い余ってたたらをふむ盗賊のオッサンA。

「てめェ、小癪なまねを!」

 頭にきたらしい盗賊Aはふりかえりざまに袈裟懸けの斬撃を送ってくる。


「うわ、ちょ!」 

 だが……さらに、もう一度。流れるような動作でオレは盗賊の攻撃を回避する。

 そして、そこで気づいた。


(あれ? なんか、この人ニブい?)


 いや、盗賊Aが遅いのではない。

 おそらく、いや間違いなくオレの反射神経、動体視力が上がっている。 

 さらにオレは攻撃を見ただけで反射的にかわしていた。まるで長年鍛錬して体に染みついた動きのように。生まれてこのかた、いっさい格闘技なんてやったこといないというのに……。


(そうか、これが……アレスの加護か!) 

 なるほど。理解した。体が勝手に回避してくれるのだ。

 

(だったら、もしかして攻撃もいけるんじゃね? ……今度はかわして反撃してみよう)

 

 オレの推測は正しく、目論見はあっさり成功した。

 

 気持ち悪いくらい、なめらかな足運びを見せたオレは隙だらけの大ぶりの斬撃を最小限度の動きでかわし、間合いを詰め、背中から体当たりする。


 ドゴッ!

 

 オレの体当たりを受け、盗賊Aはダンプにひかれでもしたように吹っ飛ぶ。そのまま立ち木に衝突し、声も出さずに崩れ落ちた。

  

(おお、なんかカンフーっぽいぞ。たしか……『鉄山コウ』だっけ?) 

   

 格ゲーの技をまさか自分が使えるとは思わなかった。

 しかし、なんで見たこともない、こんな技まで使えるのだろうか?

 たしかに今のオレの職業ジョブ僧侶モンクなわけで、そういう意味ではぴったりな技なんだろうけど……


 オレの疑問に姿を現したアテナが答えてくれる。


「それがアレスの加護――反射神経や動体視力、腕力などの身体能力が上がるだけでなく、アレスが見た技すべてが使えるのです」


 むむ、なんという便利スキル。


「オリンピックはかかさず見ているようですし……日本の武芸奉納もちょくちょくご相伴で見に行っているようですね。戦闘技術に関する向学心だけはたいしたものです」

  

 なるほど、わざわざ手合わせにきた日本で趣味にハマったといってましたもんね。 

 あれ? でもアレスさん、どこでカンフーなんかを……?

 あ、そういえばセーラー戦士のDVDの隣にジャッキーさんと、リーさんの作品があったな。

 しかしネタ元が映画やゲームなんかの娯楽作品でもいいのか? なんでもありだな。


「仮にも神の加護ですよ。その程度の雑魚相手に何人がかりだろうが遅れをとることはないですし。

 ネクタルに獅子の毛皮もあるんですから、少々怪我してもたいしたことありません。

 だからいいかげん、ヘタレてないでさっさと片付けてください」


「んだと! ナメたことぬかしやがって!」


 いや、アテナさん。いらない挑発をしないでください。


 ま、自分が強い。かつ死ぬことがなさそうとわかれば、やりようも変わってくる。

 おかげで全員の注意がこちらに向いた。

 目を丸くしているエルフさんも一息つけるだろう。


 あとは盗賊たちをたたきのめすだけだった。

 主人公が覚醒した場合、その場にいる敵はかませ犬と決まっているのだ。

 

 トリッキーな動きで意表を突いた接近、あわてた相手の攻撃を誘い、かわしたついでのカウンター。

 そんなやり方で盗賊B、C、D、E。合計四名の団体様をあっさりと片づける。

 

 アテナのほうも襲いかかってきた盗賊F、Gを、あっさり返り討ちにしていた。

 二人とも股間を抑えて泡を吹いている。顔色がありえないくらい悪い。

 そのようすで彼女がやったことわかった。

 

 なんてエゲつないことを……。


「……正当防衛ですから」

 アテナはしれっという。


「まあ、そうですけど。……にしてもアテナさん、むちゃくちゃ強いんですね」

「これでも戦女神ですよ」

 なるほど。納得した。


 しかし、納得できない人が一人いらっしゃるようだ。 

 ボロボロのエルフさんである。

 

 そりゃそうか。

 どこからともなく現れた毛皮を着た変な男と美少女がなぜか、むちゃくちゃ強かった――ライトノベルのタイトルなみに意味不明な事態だ。

 何を言ってるかわからねえが、なんかの片鱗を見た……って感じだろう。 


「き、君たちは……? その強さは、いったいなんだ!?」


 と、しばらく、あっけにとられていたエルフさんだったが、それより大事なことがあると気付いたのか、彼は血まみれでオレたちに頭を下げた。 


「いや、だれでもいい! 虫のいい願いだとは思うが、それより今は力を……貸してくれ!」

 

 

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