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異世界で教祖はじめました  作者: 習志野ボンベ
第五章
59/110

軍神との模擬戦

 コルクの里、アレス大社――、


 一列に並ばされた獣人たちの前、エルフ剣士のロックさん(軍神入り)が一人一人にじっくりと視線をそそぎながら歩いている。

 ノリからすると、これから海兵隊式な訓練が始まるんだろう。


 う~ん。しかし、こんなやり方でいいですか、アテナさん?

 と、オレが不安をこめた視線を向けると――、


「…………もう知りません」


 知恵の女神さま、どこか遠くを見つめ現実逃避してしまっている。

 なんだかめずらしいな。アテナさんがこんなどよんとした感じになるなんて。

 

「昔からアレスはこうなのです。いつもいつも、わたしが立てた綿密な計画と準備を無視して壊して……だいなしにして……」


 アテナさんはぶつくさ言ってる。

 前日まで準備をがんばってたのを見てるだけに、ちょっとかわいそうだ。

 でも、あの軍神さまに気分よく加護してもらわないと里の防衛戦力は上がらないわけで。

 つまり、ここはアテナさんに我慢してもらわないと。

 

 ……ま、お宝を売り払ってしまったんですから、このくらいはね。


「く、しかたありませんね。まさかここにきて、あの件がたたるなんて。……なんだかどっと疲れたので、わたしはここで失礼を……ヨシトさんはアレスの見張りをお願いします」


 てな感じに落ちこんでるアテナさんを見送ったあと――、

 残されたオレが視線をそそぐ中、獣人さんたちの訓練がはじまる。



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 

     


「……………………」


 ならんでる獣人さん一人一人の顔に、無言でじっとり視線を注いで回るアレスさん。

 さすがは軍神さん、本気を出すとすごい迫力だ。


 イノシシ獣人ノイスさんにウサギのレッキスさん、イヌのポーチさん。

 それにオレとアテナさんがフルボッコにした獣人のみなさん――裏社会で生きてきて怖いもの知らずに見える人たちも、アレスさんが目の前を通るたび、緊張でごくりとつばを飲んでいる。


 こうして十分に態度で威圧したあと、アレスさんは口を開いた。



『いいかッ! 貴様らは最低のクズだッ!』

 

 ……おお。最初から飛ばしてますね。アレスさん。


 こうやって、まず人格を全否定して心を打ち砕き、今まで持ってた価値観をぶち壊す。

 で、頭の中をまっ白な状態にしたら、よけいなことを考えられないように心身ともにかなりキツイ訓練を課して――。

 あとは訓練をやりとげた達成感とともに軍隊式の価値観をたたきめば、あっという間に兵士一名いっちょあがりって方法なんだっけ? 

 これも一種の洗脳みたいなもの……だろうか? 

 けっこう多くのブラック企業も採用してるやり方だし、元社畜のオレとしては他人事とは思えない状況だ。


 だから獣人さんの今後をちょっと哀れに思っていたが――。



『貴様らはブタだ! 雌犬(ビッチ)の息子だ!』


 と、つづいたアレスさんの罵倒。返ってきたのは気まずい感じの沈黙だった。


「それがなにか?」って表情をしてるイノシシ獣人のノイスさんと、イヌ獣人のみなさん。

 他の獣人さんは「おれたちイヌでもブタでもないのに、この人なに言ってるの?」って顔だ。


『……………………』


 微妙に予想と違う反応を返され、アレスさんの顔から汗が一筋垂れている。


 ……ああ、そういえば海外の罵り言葉ってやたら動物がからむよな。

 相手をケダモノあつかいすることで人間性を否定する……みたいな。

 でも獣人さん相手じゃ事実を言ってるにすぎない。別に罵倒じゃなくなっちゃうんだ。 


 ――ふむ。こりゃなんだか、やりづらそうですね。


 なんてオレが他人事のように考えてると。

 話を中断したアレスさんがこっちにやってきた。 


 ……ん? どうしたんです? 訓練始まったばかりでしょ?


『なんだかムチャクチャやりづらいよ! ヨシトくん! どうしてこんなにイヌ獣人が多いんだい! これじゃ全然罵倒にならないじゃないか!?』


 え……いや。そんなことオレに言われてもこまります。

 予定と台本無視して妙な訓練はじめたのはアレスさんでしょ。 

 別に動物ネタの罵倒にこだわらなくてもいいじゃないですか。

 たとえば『いかがわしい風俗産業に従事してる女性の息子』とかマザーファッ〇ーとか。


『ダメだ! 近親相姦ネタは、おれたちギリシャ神にブーメランで突き刺さる。それに、すぐそこにエルフ巫女さんもいる! 清らかな聖女の耳を汚すわけにはいかない!』


 と、熱弁をふるうアレスさん。


 ふ~ん。妙なとこで紳士なんだな。

 いや、ただモテたいだけなのかもしれないけど。

 と、オレが白い目で軍神さんを見てると――。

  

『ええい! こうなったら方針変更だ! ヨシトくん、ちょっとこっちに来たまえ!』


 なんとアレスさん、オレの腕を取った。

 ……え? ちょ、これから何をはじめる気です?!



 ――不吉な予感とともに、オレは獣人たちの前に引きずられていく。  

 


 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 オレを無理やり連行し、獣人たちの前にもどったアレスさんは――、 


『いいか、貴様ら! 基礎から親切丁寧に訓練してやると思ったら大まちがいだ! これから実践して見せるので目で見て技を盗むがいい!』


 とか昔かたぎの職人みたいなことを言う。 

 あの……話が急で読めないんですが、いったいなにするつもりです?


『決まっている。模擬戦だよ! 久世上等兵――さあ、抜刀したまえ!』


 ……え?! も、模擬戦?! 

 しかも抜刀って――真剣でやれってこと?!

 さっき二等兵って呼ばれてたのが二階級特進してるあたり、不安を禁じえないんですが……。


 と、オレはためらうが――、


『いいから! さあ行くぞ!』


 オレの言うことなど聞かず、いっきに踏みこんで抜刀――斬撃を送ってくるアレスさん。

 オレもあわてて腰の愛刀『ライキリー』を抜き、せまる白刃を必死で受ける。



 ――ガキッ!



 なんとか防御は間に合い、オレはアレスさんの奇襲を受け流した!

 強烈な一撃を受け止めて、手のひらにしびれが走る。


 ……ふぅ、助かった。

 警備用に『ライキリー』を持ち歩くのが習慣になっててよかった。

 じゃなくて! いきなり何するんです! アレスさん!


 オレの当然の抗議に、軍神入りエルフはにやり笑ってこたえる。


『この体の主、かなり鍛えているな――これなら、かなり力を出せそうだ。それに刀もいい。ヘパイストスの作というのは気に入らんが……』

 

 と、マゴロックを手にして気軽に言ったアレスさんは、そのまま数歩、飛び下がり――、


『……続けていくぞ! ヨシトくん! ていッ!』


 なんとマゴロックの特殊能力『斬撃波』を撃ちこんできた! 

 それも一撃だけじゃなく二撃、三撃――同時に三発も! 


 うわッ! あぶなッ!?

 飛来する斬撃――ぶっそうすぎる飛び道具をオレはあわてて回避する。


 ちょ、アレスさん! いきなり無茶しすぎです!

 こんな人の多いとこで斬撃波ぶっぱなすなんて、なに考えてるんですか! 

 まわりの人に当たったらどうするんです!?


『だいじょうぶ。ちゃんと周囲の状況は確認ずみさ。それよりキミのほうからも反撃してきたまえ!』   


 オレの抗議はあっさり流され、アレスさんは攻撃を誘ってくる。   


 ……え、でも、さすがにそれはちょっと。

 中身(アレスさん)はともかく、体はオレの一番弟子さんなんで、ケガさせたくないんですが……。


『む……なかなかヒドイ言いようだな。しかし、それもだいじょうぶ。キミの攻撃程度ならかわすから』

   


 なんて自信満々のセリフとともに……アレスさんの姿がかき消えた!



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ふいに姿を消した剣士エルフ(軍神入り)は――なんと次の瞬間、オレの目の前に立っていた!

 至近距離でにやりと笑ったアレスさんは、手にした日本刀(マゴロック)で突きを入れてくる!


 ていうか、むちゃくちゃ速い! 

 常人離れした動体視力を持ってるオレすら姿をとらえきれなかった!

 オレは驚がくしつつも、せまる白刃をのけぞってなんとか回避。

 そして、つい反射的にライキリーをふるってしまう。


 ――バチ、バチバチッ!


 オレの意志を受け、青白い火花を放つ『ライキリー』。

 ゼウスさんの加護の力を引き出すこの日本刀は、プラズマたぬき召喚獣『ヴァジュラクーン』を呼び出す以外にも、もう一つ特殊能力を持っていた。

 その名も――『雷撃波』。マゴロックの『斬撃波』に雷属性を付加(エンチャント)したような攻撃だ。


 で、オレがつい発動させてしまった、その青白いプラズマ斬撃は――、

 なんと剣士エルフ(軍神入り)に向けて飛んで行ってしまう!


 ……うわっ! マズイ! (いなずま)の本気を見せてしまった!


 オレは真っ青になったが、すでに雷撃は放たれたあと。

 斬りこんできた直後で不十分な体勢のアレスさんへ、雷の斬撃が恐ろしい速さで迫っていく!

 悲惨な結末を思い浮かべ、オレは思わず目を閉じかけた。



 だが――、


『……ふっ』


 アレスさんは余裕の笑みを浮かべたまま、迫る雷撃波に対し体勢を崩しつつもマゴロックをふるう。

 鋭くふるわれた、その刀身からも斬撃が飛び出すと――。


 ……ジュッ!


 空中で衝突した二つの斬撃は蒸発するような音を立て――双方とも消滅した。


 うわ、飛び道具同士の相殺とか格闘ゲームみたいだ!


 信じられない光景にオレは目を疑う。

 一方、すさまじい技を見せつけたアレスさんは、まだまだ余裕って感じであっさりと言う。


『これでわかったろ? こっちじゃ信心が不足気味だから、まだ全力は出せないが……それでもきみの攻撃程度じゃ、かすり傷一つ負わない』 


 ……おお! すごい自信ですね!

 でも、たしかにこれなら手かげんはいらなさそうです!


『そのとおり。だから遠慮なく全力で来たまえ、ヨシトくん』


 了解! それじゃヨシト、いっきま~す! 


 ――というわけで、オレたちはフルパワーの模擬戦闘を開始する! 



 ◆   ◇   ◆   ◇   ◆ 



「おおッ!」

「ありのまま今、おこったことを話すぜ……」


 オレたちが繰り広げる人外レベルの戦い――文字通りの神速戦闘(ゴッドスピードバトル)

 目にした獣人たちは息をのみ、驚嘆の声を上げていた。

 そんな彼らの会話をアレスさんと戦闘(バト)りながら漏れ聞いてると――、

 ウサギ獣人のレッキスさんがうめいている。


「く……なんて速さだ、目が追い付かねえ」

「レッキス兄貴……目のいいあんたでもか?」


 イヌ獣人のポーチさんもあきれたように言った。

 イノシシ獣人のノイスさんなんか、打ちひしがれたようにつぶやいてる。


「…………こりゃ、本当に化け物だ。おれたちがかなうわけなかったんだよな」


 うん。獣人たちにオレたちの実力を認めさせることができたみたいだ。海兵隊式はうまく行かなかったけど結果オーライってことにしよう。

 これで今後は素直に言うことをきいてくれるんじゃないかな。


 ……などなど、オレがバトルの最中に色々考えてると――、


『なにをぼうっとしてる! 足もとがお留守だな、ヨシトくん!』


 アレスさんが戦闘狂(バトルマニア)な感じの笑みを浮かべ、地面すれすれを斬りはらってくる。


 ――うわ! あぶなッ!


 あわてたオレは大きくその場で飛び、そのままバク転――アレスさんから距離を取った。

 とっさに月面宙返りを敢行したオレは、すたっと十点満点の着地をして剣を構える。


 ……お、狙ってやったわけじゃないけど、ちょっとそれっぽい戦闘シーンになったんじゃないか?

 

 と、オレがイイ気分になった光景は周囲からもかっこよく見えていたようだ。 


『ほう……なかなかやるじゃないか?』


 アレスさんからはお褒めの言葉をもらい――、


「「「おおおおおおぉ!」」」

「「「「きゃ~っ!」」」」


 獣人たちからは賞賛するようなため息が漏れ、エルフ巫女さんABCDEFからも歓声が上がる。

 最初はハラハラ見守ってた六人のエルフ巫女さんも、アクション映画みたいなオレたちの手合わせを楽しんでるようだ。


 うむ……いいもんですな。若い娘さんの声援って。


「がんばって! ヨシトさま! ええと……それにアレスさま!」   

 

 なんて声がかかり、オレはにやけてしまうが――、

 それ以上にアレスさんの顔のゆるみがひどい。


『……む、むふふ、エルフの巫女さんは世界ィ一ィィ!』


 などとアレスさんは意味不明な供述をしており――、

 なんと戦いの最中にも関わらず手を止めてしまった!

 で、そのときオレは本気の戦闘モードだったから、急におとずれた好機に体が勝手に動いてしまう!


(……あ、ヤバい!)


 と、思ったときにはもうおそく、剣を振り下ろしていた。   



 ――めぢッ!

   


 オレが無心でふるったライキリーはアレスさんのおでこに直撃。かなり痛そうな音を立てる。

 強烈な一撃をくらったおでこが見る見るうちにふくれ、大きなこぶになった。



 そして……訪れる気まずい沈黙。



『……………………』

 


 おでこにデカいタンコブを付け、無言のまま立ち尽くす剣士エルフさん(軍神入り)。

 どす黒いオーラが立ち上らせてるそのお姿に、オレは戦慄する。



 あ、もしかして、お怒り……なのかな?

 い、いや……だいじょうぶ! ギリギリで刃を返して峰打ちにしたからセーフセーフ!

 だいたい本気でかかってこいって言ったのはアレスさんなんだし。


 と、パニクって言い訳するオレだったが――、

 


『………………ヨシトくん、イイ度胸だ。オレの弱点をつく……見事な作戦だよ』


 顔を上げたアレスさんの目はギロリと殺気をはらんでいて――。



 その後――、

 本番(ガチ)かつ本気(マジ)になった軍神からオレは必死で逃げ回るハメになった。




 …………もうやだ。こんな軍神さまとの布教生活。



     

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