対決のゆくえ
高級料亭――黒鳩亭。
その隠し部屋にある賭博場にて――、
オレは教団のカジノ運営権を賭けた賭博対決にいどむ。
布教の財源と里の興廃、この一戦にあり――というわけで、
……オレは責任の重さにいっぱいいっぱいです。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
オレと一対一で賭博対決するのは、あのウサ耳男だった。
レッキスと名乗ったウサ耳獣人はにやりと笑って、こう提案してくる。
「ここは奇をてらわず、『リュウジンマ』でいいな?」
『リュウジンマ』? 聞き覚えないけど、どんなゲームなんだろう?
オレは隣のアテナさんに視線を向ける。
「こちらでは有名な遊戯です。龍、人、魔族の三種のカードがあり、それゆえリュウジンマと名付けられています」
ほう。なるほど。
安易というかストレートなネーミングですね。
「龍はその力で魔族に勝ち、魔族は魔法で人に勝ち、人はその数と知恵で龍に勝つ――という相性があります。三すくみの関係ですね。十二枚の手札から三枚を選んで場に出し、その中からおたがいに一枚を選びあい、優劣を決めます」
へえ、じゃんけんみたいなものか。
じゃんけんカードゲームならグーを買い占めできたらいいんだが、それは無理なんだろうな。
……と、オレがあれこれ考えてる間に、アテナさんはルール説明をすませていた。
「――負けたカードは場からのぞかれ、新たなカードが手札から場に出される。こうして相手の手札をすべてなくせば勝ちとなります」
ふ~ん。シンプルなルールだな。オレにもできそうだ。
単純なだけど白熱しそうなゲームに思える。
こんな状況じゃなければ、オレも楽しめたんだが――、
……しかしアテナさん、こっちの世界の娯楽にくわしいですね?
「はい。カジノのために色々調べましたから」
へえ……そうか。
それなら初見で初心者のオレより、アテナさんが勝負したほうがいいんじゃありません?
オレもゲーム好きですけど、ノーゲームだとノーライフってほどに打ちこんでもいないし。
正直いうと、カードゲームってあんまり上手じゃないんです。
……うん。だから、ここは知恵と戦の女神のあなたが行くべきですよ。
と、押し付けようとした役割は――、
「いいえ。あなたが勝負してください。ビギナーズラックというものもあります」
ガンコなアテナさんにごりごり押しかえされてしまった。
……うぅ、責任が重くのしかかる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
くばられたのはカードというより木の札だった。
描かれてるのは原始時代の壁画みたいだし、札の材質も粗悪、ひどいシロモノに見える。
……いや、しかし、これがこっちの普通の技術水準なんだろう。
元来た世界と比べても大差ない、うちの教団の技術力がすごすぎるだけなんだ。
あのトランプやお札って、こっちじゃオーパーツ並みの精巧さだったんだな。
――緊張を紛らわすため、そんなことを考えながら始まったリュウジンマの七番勝負。
その最初の第一戦――なんとオレは勝った。
ビギナーズラックって、たしかにあるみたいだ。
「ほう、なかなかやるな。さすがは教祖どの」
いえいえ。ただの偶然ですよ。
もっとも対戦相手のウサ耳さんには、まだ感心してられる余裕があるらしい。
だが続けて二番、勝つと――、
「むう、本気を出させてもらいましょうか?」
そう告げ、腕まくりしたウサギさんに三番目、四番目の勝負を取られてしまった。
さらに五番も負ける――つまり、リーチをかけられたのだ。
しかし六戦目、なんとか一矢報いた。
そして迎えた最終の七番戦。
オレを予想外の結末が待ちうけていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――まず、結論から言おう。
オレは……負けた。
「はっはっは。なかなかいい腕だったが、しかし賭けで本職のレッキスにかなうわけがない」
「五分の勝負だったが、そこまでだ。とにかくカジノの営業はやめてもらおう。あとで確認にいかせてもらうからな」
上機嫌なケダモノ親分さんたちは、口々に勝手なことを言う。
オレは、それをぽかんと口を開けて見てるだけ。
……え? これで終わり?
オレたちのカジノ経営はここで打ち切り……なのか?
アテナ先生の次回策に、ご期待くださいってこと?
――いやいや! それはこまる! オレたちのカジノ経営はこれからだ!
いや。この発言だとよけいに打ち切りっぽいな。
だが、里のみんなのためにもカジノを終わらせるわけにはいかない。
しかし獣人マフィアのみなさんは、オレが敗戦にぼうっとしてる間に帰り支度をすませている。
……ヤバい! 早く引き留めないと……でも、どうやって引き留めれば?!
と、オレがあわててると――、
オレの敗戦から、うつむいてたアテナさんがすっと顔を上げた。
「……お待ちください」
その凛とした声に思わず誰もが振り返る。
「なんだ? 泣き落としは通用しないぞ。そういう取引だ」
イノシシ顔の親分さんがおどすように言ったが――、
しかし、アテナさんは一歩も引かない。
「いいえ。そうではありません。今度はあなたがたからカジノ経営権を取りもどすため、さらなる賭けを受けていただきたいのです」
なんと、アテナさん再戦を申しこんだ。
もちろん、目的を果たした獣人親分たちが引き受けてくれるはずはない。
「ふん。そういわれてもな。また賭けを受けてもこっちに得はない。それこそ金貨一万枚でも持ってくるなら話は別だが」
と、返したイノシシ親分の冗談に笑いが巻き起こる。
だが――、
「……いいでしょう。金貨一万枚ですね」
あっさりとしたアテナさんの答えに、笑いがぴたりと止まり、沈黙がおとずれる。
顔を見合わせた親分さんたち――代表して小ずるそうなキツネ顔がオレたちに問いかけてくる。
「……ほう? いいのかい、そんな大金?」
いやいやいやいや! 良いわけありませんよ!
アテナさん、教団にそこまで損害与えちゃダメですって!
「カジノは我が教団の財政の生命線――失われれば銀行業にも影響が出ます。取り戻さねばなりません」
むう。そういわれると言い返せない。
たしかに経営権なくしたのはオレだけど――。
そして、こっちの密談の間に向こうでも話し合いがあったみたいだ。
一番えらそうにしてたクマ親分は、新たな賭けに乗り気じゃないらしい。
だが、イノシシ顔とキツネ顔は賭けを受けるように強く推している。
ときおり、こっちを見てくる目がなんだか感じ悪い。
――結局、不承不承といった感じでクマさんが賭けを受けてくれた。
「わかった。ならば勝負を受けよう。すべてを失う羽目になってもしらんぞ」
そんなクマさんの発言とともに座にもどりだす親分たち。
……うわ、これじゃ「やっぱりやめにします」とか言えないじゃないか!
だが、そこで――、
アテナさんは、さらなる条件を提示する。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「いえ。ただ経営権をとりもどしただけでは、わざわざここまで来た意味がありません。さらに金貨一万枚を賭けに乗せましょう」
うわっ! なに言いだすんですか!? アテナさん!?
合わせて金貨二万枚――さすがにその金額に驚きの声が上がる。
マークスさんも心配そうな顔をこちらに向けてきた。
「そんな金あるのか? そちらはカジノと銀行で儲けていたようだが……しかし、さすがにそこまでの金はなかろう?」
「ええ、そのとおりです。少しばかり手持ちが足りません」
アテナさんはあっさりうなずく。
「ふむ。ならば、その件はなしだ」
金がないと知って断ろうとしたクマさんに――、
アテナさんが、とんでもないことを言う。
「……だから、不足する分、わたし自身を賭けの元手とします」
えっ?!
ええええええええっ!?
いやいやアテナさん!! ダメですってば!!
経営権だけを取りもどせればいいじゃないですか!?
なんで欲をかいて、そんな無謀なことを!?
「……いいえ、ヨシトさん、里のためには必要なことなのです」
悲壮感たっぷりに言い切ったアテナさん。
彼女はオレの耳元へ顔をよせ、小声でこう告げた。
(言いたいことはあるでしょうが、黙って見ていてください。勝算があります)
アテナさんのささやきは妙に自信たっぷりで、オレはつい止めそこなってしまう。
「おいおい、嬢ちゃん。さすがにそれはおすすめできねえぞ。あんたみたいなべっぴんさんなら、たしかに金貨一万枚の価値はあるだろうが……、しかし、自分を売りに出すなんぞ、もっとせっぱつまった人間がするもんだ」
一方、クマ親分もさすがに引いていた。意外と良識的な発言でアテナさんを止める。
しかし、そこで――キツネ顔マフィアが横からしゃしゃり出てきた。
「わかった。その賭け受けさせてもらおう」
「おい。フォークス! なにを勝手に受けてやがる!」
クマ親分は顔をしかめて注意したが、キツネは言葉巧みに言い返す。
「賭けの場で二言はない――そうでしょう。マークス兄貴? それに向こうさんはどうしてもカジノを取りもどしたいようだし、ここは受けてやるのが情けってもんですよ」
「むう……それはそうかもしらんが……」
どうやらキツネマフィアは、着飾ったアテナさんの美貌に目を付けたらしい。
ぐいぐい賭けの話をすすめてくる。
そんなヤツラに身柄を奪われたら、アテナさん――なにをされることか。
……ああもう! オレが負けたせいでアテナさんが大変なことに!
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
(頼む! アテナさん、絶対に勝ってください!)
女神のアテナさんに頼むのだから、これもある意味『神頼み』というのだろうか?
必死に祈るオレの目の前、今度はアテナさんがリュウジンマ勝負にのぞむことになった。
しかしアテナさん、なんと――いきなり初戦、二戦目と負けた。
「なるほど。最初から手かげんなしというわけですか?」
「すまんね。お嬢さん。かかってる金額がけたはずれだからな」
まだまだ、よゆうたっぷりの会話を交わし合うウサ耳さんとアテナさん。
ああ……本当に大丈夫なんだろうな?
緊張しすぎたせいで、胃がきりきり痛む。
だが三戦目、四戦目とアテナさんは取り返した。
五戦目は負け……六戦目は……なんとか勝つ。
うわ、また最終戦までもつれるのか?!
(ここまできて、もし負けたら……どうしよう?)
オレは最悪の想像をしてしまう。
(そうなったらアテナさんを連れて逃げよう。武器は持ってきてないけど、『軍神の加護』を全開にして暴れれば、そうそう負けないはず――いや、かならず連れ帰ってみせる!)
と、覚悟を決めたオレだったが――、
そんなオレの考えを察したのか、キツネ男が釘を刺してくる。
「もし逃げようとしたら、里に追い込みかけるからな。覚悟しておけ」
くッ! それはマズいぞ。里に迷惑をかけられない。
でも、それじゃアテナさんが……。
ああ、もう! どうすればいいんだ!?
オレは、パニックで頭が真っ白になる。
しかし、その最終戦の終盤。
さっきまで余裕の表情を浮かべていたウサ耳さんの顔が青白く染まった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「バカな……まさか……気づいてたのか!?」
「おい。どうしたってんだ! レッキス!?」
ウサ耳さんの表情にアニマル親分たちがおどろく。
「お嬢さん、あんた……ここまで猫かぶってやがったな?」
獣人には言われたくないセリフをウサ耳さんが言い――、
アテナさんは笑みを浮かべて、うなずく。
「ええ、あなたのクセは先ほど見抜かせてもらいました。自然な勝ちを意識しすぎたようですね」
そして――、
アテナさんは気取ったしぐさで札をテーブルにそっと乗せ、宣言する。
「これで……わたしの勝ちです」
おお! すごい! アテナさん勝ったらしいぞ!
これでカジノ経営権を取り戻せたし、金貨一万枚も手に入った!
完全勝利したアテナさんGJだ!
と、オレが狂喜する一方――、
「……バカな! お前らがなぜ勝てる! 勝てるわけない!」
立ちあがったイノシシが、どなり声をあげた。
ん? どういうことだ?
オレたちが勝てるわけないって――賭けなんだから五分五分の勝負のはずだよな?
それなのに向こうが勝つに決まってるなんて……まさか?
――獣人親分たち、イカサマしてたってことか!?
オレの推測にアテナさんが同意する。
「ええ。そのとおりです。必ず勝つという確信がなければ、組織の一大事をギャンブルなどで解決しようとするはずがありません」
……そうか。よく考えればその通りだよな。
でも、どうやってイカサマなんかしたんです?
ウサ耳さんは、ふつうにプレイしてるように見えましたけど?
「おそらく札の裏――木目の模様で札の種類を識別していたのでしょう。相手がどんな札を出しているか分かれば、それをもとにギリギリの勝利を演出できます」
うわっ、そんなことを?!
てことは、オレが負けたさっきの勝負もイカサマだったの?!
けっこういい勝負と思ったのも、ウサ耳さんの手の上でおどらされてただけか。
――ちょっとショックだ。
ん……あれ?
それじゃ、アテナさんはどうやってイカサマを破ったんですか?
「むこうと同じようにしただけです。ヨシトさんが対戦しているとき、カードの木目の特徴を覚えました。レッキスさんの視線でカードのどこを見るかわかったので、かんたんな作業でした」
……え。さらっと言ったけど、それってかなりすごくないか?
たった一試合を見ただけで札全部を覚えちゃうとか神業すぎるだろ。
いや、アテナさんは実際に神さまなわけだけど――。
それにしても、オレの敗北はアテナさんが勝つための布石だったんだな。
わざわざオレに最初にやらせたのは、札を覚えるためだったのか。
「ええ。さらにあなたが負けてくれたおかげで、カジノの経営権を取られてあせったという演技をむこうに信じ込ませることができました」
この程度の作戦なんてたいしたことない――そんな態度のアテナさん。
う~ん。頼りになり過ぎな女神さまだ。
「イカサマに気づかず、さらに大金をつぎこむ――よくいるカモだと思わせれば、賭けに乗ってくると思いましたからね。あとはぎりぎりの勝利を狙ってくるレッキスさんのくせに合わせ、最後の一戦だけ本気を出して勝てばよかった」
と、アテナさんは作戦をネタばらしした。
「くそッ……この小娘!」
ハメられてたことに教えられたアニマル親分たちの顔が、怒りに紅く染まっていく。
一方、まだハメられたことを信じられない、ちょっと足りない親分もいるようで――、
「そんなバカな! だいたい札を覚えるのに、どんだけ修練がいると思ってるんだ! たった一度見ただけで覚えられてたまるか!」
と、口走ったイノシシ男に全員の視線があつまる。
(……そうか。やっぱりイカサマを使ってたんだな。しっかり自白してくれたぞ)
オレは目の前にいる獣人連中をにらみつける。
そこにいるのはイカサマを見破られたばかりか大金を失い、殺気立つマフィアご一行様。
ふだんのオレなら、おびえて逃げ腰になるとこだが、今は……ちがう。
――怒りたいのは、こっちだ。
一から作り上げてきた事業をイカサマで奪われかけたあげく、さらにアテナさんまで奪おうとされたのだから。
(もし、かかってくるなら、こっちも全力で暴れてやる! 倍返しだ!)
と、頭に血が上ったオレは戦闘準備に入る。
だが――、
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……よせ」
場にふくれあがった殺気にマークスさんが水を差した。
そればかりかクマ親分、あっさり負けを認めてくれる。
「賭場がイカサマを見抜かれた時点で終わりだ。客人にこれ以上迷惑かけるんじゃねえ」
「けどよ兄貴。こいつらをしめちまえば、わかりゃしねえだろうが……」
そんなクマさんに不満なのか、ぶっそうなことを言いだしたキツネ顔。
だが――、
クマさん歯をむき出しにして言い返した。
「だまれ! フォークス! おれたちは獣人でよそ者だからと、ここモーラで差別され、さげすまれ、しいたげられている。裏社会で生きるしかないのはそのせいだ。しかし、だからこそ、通すべき筋は通さにゃならん。心の底まで腐っちまったら差別されて当然なヤツラだと自分で認めちまうことになる!」
クマさんが叫んだのは、悲痛なまでの想い。
だが、その言葉はキツネ顔やイノシシ顔親分には届かなかったようだ。
キツネは、クマさんの言葉を鼻であざ笑う。
「ふん。兄貴は甘えよ。そんなきれいごとじゃ、汚ねぇ裏社会を生き抜いていけねえや」
「うるせえ! フォークス! 文句あるなら客人の前に、まずオレから殺ってみやがれ!」
室内にクマさんの怒号が響き渡る。
そんなクマさんにキツネ男は舌打ちした。
「ちっ……あいかわらず頭が固えな。それなら金は兄貴が払えよ。おれたちは一銭も出さねえからな」
「言われなくてもそうするさ! さあ、帰れ! 帰りやがれ!」
自分が引き受けた賭けだというのに、クマさんに支払いを押し付けようとする卑怯なキツネ男。
しかし、クマさんはその条件を男らしく飲んだ上で、猛々しく吠える。
「あ、あとで泣きついてきても知らねえからな!」
「……兄貴、思い返すなら今のうちですぜ」
その剣幕におびえ、捨て台詞を吐いて立ち去るキツネ男とイノシシ男。
他の親分さんたちも、気まずそうな表情を浮かべて去っていく。
その場に残ったのはクマさんの子分らしき、獣人たちだけだ。
――こうして仲間の背中を見送ったクマ親分は肩を落としつつも、いさぎよくオレたちに告げる。
「……金はあるだけ持ってこさせる。足りねえ分はあとからでも必ず渡す。カジノは……好きにやってくれ。こっちはどうせ破産だ」
う~ん。このクマさんって割といい人みたいだし、ちょっとかわいそうだ。
だけど、イカサマ使ったんだから自業自得だよな。しかたない。
そうオレは思った。
だが、アテナさんは――、
「いいえ。賭け金はけっこうです」
なんと。自分の身を賭けてまで手に入れた大金をあっさり手放してしまう。
……え!? どういうこと?!
オレの疑問にはこたえず、アテナさんは話を進めていく。
「わたしどものカジノの営業を認めてくれさえすればいいのです。我々はそのために来たのですから。賭け金のことは……まあ、ちょっとしたしゃれでした」
「しゃれ……だと? まさか、しゃれで自分の身を賭けたというのか?! なんて……度胸だ」
どっしりしてたクマさんが、目を真ん丸に見開き、あっけにとられていた。
そればかりか、ぶっとい手足をだらんと垂らし天をあおいでしまう。
クマさんがやるとぬいぐるみみたいで、ちょっとかわいらしいポーズだ。
……うん。気持ちは分かります。
オレも散々アテナさんには驚かされましたからね。
――そんな放心状態のクマさんを放っておき、アテナさんはきびすを返す。
「さあ、用はすみました。帰りましょうヨシトさん」
「――あ、待ってください。アテナさん!」
オレはあわてて戦女神さまのあとを追った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ヨシトたちが去ってから、しばらく過ぎ――、
クマ獣人――マークス一家の親分であるマークスは、いまだ呆然としている。
そんな彼のそばにウサ耳獣人・レッキスがやってきて深く頭を下げた。
「すまねえ、オヤジ。オレがイカサマを見破られたせいだ。腕の一本なり斬りとってくれ。他の親分たちにも示しをつけねえと……」
暗い表情でレッキスは言う。
だがマークスは首を横に振った。
「いいや、レッキス。だれが行っても負けてただろうよ。あのお嬢ちゃんはそれだけの切れ者だ。そしてオレもお嬢ちゃんの度胸に負けた……やはり、おれの見こんだ通り、いや、見こんだ以上ののヤツラだったぜ」
イカサマを見抜かれ、賭けにも負けたというのに、なぜか気分良さそうに笑うマークス。
そんな親分を不思議そうに見つめるレッキスだったが――、
そのとき――、
「親父ィ、大変だ!」
イヌ獣人――ポーチが駆け込んでくる。
その騒々しさにマークスは顏をしかめた。
「なんだ、さわがしいぞ、ポーチ。おれがせっかく気分よく負けにひたってるときに……」
「そいつはすいやせん。しかし、ちょいと向こうの影でフォークスとノイスの叔父貴たちが、今日の客人を襲う相談をしていやして……」
「なんだとッ!? あのバカども!」
どなり声をあげた親分クマの姿に、ポーチは飛びあがって頭をかかえた。
ふさふさしたしっぽを股間にはささみ、かがみこんでおびえている。
――そんな子分のことなど捨て置き、マークスは立ちあがった。
「いけねえ、そいつはいけねえ……それじゃ、オレのもくろみがだいなしになっちまう!」
「親父、もくろみってのは?」
と、質問したレッキスには答えず、マークスは子分全員に集合をかける。
「いいから、後を追うぞ! 客人たち、死なねえでいてくれ!」
一声吠えると、マークスは子分たちを引き連れ、夜の街に飛び出していく。
客人であるヨシトたちの無事を心の底から祈りながら――、




